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第1章 プログラムの開発に関する研究結果 〜生きなおしとしてのセルフケア〜

1) プログラム開発の視点 〜ケアの文化を視野に入れて〜

 20世紀は、大きな物語が生まれた世紀だった。例えば、世界大戦や、大戦後の経済成長、あるいは社会主義や資本主義といった、大きな物語(価値観)に沿って、一人ひとりが生きてきた時代であった。しかし、こうした大きな物語は、人間の個々の哀しみを全部つぶしてきたのではないだろうか。これらの反省から、21世紀は小さな物語がたくさん生まれる時代にしていく必要がある。すなわち、一人ひとりの哀しみや痛みをも大切にし、その一つひとつを丁寧に物語り、何度も「生きなおし」ができる時代である。
 このことを「介護」をめぐる問題にひきつけて考えると、近年は、介護保険制度をはじめとして、ケアをめぐるシステムの制度化がすすみ、無駄な部分がどんどん省かれることで制度の狭間に漏れ落ちる人たちが増えてきている。介護サービスの提供が企業化され、効率と収益が優先されるなか、本当に苦悩を抱える人たちが切り捨てられている。また、効率を求めるために、介護のテクノロジー化がすすみ、ケアに必要な「こころ」、つまり、人間の存在に根ざしたかかわりが希薄化することが懸念される。
 個の有り様に焦点をあて、一人ひとりが幸せになっていくことを重視するためには、日常のなかに埋もれがちな「ケア」という営みに目を向けていく必要があるだろう。そして、このようなささやかな営みを言語化することで、個別の「ケア」の有り方を変え、さらには、他者との間ですり合わせていくことで、社会の中での「ケア」の位置付けや価値を変えていくこと、すなわち「ケアの文化の構築」をめざしたいと考えた。
 「ケアする人のケア」のプログラム開発は、ケアをめぐる苦悩を解消するための方法論だけでなく、「ケアの文化」という観点から取り組まれる必要がある。








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