2. 電子商取引の為のUser−friendlyな情報提供の必要性:
たとえ、既に専門家の間では論じ尽くされた感の有る課題であっても、一般には未だに疑念を持って見られていることが意外に多いものです。従って、それらの課題を分り易く整理する必要が有ります。
2.1 電子商取引に伴う主要な法的課題:
電子商取引に関し、一般に、疑念や不安を起こさせる主要な点の例を挙げれば、 次の様なものになるのではないでしょうか?
(1) どうやって、正しい取引相手かどうか確認するのか?
電子取引は、言わば「遠隔者間の取引」であり、非対面行為であるため、取引相手が正しい相手であるか否か互いに確認することが必要です。
(2) メッセージが不達の場合や誤配された場合、どうなるのか?
自分の発信したメッセージが、本当に相手に到達したのかに就いての不安は、E.Mail利用者などの間でも極めて一般的です。
(3) コンピューターの誤操作(表示の錯誤)が生じた場合、どうなるのか?
昨今よく、コンピューターの誤操作によって大きな損害が発生した事件が報道されますので、不安の一因になっています。
(4) どうやって、メッセージの真正性や原本性を保証するのか?
データーが電子化されているため、なんらかの工夫をしないと変更・消去・偽造の痕跡が残らず、又、原本/複製の区別が困難であるため、データーの真正性を保証することが必要であること、言い換えれば、電子文書の真正性の保障やその保存、内容の証明は、どうすれば良いのかが重大な関心事になります。
(5) どうやって、秘匿性を確保するのか?
取引に関するやりとりの中には、他者に知られたくない情報も当然含まれるでしょうし、特にオープン・ネットで行う場合など、電子データーが傍受されたりする可能性も高いので、秘匿性を確保する必要が有ります。
(6) 従来の紙の契約と同様の法的保護が受けられる様に出来るのか?
従来の紙に基く契約と同一の法的保護が期待出来るのか?出来ないとしたら、何処がどう変わるのかは極めて重要な問題であり、分かり易い、明確な回答が要求されます。
(7) 電子情報の仲介者の責任の問題はどうなるのか?
電子商取引の場合、必ず何らかのSERVCE PROVIDERのSERVICEを受けるでしょうから、それらの者(含、所謂「認証機関」や「登録機関」等)のせいで損害が生じた場合、如何なる賠償請求が可能なのかも重大な問題です。
などと言えるでしょう。
では、これらの一般的な課題・疑問に就いての対応は進んでいるのでしょか?
2.2 電子商取引の基盤整備のための国連や我国における取り組み:
上述した様な課題に就いて、不安や障害を取り除き、法的な確実性と安全性を整備する為に、国際機関や各国政府が、各種の取り組みを行っています。
2.2.1 国連による取り組み:
国連では、1996年に採択された国連国際商取引法委員会(UNTITRAL)の
「電子商取引モデル法」や昨年採択された「電子署名の法的効果に関するモデル法」、また、国連ECE勧告第26号「電子データー交換の国際的使用のためのモデル交換協定書」、国連ECE勧告第31号「電子商取引協定書」、国連ECE勧告第32号「電子商取引のための行動規範」の採択などの努力が続いています。
しかし、現実に国際取引の場で広範に適用される様な法体制が整備される迄には時間がかかることから、「電子商取引を実施するために"Contractual Approach"モデルを勧告する。」ことが中心となっています。
2.2.2 我国による取り組み:
我国でも、電子情報の交換に対する法的基盤を整備する為に各種の立法努力がなされ、"電子署名の円滑な利用の確保による情報の電磁的方式による流通及び情報処理や特定認証業務の促進を図る"ため「電子署名及び認証業務に関する法律」が施行され、"電子署名に関し、電磁的記録の真正な成立の推定"や"特定認証業務に関する認定の制度"などが定められました。
また、「商業登記法等の一部を改正する法律」により、登記官が、法人代表者の電子署名を証明する「電子認証制度」及び公証人が、コンピューターを用いて電子的な方法により電子私署証書の認証や確定日付の付与などを行う「電子公証制度」が創設されました。
「商業登記法等の一部を改正する法律」の施行に伴い、電子認証登記所が指定され、電子取引の安全と円滑を図る為に、従来の法人代表者の「印鑑証明書」や「資格証明書」に代わる電子的な証明書として、「電子証明書」を発行するものであり、電子認証登記所が発行する「電子証明書」は、電子文書の送信を受けた者が、その作成者(電子署名を行った者)とともに法人の代表権限などを確認するために必要な事項を証明することになっています。
指定公証人は、嘱託人が電磁的記録に電子署名をしたときまたは電子署名をしたことを自認したときは、当該記録に認証を与え、また、認証を受けた電磁記録を保存し、その内容に関する証明を行います。
電子署名や電子認証は、主として情報の作成者の確認の為のものですが、電子公証は、情報内容の改竄や消失に備え、情報内容を事後的に確認し、証明する為の仕組でもあり、電子私署証書の認証、電子確定日付の付与、保存及び内容に関する証明などを行います。
2.3 "Contractual Approach"の必要性と難解さ:
しかし、いずれにしても、紙の取引における程、広範な法的基盤を提供している訳ではなく、言わば発展途上の状態であり、、"技術的側面"及び"法的側面"共に"contractual Approach"に頼らざるをえないのが現実です。そのため、電子商取引に関する契約書の内容は、技術的側面、法的側面双方に係わる事項に及ぶ為、素人には極めて専門的且つ難解に見えることになります。
従って、上述した様に、如何なる課題が存在し、その課題には如何なる対応策(Contractual Approach)が有り、その各対応策の結果、紙の取引と如何なる差異が生じるかを出来るだけ整理し、分かり易い解説を提供する必要性は高いと言えます。
その意味で、船荷証券の電子化をめぐって長い間重ねられて来た考察の一つの成果であるBoleroのContractual Approachのスキーム等を参考にすることが、商取引一般の電子化に係わる課題の理解の為にも、効果的ではないかと思われます。