日本財団 図書館


4.貿易手続き簡素化への考え方
 既に述べてきたように、損害保険会社(損害保険会社が発行する外航貨物海上保険証券)が貿易の仕組みの中で取引の当事者乃至主体となるものではありません(本文1.2の図1参照)。
 損害保険会社にとってみれば、(電子)商取引は、保険を申し込む荷主との直接の取引で一応完了します。その後、損害が発生し保険会社に求償する段階になって、その時点で、即ち荷主から損害保険会社(またはその代理店)に通知があった時から、再度、その荷主と損害保険金を支払うという取引(損害保険会社の債務の履行)が始まることになります。当初申し込みを受けた荷主と求償してくる荷主と同じ場合(輸入)もあれば、異なる場合(輸出)もあります。
 後者の場合、損害保険会社の関心は、電子化された保険契約内容即ち保険証券が当初引き受けた内容と変わらずに新しい荷主の元へ電送されるかと言うことです。つまり、損害保険会社は、保険を申し込む荷主との電子商取引と、その取引の中でデータ化して送った、引き受けた保険の内容(保険証券の内容)が、貿易取引上の買主(荷主)にオリジナルのまま電送されればよいわけです。
 結局、商取引そのものは二者間で完了してしまいますので、実にシンプルです。保険証券の電子化されたデータが貿易取引の中でどのように転送されていくかの過程においては、売主、買主、あるいは銀行等に、または、通関(海貨)業者や税関に委ねるしかありません。
 
 また、L/Cベース以外の貿易取引においては、保険証券そのものを省略化してしまうことも可能です。現既に昔から、現地法人との取引やグループ企業間取引をはじめとして、保険証券を書略することは既に行われています。ワールドワイドカバーと読んだりしていますが、一つの保険契約で年間包括的に事前に協定した貿易に係わる輸送を全てカバーしてしまう方法で、世界的に一般化しています。
 L/Cベースの貿易取引においても、売買契約を結ぶ時点で、保険内容(保険金額、保険条件等)を確定しておけば、都度、保険証券を発行しなくても支障をきたさない方法も可能です。損害保険会社にとって究極的なEDIは、こと保険証券だけを考えるならば、保険証券番号だけを考えればよくなってしまいます。
 
 どちらにしても、売主、買主、あるいは銀行の取り扱い方に左右されます。 そこで、損害保険会社においては、貿易取引の中での関連するそれぞれの当事者における電子商取引の方法の進展を常にウオッチし、その方向性を検討しながら、すぐに対応可能なように準備しているのが実状ではないでしょうか。
 
 日本では今、「商取引において、なかなか電子化されない原因は何か」と各業界で頭を抱えているようですが、その主な原因の一つと考えているのは、「標準化が一向に達成されない」ことにあるのではないでしょうか。
 
 各企業毎に、それぞれの業務のやり方が異なります。それをそのまま何も変えずにシステムで機械化しようとしているのが、通常の各社が試みているシステム化という実状ではないでしょうか。
 従って、システムの仕様は複雑化せざるを得ませんし、各社ばらばらの特有の機能を持ったものが出来上がってしまいます。これらのシステム同士を接続するわけですから、その手間は大変になってくるのは当たり前となってしまいます。この状態はいつになっても変わる気配がありません。
 また、このような標準化していない各社ばらばらのシステムの状態で電子商取引を行うとすると、そのための対応コストがかさんでくることになります。下手をするとコスト増になってしまうこともあるでしょう。コストがかさめばそれだけ進展も遅れることになります。もともと電子化の目的にコスト削減という大きな目的が含まれていたのですから当然と言わざるを得ません。
 
 標準化したシステムに既存の業務内容を変えていく発想がでてこない限り、電子商取引は進展しないでしょう。この点は、日本人はどうも苦手のようです。何故なのでしょうか。常に他社と差別化することを考え、過当競争を生き抜いてきた企業の習慣でしょうか。他社との事務処理の差別化を止めてしまうと企業の競争力が失われてしまうと考えているのでしょうか。
 
 「なかなか電子化されない原因」に、もう一つ考えられるのは、「対応コストの負担の問題」があります。
 
 企業は投資をすれば、その分を利益として回収しなければなりません。EDI化して事務処理コストを低減しただけで、コストは回収できるのでしょうか。そうでなければ、売り上げを伸ばさなければ、利益を上げることができませんが、果たしてEDI化が利益増に結びつくのでしょうか。現行の事務処理をEDI化しても、売り上げが伸びなければ、コスト倒れとなってしまいます。
 蓄積した利益がある企業であれば、その利益を投資にあてるということは出来るわけですが、まさに、企業はただ過去蓄積した利益をただ吐き出すだけになってしまいます。それに、そのような企業は、今時は、多くはないでしょう。
 また、EDI化のコストは、企業の規模とは必ずしも比例しません。一定のコストは企業の規模に係わらず発生します。従って、企業は、一定以上の規模がないとこのコスト負担が重荷になってきます。つまり、対応出来る企業は限られてしまう恐れがあります。少数の企業だけが対応可能となるかもしれません。
 さらに、大企業同士だけが取り引きするわけではありませんので、EDI化に投資してもその効果は一部の取引に限定されてきます。従って、投資の回収は一層遅くなってしまいます。
 企業決算を考えると、システム投資を減価償却とするか費用とするかは、税法上および会計上の問題をクリアーする必要がありますが、費用とすれば単年度の負担になり、仮に、減価償却するとしても5年間で消却しなければなりません。いずれにしても、各企業においては、基本的には限られた期間で、投資した金額の全額を回収することを考えなければならないわけで、これは非常に頭の痛い問題となるのではないでしょうか。
 
 技術的な問題を解決していくことは、容易ではなくとも可能です。しかしながら、これらの「コスト」の問題を解決するのは、容易ではないし、可能かどうかも分かりません。コストを如何に安く抑えられるか、システムとして投資する代わりに外注化することも一つの解決策かもしれません。この間題を解決すれば、一気に進展するようにも、また、最後に残る問題のようにも考えられます。
 
 以上、容易にEDI化が進まない原因について、二つの考えを述べてきましたが、仮にその通りだとしたら、その解決策にすぐ名案が浮かんでくるわけではありませんので、ただ頭を抱えるばかりです。
 損害保険会社においても他業界と同様に、このような状況下では、如何ともしがたく、どちらかというと周りの業界動向を様子見ながら、その方向性(BoleroとTEDIどちらがより普及していくかを含め)を探り、対応・準備を怠らないといったポジションに立っていると考えます。
以上
(塩野 和弘)








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION