II.電子商取引の国際標準化動向
1.ebXMLの誕生
インターネット等、オープンネットワークの普及にともない、広範囲における企業間情報交換や情報共有による電子商取引(EC)の実現が可能になってきています。一方、広範囲の企業間情報交換・共有においては、物理的なネットワーク接続に加え、企業間のビジネスを遂行するためには、情報の意味と活用についてEC当事者間で正確に相互理解されなければなりません。これらを実現するために、従来よりEDIの標準化が進められてきました。
しかしながら、従来のEDIにおいては、標準化されたデータを静的に交換するにとどまり、当該データのビジネスプロセスにおける扱い方については、当事者間で別に協議して決めているのが現状です。さらに、従来型の標準EDIにおいては、EDI実現のための特別な情報表現と、それをアプリケーションに変換するためのEDI固有のシステム環境を準備する必要があり、費用と技術の点から中小企業を含めての広範囲な普及には限界があります。
これらの環境を改善するためには、オープンネットワーク上での標準電子取引環境の整備が不可欠です。標準電子取引環境の整備は、次世代電子ビジネスのインフラとして注目をあびているXML(eXtensible Markup Language)を中核とした、標準化活動が世界的規模で行なわれています。その標準化活動を牽引しているのがebXMLイニシャチブです。
ebXMLの将来的な展望は、グローバルな電子商取引市場を実現することです。その電子商取引市場では企業の所在地に制限されることなく、様々な規模の企業が互いに出会う機会が提供され、XMLベースのメッセージのやり取りによって取り引きを行うことが期待されます。
ebXMLは一連の仕様で構成されています。それらの仕様が一体となってモジュラーとして機能し、電子ビジネス用フレームワークを完成させています。インターネットが電子商取引のための情報ハイウェイだとすると、ebXMLはそのハイウェイの出入り口およびその交通規則の役割を果たすはずです。
ebXMLイニシャチブは、電子商取引の相互運用性を実現するよう設計されているため、企業が互いを発見してから、取引当事者となる合意の上で取り引きを開始します。これらの作業はすべて自動化されているため、人の介入が最低限におさえられるでしょう。実際、ほとんどの場合は人の介入を全く必要としないはずです。これにより低コストとオープン標準のメカニズムが実現でき、企業間の電子ビジネスを効率化することができるはずです。
ebXMLは支援組織、範囲そして実装という視点から見てグローバルです。なぜならebXMLは国連機関UN/CEFACTとOASIS(構造化情報標準促進団体)による共同イニシャティブであり、グローバルな規模での利用を目的として開発されたからです。このパートナーシップによりebXMLの信頼性が保証されているため、IT業界での大手のベンダーや主要なユーザーによる参加が実現し、またRosettaNet、GCI(Global Commerce Initiative)、OTA(Open Travel Alliance)やその他多くの、縦あるいは横のつながりを持った複数の業界団体のサポートを受けています。ebXMLへは誰でも参加ができ、150社以上の企業会員と日本を含む30カ国以上からの1,400人以上の参加者らに幅広く支持されてきています。また、ebXMLは詳細に定義された技術範囲を持ち、18カ月(1999年11月から2001年5月まで)のスケジュール内で主要な技術仕様が完成されました。
ebXMLは革新的というよりはむしろ進化的な仕様です。なぜなら、ebXMLは、HTTP、TCP/IP、MIME、SMTP、FTP、UML、そしてXMLなどの実績を持つ公開標準を使用したインターネット技術をベースにしているからです。公開標準を取り入れることによって、簡単で安価なソリューションが実現できています。また、そのソリューションはオープンでしかも特定のベンダーに依存しないで実行できます。また、ebXMLはあらゆる言語のプラットフォーム上に実装そして配置できます。その結果、低い導入コストで、使用が簡単で強力なソリューションを実現することができるわけです。
電子商取引は新しい概念ではありません。企業は過去25年に渡って、UN/CEFACT(貿易手続と電子ビジネスのための国連センター)が定義した一連のEDI標準、すなわちUN/EDIFACTに従って互いに情報のやり取りをしてきました。しかし残念なことに、EDIを使用して取り引きを行うには膨大な技術知識が必要とされ、その実装により特定企業との密接な結合が生じ、そして高額なプライベートネットワークが必要とされてきました。その結果EDIの使用は大企業に限られ、世界のビジネスのほんの一部だけに利用されるという結果を生んでいます。ebXMLを使用することで、これらの障壁が取り除かれるため、コンピュータと ebXMLメッセージを読み込み/書き込みできるアプリケーションを持ってさえいれば、誰でも低コストで電子ビジネスを実行できる可能性が広がりました。企業がその企業規模にかかわらず、低コストと使いやすさの理由でebXMLを導入する可能性は大きいといえます。
ebXMLの導入が世界規模で進むに従って、グローバルな電子ビジネスへの参加を妨げている障壁は取り除かれるでしょう。また、標準ベースのプロセス定義とメッセージ定義により、取引当事者間での電子ビジネス合意書に関する交渉に必要なコストを大幅に削減できます。更に、ebXML準拠の市販ソフトウェアを使用すれば、技術環境の整っていない企業を含めたすべての企業が簡単にebXMLベースの電子商取引を実行できることが期待されます。
ebXMLの普及した世界では、中小企業や大企業が企業規模に関係なく、今日よりもさらに改善された標準に準拠することによって、低コストの取り引きを実現させることができるはずです。すべての企業は、既存のアーキテクチャやソフトウェアを根本的に変更することなく、新しく革新的なサービスをベースとするビジネスモデルへ移行するための無数の機会を持つことになるでしょう。