5.新しい課題への取組み
なお、国際電子商取引のための国際ルール構築の一環として、CEFACT/LWGは2001年に、次の課題に取組みました。これらは次年度に継続される課題です。
5.1 モデルEC協定書のソフトウェア開発
本稿の「2.2 モデルEC協定書」で説明したように、これはEDI、eメール、ウェブサイト、XML等によるすべての電子商取引に使用することができます。しかし、EDI交換協定は、署名のある書面で締結しますが、EC協定は、電子的手段による申込と承諾によって契約を締結するのですが、契約によっては特約条項を挿入することが多いので、モデルEC協定書を補完・支援するソフトウエアが必要になります。CEFACT/LWGは、有力企業にこのようなソフトウエアの開発を要請しています。
5.2 オンライン裁判外紛争処理に関する勧告案
国連CEFACT/LWGは、世界知的財産権保護機構の仲裁調停センター(WIPO Arbitration and Mediation Centre)のADR手続きについて調査しました。このシステムは、紛争処理の手続きをeメールによる通信だけで行い、事実に基づいて即時に解決します。LWGは、ADRの分野における作業を継続していましたが、オランダのECP.NLが提出したオンラインADR(ODR)に関する勧告案を作業部会で検討しています。この勧告案については、本報告書の「X.オンライン裁判外紛争処理(ODR)に関する勧告案」を参照してください。
5.3 ebXMLの取引当事者協定書(TPA)の開発
5.3.1 ebXMLイニシャティブ
ebXMLイニシャティブは、国連CEFACTとOASIS(Organization for the Advancement of Structured Information Standards)13が、XMLビジネス仕様を標準化するために、共同で開始したグローバルプロジェクトです。OASISは、非営利の国際コンソーシアムで、IT製品に依存しないデータ/コンテンツ交換手段を専門に研究しています。OASISは、IT製品間の相互運用性に重点を置きながら、様々な構造化情報標準(XML、SGML、CGMなど)を開発してきました。ebXMLイニシャティブは、1999年1月に始まり、2001年5月に終了しました。
5.3.2 XML標準による利点
ebXML標準の実現で得られる利点として、次のことが挙げられます。
[1]eビジネスの豊富な経験に基づいて開発されたオープンなXML規格を利用することができます。
[2]単一のグローバルな電子市場が実現され、すべての参加者がその規模に関係なくインターネットによるeビジネスを平等に行うことができます。
[3]EC/EDIに対する既存の投資を有効に利用して、既存顧客と新規顧客の両方にeビジネスの機会を拡張することができます。
[4]現在および将来のXML投資の便宜が図られます。14
14菅又久直「ITインフラと電子商取引」「平成12年度EDI制度手続簡易化特別委員会報告書」日本貿易関係手続簡易化協会、平成13年3月、48〜60頁。
5.3.3 TPAイニシャティブ
2001年9月に開催されたCEFACT/LWG会議で、EDIFICE(EDI Forum for companies with Interests in Computing and Electronics)のTPA(Trading Partner Agreement)イニシャティブについて報告があり、これについて意見交換が行われました。EDIFICEは、1986年に設立され、コンピュータ計算、電子工学および電気通信に関心をもつ企業のための電子商取引フォーラムです。TPA開発プロジェクトは、UN/CEFACTの要請に基づいて、RosettaNet15を中心に、EDIFICEおよびESIA16(European Semiconductor Industry Association)の協力によって設立され、2001年5月末にスタートしました。作業計画では、第1段階(2001年第2/第3四半期)で、現存するTPA関連資料の収集およびノウハウの分担とフォーラム開催、第2段階(2001年第3四半期)で、提案の分析および標準TPAの起草とチームメンバーによる検討、第3段階(2001年第4四半期)で、関連業界にTPA原案についての意見を求め、これに基づいて原案の改訂および標準(案)の作成を行う予定となっています。TPAの構造は、[1]一般的法律条項(General Legal Provisions)、[2]非開示協定(Non-Disclosure Agreement)、およびTPAサービスモジュールとして、[3]EDIサービス、[4]XMLだービス、[5]ポータル・サービスから構成されています。
5.4 ユーザーと認証機関(TTPs)の間のモデル約款
電子商取引では、本人を確認するための電子署名の登録・証明書発行、電子メッセージの真正性・完全性、電子商取引の契約内容(一般取引条件、裏面約款、特別約款など)の登録・証明が必要です。そのようなサービスを提供してもらうために、ユーザーは認証機関、登録機関、証明機関(TTPs)などと契約を結ばなければなりません。このための国際的なモデル約款が必要であると考えられます。
5.5 電子署名及び認証機関に関する国際条約の準備
わが国では平成13年4月から「電子署名及び認証業務に関する法律」が施行されていますが、これによって日本国内における電子商取引が一層促進されることになります。各国でも電子署名及び認証機関に関する法律の施行またはその検討が行われています。しかし、国際間の電子商取引を実施するためには、ある国の認証機関が発行した電子証明書を他の国の認証機関によって確認される必要があります。そこで、各国の電子署名及び認証業務に関する法律を調査研究して、これに関する国際条約を準備する必要があります。
(朝岡良平)