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2.オンライン取引における消費者苦情処理の必要性
2.1 B2Cの増加に伴う紛争処理問題
 米国政府は、消費者向け電子商取引が近い将来大きな市場に発展する見込みがあるので、オンラインに参入する小売業者が毎年増え続ける中、インターネット革命を正しい方向に進ませるための基本方針として、個人データの使用や保護について企業側に注意を促しています。67 今回の米国大統領選挙の争点の一つに、デジタルディバイドがありました。デジタルサービスの恩恵を受ける人とそうでない人の生活格差をなくそうという政策が展開されることにより、コンピュータが日常生活に入り、日常的な経済活動もデジタル化し、商取引もデジタル化がさらに進むことになります。EU市場では今年から本格的に単一通貨「ユーロ」が使用されることになり、これまでのように為替相場に煩わされずに加盟国の商品を購入することが容易になりました。
 
 消費者は一般に店頭で商品の購入を行っています。しかし、オンライン取引は、実質的に、隔地取引ですから、消費者は、従来の店頭取引と異なり、通信によって契約を締結しなければなりません。また、電子情報は瞬時に世界中を駆け巡るので、インターネットを利用して、グローバル取引またはクロスボーダー取引に容易に参加できます。オンラインマーケットプレイスは、消費者に対して世界中の売り手に24時間アクセスする機会を提供し、企業に対しては世界中のマーケットへのアクセスを提供します。しかし、国内のオンライン取引の件数増加に伴って、消費者の苦情は増える傾向にあります。まして、クロスボーダー電子商取引の場合、企業の所在国と消費者の居住国が異なり、また言語も異なるところから、苦情や紛争の処理が国内取引以上に難しくなります。
 
クロスボーダー電子商取引では、多くの場合、消費者は、オンライン取引から生じる問題を解決する場合に、言語や文化の相違、当事者間の距離が遠く離れていることから起こりうる不便や費用負担、ならびに裁判管轄、適用法の決定、判決の執行等を含む訴訟問題など、特殊な難問に直面します。企業側も、同様の問題に直面することになります。これらはオンラインビジネスのコストを著しく増加させることになります。そこで、新しいマーケットプレイスは、参加者に対して、取引に問題が生じた場合に、裁判に代わるもので、紛争解決に信頼して使用できるアクセス方法を作り出したのです。
2.2 裁判外紛争処理制度の整備
 電子商取引一特に、B2Cの電子商取引が円滑に発展するためには、消費者が電子商取引を信頼して行うことができる法的環境の整備が必要です。その1つが、消費者の苦情や紛争を中立的に、迅速かつ低廉に解決する制度です。これが、裁判外紛争処理制度(Alternative Dispute Resolution; ADR)で、法廷外紛争処理(Out-of-court Dispute Settlement)ともいいます。例えば、欧州連合は、1998年に「消費者紛争の法廷外処理に責任を負う機関に適用される原則に関する勧告」68を採択しています。さらに、2000年に「電子商取引に関する指令」69 を採択しましたが、その第17条に法廷外紛争処理に関する規定を設けて、加盟国にADRの環境整備を勧告しています。70
68 Commission Recommendation of 30 March 1998 on the principles applicable to the bodies responsible for out-of-court settlement of consumer disputes(98/257/EC)
 〈http://europa.eu.int/eur-lex/en/lif/dat/1998/en_398H0257.html
69 Directive 2000/31/EC of the Parliament and of the Council of 8 June 2000 on certain legal aspects of information society services, in particular electronic commerce, in the Internal Market('Directive on electronic commerce)
 〈http://europa.eu.int/eur-lex/en/lit/dat/2000/en_300L0031.html
70 本稿に掲げるLWGの「オンライン裁判外紛争処理(ODR)に関する勧告案」第3節を参照されたい。
2.3 EUの法廷外紛争処理ネットワークシステム
 EUでは、域内市場における企業および消費者に対して、紛争解決までに長い月日と高い費用を要する訴訟をできる限り避けて、迅速かつ効果的な紛争解決を支援するために、2001年2月1日にFIN-NET(an out-of court complaints network for financial services)71を発足させましたが、また2001年10月16日には、EEJ-NET(the European Extra-Judicial Network)72 の運用開始を発表しました。EUのオンライン裁判外紛争処理(Online Alternative Dispute Resolution; ODR)の積極的な展開は、B2C電子商取引の発展を支援するものと思われます。
 
 EEJ-NETの開設によって、法廷外紛争処理システムによる救済策に容易にアクセスできることになるので、特に消費者にとって、コスト、手続き、時間、および言語間題のようなクロスボーダー紛争に伴う障害が軽減されることになります。このシステムでは、すべてのEU加盟国にClearing House(主として、各国の消費者保護センター)が設けられることになっています。引渡方法、欠陥製品、契約に一致しない製品またはサービス等に関する紛争は、これらのClearing Houseによって処理されます。このClearing Houseは、不満足な消費者に対して、製品またはサービスを取得した企業が存在する国で法廷外紛争処理システムによる損害賠償を行うための情報提供と支援を行います。








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