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IV. 貿易取引電子化の最新動向
貿易取引に関しての電子化は、その業界の内外の声として、相当に以前から要望されていながら、結果としては、その実現にはかなりの年月を経てきており、現時点ではまだ全体的な汎用性ある仕組みが普及段階には至っていない、というのが実態です。貿易取引電子化が必ずしも過去順風満帆に普及していない、というのは、それなりに原因、事由があり、その上に立って、現在から今後の発展、普及を考えてみる必要があるわけですが、間違いなく言えることは、現代社会をとりまく電子化の動きは、もはやメガトレンドとして、また、時代の要請として、避け難いものであることをまず前提として認識することが重要ではないか、と思います。内外の各分野、業界での、いわゆるIT化の潮流は、まちがいなく、この貿易業界に降り注いで来ています。その中で、今まで時間はかかりましたが、ともかくも実用を目的とした貿易手続電子化の仕組みが出現してきました。代表的には、欧州から発したBOLEROと、日本発のTEDIがその実現形と言えます。ここでは、その中のTEDIをひとつの事例として、貿易取引電子化の最新の動向について、可能な限り、平易に且つ具体的に説明していきたいと思います。
1. 貿易取引電子化を取り巻く背景と動向
貿易関連の手続きを電子化するということは、単に民間の輸出入の当事者同士で、勝手に決めて実施できるか、というと、そうではなく、具体的には、通関や許認可、そして、海外での公的な機関の手続きがあり、結局、政府や省庁の電子化の方針や国際的な制度の動向に左右されざるを得ない面があります。
 
また、ユーザーも、そのような政府や海外事情で電子化を確実に容認できる環境整備がなされていないと、安心して電子化に進めない立場にあります。そして、法制上の制約も解消してもらわねば、なりません。従来、ともすると、公的機関、国際機関の対応の動きが遅く、そのような環境整備が遅れ勝ちな面が残念ながら、あったと思います。が、このところの政府の動き、海外の動向を見ますと、電子化促進の施策、提言が次々と提起されている実態が理解できます。
1.1 日本政府
1.1.1 総合物流施策大綱
平成9年4月に総合物流施策大綱が閣議決定されました。これが、現在の流れに繋がる「貿易関連手続のペーパーレス化の実現」に関する基本政策の旗揚げでありました。それは電子商取引促進のための、システム構築、標準化、及び、ワンストップショップ化の実現を目指す、とうたっているのが注目されます。(下線は筆者)
 
総合物流施策大綱(平成9年4月4日 閣 議 決 定)
第2 横断的な課題への対応
(3) 物流システムの高度化
 社会資本等の整備及び規制緩和の推進に加え、国及び地方公共団体は、次のとおり、情報化、標準化、技術開発及び商慣行改善といった物流システムの高度化に資する施策により、民間事業者の物流高度化への取組みを促す。
(情報化の推進)
[1] 近年の情報通信技術の革新によって、情報の瞬時の伝達、広範な共有及び大量の情報の保管・処理が可能になり、経済活動全般にわたり情報化が進展し、電子商取引が普及し始めている。物流効率化を進めるには、在庫管理、受発注、ピッキング、仕分、集荷、配送、検品、店頭管理などの業務全般においてこうした技術を有効に活用して、情報化に対応していくことが不可欠である。このため、システムの相互運用性・相互接続性を確保して、関係者間の情報の伝達及び共有をできる限り円滑化して、情報化による便益をより広範に享受できるようにしていくことを基本とする。
 具体的には、物流分野の電子商取引を推進していくため、必要なソフトウェア開発、実証実験及び商取引データに関するシンタックス(電子データ交換(EDI)の構文)、メッセージ(EDIのデータ項目)等ビジネスプロトコル(EDIに使われるデータ項目について名称、属性、内容、桁数等を定めた定義集)の標準化を行う。
 中でも、国内陸上貨物取引及び輸送・保管の分野において、複数の端末機の設置等による重複投資、重複入力といった問題を解決しつつ、同業種間のみならず異業種間の企業においても効率的な情報交換を可能にするため、荷主と陸上運送事業者等との間の電子計算機の連携利用に関する指針を平成9年夏までに策定して、EDIの導入を進める。さらに、陸上貨物輸送分野で利用されている物流EDI標準メッセージの利用分野を拡大させて、倉庫分野の標準メッセージの作成及び中小企業向けソフトウェアの開発を促す。
 また、国及び地方公共団体が輸出入、出入港等の行政手続において率先しで情報化によるペーパーレス化及びワンストップサービスの実現に取組む。
 
1.1.2 ミレニアムプロジェクト
平成11年12月に「ミレニアムプロジェクトについて」という総理大臣決定がなされました。いわゆる「電子政府の実現」を約束したものです。それをインターネットで行う、というのが、やはり注目すべきでしょう。
 
ミレニアム・プロジェクト(新しい千年紀プロジェクト)の基本的な枠組みと構築方針について(平成11年10月19日 内閣総理大臣決定)
 
II 各分野のプロジェクトのテーマ
(2) 電子政府の実現
2003年度までに、民間から政府、政府から民間への行政手続をインターネットを利用しペーパーレスで行える電子政府の基盤を構築する。
 
【プロジェクトの概要】
民間から政府、政府から民間への行政手続の完全電子化実現のための共通基盤(政府認証基盤、標準的システム、セキュリティーなど)の構築。
インターネット等のネットワークを利用した政府へのペーパーレス申請の先導的システムを実施。
国の施策との関連において必要な実証実験を行い、地方公共団体の取り組みを先導。
 
【プロジェクトの構築方針】
各省庁横断的な制度基盤・技術基盤の構築を中心とするとともに、各省庁のシステム整備のうち、民間とのインターフェイスとなる部分について特段の配慮を行う。技術開発については、必要不可欠なものに限る。システム整備に当たっては、行政の効率化、国と地方との役割分担にも十分配意し真に必要なものかどうかを精査すること。
 
1.1.3 e−Japan重点計画
e−Japan重点計画の中で日本の貿易の電子化に関する部分を抜粋して説明します。
 
1.1.3.1 申請・届出等手続の電子化(ワンストップショップ化)
通関情報システムであるMCCSと、港湾EDIシステムとの連携、そして、同じくNACCSと輸出入許可承認システムであるJETRASとの連携を、という既存の個別開発のシステム同士を結ぶことを計画しています。NACCSと港湾EDIシステムとの連携は2003年度、NACCSとJETRASとの連携は2002年度の実現を目指して、作業準備中となっています。また、これらの連携については、2001年2月の国会質疑でも取り上げられ、当時の大蔵大臣、通産大臣が近年での連携を明言したことは特記されます。
 
1.1.3.2 国際的な環境整備
TEDIをアジア各地域の税関等の政府システムと連携させるべく、経済産業省の支援事業として、その連携システムの開発及び実地検証を計画しています。まず、2001年度中に、K T−NET(韓国)/TEDI、及び、TRADE−VAN(台湾)/TEDIの連携を対象として実験実施することになっています。その後も、引き続き、アジアの他地域を対象として実施することが予定されているようです。
 
1.1.4 国際物流改革プラン(塩川イニシアチブ)
2001年8月に、財務省より「国際物流改革プン」が、大臣の名前を冠して「塩川イニシアチブ」の名称で、公表されました。その課題のひとつとしての、「国際物流トータルIT化プラン」の中で、「民間における貿易関連事務のシステム化、及び、その標準化の促進」がうたわれています。これは、民間に対する政府の支援の声と解釈されますが、ユーザー主体の民間活力が第一の推進役ですが、これらインフラ基盤構築、整備という公的な性格も色濃くあることを考慮する必要があり、これに対しては、政府の資金的な面も含め、さらに積極的に支援が期待されます。
1.2 国際動向
電子化に向けての世界的な動きの例を説明致します。
 
1.2.1 リオンサミット
1996年6月のリオンサミットで、貿易の自由化と税関手続の標準化、貿易文書の電子手段によるやり取りについての提言がなされました。以下に外務省HPより引用します。
 
リヨン・サミット経済コミュニケ
−すべての人々のためにグローバル化を成功させる−(仮 訳)
II. 貿易及び投資の強力で互恵的な拡大の促進
25. 貿易の自由な流れに資するために、我々は、我々の間で税関手続を一層標準化し簡素化するための努力を開始する。文書の画一化と電子的手段による送信の基準ができれば、企業と政府にとって経費は削減され、貿易と開発への障壁が除去されることによりWTOにおける努力が補完され、もって成長が促進されることとなろう
 
1.2.2 G7合意
リヨンサミットの提言を受け、G7において、税関申告の標準化、電子申告の具体化が話されました。
具体的には、申告の標準化、簡素化で、申告項目を800から120へという大幅に減らそうという試み、そして、UN/EDIFACTベースのG7共通電子申告フォーマットを開発し、実際にG7間で使おうとすることです。
当初、各国は以下の実施スケジュールを立てました。
・ 英国/カナダ 2001年〜
・ 米国 2002年〜
・ 日本 2003年〜
・ ドイツ/イタリア/フランス 2004年〜
 
ここにある当初の実施スケジュールは、残念ながら、現時点では、各国とも少なくとも1年ほどスケジュールが遅れているのが、実態のようです。








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