日本財団 図書館


4)化学合成生態系の特徴
 深海底には熱水や冷水が海底から沸き出す場所があり、その周囲には一般の深海底とは大きく異なる生態系が存在します。通常の生態系のエネルギー源は太陽光で、植物が光合成をして有機物を合成します。しかし、化学合成生態系では一次生産のエネルギー源が熱水や冷湧水中の化学物質(硫化水素、メタン)で、生産者は化学合成細菌です。またここに住む動物には体内に化学合成細菌を共生させているものも存在します。硫化水素やメタンは通常の生物にとっては有毒ですが、これらの動物は有毒物質の中でも生きられるような体のしくみを備えています。
 
化学合成生態系の代表種
●ハオリムシ類
 通称「チューブワーム」と呼ばれるこの動物は、化学合成生態系で見られる最も奇妙な生物です。ハオリムシは口や消化管を持たず、自らは餌を摂りません。その代わりに硫黄細菌が体内の栄養体と呼ばれる組織の中に大量に共生しており、ハオリムシは細菌が生産した有機物をもらって生きています。硫化水素は一般の生物には有毒ですが、ハオリムシは細菌の一次生産のエネルギー源として硫化水素を体内に取り込まなければならないので、硫化水素を運搬する特殊なタンパク質を持っています。自分で分泌して作り出す管の中で生活し、他へ移動することはありません。ゴカイの仲間に近縁であると言われています。
z1040_01.jpg
●シロウリガイ類
 世界各地の熱水噴出域や冷水湧出域に住む殻の白い二枚貝で、鰓の中には硫黄細菌が共生しています。ハオリムシ類と異なり、シロウリガイ類には口や肛門や消化管がありますが、栄養のほとんどを共生細菌から得ており、消化管はかなり退化しています。相模湾に生息するシロウリガイは海水温度が上昇したときにいっせいに放卵放精して、子孫を残すことが知られています。なお、貝を開くと、写真のように赤く見えますが、これは、体内に多量のヘモグロビンが存在するからです。
z1040_02.jpg
●ナラクハナシガイ
 日本海溝の水深約7千4百メートルで発見された二枚貝で、シロウリガイ類と同様に鰓の中に硫黄細菌が共生しており、消化管はかなり退化しています。この二枚貝は化学合成細菌を共生させているものの中で最も深い場所に生息しています。
z1041_01.jpg
●ユノハナガニ
 目の退化したカニで、体は真っ白ですべすべしています。深海の海底温泉周辺に生息することから、温泉に舞う「湯ノ花」にちなんで命名されました。日本では、沖縄や小笠原諸島海域の水深4百〜千4百メートルで確認されています。このカニは、船上に引き揚げても活発に動き回るほど丈夫で、長期飼育が可能です。目は非常に退化していますが、光を感じる能力があることが明らかになっています。
z1041_02.jpg








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION