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3. 電子船荷証券の為の"Contractual Approach"から学ぶこと:
国際的場面で、広範な法的基盤の整備が期待できない現状では、多くの問題を、当事者間で拘束力を持つ契約によって法的枠組みを作る方法("Contratual Approach")によって対処せざる得えないことは上述した通りです。
 その点、電子船荷証券の為の契約スキーム作成に際し、船荷証券に基く"契約上の権利(義務)の移転"の問題に加えて、"物権的効力"という、法律上、紙の船荷証券に与えられた特殊の機能をも考慮しつつ、各種の法的課題の検討とそれを解決・回避する為に取られた手法の分析・理解は、広く電子商取引一般の為の基盤となる契約スキーム作りのためにも、大いに参考になるのではないかと思われます。
その様な観点から、Boleroの仕組を例にとって、幾つかの点を、思いつくままに略述してみます。紙面の制限もあり、極めて限られた解説になりますので、将来、専門家が、より包括的で、かつ分かり易い解説をして呉れることを願って止みません。
3.1 Boleroの採った課題の解決法:
3.1.1 上述した電子商取引一般の課題に関するもの:
 
(1) どうやって、正しい取引相手かどうか確認するのか?:
 
 Boleroの場合、会員制の閉じられたサークルとなっており、加入の際に慎重にidentityの確認が行われる様です。加えて、受信者(正確には、Boleroのシステム自体)が、メッセージ発信者のidentityを確認する為の方法として、所謂"公開鍵暗号方式"に基くデジタル署名 の方式を採用しています。
 即ち、BoleroのUserには、Public KeyとPdvate Keyが与えられます。そして、会員間のメッセージのやり取りは、必ず発信者のPrivate Keyによってデジタル署名されたメッセージで行うべきことになっています。メッセージにデジタル署名することにより、BoleroのUserは、紙の文書に手書きで署名したのと同様に、自己のidentityを提示・確認することになります。
(その付随的効果として、Private Keyの管理不備等の理由により、権限無きデジタル署名が行われた場合であっても、そのPrivate Keyを盗用された者が、受信者に対して責任を負うことになります。
 従って、Private Keyの保管には、極めて厳重な注意が必要になります。)
 
 特定のPublic Keyに対応するPrivate Keyの持主の確認の為には、電子的な"Certificate"が発行されます。その"Certificate"は、
 
−Public Keyを含み、
−そのPublic Keyに対応するPrivate Keyの持主のidentityを示し、
−且つ,"Certificate"の発行者(当面はBolero Internationalが発行者の機能を担うことになっている様です。)がデジタル署名したもの
 
となっています。
 
 加えて、Boleroの場合、User間のやり取りの総ては、Boleroのシステム(Core Message Platform)を経由して行われることになっており、そのシステム自体が、送られたメッセージが、
 
−"しかるべき所定のformを満足しているか?"
−"確認可能なデジタル署名がされているか?"
 
を自動的に、チェックすることになっています。
 
 つまり、Boleroのシステム自体が、有効な"Public Key certificate"によって、メッセージの"デジタル署名"をチェックし、発信者のidentityの確認及び改竄が無いことの確認をした上で、Bolero自身のデジタル署名を付して、受信者に転送する形を取っています。
従って、BoleroのUserは、Bolero自身のデジタル署名をチェックをして、Boleroからのメッセージか否かを確認してから、メッセージの中身を確認することになります。
 
(2) メッセージが不達の場合や誤配された場合、どうなるのか?
 
 システム(Core Message Platform)が、受け取ったメッセージのform及びデジタル署名を確認し、問題が無ければ、システムから発信者に、"Acknowledge of Receipt"が送付されることになっており、また、発信者が要求すれば、システムから受信者に送付され、受信者から"Acknowledge of Receipt"がシステムに送付された段階で、システムから"Notification of Delivery"を貰えることにもなっています。
 また、一定の期間の間に、受信者から"Acknowledge of Receipt"が来ない場合には、システムから"Failure Notification"が発信者に送信されます。
 
(3) コンピューターの誤操作(表示の錯誤)が生じた場合、どうなるのか?
 
  デジタル署名されたメッセージに就いては、発信者が無過失責任を負うことになる様ですので、前述(脚注2)した様な「錯誤による無効」の主張は極めて困難になることでしょう。
 
(4) どうやって、メッセージの真正性や原本性を保証するのか?
 
 一般に、電子商取引の安全な発展の為には、「メッセージが何時発信されたか」、「本当に相手方に受信されたか」等が確認出来る必要が有ることに加え、(文書に基づき取引がなされ、その文書が保存される場合と比し、)メッセージ内容の改竄が容易な為、送信過程及び保存過程で改竄や変質が起らない様にする必要が有ります。その為、「いつ、誰が、誰に対して、どの様な内容のメッセージを送付したか」を記録・保存する為の「登録機関」が必要とされています。
 
Boleroの場合、デジタル署名を確認することにより、デジタル署名されたメッセージが、デジタル署名がなされた後、確認迄の間に変更されたか否かをチェック出来ることは前述した通りです。
 
 加えて、システムを経由して取り交わされる電子データーのBoleroのシステムを利用した保存が可能であり、必要な場合、利用出来る形になっています。
 
(5) どうやって、秘匿性を確保するのか?
 
 発信者が、"受信者"のPublic Keyを使ってメッセージを暗号化してから、送信すれば良い訳です。メッセージを復号化できるのは、受信者のPrivate Keyだけですから、受信者以外の者に平文を読まれる虞は有りません。受信者は、自分のPrivate Keyを使って、復号化することになります。
 
(6) 従来の紙の契約と同様の法的保護が受けられる様に出来るのか?
 
 電子船荷証券は、法律上は、船荷証券に該当するとは認められませんので、"関係者間の契約の効果として、出来るだけ紙の船荷証券と同様の機能を果たすことが出来る様に"、極めて周到に配慮された"Contractual Approach"を図る必要が有ります。Boleroの場合、主として"Rulebook"並びに"Operating Procedures(含、Operations Rules)"が、その利用者間のBolero Bill of Ladingを巡る権利・義務関係の枠組みを形成しています。これらの枠組みが、単にBolero Association Limitedと加入する利用者との間の契約に過ぎないものになる状態を避ける為(即ち、この様な形では、契約当事者は、当該加入者とBolero Association Limitedだけとなり、Bolero B/L利用者間では当該契約を援用出来なくなるので)利用者の加入に際し、Bolero Assiciation Limitedが、総ての利用者の代理人として行為出来る形を採り、結果として、加入者どうしがお互いに契約の当事者としてRule等を援用出来る様に配慮しています。
 
 それらの枠組みに就いて、幾つか例を揚げると、
 
− 運送人に対し、貨物の引渡請求権(及び運送契約に基く損害賠償請求権)を持つ者は、"Holder-to−order"又は"Consignee Holder"の地位を得た者のみとすることにより、権利者が、最終的には確実に一人に確定する様に配慮すると共に(Rulebook 3.6), Holderの類型として、紙の船荷証券の機能を考慮して、
"Consignee Holder", "Holder-to-order", "Pledgee Holder", "Bearer Holder"なる地位を規定し、しかも、後の2者に就いては、通常、運送契約上の権利・義務を継承しないが、必要な場合は、自分の意思でHolder-to-orderに変われることにし、質権者が質権を実行する必要がある場合の様な事態に対応出来る様にしています。
 
− 従来の紙の船荷証券の場合、白地裏書の方法があり、例えば、商売上の理由で、船荷証券の流通過程に裏書人・被裏書人として名前を出したくない場合などに利用が可能です。この点にも配慮したのか、Bolero B/Lでも、"Blank Endorse"される"Bearere Holder"なる地位を規定し、Bolero B/L上の地位の移転の連鎖の記録には、原則として記載されないことになっています。
 
− HAGUE RULESやHAGUE VISBY RULESは、当該条約の規定上、船荷証券(又は同様の権限証券)にのみ適用されるRULEです。従って、電子船荷証券には、当然には適用されません。そこで、その間題を回避する為に、次の様なruleを定めています。 (Rulebook 3.2.(4))
 
"A contract of carriage in respect of which the Carrier has created a Bolero Bill of lading shall be subject to any international convention , or national law giving effect to such international convention, which would have been compulsorily applicable if a paper bill of lading in the same terms had been issued in respect of that contract. Such international convention or national law shall be deemed incorporated into the Bolero Bill of Lading. In the event of a conflict between the provisions of any international convention or national law giving effect to such international convention and other provisions of the contract of carriage as contained in the "BBL Text", the provisions of that national law or
or that international convention shall prevail."
 
−電子商取引の法律的有効性、書面性の要求、署名の問題等に就いては、 次の様な趣旨の規定を置いて対処しようとしています。 (Rulebook2.2.2)
 
・法律上、契約上、習慣上、実務上、書面性、署名、印章の要求されるものはa Signed Messageで良い。
・a Signed Messageの内容は、あたかも手書きの署名がなされているのと同様に、当事者を拘束し、法的効果を持つ。
・書面性や署名、印章が必要な場合にも、それらの代わりに、電子的になされたという理由で、 a Signed Messageによる取引、陳述、通信の有効性に対し、異議を唱えない。
 
(7) 電子情報の仲介者の責任の問題はどうなるのか?
 
BOLERO ASSOCIATION LIMITEDとUserとの間の契約書では、詳細な免責事由が列挙されると共に、責任制限額は総額£1,000と規定されています。(但し、この責任制限額は、BAL,又は、そのemployee, agents, sub-contractorsの過失に起因する死亡や人身事故の場合には適用されないことになっています。)
 
 一方、Bolero International Limitedとの契約では、"Misdirection of a Message", "Loss of a Message", "Delay in Sending a Message"に関し、有責の場合、損害賠償の責に任ずるが、一件当たり10万ドルの責任制限を規定しています。
 
3.1.2 Boleroの仕組みによって変化する諸点:
 Boleroの法的枠組みを採用した場合、従来の紙の船荷証券の場合と比べ、関係者間の法的関係は、どのように変わるのか?筆者は、まだ詳細な分析に着手したばかりであり、しかも、紙面の制約も有りますので、極めて限られた記述になりますが、若干、例を上げて述べて見ます。
 
3.1.2.1 運送契約上の「荷主の義務」に関し、従来の荷受人ないし船荷証券所持人の立場からの大きな変化:
 
 日本法の下では、船荷証券とは、運送契約に基づく荷送人の"権利"(貨物引渡請求権など)を有価証券化したものであり、従って、船荷証券の移転に伴って移転されるのは、運送契約から生じる"荷送人の権利"のみであるとされています。その権利が、証券の裏書・譲渡などによって移転して行くという考え方です。一方、Boleroは、そのルール自体の準拠法が英国法であることに加え、
 この問題に就いての枠組みも、英国法である"Carriage of Goods by Sea Act,1992"の考え方に沿っており、全く異なった考え方をしています。即ち、"債権の譲渡"という考え方を採らず、"Novation"(契約更改)という形式を採ります。
 
以下に少し詳しく述べて見ます。(Rulebook 3.5)
 
「運送契約の更改(Novation)」
 
新しい"Holder-to-order"又は"Consignee"が指名されると、The Carrier, The Shipper、そして、(もし有れば)直前の"Holder-to-order"と新しいHolder-to-orderないしConsignee Holderの間で、次の総ての事項が合意されたことになります。
 
・運送契約の"新たな"当事者:
 
新たなHolder-to-orderないしConsignee Holderの指名を受諾した場合、又は、24時間の拒絶の為に許容された期間の終了、どちらか早い事由が有り次第、
 
"運送契約はthe Carrierと新しいHolder-to-order又はConsignee Holderとの間で
 
(a)on the terms of the contract of carriage as contained or evidenced by the BBL Text;
 
で成立する。
 従って、契約当事者が変わることになります。
 
・運送契約上の権利及び義務の継承:
 
新たな"Holder-to-order"又は"Consignee Holder"は、運送契約上の"総ての権利を取得"すると同時に、"総ての義務を引き受ける"。
 
・以前の被指名者の権利・義務の消滅:
 
直前のHolder-to-orderの権利・義務は直ちに消滅する。
 
(但し、直前のHolder-to-orderがthe Shipperの場合、その権利は消滅するが、義務は消滅しない。)
 
従って、Shipperと新しい被指名者が、重畳的に運送契約上の荷主の責任を負うことになります。
 
 この様に,"Holder-to-order"や"Consignee Holder"に指名されると、24時間以内に指名の拒絶をしない限り、被指名者が運送契約の当事者になり、運送契約上の義務を負担することなります。
 
尚、次の様な規定も用意されています。(Rulebook 5.5.2(2))
 
" If within the 24 hour period and before rejection of his Designation , the Designated Holder-to-order or Consignee Holder represents that it accepts the novation or attempts to exercise any rights to the goods , by taking delivery or commencing proceedings against the Carrier for loss of or damage to the goods or otherwise ,it shall be deemed to have accepted its designation at the time it was made for the purposes of Rules 3.5(Novation of the Contract of Carriage) Any subsequent refusal given pursuant to paragraph (1) of this Rule 3.5.2 shall be void."
 
そこで、指名拒否の権利が与えられています。指名の通知を受けてから24時間以内に拒絶する権利であり、拒絶が有った場合、恰も更改が無かったかの様に、運送契約の当事者は旧に復することになっています。
 
3.1.2.2 物権の移転や設定の為の成立要件又は第三者対抗要件としての
"占有の問題"の考え方の変化:
 
所謂「船荷証券の物権的効力」などの問題に付いて、Boleroは、どの様に対処しているでしょう?
 
− そもそも、所有権などの"物権の変動"は、多くの国で、"意思主義"の原則を採っており、我国でも、次の様に規定しています。
 
民法176条[物権変動における意思主義]
 
「物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによりて其の効力を生ず。」
 
 従って、当事者が、例えば、売買契約の中で、所有権移転の時期や条件を如何に約定しても自由であり、船荷証券の譲渡が有っても、必ずしも同時に所有権の移転が生じるものでは有りません。
 この点は、BoleroのRulebookも、同様な趣旨で、次の様に定めています。
 
" 3.10 Ownership and Contracts of Sale
 
(1) Transfer of ownership
 
If as a result of either the intention of the parties to the transaction or the effect of any applicable law , the transfer of constructive possession of the goods and/or the novation of the contract of carriage as provided for in this Rulebook have the effect of the transferring the ownership or any other proprietary interest in the goods( in addition to constructive possession thereof) ,then nothing in this Rulebook shall prevent such transfer of ownership or other proprietary interest from taking place.
 
(2) Rulebook does not effect transfer
 
Nothing in this Rulebook shall be construed as effecting the transfer by the owner of property in the goods which are subject to a contract of carriage contained in or evidenced by a Bolero Bill of Lading or other Transport Document."
 
− 一方、「物権の移転の第三者に対する対抗要件等の問題」に就いては、どうでしょうか?
 
我国の民法では、次の様に規定しています。
 
民法178条[動産物権譲渡の対抗要件一引渡し]
 
「動産に関する物権の譲渡はその動産の引渡しあるに非ざれば、之を以って第三者に対抗することを得ず。」
 
又、質権に就いても次の様な規定が有ります。
 
民法342条[質権の内容]
 
「質権者はその債権の担保として債務者又は第三者より受け取りたる物を占有し・・・・・・・・・・・・・」
 
同 344条[要物性]
 
「質権の設定は債権者にその目的物の引渡を為すに因りてその効力を生ず。」
 
同352条[対抗要件]
 
「動産質権者は、継続して質物を占有するに非ざれば、その質権を以って第三者に対抗することを得ず。」
 
 これらから明らかな様に、動産の所有権譲渡を受ける者、動産の質権者になる者などにとって、「動産の引渡し」を受けることは、自己の権利の安全確保の為に、是非とも必要なことなのです。
 
 しかし、運送中の貨物の場合、その所有権の移転や、質権の設定の為に、実際に「運送品の引渡し」を受けることは、困難です。そこで、法律は、紙の船荷証券に特別の効力を与えることで、この困難の解決を図っています。 即ち、船荷証券には、商法575条[物権的効力]が準用されます。
 
商法575条[貨物引換証−物権的効力]
 
「貨物引換証により運送品を受取ることを得べき者に貨物引渡証を引渡したるときはその引渡しは、運送品の上に行使する権利の取得につき運送品の引渡しと同一の効力を有す。」
 
 この規定の目的は、運送中に運送品の所有権を譲渡したり、運送品に質権を設定しようとする場合、上記した様に、その様な行為の相手側は、実際の運送品により、譲渡の対抗要件たる運送品の「引渡し」(民法178条)や、質権の設定が効力を持つ為の「引渡」(民法344条)、動産質の対抗要件(民法352条)である「継続占有」を受けるのは難しい為、その代わりとして、「船荷証券により運送品を受取ることを得べき者」が、"船荷証券の引渡しを受けたこと"="(運送品の上に行使する権利に付き)運送品の引渡しを受けたこと"と見做し、船荷証券を運送品の占有を移転する手段としたものです。これを、船荷証券の「物権的効力」と言います。
 
 この「占有の確保の必要性」に関し、電子船荷証券には、紙の船荷証券と異なり、これらの法律の適用が有りませんから、Boleroは、所謂「指図による占有移転」の考え方を使って、この問題に対処しています。
 
民法184条[指図による占有移転]
 
 「代理人に依りて占有を為す場合に於いて、本人がその代理人に対し、爾後第三者の為にその物を占有すべき旨を命じ、第三者之を承諾したるときは、その第三者は占有権を取得す。」
 
即ち、運送人はBolero B/L権利者の代理人として運送品を本人の為に占有しており、新たに"Holder-to-order", "Pledgee Holder", "Bearer Holder"又は"Consignee Holder"が指名された場合には、「指図による占有移転」によって、以後、運送人はその者の代理人として、その者の為に占有することになるという考え方です。
 
Boleroの規定を少し引用してみると、
 
"By creating a Bolero Bill of Lading in which it designates a Bearer Holder who is not the Shipper , the Carrier thereby acknowledges that it holds the goods described in the Bolero Bill of Lading to the order of that Bearer Holder." (Rulebook 3.3(5) )
 
"Transfer of Possession"(Rulebook 3.4(2) )
 
"The Carrier shall , upon designation of such Holder-to-order , Pledgee Holder ,Bearer Holder or Consignee Holder ,acknowledge that from that time on it holds the goods described in the Bolero Bill of Lading to the order of the new Holder-to-order , Pledgee Holder , Bearer Holder or Consignee Holder , as the case may be."
 
"Refusal by transferee"(Rulebook 3.4.(5) )
 
If any Designated Holder-to-order or Consignee Holder refuses to accept the novation of the contract of carriage in accordance with Rule 3.5.2, the Carrier shall cease to hold the goods to the order of such Designated Holder-to-order or Consignee Holder and constructive possession of the goods shall remain with the immediately preceding Holder-to-order , Bearer Holder, Pledgee Holder or , if none, to the Shipper."
 
同様の規定が、Pleadgee Holderに指名されたものが拒否した場合に就いても定められています。
 
 更に、"OPERATING PROCEDURES"4.5.2.1には、"Attornment Notice"に関する次の様な規定が有り、
 
 "Section 3.4. 1 of the Bolero Rulebook effects a transfer of constructive possession of the shipped goods whenever a User becomes a new Consignee Holder , Holder-to-order , Bearer Holder, or Pledgee Holder."
 
 とされ、新たに指名された者に対して、確認の為に次の様なメッセージが送付されます。
 
"Attornment Notice:
 
"You have been Designated as the Holder of this Bolero Bill of Lading in accordance with the Bolero Rulebook. By virtue of your capacity as Holder of this Bolero Bill of Lading , in addition to your Designation as a To Order Party, Consignee , Bearer or Pledgee, we(Bolero International) acting on behalf of the Originator of this Bolero Bill of Lading(the Carrier) , confirm that the goods are now held to your order."
 
− 尚、日本法の下で考えると、上記条文(民法184条)から明らかな様に、紙の船荷証券の場合には考える必要の無かった、"新たな二つの行為"が必要となります。
 
即ち、
 
・元のBolero B/L権利者から、運送人に対して、
 
「爾後、新たな被指名者の為に占有すべし」との"指示"。
 
・新たな被指名者から、「指図による占有移転」に対する"承諾"
 
この"新たに必要となる二つの行為"に付いて、Boleroはどの様に処理しているでしょうか?
「占有移転の指図」に対する"acknowledge"や、その"拒絶の通知の受領"に関しては、Bolero Internationalが"運送人のagent"に指名されており,従って、Boleroのシステムがそれらを受領した時点で、Carrierが受領した結果となる様に規定されています。(Rulebook 3.4.2)
 一方、被指名者の"承諾"に就いては、特に明記されていません。英国法の影響がここでも出ている様に思われます。
 
3.1.2.3 (準)文言証券性の問題:
 日本法を例に取ると、船荷証券の場合、国際海上物品運送法9条に次の様な規定が有ます。つまり、船荷証券所持人が、券面記載の事実に関して善意である限り、運送人は記載事実が真実と異なるとの主張は出来ないことになっています。
 
国際海上物品運送法9条(船荷証券の不実記載)
 
 「運送人は、船荷証券の記載が事実と異なることをもって善意の船荷証券所持人に対抗することが出来ない。」
 
 すなわち、ここでは、単に「船荷証券の記載」と述べるだけで、特に項目を限定していません。
 
 一方、Boleroの場合は、次の様な規定が見受けられます。
 
"Statements Relating to Goods Received:(Rulebook 3.1 (3))
 
Without prejudice to the generality of section 2.2.2,any statement a Carrier makes as to the leading marks, number, quantity, weight, or apparent order and condition of the goods in the BBL Text will be binding on the Carrier to the same extent and in the same circumstances as if the statement had been contained in a paper bill of lading."
 
 つまり、この規定で明記している項目は、" leading marks" , "number" , "quantity" ,"weight" , "apparent order and condition of the goods"に限られています。
 
 これは、Hague Visby Ruleの当該部分をそのまま摂取したU.K.COGSAの規定に沿ったものだと思われますが、我国法律の上記規定との差異が影響してくるケースも十分に考えられます。
 
3.1.2.4 記名式の場合の譲渡性の否定:
 紙の船荷証券の場合、日本法の下では、次の規定が準用されており、記名式で発行された船荷証券でも、反対の文言が無い限り、「法律上当然の指図証券」として裏書譲渡が可能です。
 
商法574条[法律上当然の指図証券性]
 
 「貨物引換証は記名式なるときといえども裏書に依りて之を譲渡することを得。但し、貨物引換証に裏書を禁ずる旨を記載したるときはこの限りに在らず。」
 
一方、Boleroのルールは、Consigneeが指定された場合、Boler B/Lは、"non-transferable"となることになっています。
 
3.1.2.5 紙の船荷証券が無くなることに伴う荷渡の際の危険の増大:
 電子船荷証券の持つ、MIS-DELIVERYの危険性に関しては、P&I CLUBからも、度々注意喚起が行われています。電子船荷証券は、電子的に引渡され、荷渡しの現場には物理的には存在しませんので、実際に貨物の引渡を受けに来た者が、本当に電子船荷証券上の正当な貨物引渡請求権を有する者(又はその代理人)かどうかの確認に特段の注意を払う必要が有るというのです。
 MIS-DELIVERYの結果、運送人が真の権利者に対して、賠償責任を負うことになる事態を心配しての警告です。MIS-DELIVERYが有った場合、運送人が無過失責任を負うことが明らかな国も有りますから、運送人にとっては、非常に深刻な問題です。
 
− 紙の船荷証券が発行され、それが差し入れられて、それと交換に紙の荷渡指図書が発行され、又それと交換に貨物が引き渡される様な形態の下では、実際上、MIS-DELIVERYはまず発生しません。何故なら、紙の船荷証券の場合、次の様な制度の適用が有るからです。
 
(a)船荷証券と「指図債権の債務者の保護」の制度:
 
 紙の船荷証券が差し入れられ、交換に紙の荷渡指図書が交付される場合でも、当該船荷証券を持ち込んだ者が、真の権利者であるか否かに就いて確認を要することになりますが、この場合、「指図債権の債務者の保護」の制度が働き、この確認は、実際上、裏書の連続性の確認さえすれば済むことになります。
 
民法470条[指図債権の債務者の保護]
 
 「指図債権の債務者は、その証書の所持人及びその署名、捺印の真偽を調査する権利を有するもその義務を負うことなし。但、債務者に悪意又は重大なる過失あるときはその弁済は無効とす。」
 
 (b)紙の荷渡指図書と交換に貨物が引き渡される際にも、荷渡指図書を持ち込んだ者が、実際の権利者か否かという問題が存在しますが、荷渡指図書は、「免責証券」とされていますので、ここでもMIS-DELIVERYに伴う運送人の責任という問題はまず発生しません。
 
 この様な「指図債権の債務者の保護の制度」により、運送人は、権利者の確認に過大な時間を要すること無く、大量の貨物を迅速に処理することが可能となっています。
 
− 一方、上記の様な紙の船荷証券の場合に対し、電子船荷証券の場合、貨物荷渡しの場に存在するのは、パソコンの画面に現れた「現在の権利者=Aさん」という電子情報のみですので、貨物を受け取りに来た者(例えばトラックの運転手)が、Aさん(ないしその代理人)であるか否かの確認に非常に注意を要することになります。
 
 この点に就いては、Boleroは何らの手も打たず、次の様に仕組みの外に排除しています。(OPERATING PROCEDURES 4.4.6)
 
"In general though, the Carrier will want to satisfy itself that it is delivering to the current party. The Borelo Rulebook does not prescribe the steps that the Carrier and Surrendering User should follow to that end."
 
"A message or exchange of Message can then confirm delivery arrangements, which may have been previously agreed in the Carrier's terms and conditions. For example , the carrier could send a Message after surrender informing the Surrendering user where when the goods will be available, reviewing requirements for in-person identification(such as identification document and/or shared secret), and setting out other instructions on how to obtain a delivery order."
 
 しかし、運送人は、大量の貨物を運送し、しかも常に迅速なdeliveryの要求に晒されていますので、時間を要する煩雑な手続きを採用することは事実上不可能です。加えて、delivery手続きにおいても、paperless化の要求は時代の趨勢となっています。従って、貨物を取りに来たトラック運転手が、本当に権利者の代理か否かの確認は極めて難しくなっています。通関手続などを含めて、多くの場面で貨物の情報が電子化され、それだけ第三者が貨物情報を入手する可能性が高まっていますから、悪意の者に貨物を詐取されるリスクは、運送人にとって非常に深刻な問題です。
 
3.1.2.6 Bolero B/Lの「紙の船荷証券への変更」と、その引渡しの際の危険の増大:
 Bolero B/Lが、紙の船荷証券に変更される場合も、非常に注意を要します。Bolero B/Lの最後の権利者の指示に従って、紙の船荷証券を作成し、間違い無く指示された者にそれを引き渡す必要が有りますが、この場合も存在するのはパソコンの画面に現れた「Aさん」という電子情報のみであり、しかも、多くの場合、その権利者は、運送人にとって未知の、且つ、遠隔地にいる方でしょうから、その方の特定には非常に慎重を期す必要が有ります。
 運送人にとっては、上記した荷渡の場合と同様の危険が伴うことになります。
 
 尚、関係者がBoleroの利用者でなくなった場合にも、当然紙の船荷証券への転換が起り得ます。
 
3.1.2.7 傭船中の本船に貨物を積載する場合、原船主(或いは裸傭船者)が、Boleroの利用者で無い限り、船主船荷証券の形式でのBolero B/Lの発行は出来なくなる。:
 
 或る船社が,紙の船荷証券の発行を物理的に行う場合でも、必ずしもその船社自身が、当該船荷証券上の運送契約における運送人とは限ません。 海運業に於いては、自己の所有船舶で運送する外に、定期傭船・航海傭船等の傭船契約により傭船した他人の船舶を使用して運送することも多いのですが、
 
−船荷証券は、元来、船長が署名し、船主が運送人になる「船主船荷証券」が原形であり(例えば「商法の船荷証券」は、このような船主船荷証券を前提にしています。)、
−また、元来、定期傭船契約の契約書式は、船主船荷証券を前提として作成されていますので、
 
或る船社が、船荷証券を物理的に発行するといっても、傭船した船舶に関する船荷証券の場合、傭船契約の規定に従い、単に船主の"AGENT"として、船主が運送人となる船主船荷証券を発行する場合も多いのが現状です。しかし、Bolero B/Lを要求された場合、船主がBoleroのUserで無い限り、船主船荷証券に相当するBolero B/Lの発行は不可能なことは言うまでも有りません。
 
3.1.2.8 電子船荷証券に起因する「運送契約上のリスク"以外"のリスク」:
 Bolero B/Lという一種の電子船荷証券を利用する以上、従来の紙の船荷証券では考えられなかった種類の"「運送契約上のリスク」以外の新たなリスク"に備える必要が生じます。新たなリスクに対し、新たな保険の手配などが必要になりますが、リスクの分析も、保険の手配も未だ十分には検討されていないのが現状です。
 この点に就いて、国際P&Iグループは、ペーパーレストレーディング(BOLERO PROJECT等)に関し、以下の様な対応を取っています。
 
1 1999年1月
 
(a)保険契約に「ペーパーレス トレードに関する特別規約」を作成し、1999年保険年度より適用することとしました。
この特別規約の内容は、次の様なものです。
 ・BOLEROの様な書類を取り交わさない貿易システムの下で生ずる責任について、原則として、これをカバーから除外する。
 ・但し、従来の様な書類に基づく船積みが行われていても生じたであろう責任に就いては、クラブのカバーを受けることが出来る。
 
(b)加えて、組合員に対し、次の様な注意喚起がなされました。
 書類を取り交わさない貿易取引システムへの参加は、PI保険の範疇でない新たな責任(例えば、守秘義務やコンピュター・リンクの維持義務等)に晒されるおそれが有り、これらの責任は、PIの提供するカバーの対象外であるので、別途特別な保険の手配が必要となる。
 
2 ついで、1999年10月、次の様な趣旨の特別回報が出されました。
 
(a)BOLEROの利用者が、従来の様に書類を取り交わす場合には生じなかったであろう船主責任(P&I LIABILITIES)を負うリスクは依然として残っており、しかも、その様な責任がBOLERO側の過失により引き起こされた場合でも、BOLEROに対する求償は、契約上、一事故又は一連の事故あたり10万ドルに制限されている。
 
(b)国際P&Iグループでは、これらの、通常のP&I保険カバーから除外される船主責任部分に対する保険を、保険市場から手配しており、組合員の利用が可能である。(限度額:一事故あたり5,000万ドル)
 
(c)但し、この保険は、電子商取引に参加したことに起因する
 "海事責任とは言えない責任"は対象としておらず、従って例えば、守秘義務違反やコンピューター・リンク維持義務違反等を巡る責任は対象外となるので、(運送人が個別に)別途保険を手配することが必要である。
 
3.1.2.9 譲渡担保が質権に変わることによる変化:
 日本の金融機関では、貿易金融の担保として紙の船荷証券を確保して、貨物の担保価値を支配下に置いておく行為を、「譲渡担保」であると理論構成していると聞きます。一方、Bolero B/Lの場合、Pleadge、即ち「質権」を採っています。
 
 この問題に就いては、過去のJASTPRO報告書において、金融機関出身の委員から「輸入者が倒産した場合、輸入者が販売した先に対して持つ代金回収に関し銀行が代理受容できるか?」などの観点から更なる検討が必要との意見が出されていましたが、その後の議論に就いて大いに興味が有るところです。
以上
(早坂 剛)








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