日本財団 図書館


3.(私見)損害保険会社としてのBoleroとTEDl
 上記二つのプロジェクトとは別に、貿易に関する電子商取引の、今後の発展の、核として活動しているものに、BoleroとTEDIがあることはご存じの通りです。その内容については、これまでの報告書の中でも、また、本報告書の別の章・項目でも取りあげていますので、ここでは省きますが、損害保険会社の一員として考えていることを次に述べてみたいと思います。
3.1 Bolero
 Boleroのルールは英国法に基づいています。そのことは、本邦の外航貨物海上保険にとっては、好都合となるかもしれません。なぜなら、日本の損害保険会社が扱っている外航貨物海上保険においては、基本の約款は英国の協会約款を使用しており、英国法に準じて取り扱っているからです。とはいえ、保険証券の内容(データ化したもの)が元のまま正確に電送されればよいと考えれば、あまり関連しないかもしれませんが。
 
 Boleroは、XMLによる標準化された定義文章を着実に増加しているようです。損害保険分野に関しても、Boleroに参加している損害保険各社によって、外航貨物海上保険証券用フォーマットの作成が進行中です。一度作成されたのですが、不具合があり、使用できる状況になかったため、再度、参加各損害保険会社が共同で完成を目指して、作業を進めています。
 
 また、Boleroは、会員制を取っており、会員は、Bolero Rulebookに拘束される仕組みとなっています。標準化を考えるとこの方法は有利のように理解されます。しかしながら、Boleroに加入していない者が一連の取引の中に介在してくると、その取引は手続きが複雑化してきて、不便になってくるように思えます。途中から紙ベースの取引になることも考慮にいれて検討を進める必要があります。
 世界各国の事情やIT環境が異なる中で、どうしても、全てが一貫して電子化された商取引をのぞむことは難しいと考えられますので、この間題、途中で紙に戻す場合の"確認"の問題があります。
 この、途中まで電子化されていたものを紙に戻すという事は、Boleroにおいて、まだ十分検討されていないようです。一度、ペーパレス化していると紙に戻すことは以外に難しくなるように思います。しかし、これを解決していかないと、全体を電子化しない限りスピーディな普及は進まないように思えます。
 
 損害保険会社にとっていい点ばかりではありません。以前から指摘されているように、紙の船荷証券がなくなった場合、運送人から運送人へあるいは荷主もしくはその代理人に貨物を個々引き渡ししていく際、電子船荷証券上の正当な貨物引き渡し請求権者(もしくはその代理人)に渡すために、どのようにして真の権利者(もしくはその代理人)、具体的にはトラッカーを確認していくのかという、スピーディーな処理が必要とされる現場においては、解決が難しい問題が発生します。
 このことは、既に現実問題となっているようですが、運送人にとって深刻な問題であるとともに、その損害を保険金として支払うことになるだろう損害保険会社にとっても大変深刻な問題です。
 電子商取引と現実の貨物の物流実務を100%合わせることは技術的には可能でしょう。しかしながら、本人確認の仕組みは複雑になり、現実的な対応が可能かどうか十分な検討が必要と考えますが、少なくても、現状では、Boleroの中では解決策を考える様子は見られません。この問題が危機的な状況になることのないよう、対策を講じてもらうことを切に望むところです。
 以上のような、紙の世界では発生しにくかったものが、電子化されると、顕在化してくることが他にも有るかもしれませんので、まだまだ、実務に即して検討することも必要です。
3.2 TEDI
TEDIは、BoleroのBolero Rulebookに拘束される会員制と異なり、実際の契約関係者相互の実態契約を基にした二者間契約の連鎖により全体的に契約的規律ないし効力を及ぼす仕組みです。
 ユーザー相互間のEDI協定書、RSP約款、CA約款の3つで構成される約款群が一体となって、電子商取引の安全性を高めるツールとしています。TEDIについても別の章で説明されていますので、ここでは省きますが、各企業の社内事情に合わせたカスタマライズが可能である点や既存認証機関の認証書の使用が可能である点は、ユーザーにとってメリットと考えます。
 
 カスタマライズが容易にできることは、一方では標準化を妨げる一因にもなる可能性があり、それだけシステムが複雑化することにもなりかねません。損害保険会社業界に置いて検討している汎用ファーマットのデータ項目数はなんと200から300にもなります。これはBoleroについても同じ状況ですが、何しろ損害保険会社のデータ量は多いのです。他業界と比較して圧倒的に多いのではないでしょうか。各社独自項目もあり、汎用性を高めれば高めるほど、データ項目は増大します。
 標準化してもデータ項目数が多くなっては困ります。汎用性とのバランスが取れるように工夫が要求されるのではないでしょうか。
 
 認証に関しては、技術的には、CA(Certification Authority:認証局、なおこの認証局は、IA<Issuing Authority:認証書発行局>とRA<Registration Authority:登録局>から構成される)を設置し、公開鍵暗号方式を用いた電子署名等の安全策を提供している点はBoleroと同じものを使用しており変わりません。
 
 現在、損害保険会社にとって、BoleroとTEDIどちらがより普及していくのか、判断に迷うところです。多分その他の業界の企業にとっても同じ状況かと思われますが、この辺りがはっきりしてくると、取り組みやすくなるのではないでしょうか。コストも集中的に投下できるでしょう。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION