日本財団 図書館


5. 貿易取引電子化の仕組み(TEDI事例)
それでは、貿易取引の電子化についての、基本的な仕組みを具体的にTEDIを事例として、説明します。
 
その前に、TEDIの名称について少し説明しておきます。TEDIとは、Trade EDIの略称ですが、その中のEDIについては、よくご存知のとおり、Electronic Data Interchangeの略称です。日本語訳では、一般的な意味での、「電子データ交換」ということになります。しかし、この「EDI」なる言葉が、最近では、「インターネット利用のデータ交換」に対しての、インターネットを利用しない、専用線などの従来型の回線を利用した、「コンベンショナルなデータ交換」の意味で使用される傾向にあります。従い、TEDIにおいては、前述のとおり、インターネットを使用するタイプのデータ交換ですから、TEDIという言葉の中の「EDI」の部分も、従来型データ交換の意味を思わせる「Electronic Data Interchange」ではなく、TEDIの単語全体として、「Trade Electronic Documents by Internet」と解釈した方が良いかもしれません。もちろん、このフルネーム及び解釈は、TEDIとしての正式なものではありませんが、現在においては、より的を得ているのではないか、と思います。
5.1 ネットワーク概念図
はじめに、TEDIに関しての、関係当事者及びその繋がりの全体をしめしたネットワーク概念図の説明をします。
「5.1 ネットワーク概念図」の参照図
z1109_01.jpg
共  通  規  約
[1] インターネット:まず、真中のもやもやとした雲のような形がありますが、これはインターネットを示しています。つまり、TEDIはインターネットを利用してのEDIということです。基本的には、ユーザー企業の使用する、TEDIの機能を実装しているTC(Trade Chain)サーバー間をインターネット接続しているものです。このインターネットを利用する、ということが、従来のEDIと比較し、格段のコスト削減が可能となる、ということは、ご承知のとおりでしょう。以前には、専用線等の高コストの回線を使用せざるを得なかったものが、インターネットの急速な普及により、劇的に回線利用コストを抑えることが可能になったわけです。但し、反面において、管理主体のないインターネット利用には、リスクを伴っていたのも事実で、それに対するセキリュティ対応技術が望まれていました。それが、ようやく実用に耐えうるものにまで、進化してしてきたもので、これにより、B to Bの分野でもインターネットを利用することが可能となりました。そして、TEDIにおいても、セキュアな通信基盤をそなえ、安全・確実なデータ交換ができる仕組みを擁しています。具体的には、WEBクライアントからTCサーバーのまでは、SSL128を利用し、TCサーバー間は、TEDI開発のセキュア通信基盤を利用して、セキュリティ確保を実現しています。
 
[2] ユーザー企業;利用者の各企業が、下の方に並んでいます。当面の利用者としては、貿易に携わるそれぞれの業種であり、具体的には、荷主、銀行、運輸業者(通関業者、船社を含む)、保険会社といった各業種別業者となります。これらの利用者企業間にてインターネットを介して、電子化された貿易ドキュメントが行き来しあう、というのがTEDIの基本機能です。そして、重要なのは、これまでのEDIのように、従来手続きの紙面がある一方で、並行して各書面の情報データが授受されるのではなくて、完全に従来の書面が電子データに置き換わる、ということを目的としている点です。
 
[3] 海外ユーザー:国を越えた貿易での電子データ交換なので、海外企業も利用者となります。TEDIのような貿易取引全体の電子化を目的とした場合に、海外企業までその仕組みに参加してもらい、真にENDtoENDでデータを有効に連携され、活用されてこそ最大の利便性が発揮されることになります。そのためには、事例でのTEDIも海外企業のひとつひとつが参加する必要があります。
 
これは、確かにTEDI普及の課題となるポイントです。一方、海外においては、すでに多数のユーザー企業を抱えているネットワークが存在するところがあります。アジアのいくつかの国は既に国内ネットワークが普及していて、そのネットワーク傘下に多くの企業がユーザーとして接続されています。事例としてのTEDIも、このような海外ネットワークと連携を結ぶことにより、TEDIと繋がる海外ユーザーが一挙に増加することになります。結果として、本邦でTEDIを利用するユーザーは多くの海外企業と連携ができ、それだけ、利便性が増し、TEDI利用のメリットの恩恵を受けることになるわけです。従い、TEDIは今後、海外ネットワークと積極的に連携することを目指しています。
 
貿易取引の手続きの中には、政府機関への申請・申告手続きがあります。
[4]JETRAS:
[5]NACCS:
輸出入許可申請処理のJETRAS1、及び、通関申告処理のNACCS2とも、それぞれにはシステム化が現在稼動しています。但し、それぞれが独立したシステムで動いており、相互に連携していない、また、民間のネットワークとも繋がっていないことが現時点での実用性、利便性での課題となっています。それら官側のシステムとも連携を進める、というのがTEDIの方針となっています。元来、別個の独立した仕組みとしてシステム化されたもの同士を連携させるというのは、技術的、及び業務的な側面で、差異あるものをいかにスムーズに連結させるか、という点について、確かに調整の困難な課題もあります。しかし、電子化普及のためには、ユーザーの実用性、利便性を求める声には対応すべきであり、そのためには、各システムが真に仕様公開等の検討に対しては、OPENかつ柔軟な姿勢を持って、課題打開にあたることが肝要と考えます。従い、今後の各システムの管轄関係先の調整ミーティングが早期に開催され、具体的な課題検討、促進スケジュールの提示が期待されます。
1 JETRAS: Japan Electronic open network TRA de control System
2 Nippon Automated Cargo Clearance System
 
また、TEDIの機能を享受するユーザーではないが、TEDIの関係当事者として関わる機関が存在します。これらの機関は、TEDIを安全・確実に回していくための必要機関とご理解下さい。以下、具体的に説明します。
 
[6] 認証機関(CA3):認証機関は、電子署名の登録、証明書発行を行います。これにより、電子化された文書データの改ざん、成りすまし防止することを実現しています。これは、TEDIに限らず、E−BUSINESSの分野では、今後必須となる機能です。TEDIでの証明書形式は、国際規格である、X.509 VER.3を採用しています。そして、TEDIにおいては、この規格にさえ合致していれば、いずれのCAの証明書でも使用可能であることを基本コンセプトとしています。そのための、CA相互認証等の仕組み実現の検討を進めています。
3 CA: Certification Authority
 
[7] 登録機関(RSP4):いわゆる貨物の権利について、現在誰が持っており、次に誰に移転させる、といった、貨物権限移転管理を、ニュートラルな立場で管理する機関として、必要なものがRSPです。これは、紙のB/Lがもっていた機能をしっかり電子的に代替させよう、という積極的意味をもたせて、その仕組みを考えたものです。詳細の法的解釈は省略しますが、ともかくも、現実的なビジネスに対処しうる仕組みができるようになったことは、非常に画期的なこと言えましょう。今後、法的及び業務的側面での検討を進め、さらなるユーザーの実用性の向上をめざすことになりましょう。
4 RSP: Repository Service Provider
 
[8] ASIA税関:これもTEDIの直接のユーザーということではありませんが、前述した政府の動向でふれましたが、政府として、TEDIをASIA諸国の税関ネットワークと連携させようという意図があります。具体的には、本年度経済産業省補正事業として、アジア2カ国(韓国と台湾)と連携の検証を行うことになっています。この韓国と台湾をはじめ、アジア各国では、国内ネットワークの整備が行われ、いわゆる ONE STOP SHOP 化が実現しており、ユーザーが飛躍的に伸びているところが出現しています。その部分では、日本よりIT化が進んでいる、とも言える状況になっています。従い、今こそわが国もIT立国、e−Japanに相応しい、ネットワーク化社会を構築する転機にあると、思われます。
 
以上がTEDIにおける各関係者となります。しかし、これらの関係者が正しくTEDIを利用して貿易手続き処理を行うためには、事前に関係当事者間で、共通的な規約を取り交わす必要があります。
 
[9] 共通規約:これにより、電子データ交換のやり方、約束ごと等を相互に確認しあって、その後に、初めてデータ交換を行うこととなります。これは、EDIのやり方において、国、或いは、世界的な、ひとつの普遍的法律、条約がない現状なので、これらの共通規約という縛りで、法的効果を果たそうとしているわけです。
5.2 規約/法的効果の枠組み
規約及びその法的効果については、まさに法的見解、解釈の領域に深く入り込み、弁護士や法律家の専門知識をもっての議論にまで達するものであり、貿易実務に携わる(著者を含む)多くの担当者には、なかなか容易に理解し難い部分であるのが、実態でしょう。従い、本論では、前述と同様に、TEDIを事例として、TEDIで採用している規約の基本的枠組みを、法律専門家でない(著者を含む)貿易実務担当者の理解できる範囲の説明にとどめる所存です。それ以上の法的解釈については、本年度本報告書での他のご専門家の諸説に託するものとさせて頂きます。
 
まず、TEDIでの共通規約は基本的には、以下の3つの規約で構成されています。
[1] Interchange Agreement
[2] RSP Service Agreement
[3] CA Service Agreement
 
5.2.1 Interchange Agreement
この規約は、直接データ授受を行うユーザー企業同士の間で、取り交わすデータ交換規約であり、TEDIの利用において最も基本的な規約です。直接データ授受を行うユーザー企業同士というのは、元来なんらかの実態契約が締結されているベースがあり、その実態契約に従って、従来の書面でない電子データを授受することになるわけです。従来の書面でなく、電子データを授受することに関して、合意する内容が、Interchange Agreementです。
 
そして、電子データ授受を行う二社間でのInterchange Agreementの連鎖により、Trade Chainの始点のユーザー企業から、終点のユーザー企業までが繋がり、結果として、電子データが関係者全ユーザー企業で共通に有効であることが合意されることになるわけです。これにより、始点から終点までの関係者にて電子データが有効に持ち回れる仕組みとなるものです。
 
一方、BOLEROでは、会員規約としてこれを構成しており、ユーザー企業はBOLEROの会員規約に合意し、署名すれば、結果として、他のBOLEROユーザー企業とEDI Agreementが取り交わされたと同じ効果を発揮し、全BOLEROユーザー企業とEDIが行える状況になるものです。
 
但し、現時点では、どちらの形式が法的な意味あいも含め、絶対的に優位にあると言えるものではないと解釈されます。実務業務を担当するレベルで素人的に言えば、現時点では、どちらも一長一短がある、と理解しておけばよいのではないか、と思います。(法律専門家の先生方では、種々議論が交わされつつあるようですが、これらも今後の実用していく上での実証に委ねられるところが多いのではないか、と私見では思います。)
 
5.2.2 RSP Service Agreement
これは、貨物の権現移転(本当の法律的表現では「権原移転」)や、電文授受の履歴記録管理を基本機能とする機関のRSPが、ユーザーに提供する具体的サービスを規定し、そのサービスに関する、提供者としてのRSPと、受益者としてのユーザーの責任権限等を規定しているAgreementです。本Agreementでは、前述のInterchange Agreementの共通不可欠部分を参照して、RSPを利用する全ユーザー企業を束ねる、法的効果を生んでいます。
 
貨物権限移転とは、つまり、書面のB/Lにおいて、裏書譲渡により、貨物の権利が転々流通することであり、それをRSPにて電子的に管理するものです。(TEDIでは、書面のB/Lをただ単に電子化したものではなく、厳密に言えば、書面のB/Lのもつ権限移転機能を電子的に代替したもの、との考えのもと、すでにBill of Ladingとは言いません。TEDIでは、「Shipment Information Document」と称します。)TEDIでは、貨物権限について、3つの権利を設定できるようにしています。それは、「Possessor」、「Title Holder」、そして、「Interest Holder」です。
 
Possessorは、貨物の保有者を示しています。書面のB/Lの場合の、まさに裏書譲渡人です。これは貨物の保有している人ですから、常に必ず存在するはずのものです。一方、後者の2つはそれとは異なります。まず、Title Holderは、文字通り所有権者です。保有者とは違い、要は持ち主です。そして、Interest Holderとは、所有権は有していないが、何らかの貨物に対する権利を持っている者です。具体的には、質権者や担保権者等となります。この後者2つの権利は、必要に応じて指示すればよいのです。言いかえれば、現在の書面のB/Lの裏書譲渡される権利について、国によってその解釈が異なる実態があります。従い、TEDIでは、そのB/L機能の電子化においても、極力実態に対応できるようにするため、この3つを使い分けることができるように仕組みを用意しています。
 
5.2.3 CA Service Agreement
これは、ユーザー企業が、電子署名の登録及び管理を行う機能としての、CAのサービスを受けるための内容の規約です。TEDIでは、原則としてオープンな志向をめざしており、CA機能についても、TEDI全体として、1つのみのCAではなく、複数CAに対応することをコンセプトとしています。但し、技術的な要件としては、X.509のVER.3に対応していること、というのみ条件としています。一方、現実的には、TEDIは実運用を開始したばかりの現時点において、当初はひとつのCAで実運用スタートしています。将来的にTEDIが普及していく過程において、複数CAが実現されることになると予想されます。
 
5.3 TEDI関係の諸機関、事業体
TEDIの仕組みについて、そのコンセプトに基づき、概要説明をしてきましたが、ここでは、さらに現時点でのTEDIを運営、運用していくための関係機関、事業体についての具体的な姿を説明します。
 
5.3.1 TEDI CLUB
まず、2000年8月末にて実地検証を完了し、その次段階の実運用開始に向けて、TEDIに関しての運営母体として、任意団体の資格で、2000年11月にTEDI CLUBが設立されました。このCLUBの構成企業は、それまでの実地検証に推進して企業を中心に、実地検証に参加した企業及び、今後TEDI実用に関心をもつ企業を含んでおり、従い、ユーザー団体としての性格を有しています。そして、CLUBの役割としては、TEDIの仕様、標準の管理、及び、普及活動が中心となります。それらの目的実現のため、ユーザー自身で自主運営していこう、というのがCLUBの主旨です。ちなみに、2002年1月時点で、CLUB会員は、88企業/団体/個人となっています。また、CLUBの役割に従い、4つの専門部会(規約部会、標準化部会、技術部会、普及部会)と、その上部組織として、各部会取りまとめとしての企画部会があります。さらに、CLUBの運営討議組織として、総会及び理事会があります。
 
5.3.2 RSP事業会社:(株)日本電子貿易サービス
前述したRSP機能を果たす事業会社として、(株)日本電子貿易サービスが2001年5月に設立されています。RSP機関の主要機能は、貨物権利移転管理、及び、電文授受の履歴管理ということで、その性格上、中立的、公正な立場での信頼性の高い運営が要求されます。従い、その事業会社としては、TEDIを利用するユーザーが広く出資して、いわゆる一部企業の色あいが出ないような配慮をして、TEDICLUBの基で、オールジャパン的色彩にて設立されたものです。出資形態としても、ベンダー企業が本事業会社に直接出資するのに対して、ユーザー企業は、持株会社であるテディ・ホールディングス(株)に出資する形式を採っています。これにより、RSP事業会社は、テディ・ホールディングス(株)が筆頭株主となり、ユーザー企業主導にて、運営されることを企図しています。また、同社は、前述のRSP機能の他に、実はCA機能を提供しています。本来TEDIでは、複数CAを容認していますが、実運用開始の現段階では、まず最低1つのCAが必要だったので、とりあえず、(株)日本電子貿易サービスがRSP機能と共に、CA機能を兼務しているのが現状です。
 
5.3.3 ASP事業会社:テディ・アドバンスト・ネットワーク(株)
前述しましたが、TEDI機能は基本的には、TC(Trade Chain)サーバーに搭載されており、そのTCサーバー同士の連携で、電文データが送受信される仕組みです。このTCサーバーをユーザー企業が自社内で導入、運用すれば、TEDI機能が享受できることになりますが、そのためには、サーバー等のハード、及び、TEDI機能はじめ、OSやデータベース等のソフトを購入、設定、インストール作業して実運用する労力、コストがかかります。また、実運用開始後の保守作業にも、労力、コストがかかることになるわけで、これでは、ユーザー企業はそれらの労力、コストに耐えられる一部企業のみしか、利用できないことになります。これは、もとより、政府の支援も得て開発され、広く普及されることが期待されるTEDIにとっては、相反することになります。従い、ユーザー企業の負担を極力軽減する方策として、TCサーバーを共同センター化して、そのサーバー機能をサービスとして提供する、いわゆるASP(Application Service Provider)事業体を設立させています。これが、テディ・アドバンスト・ネットワーク(株)で、2001年8月に設立されました。
これにより、TEDIを利用しようとするユーザー企業は、インターネット接続可能なパソコンがあるだけで、サービスを享受することが可能となります。そして、ユーザー企業が自社内システムとTEDIを連携させようとする場合に、そのインターフェイスの仕組み、機能を提供することも、同社のサービスのひとつとなっています。また、同社は、ユーザー企業が取り交わすTEDIの各種共通規約を一手に受け付ける窓口として、ユーザー企業に利便性あるサービスを提供しています。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION