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深海の生物
 「火星にも生命は存在するのか?」生命の歴史に新たな1ページを加えるかもしれない発見が宇宙から聞こえてくるようになりました。人類の興味は地球を飛び出し、未知なる宇宙へと果てしなく広がり続けています。しかし、地球上には宇宙と同様、もしくは宇宙以上に未知の世界が存在します。それが深海です。19世紀ごろまで、深海は生物のいない「静」の世界だと考えられていました。しかし、深海を調査するための様々な機器が開発されるにつれ、深海にも独特の生態系が存在することが明らかになりつつあります。
 
 なかでも1977年にガラパゴス沖水深2千5百メートルの海底温泉(熱水噴出域)で発見された生物群集はこれまでの生物学の常識とは大きくかけ離れたものでした。それはまるで砂漠のオアシスで、一般の深海底とは異なり、おびただしい数の生物が観察されました。また、そこは新種の宝庫で、これまで全く知られていなかった生物が数多く発見され、大きな話題となりました。
 
 中・深層域にもこれまで良く知られていなかった生態系が存在することがわかってきました。ここに暮らす生物の多くは体がゼラチン質でできているため非常に壊れやすく、古くからある網などを使った方法では採集ができませんでした。そのため、潜水調査船などが開発され、実際に人が深海域を見ることができるようになって初めて、その存在が明らかになりました。
 
 ここでは潜水調査船や無人探査機などを用いてこれまでに明らかになった深海生物の謎に迫ります。
1)深海の特徴
 生物学の分野では、水深200メートル以深を「深海」と呼んでいます。深海は一般的に高圧、低温、暗黒(弱光)で餌の乏しい環境です。
2)深海生物の特徴
 深海環境中で餌を発見したり、敵から逃れたり、繁殖行動のために、深海生物の多くは以下のような特徴を備えています。
 
●発光器官の発達   ●眼の発達    ●触覚の発達
●口の発達       ●雌雄の特殊化  
3)一般的な深海生態系の特徴
 一般的な深海生態系には植物のような生産者がいません。従って、食物連鎖の源は海洋表層や陸上で行われた光合成由来の有機物で、そのごく一部が深海へ運ばれ、深海生物の餌となります。種の多様性が非常に高く、熱帯雨林の多様性に匹敵すると考えられています。
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トピック
●カイコウオオソコエビ
海溝域に生息する、大きさ4〜5センチメートル程度のヨコエビという甲殻類の1種です。無人探査機「かいこう」により、世界でもっとも深いマリアナ海溝チャレンジャー海淵(水深1万9百メートル)からも採集されました。通常の観察中にはなかなか目に入りませんが、海底に餌付き採集器を設置したところ、餌の臭いを嗅ぎつけてたくさんのカイコウオオソコエビが集まりました。
深海生態系と化学合成生態系
  一般的な深海生態系 化学合成生態系
深海底 中・深層
生物種の多様性 非常に大
(熱帯雨林に匹敵)
非常に大(推定)
生物量
(1m2当たり数グラム)
不明 非常に大
(1m2当たり数十キログラム)
エネルギー源 表層の光合成由来の有機物
(遺骸、糞粒、脱皮殻、動物の鉛直移動など)
海底より湧き出す熱水・冷水中に
含まれる硫化水素、メタン
成長速度 不明 非常に大きいものもあり
(例:ハオリムシ類)
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