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はじめに
 超高齢化社会の到来に伴い、介護保険の導入をはじめとして、社会制度の整備が急ピッチで進められている。このようななか、質の高い介護を提供するためには、ケアする人が心身ともに豊かである必要があるとの考えから、財団法人たんぽぽの家では、2000年に「ケアする人のケア・サポートシステム研究委員会」を組織し、調査研究を始めた。
 2000年度には、ケアする人のニーズ調査として、アンケート調査とヒアリング調査を実施したが、ケアする人の苦悩だけではなく、ケアをとおしていかに喜びを感じることができるかという声を、多数聞くことができた。
 例えば、「障害のある子どもによって、自分が成長させてもらった」という、障害のある人の家族や、「ケアを提供することで、むしろ私たちの方が喜びをもらっている」というホームヘルパーなどの声である。私たちは、これらの声から、ケアをめぐるストレスや苦悩を解消したり解決したりするためのサポートの必要性とともに、「ケア」を人間どうしのつながりとして捉えなおし、ケアそのものに価値を見出すための働きかけが必要であるということを感じてきた。
 折しも、現代社会は、介護をめぐる問題の他に、このような人間と人間のつながりとしての「ケア」を必要としている状況も見受けられる。調査で話をきいた、障害のある子をもつ母親は、「人間は生まれながらにして、支え合うようにできています。それなのに、今は世の中が便利になって、他人に頼る必要がないから、孤独を感じてしまうのではないでしょうか」(本研究の報告書として出版したブックレット「生命に寄りそう風景」より)と語っている。
 そしてさらに、「だからこそ、支えを必要としている私たちが、コミュニティを組織しなおすことができるはずです」と語る。つまり、現代社会にとって大事なキーワードとなってきた「つながり」をとりもどし、より豊かなコミュニテイを形成していくためには、ケアを媒体としたつながりが重要な役割となってくるのである。このことは、とりもなおさず、介護を家族や専門家だけの問題として抱え込まずに、社会全体で担っていく「介護の社会化」につながっていくと考えられる。
 このように、ケアする人のケア・サポートシステム研究委員会では、「ケア」を、介護だけにとどまらず、他者に対する気づかいや配慮も含めた相互的な営みであり、人間が生きていくうえでなくてはならない本質的な営みとして捉えなおした。そして、大阪で開催した研究集会にはのべ250人以上の参加者を迎え、「ケア」について議論した。さらに、研究集会での議論と調査の結果を、ブックレットにまとめ、広く共有した。
 では、このような意味での「ケア」を促進し、ケアする人が、癒され、支持され、力を発揮していくための、具体的なプログラムとはどのようなものか。私たちの研究委員会に求められる次のステップは、ケアする人が癒され、支持され、力を発揮できるためのきっかけとしてどのような実践が可能か、また、そのような環境をつくっていくためには具体的に何ができるのかを、プログラムとして開発することである。








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