VIII.港湾物流分野におけるEDIの現状と課題
1.はじめに
国際港湾は、輸出入貨物の物流を担う海陸の結節点となっています。国際港湾を経由する物流に関係する業種は、船社、船舶代理店、ターミナル・オペレータ、ステべ(荷役)会社、検数・検量業者、海貨・通関業者、倉庫会社、陸運会社、及び荷主(輸出入者)など多岐にわたり、これら異業種間において所要の業務手続が行われています。
さらに、輸出入貨物に係る行政手続として、民間企業は財務省、経済省、農水省、厚生労働省、国土交通省、地方自治体(港湾管理者)などの所管部署を相手に通関手続、輸出入許可手続、動植物検疫手続、食品検査、本船入出港許可手続、危険物積卸許可などの各種手続を行っています。
国際港湾物流を効率的に行い、物流コストを最小化し、国際競争力を高めるための方策の一つとして電子データ交換(EDI)の導入・普及の重要性が世界的に認識され、わが国においても関係業界、関係省庁が早くから取り組んできましたが、欧米や東南アジア諸国の導入・普及状況と比べると全般的に見劣りし、低迷していると言わざるを得ない状況にあります。
本項では、港湾物流分野におけるEDIの普及状況、低迷の要因と改善方策について考察します。
2.国際港湾物流分野における官民EDIネットワークの相関関係
2.1 民間EDIネットワーク
民間のEDIネットワークには、POLINET((社)港湾物流情報システム協会;以下、「港シ協」という。)、S.C.NET及びS.F.NET(日本電気株式会社)、TEDI(TEDIクラブ)及びBolero.net(ボレロ・インターナショナル)がありますが、それぞれネットワークの業務範囲(主要目的)とメッセージフォーマットが異なっており、相互接続や連携は行われていません。
荷主〜海貨(通関)〜船社〜荷主間のいわゆる輸出入貨物に係るトライアングル業務情報のやり取りを担っているのがS.F.NET、POLINET、S.C.NETです。このうち、S.F.NETとS.C.NETは大手商社、メーカー、大手船社主導で運営されてきましたが、中小荷主の参加がなく、2001年3月に解散しました。現ユーザへのサービスはネットワーク・プロバイダである日本電気(C&C VAN)により続けられてはいますが、いずれ中止されるものとみられます。
POLINETは、海貨、船社(船舶代理店)、検数、検量の4業種を中心とした輸出入貨物の手続き情報を交換する共同利用ネットワークです。業務範囲も港湾物流全般に拡大され、陸運、倉庫業務関連の国内統一物流標準JTRN情報も取扱っています。しかし、民間業務情報の一部がSea-NACCSと競合するようになって、参加企業、データ件数ともに低迷状況にあり、その打開策としてインターネット導入による中小企業参加促進策を推進しています。
TEDIやBOLEROは、貿易金融EDIとも呼ばれるように船荷証券の権原移転、買取をはじめ売買契約書、保険証券を電子的に行うことを目的としており、付随的に関係書類の作成、取引データなどの管理を行うASP(Application Service Provider)サービスも計画していますが、システム構築初期投資も高額となることから利用コストも高めであるため、参加企業は大手荷主、大手船社、大手銀行・損保が中心で、中小企業への普及は疑問視されています。
民間物流EDIネットワーク利用促進のポイントは、いずれも中小事業者が参加しやすい環境、機能と安い利用料が提供できるかどうかに掛かっています。
2.2 行政EDIネットワーク
行政のEDIネットワークには、「ITと国際物流に関する懇談会」報告書によればNACCS(通関情報処理システム:財務省)及び港湾EDI(国土交通省)のほか電子手続用システムとしてFAINS(食品衛生法手続システム:厚生労働省)、ANIPAS、PQ-NETWORK(動植物検疫手続システム:農林水産省)、JETRAS(外為法及び外国貿易法に基づく輸出入許可・承認手続:経済産業省)があります。このうちFAINS、ANIPAS、PQ-NETはNACCSと連携しており、港湾EDIとNACCSは平成14年1月に連携し、JETRASは14年度にNACCSと接続・連携される予定となっています。
これらにより、NACCSを中心とした輸出入・港湾手続き関係各システムの連携・接続がなされ、当面のワンストップ化が実現されますが、実際にはそれぞれの行政システムに手続データを送信する必要があり、一度のデータ入力、送信で関係省庁へ電子手続きができる真のワンストップサービス実現は、これからの課題となっています。また、Sea−NACCSの利用コスト負担が重いという不満の声も多く聞かれ、財務省は利用料を引き下げる方向で検討が進められています。
2.3 官民EDIネットワークの連携
官民ネットワークの接続・連携もなされていません。それゆえに、民間企業ユーザは、官民各ネットワークとの接続を要する上に、複数の民間ネットワークとも接続しなければならない状況にあります。ユーザはインターネットのように一つのネットワークと接続するだけで他のネットワークのユーザとデータ交換、通信できる環境の早期実現を望んでいます。