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9. 政府に対して望むこと。(官民双方での推進)
本章も、TEDIを事例として考えてみます。TEDIは、前述のとおり、政府である通産省(現・経済産業省)の補正事業として、スタートしたものです。その政府主導の事業として、システムの開発及び実地検証を実施するプロジェクトがその概要です。では、なぜ政府がこのプロジェクトを主導することとなったか、というと、言うまでもなく、貿易立国たる日本の国際競争力の向上を目指す、という方針のもと、インフラとしての貿易取引電子化は必須という点に帰結するものだからです。そう言う点では、元来、貿易取引電子化は政府の指導性が要求されるインフラ構築整備という公的性格が非常に強いものといえましょう。では、さらにいくつかの点に着目して、官と民との関係の観点から、さらに説明を加えていきます。
9.1 官民一体
貿易取引の電子化というのが、貿易インフラ基盤という公的性格が強いという一般的性格を有しています。特に、貿易立国を標榜するアジア諸国に共通する国策方針となっている点があるように、官と民とのコラボレーションが常に関連をもっていると言えるでしょう。官と民との関連の仕方に各国事情により、様々なレベルがあるでしょうが、官民の一体的行動がないと、普及促進が順調に行かないことは多分自明ではないか、と考えます。
9.2 官と民との役割・機能分担
貿易取引電子化の普及促進には、官民一体と必要というわけですが、但し、そこには、官と民とのあきらかな役割や機能の分担がある、と考えられます。その観点に立ち、官、すなわち政府に担って頂きたい役割をみてみたいと思います。
 
まず、明らかにしておくべき前提として、民間企業が本来の商取引の主体となり、電子化について積極的に推進する、という役割を十分に演じる必要があることは言うまでもありません。その前提のもとで、著者の私見に基づき、官側にて演じて頂きたい役割について、述べさせて頂きたいと思います。
 
9.2.1 政府の方針、及び、グランドデザイン立案
まず、国レベルで貿易をどのように捉えるのか、がまず第一の出発点でしょう。政府の一連の方針表明からも明らかなように、我が国の貿易立国たる基盤は不変と言えます。その国としての大方針に沿って、さらにグランドデザインを描き、広く民間に具体的イメージを表明することが、重要なポイントと思われます。貿易取引電子化についても、電子立国、e-Japan構想のもとで、基本的かつ具体的なグランドデザインが必要ではないかと思います。これにより、貿易に携わる者として、日本の将来がどのようになるのか、が認識でき、より詳細にわたる施策が検討できるものです。このグランドデザイン作りには、もちろん、民間からの声を反映させることが必要でしょう。しかし、それらの声を反映し、描ききる、そして決定し、民間に表明するのは、国家方針のもとでの、政府に行うべきものではないか、と考えます。
 
9.2.2 対政府書手続きの電子化促進
上記のもとで、電子化を具体的に策定、推進するのは、民間の役割としても、一連の貿易手続き処理の中で、輸出入許可申請や通関手続き等、政府の許認可を要する手続きがあるのが実態です。この対政府手続きに関しては、現在書面主体に処理なされているものを、すみやかにレスペーパー化、電子化されることが切望されています。もちろん、電子化環境整備や法制整備の課題があることは十分承知しています。しかし、この対政府手続きの部分が電子化されない限り、貿易の一連の業務処理を電子化することによる全体最適の効率化が果たされなくなります。そして、全体の電子化が図れないと、民間ユーザーは電子化利用のメリットを感じなくなり、普及もされないという状況になります。この課題の解決を政府は是非とも、早期に実現して頂きたいと切に思います。
 
また、手続きを電子化する、ということは、単に紙を電子データに代えればよいものではなく、手続きそのものを電子化に合わせてBPRが必要なこと言うまでもありません。そのBPRにまで、政府として検討の上、電子化を促進して頂きたいと思います。
 
9.2.3 民間の電子化促進に対する支援
最後に、まさに前提となる電子化促進について、民間主体で行うべき、という点についての部分ながら、政府のご支援をお願いしたい、ということです。まず、民間主体の貿易取引電子化を進める際に、前記の対政府手続き処理のシステムとの接続が必須となるわけで、その際には、官側のシステムのインターフェイス仕様を公開して頂く必要がある、ということです。
 
さらに、貿易取引電子化の全体フローの中でのデータトレース機能が求められます。その中で、JETRAS、NACCS等の各システムからのデータトレースに関する情報を提供して頂く必要があります。
 
また、貿易インフラとしての普及促進の観点では、この電子化促進に関して、民間だけの主導では、一部業種、一部企業と言った狭い範囲での利用対象となりやすい側面があります。もちろん、TEDIにせよ、BOLEROにせよ、商用化したからには、極力顧客層を拡大しよう、という経営戦略はあるでしょうが、短期的にあらゆる業種の企業が導入するかは、定かではありません。むしろ、前述した課題もあり、当初は利用層が限られることが懸念されます。従い、民間で普及活動をする一方で、政府の普及促進のバックアップは是非頂きたいものです。各業界への声かけや普及支援策など、有形無形を問わず、政府にて行われる範囲のことはあろうかと思います。そして、電子化の利用促進が、結果として、貿易立国たる我が国の繁栄に繋がるものであることを官、民ともに理解することが重要と考えます。
 
また、昨今の景気動向にあるとおり、業績低迷の業種があり、余裕をなくしている企業が少なからずあるのも事実です。その故に、電子化の重要性は理解していながら、なかなか短期的にコストをかけて電子化導入が果たせないという企業事情があるわけで、そのような企業を物心両面で後押しするような政策が望まれます。








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