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3.オンラインADR(ODR)
3.1 オンラインADR(ODR)の定義
 ADRは、裁判手続き以外の方法による紛争解決を意味します。一般に、商事取引の契約違反から苦情や紛争が生じた場合、当事者が互いに譲歩して和解するのが最も望ましいことです。しかし、当事者間で直接の解決が困難になると、その解決を第三者に委ねる方法がとられます。これには、訴訟(litigationまたはlawsuit)という裁判手続きによる方法の他に、和解の斡旋(negotiation)、調停(mediationまたはconciliation)および仲裁(arbitration)があります。できるだけ和解が望ましいので、当事者間の和解を斡旋しますが、これが難しい場合に、調停または仲裁の手続きを行います。ADRは以前から商事紛争処理方法として広く一般に使用されている制度です。ADRによる各種のオンライン紛争処理方法を、一般に、オンライン裁判外紛争処理(Online Alternative Dispute Resolution; ODR)と呼んでいます。ODRとは、「ADRの方法によって紛争を解決するためのアプリケーションとコンピュータネットワークの配備である」と定義されています。73 ADRによって、伝統的取引の紛争も電子商取引の紛争も解決することができます。ODRによっても、同様に、伝統的取引および電子商取引の紛争を解決できます。しかし、通常は、電子商取引から発生した紛争はインターネット上で迅速かつ適切に解決されると考えられているので、ODRがADRの補足的手段として、オンライン紛争の解決に使用されます。
73 Esther van Heuvel, Online Dispute Resolution as a Solution to Cross-Border E-Disputes; An Introduction to ODR, August 2000, University of Utrecht,p.8 この定義は、ODRに関する勧告案に引用されています。
3.2 ODRの種類
現在、ODRシステムには次の4種類があります。
・オンライン決済(online settlement)
・オンライン消費者苦情処理(online resolution of consumer complaints)
・オンライン調停(online mediation)
・オンライン仲裁(online arbitration)
 
3.2.1 オンライン決済
 これは、米国で発達したODRで、保険金の支払いとか、サイバーオークションの決済などの金融問題専門のシステムを使用して自動的に処理しています。これは、厳密な意味で、電子商取引から発生した紛争を解決するというODRではありません。この種のオンライン決済サービスを行うウエブサイトを最初に提供したのはCybersettle74で、これに続いて、clickNsettle.com75,SettleOnline76,SettleSmart77 ussettle.com78等が同様のサービスを提供しています。これらに共通しているのは、,"blind bidding",または"blind negotiation"と呼ぶ方式で、現在ODRの中で最も一般的に行われている紛争解決サービスの一つです。これについては、ODRに関する勧告案の「付属文書I:ODRサービス」に説明があります。
 
3.2.2 オンライン消責者苦情処理
 Central Better Business Bureau(CBBB)の子会社であるBBBOnlineは、米国における消費者苦情のオンライン処理を行っています。BBBは、1912年に創設され、長年にわたって企業対消費者間の紛争を解決するためのADRを行ってきました。現在、米国内にCBBBの傘下組織として130以上のBBBが存在しています。CBBBは、伝統的な名声と長年の経験を活かして、子会社のBBBOnlineによるオンライン消費者苦情処理サービスを始めたのです。けれども、まだ完全なオンラインシステムになっていません。消費者からの苦情はオンラインで受け付けますが、その後、BBBOnlineの社員が交渉に入ります。多くの場合、これで苦情処理が終わるようですが、もし交渉がこじれたときは、eメールまたは電話で調停手続きに入ります。これも成功しなかったときは、対面的な(face-to-face)調停または仲裁を実施するとのことです。したがって、苦情申請の段階がオンライン化しているということで、まだ完全なODRになっていません。79
79 C.I. Underhill, S.J. Cole and A. Cohen, CBBB and BBBOnline, Alternative Dispute Resolution for Consumer Transactions in the Borderless Society, Arlington, March 21,2000,pp.2-5.
 
3.2.3 オンライン調停
 オンライン調停を行っているADRプロバイダーが一番多く、米国には次のものがあります。InternetNeutral80,SmartSettle81,OnlineResolution82,Resolution Forum, Inc.83, SquareTrade84等があります。このほかに、Mediate-Net,NewCourtCity.com,Online Ombuds Officeがありましたが、現在はアクセスできません。SquareTradeの調停手続きは、ODRに関する勧告案の付属文書Iに説明されています。付属文書Iには、One Accordが引用されていますが、これは現在、SmartSettleという名称になっています。ヨーロッパには、オランダのStichting Nederlands Mediation Instituut(NMI)のe-mediationイニシアティブ85,英国のe−Mediator86があります。
 1999年にマサチューセッツ大学情報技術及び紛争処理センターが、eBay website上のオンラインオークション取引から生じる"e−disputes"を処理するオンライン調停システムの開発プロジェクトを実施しました。このオンライン調停システムは公開されていないとのことです。87ちなみに、eBayは最大のオンラインオークションサイトです。ODRに関する勧告案の付属文書Iに、iLeveL88ぉよびiCourthouse89の紹介が載っています。これらは、オンラインフォーラムの形式を取っていますが、実質的には、和解の斡旋または調停と考えられます。
87 Esther van Heuvel,op.cit.,p.232
88http://www.ilevel.com
89http://www.i-courthouse.com/
 
3.2.4 オンライン仲裁
 ODRに関する勧告案の付属文書では、オンライン仲裁の利用可能性が増えているとして、WEBdispute.com90、eResolution91およびアメリカ仲裁協会(AAA)を挙げています。しかし、現在WEBdispute.comは、アクセスすると、"Sorry, this site is temporarily unavailable. Please check back later."と表示するだけなので、実際の業務サービスは行っていないようです。また、AAAは、米国内だけでなく、国際的にも商事仲裁の分野で多大の貢献をしてきた仲裁機関です。ODRに関する勧告案の付属文書には、「AAAが間もなくオンライン仲裁サービスを提供する予定であると2000年に発表した」とありますが、この勧告案が提出されるのは、今年の5月と予想されていますので、それまでにAAAがオンライン仲裁サービスを実施しているのか否かを確認しておくことが望ましいと思います。
 現在のところ、カナダのeResolutionが唯一オンライン仲裁サービスを提供しているようです。92 このプロバイダーは、主としてドメイン名の紛争(domain name dispute)をオンライン仲裁で解決しています。ICANN(Internet Corporation for Assignment Names and Numbers)がeResolutionに対してドメイン名のオンライン紛争処理を認可しており、この種の紛争処理は、ICANN Uniform Domain Name Dispute Resolution Policy,93 ICANN Rules for Uniform Domain Name Dispute Resolution Policy 94 およびeResolution Supplemental Rules95に従って、オンライン仲裁手続きによって行われるとのことです。
 
 前項で、米国のマサチューセッツ大学情報技術及び紛争処理センターのプロジェクトに言及しましたが、同プロジェクトの研究員が、オンライン仲裁ではなく、オンライン調停を選んだ理由の一つとして、仲裁判断の手続きおよび内容について、紛争当事者の同意が得られなかったので、仲裁の具体的な事例収集が非常に困難であったことを挙げています。オンライン仲裁システムの開発には、技術的側面のほかに、法的側面および実務的側面からの協力が不可欠のようです。








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