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4) プログラム開発に向けて 〜生きなおしの物語を紡ぐ〜

 では、「生きなおし」ができる、あるいは「生きなおし」が促進されるためには、私たちは具体的にどのようなことに取り組むことができるのだろうか。その方法の一つとして「物語を紡ぐ」ということについて考え、具体的なプログラムを試みることにした。
 私たちは、自分自身が根底から揺さぶられる出来事に遭遇したとき、ふだんは何気なく過ごしている日常が、まるで違ったふうに見えてくることがある。例えば、親しい人を亡くせば、その人と過ごした時間が濃密な出会いとなってよみがえってきたり、あるいは、介護や仕事で心身が疲れてくれば「なぜ自分だけがこんなに大変な思いをするのだろうか」とか「なぜこんな大変ななかで生きていかなければいけないのか」といった問いに遭遇することもある。
 「物語る」ということは、このような自分の置かれている状況に、意味を付与していく作業であると言える。そして、自分自身の置かれている状況を、自分の言葉で表現することで、自分自身の人生をもう一度捉えなおし、新たに生きなおしていくことができるのではないかと考えた。
 私たちは、「生きなおしの物語を紡ぐ」ために、芸術や文化活動に着目した。自分自身を「物語る」ときには、詩や文学などの文化活動の中に存在する高い精神性が、自己表現のきっかけにつながるのではないかと考えたからである。
 2000年度の研究集会で、米国デューク大学メディカルセンター文化サービスプログラムの名誉ディレクターの、ジャニス・パルマーさんは、次のように述べている。
 
 ヘルスケアの施設の生活はしばしば辛く痛みをともないます。芸術をとおして癒しの環境を整えることによって、もっとも必要とされている心の安らぎと元気をもたらすことができます。ある患者は「薬や手術では癒されることのない何かを、音楽の贈り物が癒してくれました。48歳の大人の私のなかにある5歳の子どもの恐れをゆっくりと鎮めてくれました」と言いました。
(「生命に寄りそう風景」より抜粋)
 
 芸術活動や文化活動は、言葉や理屈を超えて、人の心や魂に直接響いてくることがある。また、このような活動をとおして、創造的な時間や楽しい時間を共有することで、人と人とがつながりをもつきっかけとなる場合もあると考えられる。
 本研究では、演劇や詩など、言葉や物語を介したプログラムの可能性について議論をし、「内なる宇宙を紡ぐ」というキーワードでワークショップを試みた。








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