日本財団 図書館


2.電子商取引協定書への取組み
2.1 モデルEDI交換協定書(国連ECE勧告第26号)1
1 United Nations Economic Commission for Europe, Recommendation No.26: Commercial Use of Interchange Agreements for Electronic Data Interchange. (ECE/TRADE/208), Geneva. January 1996.
2.1.1 EDI交換協定書の使用目的
 勧告第26号の付属書は、[1]モデル交換協定書、[2]コメンタリー、[3]技術的付属書作成のチェックリストの3部から構成されています。モデル交換協定書は、多様な法体系の下で、商取引当事者が使用できるように作成されています。これは、企業間取引に使用することを前提に作られているので、官公庁との許認可手続きや、企業対消費者間の電子商取引に使用する場合には、若干の修正が必要になります。また、このモデル交換協定書は、1対1の当事者間における双務的契約を前提としていますが、多数当事者間の多角的契約にも使用することができます。さらに、EDIユーザー協会のような組織では、このモデル交換協定書を若干修正して、協会のルールブックの一部に組入れることによって、この協会に加入するユーザーと協会の間、およびユーザー相互間のデータ交換を行うことができます。この方法により、貿易取引当事者は、関連業界(例えば、物流、運送、保険、金融など)とのEDIデータ交換に関するフレームワークを構築することができます。2
2 BoleroおよびTEDIはこの基本的理念に基づくシステムです。
 
2.1.2 EDI交換協定の成立、変更および解約
 取引当事者は、EDI取引を行う前に、交換協定書を作成して各当事者の代表者がそれぞれ署名することによって、EDI協定を締結します。交換協定書の頭書には、通常、契約成立の年月日、関係当事者の名称・住所等を明記し、各当事者が当該協定に法的に拘束される意思のあることを明示します。これによって、当事者間にEDIメッセージが法的拘束力を持つことを保証する法的環境を構築します。
 
 EDI交換協定書は、狭義の交換協定書と技術的付属書からなります。狭義の交換協定書は、EDIシステムの運営および法的問題に関する主要条項を定める基本的協定です。技術的付属書は、取引当事者間の完全な合意の一部を構成するもので、その内容は法的拘束力を持ちます。技術的付属書を含めて、EDI交換協定書の内容を変更する場合には、各当事者は署名のある書面による記緑を相手方に提出しなければなりません。また、技術的付属書の変更は、技術専門家によって検討されるので、当事者の代理人として内容変更に署名する権限を技術専門家に付与することが、当事者に認められます。
 
 EDI交換協定は、原則として、当事者間の原因契約を長期間にわたり反復して電子的に締結するために合意されます。したがって、EDI協定書に当該協定の有効期間を定めることは少ないのですが、国連モデル交換協定書には、予告期間(例えば、30日)を定めて書面による通知により解約する規定を設けています。3
 
3 モデルEDI交換協定書 第7章 一般条項
7.3 解約
 いずれの当事者も、【30】日前までに書面による解約通知を行うことにより、本協定を解約することができるものとする。
協定の解約は、解約以前に発生したすべての通信または関連取引の履行に影響を及ぼさないものとする。
7.4 完全な合意
 本協定書は、技術的付属書を含めて、本協定書の内容事項について当事者間の完全な合意を構成し、両当事者が署名した時に発効する。技術的付属書は、両当事者または当事者を代理して署名することを認められた者によって内容の変更が可能である。各当事者は、合意したすべての内容の変更について書名のある書面による記録を相手方に提出するものとする。
内容の変更はすべて署名のある書面による記録の交換をもって発効するものとする。その時点において有効な技術的付属書および変更された内容は、両当事者間の合意を構成するものとする。
7.6 通知
 第3章に基づく受信確認および通知を除いて、本協定書または技術的付属書に基づいて提出が求められるすべての通知は、通知を発信する当事者によって承認された者の署名のある書面により、または記録作成可能な同等の電子的媒体により、相手方に提出されたとき、正当に提出されたものとして扱われる。各通知は、冒頭に記載した相手方当事者の住所で受信された日の翌日から発効するものとする
 
2.1.3 交換協定書の主要内容
一般に、狭義の交換協定書の内容は、EDI通信業務運用に関する条項とEDI取引当事者間の法的問題に関する条項に分類されます。特に、国際的なEDI交換協定書を作成するときは、これが使用される取引の種類、EDI取引に関連する法律上の要件などを周到に検討して、最小限必要な条項を明確に規定する必要があります。
 
 EDI通信業務運用に関する条項には、次のものがあります。[1]通信手順に関連する条項(例えば、受信確認またはメッセージ受信証明、受信確認の効果、不完全な伝送など)、[2]第三者サービス・プロバイダー(TTP)に関連する条項(例えば、TTPの選択と使用、費用負担の配分、責任の配分など)、[3]記緑の保存および監査手続きに関する条項、[4]真正性および署名に関する条項、[5]セキュリティに関する条項(セキュリティの手順、TTPとの関係、メッセージ自体のセキュリティ、セキュリティの違反に対する救済など)、[6]秘密性に関する条項、[7]データ保護に関する条項、[8]システム・オペレーションズに関する条項(システムの変更、システムのテストなど)、[9]事故対策に関する条項。
 
 EDI取引当事者間の法的問題に関する条項には、次の条項が含まれます。[1]有効性および執行可能性に関する条項(例えば、書面、書類および署名に関する要件、交換協定書における形式要件への対応策、書面と署名に関する定義、有効性または執行可能性を争わない旨の合意、電子メッセージの法的地位、義務の拘束力に関する保証など)、[2]メッセージの証拠能力に関する条項、[3]通信の不履行または誤謬に対する責任、[4]契約の成立に関する条項(契約を締結する意思の確定、通信の法的有効性の確定、メッセージの効力発生時期と場所など)、[5]原因契約の取引条件(売買契約の一般取引条件、売買契約と交換協定書の解釈上の優先順位)、[6]紛争処理に関する条項(準拠法と法廷地の選択、仲裁条項)、[7]責任の制限に関する条項、[8]その他の条項(不可抗力条項、無効規定の波及切断、期間および解約など)。
2.2 モデルEC協定書(国連ECE勧告第31号)4
2.2.1 中小企業のインターネット導入率
1999年における米国企業のEDI化の状況調査によると、大手企業では95%であるのに対して、中小企業では僅かに2%に過ぎないとのことです。東京商工会議所が昨年10−11月に実施した「中小企業のIT活用状況に関するアンケート調査」5によると、インターネットを導入率している企業(82%)のインターネットの利用目的は、前回調査(2000年8月)と同様に取引先との電子メール交換(68%)がトップで、電子商取引関連では、「特定企業との受発注取引」(26.0%→32.7%)が増加する一方で、「B2B」(11.0%→6.1%)および「B2C」(15.9%→8.4%)はともに減少しています。インターネットの普及や電子商取引プラットフォームの発達によって、PCを所有しプロバイダーと契約を結ぶことによって容易にしかも低廉に電子商取引に参加することができます。しかし、上記のアンケート調査に見られるように、多数の中小企業が容易に参加できるような電子商取引を実現するためには、技術的側面はもちろんのこと、法的側面からの環境整備を行い、安心して利用できる電子取引ルールの確立が急務と考えられます。
 
2.2.2 EC協定書の必要性
 グローバル規模の法的枠組みへの取組みとして、例えば、国連国際商取引法委員会(UNCITRAL)の「電子商取引に関するモデル法」や「電子署名に関する法案」があります。国連CEFACTは、このような法的枠組みが電子商取引の発展のために必要な信用の構築に寄与することは間違いありませんが、電子商取引を実施するためには、電子的に契約が成立する手順に関連する問題を解決することが必要であると判断しました。そこで、CEFACT/LWGはモデルEC協定書を開発し、2000年3月に開催されたCEFACT第6回総会で、これが勧告第31号として採択されました。モデルEDI交換協定書(勧告第26号)は、特に、EDIという通信技術による電子データ交換に焦点を絞っているため、技術的付属書が協定書の一部として重要な役割をもっています。けれども、EDI以外の通信技術の使用増加に伴って、技術的な問題から切り離されたEC協定書が要望されるようになり、その結果、モデルEC協定書(勧告第31号)が開発されるにいたったのです。
 
2.2.3 EC協定書の使用目的
電子商取引協定書(以下、EC協定書(E-Agreement)と略称します)6は、企業間(B2B)電子商取引の当事者に対して商取引の必要条件を提供することを目的としています。EC協定書は、当事者間に行われる電子商取引(これを、E取引(E-Transaction)と略称します)を確実にすることのできる一組の基本的条項を規定します。EC協定書は、E取引を行うために使用されるすべての種類の電子的通信に適用するものです。特に、EDIに基づいて契約を締結する取引当事者に対しては、EDI交換協定書を引き続き使用することを勧告しています。EDIを含む各種の電子的通信技術を使用して契約を締結する当事者には、EC協定書の使用を勧告しています。EC協定書は、継続的な取引関係にある当事者だけでなく、一回だけの取引の当事者にとっても有用です。
4 United Nations Economic Commission for Europe, Recommendation No.31:Electronic Commerce Agreement.(ECE/TRADE/257), Geneva. May 2000.
6 原文の"E-Agreement"から「E-協定書」と訳すのが自然であるが、勧告第31号のタイトルが電子商取引協定書(Electronic Commerce Agreement)であるから、訳文では「EC協定書」としました。
 
2.2.4 EC協定書の構成
 EC協定書は、次の2つの部分によって構成されています。
A.申込文書(Instrument of Offer):これによって、一方の当事者は、電子的手段により商取引契約の申込を行い、他の当事者(被申込者)に対して、このような商取引を行うために準備した取引条件を送信する。また、この申込文書は、相手方の当事者が反対申込を行うときにも、使用されます。
B.承諾文書(Instrument of Acceptance):被申込者は、申込文書に提案されている取引条件が承諾しうるものである場合、承諾文書によって申込者(ここでは、提案者と称す)に承諾の意思表示を送信します。
 
2.2.5 EC協定書の内容とEC契約の成立
 申込文書は、第1章EC協定書および第2章E取引から構成されています。第1章では、まず冒頭に、提案者の会社名、住所、ID番号/納税者番号、電話番号/FAX番号/Eメールアドレス/ウェブサイトアドレスなどを明記します。その後に、通信に関する条項(通信の方法、通信標準、ソフトウエア、第三者プロバイダー、受信確認、通信エラーの処理など)、E取引の有効性と締結に関する条項(有効性、契約の成立、取消、承諾期間)、その他の条項(適用法、無効条項の波及切断、解約、紛争処理方法)が規定されます。第2章では、取引の目的物、対価、引渡条件、支払条件、所有権の移転、危険負担、その他の一般取引条件などが規定されます。
 
 承諾文書では、承諾者は、会社名、住所、ID番号/納税者番号、電話番号/FAX番号/Eメールアドレス/ウェブサイトアドレスなどを明記し、申込文書に指定されている通信方法の全部または一部について同意する。
 
2.2.6 契約の成立
承諾者が、承諾文書に必要事項を記載して、申込文書を受信してから24時間以内(または、所定の時間内)にこれを発信し、提案者が承諾文書を受信したときに、契約が成立します。
 
2.2.7 B2C取引に使用する場合
 EC協定書は、企業対消費者間(B2C)の電子商取引にも使用することができます。しかし、これには消費者保護に関する条項が含まれていません。一般に、消費者保護に関する法律は強行法規で、消費者と契約を結ぶ場合、通常、消費者の国および地域の消費者保護法が適用されます。したがって、消費者と契約を結ぶためにEC協定書を使用する企業は、これらの国および地域の消費者保護法を遵守しなければなりません。また、当事者は、特定の条項に適用される国または地域の規制や一般に考慮しなければならない規制に注意しなければなりません。これらの規制には、[1]メッセージの保存、[2]付加価値税、その他の課税、[3]データ保護に関する法律があります。さらに、このEC協定書を行政機関や公的機関との取引に使用するときは、修正が必要です。
2.3 EC協定書の主要条項とEDI交換協定書の比較
 上記のモデルEC協定書の主要条項とモデルEDI交換協定書の該当する条項を比較すると、次のようになります。

勧告第31号:モデルEC協定書 勧告第26号:モデルEDI交換協定書
I. 申込文書  
第1章 EC協定書  
 1. 提案者の確認  
 2. 通信 第2章 通信および運用
  2.1 通信の種類   2.3 システムの変更、
  2.2 通信標準、ソフトウエアおよび第三者プロバイダー   2.3 通信
  2.1 標準
  2.3 受信および受信確認 第3章 メッセージの処理
  2.3.1 受信の定義   3.1 受信
  2.3.2 受信確認   3.2 受信確認
  2.4 通信のエラー   3.3 技術的エラー
 3. 有効性およびE取引の締結  
  3.1 有効性   4.1 有効性
  3.2 E取引の締結  
  3.2.1 申込の定義  
  3.2.2 取消  
  3.2.3 承諾期間  
  3.2.4 承諾   4.3 契約の成立
 4. その他の規定 第7章 一般条項
  4.1 適用法の選択   7.1 適用法規
  4.2 無効条項の波及切断   7.2 無効条項の波及切断
  4.3 解約   7.3 解約
  4.4 完全な合意   7.4 完全な合意
  4.5 紛争の解決   7.7 紛争の解決
[第1案 裁判条項] [第1案 裁判条項]
[第2案 仲裁条項] [第2案 仲裁条項]
第2章 E取引  
II. 承諾文書  
 1. 承諾の確認  
 2. 通信 第2章 通信および運用
  2.1 通信の種類   2.4 通信
  2.2 通信標準、ソフトウエアおよび第三者プロバイダー   2.1 標準
 
 EDI交換協定書の場合は、EDIメッセージの交換を行うので、技術的付属書に情報表現規約および情報通信規約を詳細に規定するのですが、EC協定書では、主として通信の種類について合意し、特にEDIメッセージを使用するときに、必要な標準について取り決めることになります。EDI交換協定書は、EDIメッセージを使用する場合にのみ適用されます。EDI協定の当事者がEDI以外の通信手段を用いたときは、この通信手段にはEDI交換協定は適用されません。この協定書の仲裁条項は、EDI通信に関連する紛争に限定されます。EDIメッセージによって成立した取引契約から生ずる紛争の解決は、この契約に基づいて合意された仲裁条項があれば、これに従って仲裁に付託されます。これに対して、EC協定書の場合には、申込文書の中に、具体的な取引条件を示して申込を行い、これに対して被申込者が承諾文書で承諾するので、この合意により取引契約が成立します。そこで、もし仲裁条項が挿入されている場合、この取引から生ずる紛争は仲裁によって解決されることになります。ただし、国によっては、仲裁条項は署名のある書面によって合意されることを要件としますので、この点を確認しなければなりません。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION