[資料2]ODR勧告案(CEFACT/2001/LG14.Rev.2)に関するコメント
ODR勧告案(CEFAC/2001/LG14.Rev.2)に関するコメント
1. 「外国仲裁判断の承認と執行に関する条約」(Convention on the Recognition and Enforcement of Foreign Arbitral Awards(New York,1958))を施行している国は、2001年1月17日現在で125カ国となっています。119また、これらの国は自国の仲裁法および調停法を持っています。これらの国内法および条約による法的枠組みに基づいて、各国の国際仲裁機関は長年にわたり、国際貿易取引から生じる苦情や紛争を解決するために、和解の斡旋、調停、仲裁等の裁判外紛争処理(ADR)サービスを行っています。
119 UNCITRAL, Status of Conventions and Model Laws.
2. 契約当事者は、たとえ契約が電子的手段で締結されても、当該契約に仲裁条項を挿入するかまたは仲裁付託の合意をする場合、商取引から生じた紛争の解決をADRにゆだねることができるのです。そこで、電子商取引から生じる紛争をオンライン裁判外紛争処理(Online Alternative Dispute Resolution; ODR)にゆだねる必要性およびこれを実施するための要件について、勧告案の序論その他の箇所で説明することが必要であると考えます。序論では、ODRの使用との関連でUN/CEFACT勧告第26号、第31号および第32号に言及していますが、この記述は本勧告の目的の理解を不明確にしていると思われます。例えば、オンライン仲裁の場合、現行法の下における電子的契約中の仲裁条項(Arbitral Clause)または仲裁付託契約(Submission to Arbitration)の効力、電子的仲裁手続の有効性、仲裁判断の承認と執行などについて説明が必要であります。
3. ODR勧告案(CEFACT/2001/LG14/Rev.2,28January 2002)は5項目を提案していますが、その内の後の3項目は、EU電子商取引指令(the European E-Commerce Directive(2000/31/EC))第17条と同じです。後者の対象は、主としてEU域内マーケットにおける消費者に係わるB2CまたはC2C環境における電子商取引及び消費者保護です。これに対して、われわれは、UN/CEFACTに協力して、貿易関係手続の簡易化や簡素化のための電子商取引の技術的・法的標準の開発に取り組んできました。したがって、われわれの対象は、国際電子商取引であり、同じくクロスボーダー電子商取引であっても、主として企業に係わるB2B環境におけるものであります。したがって、EU電子商取引指令第17条の前提と同じ環境条件に基づく本勧告案のConceptは、日本その他の域外諸国の貿易関連企業の関心を引き付けるには弱いのではないかと思います。そこで、本勧告が効果的に容認され、ODRの世界的な使用を奨励し、促進するためにも、異なるConceptに基づいて勧告書の構成・内容を検討することが望ましいと考えます。
4. 第3節では、ODRに関する6つの問題点(Key issues)が述べられていますが、5番目の問題点は"In the shadow of the law"という見出しです。他の5つの問題点に比べて、この見出しも内容も極めて抽象的なので、これに代わる具体的なものが望ましいと思います。
第3節では、手続上の保証に関連して、ODRの運営機関、調停人(mediator)、仲裁人(arbitrator)、手続規則などについて述べる必要があると思います。例えば、「消費者紛争の法廷外処理に責任を持つ機関に適用される原則に関する欧州委員会勧告」(Commission Recommendation of 30 March 1998 on the principle applicable to the bodies responsible for out-of-court settlement of consumer disputes)(98/257/EC)は、ADR関係機関に対して、次の原則を守ることを勧告しています。
1. 独立性の原則(principle of independence)
2. 透明性の原則(principle of transparency)
3. 当事者対抗の原則(adversarial principle)
4. 有効性の原則(principle of effectiveness)
5. 法律遵守の原則(principle of legality)
6. 自由の原則(principle of liberty)
7. 代理の原則(principle of representation)
本勧告第4項(page7)に述べられている"adequate procedural guarantees"を理解するために、この欧州委員会勧告(98/257/EC)を引用することが有益であると考えます。
5. 欧州委員会は、域内マーケットにおける企業および消費者に対して、可能な限り、長時間と高費用を要する訴訟を避けて、迅速かつ効果的な紛争解決を支援するために、2001年2月1日にFIN-NET(an out-of-court complaints network for financial services)を発足させ、また2001年10月16日にはEEJ−NET(the European Extra-Judicial Network)の運用開始を発表しました。このような最新の情報は、ODRシステムの必要性について企業および消費者を納得させるためにも大変有益であると思います。
このシステムについて、EUプレスリリースは次のように述べています。「電子商取引と新しい隔地売買方式の発達は、国境を越えた紛争という高度の危険を導くように思われる。物事がうまく行かなかった場合、伝統的な訴訟にゆだねることは、消費者および企業にとって実際的でもないし、効果的でもない。そこで、われわれは、面倒な規則に縛られた手続によらない、効率的な裁判外紛争処理を欲するのである。」
「Extra-Judicial Networkの開設により、法廷外処理システムによる救済策に容易にアクセスできることになるので、消費者はコスト、手続、時間、および言語間題のようなクロスボーダー紛争に伴う障害を軽減することができる。引渡方法、欠陥製品、契約に一致しない製品またはサービス等に関する紛争は、各加盟国にあるa single, one-stop "Clearing House"によって処理される。この"Clearing House"は、不満足な消費者に対して、製品またはサービスを取得した企業が存在する国で法廷外紛争処理システムによる損害賠償を行うための情報と支援を行う。」
そこで、このようなone-stop "Clearing House"をEU域外の貿易関係国にも設置し、かつ、これらのclearing housesを統合するグローバル・ネットワーク・システムの構築を勧告の中で提案することは有意義であると考えます。
6. 以下の語句について検討してほしい。
(1)"person-to-person"(1st and 19th lines, page 3)は、ここでは文脈上、"face-to-face"の方がよいと考えます。
(2)"An estimated 288 million people had Internet"(8th line, page 3)という文章は、何を意味するのか?
(3)"for resolving the vast majority of cross-border e-commerce transactions."(22nd line, page 3)は、「 」内の箇所を挿入する方と文意が一層明確になるのではないか?"for resolving the vast majority of disputes arising out of cross-border e-commerce transactions."
(4)"The Organisation for Electronic Development and Co-operation(OECD)"(25th line, page3)は、"The Organisation for Economic Co-operation and Development(OECD)"が正しいのではないのか?,The text of the Guidelines for Consumer Protection in the Context of Electronic Commerce"は、後者のホームページから入手できます。
(5)"The outcome that the law impose if no agreement is reached, gives‥‥"(6th line, page 5)は、"The outcome that the law impose, if no agreement is reached, gives‥‥"ではないか?
(6)"The European E-Commerce Directive(2000/31/EG)"(25th line,page5)のイタリックの箇所は、"The European E-Commerce Directive(2000/31/EC)"のイタリックに示すように訂正する。
(7)"iLevel"(19th and 20th lines,page8)の最後の"l"は、大文字の"L"なので、"iLeveL"とする。
(8)"WEBdispute.com"(9th line,page9)にアクセスすると、"Sorry, this site is temporarily unavailable. Please check back later."と表示されます。勧告案の付属文書IにあるWEBdispute.comの説明を変更する必要がないのでしょうか。
また、"…,each party presents their and case and opposition to …"(14th line,page9)のイタリックの箇所は意味不明です。
(9)付属文書Iに引用されているODRサービス・プロバイダーについて、最新の情報に基づいて書き直す必要があると考えます。"The American Arbitration Association announced in 2000that ..."(21st line,page9)という文章で始まるパラグラフも、本勧告案が2002年5月のUN/CEFACT総会までに完成する予定になっているので、最新情報に基づいて訂正する必要があると考えます。
(2002/02/03)
(朝岡良平)