第1部 総論
I.国際電子商取引のメカニズム
1.電子商取引のための国際ルール構築への取組み
1.1国際ルール構築の必要性
電子商取引(電子手続きを含めて)の当事者は、便宜的に、政府機関(G)、企業(B)、消費者または個人(C)および第三者サービスプロバイダー(P)に分類できます。政府機関対企業間(G2B)取引として、公共事業等の入札がありますが、貿易取引では、各種の許認可手続きを考えます。貿易取引は、通常は企業間(B2B)取引です。しかし、最近、インターネットの普及により、消費者(個人)がインターネットで海外から直接商品を購入するケースが急増しています。インターネットは基本的にグローバルな性格をもっていますので、B2C間の電子商取引は、クロスボーダー取引になることが一般的な傾向になってきます。この場合、B2B間の取引と同様に遠隔地契約(distance contract)ですが、B2B間の取引では当然と考えられている取引慣習や取引条件は、B2Cには必ずしも通用しません。その他、消費者保護や個人情報保護などを十分に考慮しなければなりません。
現行の貿易関連の制度・手続は伝統的な紙の書類を前提としているので、EDI、eメール、ウェブサイト等の新しい通信技術を使用して商取引を行う場合、この使用方法を規制する法律がないために、法律の改正または制定、新しい取引慣習の生成に関連して様々な問題が提示されています。情報技術は日進月歩の勢いで進歩しているので、最新の技術を利用する新しい国際電子商取引に適合するような法的枠組みの開発が必要になります。多くの国では、すでに自国の法律制度を電子商取引の発展に適合するように法律の改正または制定を行っています。しかし、現在まで、電子商取引に適用される法の諸原則を統一する国際条約を開発する動きはありません。そこで、法律や条約などが整備されるまで、これらに代わる国際ルールの構築が必要になります。これには、当事者間で締結する契約、企業の自律的な行動規範、国際機関の制定する国際規則などがあります。
1.2 契約的解決策への取組
1.2.1 EDI交換協定書
国内立法や条約のほかに、電子商取引に携わる当事者間の契約に基づいて作られる規則は、各当事者の法的立場を明確にするための最も重要な法律文書であります。この点に着目して、国連CEFACTは、旧WP.4のときから、契約的な解決方法に取組んできました。国際物品売買契約はもちろんのこと、これに関連して、運送、保険、金融などを電子メッセージで行う場合に、例えば、EDIによる商取引に関する法的な有効性および執行可能性が不確実であることが指摘されます。また、EDI技術に特有のリスクがあり、その責任負担当事者について規制する法律がないので、EDI技術の採択について不安を与えることも考えられます。EDIメッセージによる取引当事者間には長期的に反復して行われる原因契約関係があり、またこのような場合にEDIのメリットが発揮されることを考えると、EDI取引当事者間には強い信頼関係が前提条件として存在すると言えます。しかし、取引当事者は、EDIでデータ交換を行うためにEDI標準について、あらかじめ合意しておかなければなりません。そこで、国連ECE/WP.4はモデルEDI交換協定書を開発し、これを1995年に勧告第26号として採択しました。
1.2.2 EC協定書
その後、インターネットの普及と電子商取引プラットフォームの開発によって、EDIの他に、eメール、ウェブサイト、XMLなどによる電子商取引が広く行われるようになってきたので、国連CEFACTは新しい環境条件の下に使用されるモデル電子商取引協定書(以下、EC協定書と略称する)を2000年3月に開催された第6回総会で勧告第31号として採択しました。
1.2.3 行動規範
さらに、電子商取引時代に相応しい法的な環境条件を整えるためには、国内法や条約による方法の他に、電子商取引のための行動規範を作成して、電子商取引に携わる企業、業界などがこれに基づいて自己規制する方法が考えられます。2001年3月に開催されたCEFACT第7回総会で、電子商取引のための自己規制(行動規範)の使用を勧告する文書が勧告第32号として採択されました。