[資料1]オンライン裁判外紛争処理(ODR)に関する勧告案
オンライン裁判外紛争処理(ODR)に関する勧告案113
Draft Recommendation Online Alternative Dispute Resolution(ODR)
113 この勧告案は、CEFACT/2001/LG14/Rev.2,28January2002によるものです。
1.序論
行動規範に関する国連CEFACT勧告第32号において、法的枠組みの創設が強調され、行動規範としての自己規制文書(self-regulatory instruments)の使用が勧告された。この勧告では、行動規範の執行性について問題提起がなされた。オンライン裁判外紛争処理(Online Alternative Dispute Resolution; ODR)の使用は、オンライン環境において紛争を解決し、行動規範を執行し、さらに信用を創造する可能性があると考えられる。
一般に、必要な法的確実性と安全性を整え、かつ信用を創造するための法的解決策として4つの方法がある。これは以下の通りである。
a.国内立法による方法
b.国際的な法律文書による方法:例えば、条約、協定、指令または代替的解決方法
c.契約的解決方法:例えば、国連CEFACT勧告第26号および第31号
d.共同規制(co-regulation)を含む自己規制による方法(勧告第32号参照)
勧告第26号と第31号はモデル契約書なので、これは法的に拘束力を有する可能性がある。これに対して、行動規範は、これに従わなかった場合に一部の裁判管轄では法的救済を生じうるが、法的拘束力はない。それは、本来、自己規制文書であり、eコマース取引を促進させる他の手段と連携して効果を生じることができるものである。
2.定義
「オンライン裁判外紛争処理」(Online Alternative Dispute Resolution; ODR)という集合的用語は、裁判外紛争処理(ADR)手段による各種のオンライン紛争処理方法を表すために国際的に使用されている。ADRとは、正式の裁判手続き以外の方法を用いる紛争処理を意味する。ODRは、ある種の紛争(特に電子紛争;e-dispute)は、インターネット経由で迅速かつ適切に解決されうるものであるとの想定に基づいて、現行のADR方法を補足する。
ODRとは、ADR方法によって紛争を解決するためのアプリケーションとコンピュータネットワークの配備であると定義できる。e紛争と伝統的取引の紛争はいずれもODRを使用して解決することができる。現在、ODRシステムには次の4つの一般形式がある。
・オンライン決済:金融クレームを自動的に解決する専門システムを使用
・オンライン仲裁:有資格の仲裁人の助けにより紛争を解決するウエブサイトを使用
・オンライン消費者苦情処理:ある種の消費者苦情を扱うeメールを使用
・オンライン調停:有資格の調停人の助けにより紛争を解決するウエブサイトを使用
インターネットは急速に発展するグローバル現象で、そこでは対面取引や電話取引が回線および無線のウエブを通して伝送されるキーストロークとマウス・クリックに置き換えられている。この新しい電子社会は、ADRプロバイダー、業者、個人、技術者、行改機関などが極めて熱心に実現を望んでいる紛争解決、その機会および問題解決への取組みの必要性を生み出した。オンラインおよびオフライン双方で発生している紛争解決を促進させる技術に基づくインターネットを開発しかつ使用しているADRプロバイダーが増えつつある。
インターネット上では、地理的および政治的な境界線はしばしば重要でなくなる。ある人口学者は、コミュニケーションに参加する人々が、住んでいる場所に関係なく、オンライン社会を形成しているという理由で、言語別に人口分類を行っている。現行のオンライン人口の約51%は英語を母国語とする人々で、他の27言語が残余を占めている。2005年までに、英語を母国語とする人々はインターネット人口の27%以下に減少するものと予測されている。
インターネット社会およびeコマース取引の特質が、オンライン紛争発生の見込みおよびその効率的解決の困難性を増大させている。言語と文化の相違、および直接的な対面的または電話によるコミュニケーションの欠如が、裁判管轄の異なる地域に居住する当事者にとって誤解を生み、紛争解決を妨げることになろう。従来型の紛争解決および対面的AD R手続きは、国境を越えたeコマース取引から発生する紛争の大多数の解決にとってしばしば非現実的な方法でありうる。
政府および企業は、オンライン消費者取引のための適切な紛争解決手続きが重要であることを認識している。OECD(the Organisation for Electronic Development and Co-operation)114は、加盟国に対して「電子商取引における消費者保護に関するガイドライン」(Guidelines for Consumer Protection in the Context of Electronic Commerce)115を採択することを勧告している。
America Online, AT&T, Dell, IBM, Microsoft, Network SolutionsおよびTime Warnerを含む主要ハイテク企業は、「電子商取引および消費者保護グループ」(Electronic Commerce and Consumer Protection Group:以下"E-Commerce Group"と略称)を組織し、「企業対消費者取引に関するガイドライン」(Guideline for Merchant-to-Consumer Transactions)を提案した。E-Commerce Groupの紛争解決ガイドラインは、次のように述べている。「企業は消費者に対して公平、迅速かつ手頃な紛争解決と救済の手段を提供すべきである。」同ガイドラインは、企業が消費者苦情を扱う内部組織(internal mechanism)を設置し、もし取引の際に通知があったときは、契約上、消費者参加を要求することを企業に義務づける旨を規定している。企業に対して、オンライン紛争解決手続きを含む、信頼できる、独立した第三者紛争解決プログラムに参加することを奨励している。また、同ガイドラインは、「第三者紛争解決プログラムは、消費者に対して、第三者紛争解決プログラムへのアクセスが許可される前に、企業の内部苦情処理組織による救済を求めることを奨励すべきである」とも述べている。
インターネット上で調停(mediation)、仲裁(arbitration)、その他伝統的でない紛争解決サービスを提供する機関が増えている。
3.ODRに関する主要問題点
1.信用(Trust)
ADRの最も重要な側面は、オンラインであるとオフラインであるとを問わず、信用である。例えば、良い調停人にとって、自分自身と紛争当事者の間に信用を築くことができるというのが最も重要なことである。対面的調停では、信用は調停手続き中に築かれる。B2Bの環境では、多くの場合、ADRは継続中の取引関係をもつ当事者間に行われる。これらの当事者の共通した目標は、両当事者にとって受け入れられるものであり、取引関係に及ぼす損害ができるだけ少なく、その結果将来の関係が損なわれないような解決に到達することである。
ODRでは、特にB2Cの環境において、当事者はしばしばお互いに相手を知らず、どのような種類にせよ、継続中の仮想的(virtual)または即時的(real-time)な取引関係をもたない。このような当事者が電子商取引(例えば、個人対企業関係または個人対個人関係)に掛かり合うのである。殆どの場合、これらの当事者は、紛争発生以前にお互いに取引をしたことがない。その結果、対面的接触がなく、eメールまたはリアルタイムのオンラインによるコミュニケーションだけなので、信用を築き維持することは非常に難しい。
2. 本人確認(Identity)
当事者が取引している相手方の確認が必ずしも明確でない。当事者は、取引をしている相手方とクレームを申し立てている者が同一人であることをどのようにして確かめることができるのであろうか。ここで、電子署名が重要な役割を演ずるのである。すでに「指令1999/93/EC」116という形でEUの電子署名に関する法律がある。米国では、クリントン大統領が「グローバルおよび国内商取引における電子署名法」(Electronic Signatures in Global National Commerce Act)117に署名した。これらの法律は、サイバースペースによって伝送された署名または記録に対して、紙の書類と同等の法的効力を認めている。これが本人確認を非常に容易にしている。
3. データ・セキュリティー及び秘密保持(Date Security Confidentiality)
当事者は、受発信したデータが変更されていないかどうか、また第三者が無断で情報にアクセスしたか否かをどのようにして確かめることができるのであろうか。ここでは、暗号化が重要な役割を演じている。暗号化は、安全なデータ通信を可能にする。これが、アルゴリズムと当事者間で使用するキーによって、関係のない者がデータにアクセスできないように自動処理する。
4. プライバシー(Privacy)
当事者は、ODRプロバイダーによって自己のプライバシーが保護される方法および個人情報が記録または使用される方法を知らなければならない。すべての個人情報は周到な注意をもって記録され、使用されなければならない。暗号化は、オンライン紛争解決手続きに関係するすべての当事者の個人的プライバシーを尊重する権利が守られることを保証するのに、再び主要な役割を演じることができる。
5.法の下に(in the shadow of the law)
これは、裁判外紛争処理方法によって解決を求める紛争当事者が紛争を規制する法律を知っているという考え方を意味する。法によるこの帰結は、当事者が和解できなかった場合、各当事者に対して、交渉を行うという合理的な良いアイディアを与える。当事者は、ADR手続きに戦略を移すとき、この法を考慮するであろう。
6.遵守(Compliance)
当事者は、相手方が紛争解決手続きの判断を遵守することをどのようにして確かめることができるのか。さまざまな研究によると、負けた当事者はe社会における自己の評判を危険にさらすことを望まないので、ODRの判断の遵守はADRの場合と同じくらいに高いことが明らかである。
急速に発展するオンライン紛争処理制度は、一連の新しい実務的な道徳的問題及び標準問題を創りだした。対面的紛争処理に関連して議論されてきたこれらすべての問題は、オンライン紛争処理にも適合するもので、これには、専門家の意見の中立性、証明、公平性およびその提供、当事者の自発的決定、秘密保持、手続きの水準、広告及び費用が含まれる。秘密保持、管轄間法規(inter-jurisdictional regulation)など若干の問題が、オンライン環境という性質から一層複雑なものとなっている。
オンライン紛争処理標準の必要性を認識する個人や企業はますます増えている。オンライン調停人(online mediators)は、「オンライン調停に関するプロトコル案」(Draft Protocols for Online Mediation)を発行しているが、これは「ABA/SPIDR/AAAモデル手続き標準」(the AAA/SPIDR/AAA Model Standards of Practice)に重なり合う。また、欧州連合もODRの必要性を認識している。「EU電子商取引指令」(the European E-Commerce Directive(2000/31/EG))118は、次のように規定している。
「第17条
法廷外紛争処理(out-of-court dispute settlement)
1.加盟国は、情報社会サービス・プロバイダーと同サービスの受取人との間に争いが生じた場合、適切な電子的手段を含めて、紛争解決のために、国内法に基づいて利用可能な法廷外紛争処理策を使用することを、各国の法規が妨げない旨を保証すること。
2.加盟国は、法廷外紛争処理一特に、消費者紛争の法廷外解決に責任を負う機関に、関係当事者に対する適切な手続き上の保証(procedural guarantees)を用意して運営することを奨励すること。
3.加盟国は、情報社会サービスに関連する重要な判断を欧州委員会に報告し、かつ電子商取引に関連する実務、慣行、慣習に関するその他の情報を伝達することを、法廷外紛争処理に責任を負う機関に奨励すること。」
ODRメカニズムは、国境を越えたe紛争に重要な役割を演じており、ますます高まると思われる。それ故、電子紛争の増加に伴って、ODRは、現在伝統的な裁判手続きに負っているかなりの部分を置き換えることに助力できる。さらに、ODRは、伝統的な裁判に比べて、しばしば費用が安くしかも迅速である。
勧 告
貿易簡易化と電子ビジネスのための国連センター(UN/CEFACT)は、以下の勧告に合意する。
1.各国政府は、国内及び国際的貿易機関によるオンライン裁判外紛争処理システムの開発を奨励し、かつ促進すべきである。これは、特に、行動規範やトラストマーク計画といった電子ビジネスのための自己規制文書と一緒に行われるべきである。
2.各国政府は、国内及び国際的貿易機関によるODRを使用する自己規制文書計画の開発を奨励し、かつ促進すべきである。
3.各国政府は、情報社会サービス・プロバイダーと同サービスの受取人との間に争いが生じた場合、国際貿易の発展を支援するために、適切な電子的手段を含めて、紛争解決のために、国内法に基づいて利用可能な法廷外紛争処理策を使用することを、自国の法規が奨励し、かつ促進する旨の保証をすべきである。
4.各国政府、ODRを開発する国内、国際及び非政府機関は、法廷外紛争処理(特に、消費者紛争の法廷外処理)に責任を負う機関に、関係当事者に対する適切な手続き上の保証人を用意して運営することを奨励すべきである。
5.各国政府は、情報社会サービスに関連する重要な判断をすべての関係機関に報告し、かつ電子商取引に関連する実務、慣行、慣習に関するその他の情報を伝達することを、法廷外紛争処理に責任を負う機関に奨励すべきである。
・"Blind bidding"または"blind negotiation"は、現在オンラインで利用さているサービスの中で最も一般に行われている紛争解決サービスである。これらの手続きに共通する特徴は、一方の当事者の金銭的提供と他の当事者の金銭的需要の付託(submission)で、この金額は、それぞれの交渉相手には明らかにされないが、コンピュータが両当事者の金額を比較して、「交渉」をまとめる。SettleSmartは、いずれの当事者にも、提供または需要を行う前に、ファックスまたはeメールで秘密保護や補償(indemnity)などの非金銭的紛争解決条項を挿入することを認める点で、ユニークな存在である。提供金額と需要金額が一致するか、所定の範囲内に納まるか、またはオーバーラップする場合、この事件は、提供金額と需要金額の平均値、一致した価額、または、オーバーラップしたときは、需要金額で解決される。クレームが決済されたときは、参加者に直ちにオンラインまたはeメールで通知される。
・SpuareTradeは、買主と売主が協力してオンライン取引に係る問題を解決するオンライン法廷(online forum)を提供する。原告(claimant)は、事件及び相手方に対する請求についての詳細をオンラインフォームに記載して損害賠償請求の訴訟を提起する。
SquareTradeは、相手方にeメールで通知し、その後、当事者間で応酬する。苦情申立(complaint)と弁明(response)は"secure page"に記録され、当事者が満足するまで情報交換を続けることができる。これでも和解できなかったとき、SpuareTradeは、苦情を申し立てた当事者の要求により、調停人(mediator)を任命することができる。
・iLeveL会員は、オンラインで売り手(vendor)に対する苦情および希望する解決を依頼することができる。この情報は、iLeveLによって売り手に転送され、当事者間で和解がなされるまで秘密に保持される。和解が不調に終わったとき、会員の了解により、すべての情報がひとまとめにオンラインに掲載される。そこで、「オンラインパブリック」(online public)は、この紛争を検討し、会員または売り手のいずれかに有利な意見を述べることができる。
・iCourthouseは、紛争の評価と解決を援助するために、オンライン"Peer Jury"および"Panel Jury"という手続きを提供する。"Peer Jury"事件の場合、iCourthouseのボランティア陪審員が、自分の担当する事件を選択し、当事者の"Trial Books"を検討し、訴訟当事者(litigants)に尋問し、最終的に評決(verdict)を提出する。当事者は、評決数を含めた概要書(summary)、すなわち陪審員の意見を要約した判断(award)を受け取るのである。当事者は、この評決が拘束力をもつか、あるいは助言的なものであるかを決定する。"Panel Jury"事件では、当事者は、陪審員の資格に関する予備尋問(voir dire questionnaires)に対する回答に基づいて特別陪審員を選定し、リアルタイムで審議を聴取できる。陪審員は、評決に加えて、提出された証拠および弁論の有効性について、当事者の質問に答える。
インターネット上で紛争を調停するADRプロバイダーが増えつつある。典型的な例は、参加者が、プロバイダーのインターネット・サイト上で秘密が守られているフォームに、係争当事者、紛争の内容および希望賠償額等を記載して、オンライン調停を付託する。そこで、ODR調停人(co-ordinator or mediator)は相手の当事者に連絡し、調停の付託を報告し、調停に参加することを呼びかける。承諾がなされると、オンライン調停規則及び手続きを定めた合意書が作成される。その後、調停人は、当事者と一緒に、あるいは個別的に連絡をとり、対面的な調停テクニックを用いて当事者の合意を助長することを試みる。当事者間に合意が達したときは、通常、書面による調停成立が通知される。
・One Accordは、特許による中立的サイトによってインターネット上で簡単なものから複雑なものまで各種の交渉(negotiation)のサポートを提供する。このシステムは、解決を効果的に行うように設計された技術を用いて、利害関係に基づいて調整する原則として奨励されている。調停人は、当事者と一緒に彼らの交渉の問題点をモデル化する手伝いを行い、各当事者がそれぞれ自分のコンピュータから希望する条件を秘密に入力できるように支援する。その後、このシステムは、エクイティ上、交渉当事者が設定した基準にしたがって、利益の配分を公平に折衷し、等量で最適の解決を算出する。
・WEBdispute.comは、現在、eコマース取引から生じた紛争に対して書類/eメール仲裁を提供する。紛争当事者は、仲裁付託書(Agreement to Arbitrate)および仲裁宣誓書(Oath of Arbitration)を作成して提出する。WEBdispute.comは、紛争に関する意見書(紛争問題記載書、関連書類および宣誓供述書を含む)および答弁書を提出するスケジュールを発行し、5日間のeメール聴聞(5-day e-mail hearing)を設定する。聴聞が開かれるとき、各当事者は、自分の[意見]および相手方の論証(arguments)に対する反論をeメールで提出する。仲裁人は、両当事者に尋問し、各当事者は、聴聞の最終日に最終論証を提出することができる。その後、仲裁人は、聴聞を閉じて、すべての証拠を検討し、20日以内に合衆国郵便(US Mail)で仲裁判断を提出する。
オンライン仲裁の利用可能性が増えている。e Resolutionは、現在インターネット・ドメイン名紛争のオンライン仲裁を提供しており、B2BおよびB2Cのオンライン仲裁を2000年に開始した。
アメリカ仲裁協会(the American Arbitration Association: AAA)は、まもなくオンライン仲裁サービスを提供するとの予定を、2000年に発表した。最終的には、損害賠償請求書および証拠書類がAAAに提出され、仲裁人が電子的に選出されて、従来の対面的会合に代わってビデオ会議が開催され、仲裁判断が電子的に提出され、費用および賠償金がセキュア・サーバー経由で送金されることになろう。
Eメールは、オンライン紛争解決のために現在最も一般に使用されている技術である。あるプロバイダーは、電子会議、オンライン・チャット、ビデオ会議、ファックス、電話などを含むコミュニケーション・ツールでeメールを補っている。また、あるODRプロバイダーは、必要かつ実務的であると判断するとき、紛争当事者と対面的な会合を手配しているが、しかし、多くの関係者の間では電子通信をむしろ選択する傾向が認められている。