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3.電子商取引のための行動規範への取組み
3.1 電子商取引における消責者保護
 冒頭に述べたように、電子商取引(電子手続きを含めて)には、企業間(B2B)取引のほかに、消費者(個人)がインターネットで海外から直接商品を購入するケース等、いわゆる企業対消費者(B2C)電子商取引が急増しています。電子商取引プラットフォーム(ECP)オンラインマーケットプレイス(OMP)、サプライチェーンマネジメント(SCM)、アプリケーションサービスプロバイダー(ASP)などによって、流通業界の川上と川下が接近して企業対消費者(個人)間の電子商取引が増える傾向にあります。また、オンラインオークションにより、個人対個人(C2C)間の電子商取引も増えてきています。B2Bに比べて、B2Cは取引金額が小さいかもしれませんが、Cに係わる電子商取引では、苦情や紛争が増えているのも事実です。企業と異なって、消費者は的確に契約を結ぶのに慣れていないので、契約締結に際して、企業側が周到に注意しなければなりません。B2B間の取引では当然と考えられている取引慣習や取引条件は、B2C間では必ずしも通用しません。OECDは、加盟国に対して「電子商取引における消費者保護に関するガイドライン」(Guidelines for Consumer Protection in the Context of Electronic Commerce)7の採択を勧告しています。
3.2 電子商取引に関するEU指令
 欧州連合は、電子商取引に関する指令(Directive 2000/31/EC of the European Parliament and the Council of 8 June 2000)8を採択しました。この電子商取引に関する指令に次の規定があります。
 
 「第16条 行動規範
第1項 加盟国および欧州委員会は次のことを奨励する。
(a)業界団体、専門機関、消費者団体などが、本指令第5条から第15条に規定する事項の適切な導入に貢献できるような、コミュニティ・レベルの行動規範を起草すること;
(b)国内またはコミュニティ・レベルの行動規範(案)を欧州委員会へ任意に伝送すること;
(c)コミュニティ内の言語でこれらの行動規範を電子的手段によってアクセスできるようにすること;
(d)業界団体、専門機関、消費者団体などが、それぞれの行動規範の適用および電子商取引に関する慣行、習慣または慣習に及ぼす影響についての評価を、加盟国および欧州委員会に通信すること;
(e)未成年者および人間の尊厳(human dignity)の保護に関する行動規範を起草すること。
第2項 加盟国および欧州委員会は、消費者を代表する協会または団体が、上記第1項(a)号に従って、団体の利害関係に影響を及ぼすような行動規範の起草と導入に関与することを奨励する。適切である場合には、特別の必要性を考慮に入れて、視覚障害者団体の意見が求められるべきである。」
 
 
3.3 自己規制
 自己規制(self-regulation)とは、電子商取引に携わる企業が、他の企業と電子商取引を行うとき、自発的に一定の行動規則に従うという約束を意味します。以前取引関係がなかった当事者とはじめて電子商取引を行う場合、信用が最も大切です。自己規制は、電子商取引における信用を創造する強力な法的文書であることが、国際機関や消費者団体等によって認められています。特に、企業対消費者間取引において、自己規制が重要な役割を果たすと思われます。自己規制は、行動規範を採用するとか、国際的なトラストマーク計画に参加する等、様々な形式をとることができます。
3.4 国連ECE勧告第32号
 1998年初頭、オランダの経済省、法務省、業界団体、教育機関、プロバイダー、ユーザーなどが協力して、オランダ電子商取引プラットフォーム(Electronic Commerce Platform Netherlands;ECP.NL)を設立しました。このECP.NLが作成した「電子商取引のための自己規制文書(行動規範)」は、OECD、国連、欧州議会などにモデル行動規範として提出されました。国連ECE勧告第32号の付属文書はECP.NLが作成した電子商取引に関するモデル行動規範(第3版)です。電子商取引に関する行動規範は数多くありますが、その中でも、オランダのモデル行動規範は容易に採択できる大変優れた内容を持っています。行動規範は、勧告第26号や勧告第31号と異なり、契約的な解決策ではありません。電子商取引を行う企業または業界団体が自主的に行動規範を採択し、この規則に従って電子商取引を行う旨の約束を社会に向けて表明することにより、取引相手一特に、消費者の信頼を得ることが重要な目的です。電子商取引のための行動規範は、多数の企業または業界団体が同様の行動規範を使用することにより、やがて電子商取引に関する国際取引慣習が生成・発達することが期待されます。国連ECE勧告第32号は、本報告書「III.電子商取引のための行動規範」に資料として掲載されています。
 
4.信用状統一規則の補遺
4.1 電子信用状統一規則(eUCP)
 国連ECE勧告第31号「モデルEC協定書」と国際商業会議所(ICC)が開発していた「電子貿易・決済統一規則及び指針」(Uniform Rules and Guideline for Electronic Trade and Settlement; URGETS)の間の調整が検討されていましたが、後者は全面的に見直すことになりました。ICCの「荷為替信用状に関する統一規則及び慣例」(the Uniform Customs and Practice for Documentary Credits,1993 Revision, ICC Publication No.500)は、ほぼ10年ごとに改訂されています。1990年に改訂された「インコタームズ」(現行の規則は2000年改訂版)が、従来の紙の船積書類に代えて、電子メッセージの使用を認めているので、UCPの1993年の改訂時に、電子メッセージの導入が検討されました。しかし、当時はまだ時期尚早であると判断して、電子メッセージの導入は見送ったという経緯があります。そこで、2003年の改訂に際して、電子信用状および電子船積書類がどのような形で導入されるのか、貿易関係者は大きな関心をもってICC銀行技術及び実務委員会(以下、銀行委員会と略称)の動向に注意を払ってきました。しかし、昨年末にICCは「電子的呈示に関するUCPの補遺(eUCP)」(UCP Supplement for Electronic Presentation(eUCP))を採択し、本年1月1日からこれが使用されています。
4.2 ICCのeUCP作業部会の設立
 2000年5月24日に開催されたICC銀行委員会の将来計画タスクフォースで、銀行委員会の到達すべき課題の1つとして、電子商取引に大きな関心が寄せられていました。論議の末、現行のUCPから、紙の信用状の電子的等価物への移行の橋渡しになるものを開発する必要性が確認されました。紙の信用状から電子的信用状へと現在徐々に移行しつつあるので、市場がICCにこのような過渡期におけるガイドラインの制定を期待していると判断しました。また、業界からも、紙の信用状の電子的等価物に関するUCPのような特別のガイドライン及び規則を要望する声がありました。このことは、信用状の電子的呈示に関すUCPの特別な問題を取り扱うもので、UCPの「補遺」(supplement)または「追加」(addendum)という形で取組むのが最善であろうとの勧告がなされたのです。その結果、銀行委員会に対して、UCPの「補遺」として適切な規則を起草するために、UCP、電子商取引、法的諸問題および関連業務の専門家からなる作業部会を設置することが勧告されました。そこで、銀行委員会はこの勧告を受け入れて、作業部会を設立しました。
4.3 eUCPの概要
4.3.1 UCPの特則
 eUCP作業部会は、電子的呈示に関する問題を扱うUCPの補遺を作成するのが使命であるとの結論を下しました。そこで、この規則の正式名称は、「電子的呈示に関する荷為替信用状統一規則及び慣例の補遺」(Supplement to the Uniform Customs and Practice for Documentary Credits for Electronic Presentation)です。9 この略称として、「eUCP」を使用することになりました。eUCPは、現行のUCPの用語(terminology)を紙の信用状の等価物の電子的呈示に適用して、UCPとeUCPを一緒に使用するために必要な規則を作るために、若干の定義を定めています。10eUCPは、完全に電子的に行われる呈示、および紙の書類の呈示と電子的呈示の混合したものを考慮して作成されています。この分野における慣行は徐々に変化しているので、作業部会は、電子的呈示に関してのみ規定することが全く現実的でなく、また、それが完全な電子的呈示への移行展開を促進するものでもないと考えました。
9第e1条:a.「電子的呈示に関する荷為替信用状統一規則及び慣例の補遺」(eUCP)は、電子的記録だけの呈示または電子的記録と紙の書類を組み合わせた呈示に適応させるために、「荷為替信用状に関する統一規則及び慣例」(1993年改訂版、ICC刊行物No.500)を補足する。
b.eUCPは、信用状がeUCPに従う旨を示す場合に、UCPの補遺として適用する。
c.本バージョンは、バージョン1.0(Version 1.0)である。信用状には、適用されるeUCPのバージョンナンバーを指示しなければならない。バージョンナンバーが指示されていないときは、信用状が発行された日時に有効なバージョンに従うか、または、受益者が承諾した条件変更によってeUCPに従うことになったときは、その条件変更の日に有効がバージョンに従うものとする。
10第e3条 定義:「文面上」「書類」「署名」「電子的記録」「電子署名」「フォーマット」「紙の書類」「受信した」
 
4.3.2 電子的呈示に関する規則
 作業部会は、現行の市場慣行及びUCPが長年にわたり信用状の電子的な発行と通知を認めているので、改めて信用状の電子的は発行と通知に関する問題に取組む必要性はないと考えました。eUCPの利用者は、UCPの多くの条文が紙の書類の電子的等価物の呈示によって影響されるものでなく、また電子的呈示を斟酌して変更する必要がない旨を理解することが大切です。UCPとeUCPを一緒に読むとき、両者は電子的呈示のために必要な規則を提供するのであり、この分野において発展しつつある慣行が十分に考慮されていることが分かると思います。
 
 UCPで使用されている特定の用語または文言がeUCPにおいて定義されている場合、これらの定義は、他に異なる定めのない限り、これらの用語がUCPで使用されている場合にも適用されます。作業部会は、eUCPの起草にあたって、他のICC刊行物ならびに政府機関や国際機関が公布した諸規則に使用されている各種の定義を検討しました。これらの定義をできる限り使用または部分的に使用しました。ビジネスは常に進展しているので、UCPに基づく紙の書類の電子的等価物の呈示に関連する特別な要件を充足するために、多くの場合にこれらの定義を修正するとか、新しい定義を設けることが必要です。
 
4.3.3 バージョンナンバーで発行
 eUCPはUCP500の特則であり、11必要な場合には、技術進歩に応じて、おそらくUCPの次回の改訂前に、eUCPの改訂が必要になると思われます。このために、eUCPは、必要に応じて一連のバージョンナンバーを付けられるように、バージョンナンバーで発行されます。今回発行されたeUCPは、第e1条c項に「本バージョンは1.0(Version 1.0)である」と規定されています。
11第e2条:eUCPとUCPの関係
a.「eUCPに従う信用状」(「eUCP信用状」という)は、明示的にUCPを組み入れる旨の明示的文言がなくても、UCPにも従うものとする。
b.eUCPが適用される場合、その規定は、UCPの適用と異なる結果を生ずる範囲内で、UCPの規定に優先する。
c.eUCP信用状が受益者に対して紙の書類または電子的記録のいずれかの呈示を選択することを認め、かつ受益者が紙の書類のみを呈示することを選択するときは、UCPだけが当該呈示に適用される。eUCP信用状に基づいて紙の書類のみが認められるときは、UCPだけが適用される。
 
4.3.4 技術やシステムとは無関係
 eUCPは、特定の技術や開発されている電子商取引システムとは無関係に、特別に起草されたものです。すなわち、これは電子的呈示の遂行に必要な特定の技術やシステムに取組んだものではありません。これらの技術は進歩しつつあり、eUCPの要件に従って電子的記録の呈示を行うために使用される技術またはシステムについて合意することは、信用状当事者に任されています。
 
 eUCPは、電子書類の呈示に関する市場の要望に応えるために創られたのです。この市場は、発展しつつあり、紙の書類の電子的等価物が呈示されるときの高い処理効率を期待して、より高度の標準を創り出しました。このような需要の予想と市場の期待に応えるため、完全に電子的呈示が生ずるときは、UCPによって確立した標準に対する幾つかの変更が必要です。これらの変更は、現行の慣行およびマーケットプレイスの期待に一致するものです。
 
 eUCPのすべての条文は、特に電子的呈示に関する場合を除いて、UCPと矛盾するものではありません。必要に応じて、紙の書類の電子的等価物の呈示に関する独特な問題について変更がなされています。UCPとeUCPの条文の間の混同を避けるために、eUCPの条文は、各条文の番号の前に"e"を付けてあります。12
 
12eUCPの条文は、次のとおりです。
第e1条 eUCPの適用範囲
第e2条 UCPに対するeUCPの関係
第e3条 定義:「文面上」「書類」「署名」「電子的記録」「電子署名」「フォーマット」「紙の書類」「受信した」
第e4条 フォーマット
第e5条 呈示
第e6条 点検
第e7条 拒絶通知
第e8条 オリジナルおよびコピー
第e9条 発行日
第e10条:運送
第e11条:呈示後における電子的記録の破損
第e12条:eUCPの下に電子的記録の呈示に関する追加的免責条項








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