2.損害保険会社の電子取引市場に対する取り組み
貿易取引は、国際間の取引であるという性質から、政府当局、物流、金融、保険にわたる広範囲の参加者によって行われ、複雑多岐にわたる参加プレーヤーが存在しています。プレーヤーの数に従って多種多様な貿易書類がまた存在することになります。
売主(荷主)と買主(荷主)−(取引主体)、船会社もしくは航空会社(物流)、海貨業者(物流)、銀行(信用供与、代金決済)、保険会社(損害賠償)、改府(税金徴収、法令規制)などです。保険およびその書類としての保険証券は、貿易取引においてはなくてはならないもの、重要な役割を果たしていますが、あくまでも取引そのものにおいては付随的な立場にあります。
従って、損害保険会社は、主体的な参加プレーヤーの対応に大きく影響せざるを得ないのは明らかです。影響を与えるのは、売主(荷主)、買主(荷主)であり、銀行です。そしてこれらの業界の動きです。
これまでと事情は変わるわけではありません。損害保険会社がリードできる場合は限られているのがまだまだ現状と言わなければなりません。残念ながら、リードして、変えていくことはなかなか難しいことです。
次項では、損害保険会社が取り組んでいるなかで注目している貿易金融電子化に関するプロジェクトの例を挙げてみましょう。
2.1 アイデントラス・プロジェクト
Identrus(IdentityとTrustの合成語)については、昨年度(平成12年度)の報告書の「銀行からみた電子貿易取引の今後の課題」ですでに取り上げられていますので、ここでは説明を省きますが、銀行自身が企業間電子商取引における電子認証業務をおこなうための金融機関を構成メンバーとする組織で、1999年3月に設立されました。
このプロジェクトに参加している銀行は、欧州、米州、アジアの主要銀行50社(2001年8月末現在)です。日本も主要銀行が参加しています。
このプロジェクトの目標は、「世界中に相互運用性を確保されたネットワークに参加する金融機関が、それぞれ統一されたシステム・ルール、契約、商習慣に則り、デジタル証明書と呼ばれる信頼性の高い電子的IDを顧客に発行」(プレゼンテーション資料より)する手段を用い、「参加金融機関に登録すれば、取引に参加する企業は当該証明書を持つ他の企業を簡単に本人と断定すること」を可能とするものです。 さらに、改竄されていないことの確認も可能とするもので、金融機関の間ではデファクトに最も近いものとの考えを持っているようです。
損害保険会社もこのネット上で取引をする際の本人確認手段である電子認証の日本での実証実験に参加することになっています。現在行われようとしている実験は、損害保険会社と代理店の間の保険契約を電子認証の システムを利用して管埋していくもので、業務効率化の観点から行われています。
SWIFT(The Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunications)は既にIdentrusを電子認証基盤として採用することを決めており、Boleroも現実にidentrusを認証の手段として認めています。Boleroの設立母体となったTT ClubにS.W.I.F.T.が参加していますので、これは当然ではありますが、これにより、貿易業務全体の一通りの仕組みが完成されるのではと考えます。
銀行業界の現在の取り組みは、当面は、銀行業界として、Closed Communityの中での取引拡大を予想し、この市場で、低コストとプロセス改善(効率化とセキュリティの提供)をベースに取引拡大を目指しているように考えられます。
2.2 e-アジアマーケットプレース(e-AMP)コンソーシアム
e-アジアマーケットプレイス構想(e-AMP)とは、経済産業省の支援を受け民間企業で推進しているプロジェクトで、日本を含むアジア全域を市場対象とした「企業間ECビジネスプラットフォーム」を構築し、アジア各国による「世界の生産拠点」としての確固たるビジネス拠点確立を目指しています。
アジア各国の中小企業のための「アジア版SCM(Supply Chain Management)」というべき「新しいSCMビジネスモデル」を構築しようとしています。
e-AMPは、「[1]MP間の標準インターフェイスの確立、[2]アジア諸国とのECルールの確立、[3]中小企業群を対象にした仮想企業体の確立、を含む3つの技術開発の目標として推進し」、「国内のSeller、Buyerを対象にしたものMP」から「海外の企業を相手にしたMP」を構築することを目指しています。
e-AMPが実現しようとしているこの3つの技術開発目標がECOM Journal No.3のトピックスのページに記載されていますので、以下に紹介します。
「[1] MP間の標準インターフェイス
現在、国内外を問わず数多くのMPが乱立しているが、どのMPも単独で運営されているためMP間の「協調と連携」に欠如している。どのMPを見ても製品/商品ごと、また提供サービスごとに独立に運営されているため、当初計画の事業規模に到達していないばかりか、逆に、従来のビジネスモデルと並存しているため、業務が重複するとともに、処理が煩雑になり、必ずしもコスト減に繋がっていない。
これら課題を解決するために、MP間の接続を容易にする「標準インターフェイス」を構築し、相互のMP間と連携を図ることにより、従来にない取引環境が整い、事業の拡大、強いては競争力の強化に結びつくものと期待している。
[2] アジア圏におけるECルールの確立
日本国内を見ても、業種ごとにそれぞれ商習慣が異なるように、取扱う商品によって取引形態が異なる。アジア圏を対象にした商取引を想定すると、さらに各国ごとに文化や商習慣の違いが存在する。
しかしながら、インターネットを基盤とした商取引では、国/業界ごとの違いを超えて商取引を行うことになるため、その違いを吸収して、安全に、且つ正確に取引できる環境が必要になる。そのためには、アジア各国間での「共通の取引ルール」を新たに確立する必要がある。
[3] 中小企業群を対象にした仮想企業体の確立
日本を始めとして、アジア諸国には数多くの中小企業群が存在する。個々の企業を見ると非常に弱い存在であるが、中小企業を「群」として捉えると、その力は巨大な企業体として形成する可能性を秘めている。
そこで、アジア諸国の中小企業が連携して、仮想の企業体として実現可能なe-SCMが構築できれば、大手企業を下支えするのみならず、巨大な仮想企業体が形成されることになる。
その結果、従来の下請けから脱却して、大手企業と対等にビジネスできる環境が整うことになり、新たな価値が生まれることになる。」
つまり、日本を含むアジア全域を対象市場とした「企業間電子商取引ビジネスプラットフォーム」であり、アジア各国で安心して電子商取引を行う環境を提供するものです。
具体的には、アジア各国において国内のe-マーケットプレイスが接続するハブ機能を構築し、それらのハブ間接続を行うものです。各国のハブは、電子商取引を行うための各種サービスを提供するものです。
サービスとしては、企業認証/電子署名(identrusによる)、企業与信、貿易決済、貿易手続(含む損害保険)、企業情報、物流等を検討中です。
システム概念図は次のとおりです。
2.3 ワールドゲートウェイ
ワールドゲートウェイとは、BoleroやTEDI等を利用した貿易業務とそれに関する企業間の電子手続きに関するサービスを提供する企業として昨年設立された株式会社で、商社、銀行、船会社、ベンダー、損害保険会社が参加(出資)しています。
目指す提供サービスの概要は、
[1]貿易業務ソフトのASPによる提供
[2]貿易書類作成の業務代行(アウトソース受託)
[3]貿易金融EDIインフラへの接続サービス(Bolero利用に関するサポートやコンサルティング)等です。
サービス提供開始間もないためこれからというところかと思いますが、各企業が個別にEDI化に対応する手間暇を考えるとこのサービス機能には魅力を感じるのではないでしょうか。
各企業においては、電子商取引、EDIのための対応コストは大きな負担となるでしょう。企業規模を考えれば、到底負担に耐えらない企業が圧倒的に多いのではないでしょうか。コストを抑えることができれば、各企業間の電子商取引の推進に大きな役割を果たすことが期待されると考えます。損害保険会社としてもここは注目したいところです。