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5-3 業界における地位
(1) PWC
 本節に於てBIのPWC、リクリエーション用ボート、及びOMCより買収した船外機の業界における地位を概観する。米国で販売されているPWCは、Arctic Cat社のTigershark、BIのSea-Doo、Polaris社のPoraris、と日本のヤマハ、カワサキ、ホンダ(2002年度からの予定)の製品である。シェアはSea-Doo、ヤマハ、カワサキの順に多く、TigersharkやPorarisはそれ程多くない。1999年の統計ではSea-Doo42.1%、ヤマハ29.2%、カワサキ17.5%、Poraris6.1%、Tigershark5.1%と、Sea-Dooが圧倒的に多いが、気になる点は、98年から99年にかけてヤマハ及びカワサキの日本勢がシェアを伸ばしているのに反し、Sea-Doo、Poraris、Tigersharkの北米企業は軒並みシェアを落としている点である。
 
 米国、ヨーロッパ、豪州等PWCの主要な市場で、運航マナーや環境負荷の問題等の観点からPWCの利用を規制する動きが高まっており、1995年をピークにPWC市場が低迷している中で、将来的な伸びを期待できるのは、アジアと南アメリカ市場であるが、これらの市場への進出は大企業のバックが無いとなかなか難しい。PWC上位3ブランドSea-Doo、ヤマハ、カワサキは大企業の製品であり、1995年以降も世界中で新市場の開拓に努めており、今後も確実に生き残れる製品としての地歩を固めつつある。BIでは、海外からのデストリビューターからの注文は増えており、この理由としてオービタルエンジンとD-Sea-Bel防音システムの導入が効いていると言っている。因みに、ヤマハも、オービタルと同様の空気式直接燃料注入システムを自己開発し、2000年モデルから組み込んでいるが、ヤマハのものは排気ポートが閉まってから噴霧状の燃料を圧縮空気で約700psiの圧力で気筒中に注入するシステムである。一方、カワサキのPWCは、OMCのFicht技術を使用しており、カワサキは今後排ガス浄化技術を自社開発しない限りFichtを通じてBIの影響を受けることとなる。またPorarissもFicht技術を使っているので事情は同じである。
 
 このように見てくると、今後北米におけるPWC業界は、ことエンジン技術に関してはBI/カワサキ/Porarisグループとヤマハの2極化の図式が見えてくる。前述の如くPWC市場は、環境保護団体に源を発したPWCの規制化の動きに押され、政府レベル、或いは州、地域レベルでのPWC禁止の具体案が本格化するにつれて米国、ヨーロッパのマーケットのパイが小さくなっている。米国では地域的PWC航行禁止区域の設定、沿岸から200ft以内及びエコロジカルに影響を受けやすい海洋生物の生息地におけるPWCの全面禁止を盛り込んだ法案が下院に提出され、また英国下院でも海洋環境を保護するため英国の沿岸水域におけるPWC使用の禁止を検討している。
 
 このような状況の下、Arctic Cat社は1999年末PWC市場からの撤退を発表した。Arctic Cat社はPWC業界が急速に成長した時期にこの分野に参入した。しかし北米においてPWCの売上は1995年の21万台を境に1999年には11万台に落ち込んでいる。BIは、Arctic Cat社の撤退は、この業界の命運を左右するものではないとのコメントを発表しているが、PWCビジネスが好調ではないとの意識を人々に与えることになり、今後の北米PWC業界はこの悪影響を背負っての再出発となる。
(2) リクリエーション用ボート
 米国には、現在メーカーといえる規模を持っものだけで約400のボートメーカーがあるが、その殆どは中小メーカーであり、上位3社Brunswick、OMC、Genmarの合計シェアが50%を超えるという歪な産業構成となっている。また、OMCボート部門は前述の如くGenmarに買収されているので、米国のボート業界はBrunswickとGenmarの2強時代に入っている。
 
 1980年代、BrunswickやOMC等エンジンとボートを社内生産するメーカーは、エンジンを付けて販売するパッケージボートの販売が一般的になったこと、ヤマハ等の外国エンジンの米国市場への本格参入に対するエンジンシェア確保が必要になったこと等の理由から、自社のボート製造部門にM&Aにより有名ブランドのボートメーカーを次々と加えていった。Genmarはボートのみを生産しているので採用するエンジンについてはフレキシブルであるが、ボートブランド毎にエンジンブランドも固定されている。しかし米国の多くのボートメーカーは、上記大企業の流れの外にあって隙間機種を小量生産する中小メーカーである。つまり米国のボート業界で現在生き残っているのはボートとエンジンをパッケージで供給する大企業か優秀な隙間商品を小量生産する中小企業となっている。
 
 Brunswickは、米国のリクリエーション用ボート産業最大の会社であり、その売上は、年間約U.S.$2bilの売上がありMercuryブランドの船外機のメーカーとしても知られている。BrunswickにはMercury Marine、U.S. Marine、シーレイ、フィッシングボートの4つの部門がある。Mercury Marineは船外機、船内外機、船内機を製造しているBrunswick発祥の中核的部門である。U.S. Marineは、1986年Brunswickに買収され、ボートブーム最盛期の1987年には、26工場を持ち、年間60,000隻のボートを製造していたが、1994年には市場の低迷により13工場で33,000隻を製造する程度まで規模が縮小した。シーレイは、大型ボート製造部門、フィッシングボート部門は文字通りフィッシングボートの製造部門である。
 
 BIとBrunswickとの関係は、前述の如く、ジェットドライブの共同開発程度のものであったが、BIがBrunswick Mercuryエンジンの競争相手であったOMCのエンジン部門を買収したので、今後のBIとBrunswickとの関係は微妙なものになろう。OMCのボート製造部門を買収したGenmarは、買収前12ブランドのボートをカナダ及び米国の9つの工場で製造していたが、OMC買収で新たに7つのブランドを加え、年間の合計建造量は65,000−70,000隻に達すると予想され、また年間エンジン購買量はU.S.$400milに達すると予想される米国第一のボートメーカーにのし上がった。Genmarは、今後とも数社からエンジンを購入すると明言しており、その中にはBIが生産するOMCエンジンが当然含まれる。OMCの業界におけるシェアは、1993−99年の間エンジン部門は、49%から33%に、ボート部門は、20%から10%へと激減している。OMCのエンジンは、Evinrude、及びJohnson共に船外機であり、Brunswickの船外機と共に米国の2大メーカーを構成していた。因みに、Brunswick船外機の1992年のシェアは、32%と言われているので当時はOMCエンジンの方が優勢であった。
 
 BrunswickのCEO Buckleyは、OMCが破産に追い込まれた内部要因については堅く口を閉ざしているが、外部要因として次の6つを挙げている。
・ EPAが排ガス基準を性急に押し付けたこと(Fichitシステムの不完全)
・ 日本のメーカーとの競争に勝てなかったこと(ホンダの会社サイズはOMCの100倍)
・ サプライヤーの力が大きくなり結果としてエンジン価格が高くなったこと
・ ディーラーの合併による新たな販売網やインターネット販売網の力をうまく利用出来なかったこと
・ 代替製品が急速に成長したこと
・ 金利やガソリンが高くなり舶用製品の国内販売量が減りドル高となって輸出量も減ったこと
 
 BIは、今後上記の全てを克服してOMCエンジンをマーケットの軌道に乗せなければならないが、BIは充分その資格を備えていると思われる。BIはOMC買収後もFichtエンジン付エンジンを回収し、後顧の憂いない態勢を整えたことはすでに述べた。BIの会社の規模はOMCより遥かに大きく、技術開発力、コスト競争力、ファイナンス力等充分日本のメーカーと競争可能である。
 
 BIは、リクリエーション用ボートの分野で、GenmarやBrunswickと対抗出来る基盤は持ち合わせていないが、隙間機種を小量生産する分野では実力を備えている。BIが進出先として選んだのがジェットボートの分野である。北米の2大ジェットボートメーカーはBIとヤマハである。この2社ともジェットボートをランアバウト市場向けに再設計し、北米のディーラーネットワークの再構築と拡大を図ることによりこの分野の売上を伸ばそうとしている。このため、ジェットボートの分野でも今後BIとヤマハの2極化が進行すると思われる。
5-4 業績を向上させた要因
 BIはカナダの会社であるが、その業績向上の原因をカナダのドル安やNAFTAに求めるのは当を得ていない。これらの利点を共通に持つカナダの会社で、BIと同じレベルの業績向上を果たしている会社は必ずしも多くないからである。BIの企業ポリシーは、一定の事業規模が見込まれる隙間商品を拾い上げ、それら製品のシェアを業界1−2位に保つと共に、ハードに関連するサービスを重視し、全体的に手堅く事業を進めていくことである。つまり隙間商品、上位シェア、サービス込み、手堅さに集約される。
 
 BIの事業の60%を占める航空機部門で作られるビジネス小型ジェット機は、既に寡占化が進んでいる大型旅客機と比較すると世界で8社が製造している隙間商品であるが、2000年度BIはシェア27%を占めてトップに立った。また大航空会社の地域定期便に用いられる20−90人乗りの地域交通用航空機も46%のシェアを持っている。BIはマーケットへの参入も早いが撤退も早い。ビジネスジェット機を各社に共同保有させ、パイロットや乗員を供給し、メンテナンスや補修等の面倒までみるFlex Jetプログラムや、単一保有会社のための航空機センターを各地に設置し、また、ビジネスジェット保有各社のパイロット訓練等の総合サービス事業に熱心である一方、採算の悪い英国の軍事関連事業は手放している。
 
 鉄道車輌部門は、北米では隙間商品の最たるものであり、BIのシェアは50%に達する。但し、大量輸送手段としての鉄道は米国で見直されており、今後鉄道車輌の発注は増えると予想されている。前述の如くボストン/ニューヨーク/ワシントンを結ぶ超高速鉄道AcelaもBI製であり、ニューヨークの地下鉄車輌もBI製が多い。
 
 PWCは、BIリクリエーション機器部門の中核的製品であるが、競争相手が限られている隙間商品である。シェアは1999年42.1%、1998年45.9%と高いが、業界全体の1999年の販売台数は106,000台であり、1998年の130,000台から18%下落し、ピークであった1995年の販売台数と比べると約半分である。PWC販売台数の減少はその後も続いており、一般的にはその先行きが憂慮されているが、BIでは楽観的な予測を立てている。BIでは、あと一年程度市場が小幅に落ち込み、それ以降5年間位年間105,000−120,000台程度で推移するとの販売予測を立てている。しかし、BIも、PWCが1995年当時の活況には戻らないことを認めており、Arctic cat社の様に撤退する会社も幾つか出てくることを予想している。BIのこれ迄のPWC事業の進め方は正に手堅い慎重なものであったが、今後も従来どおりの方針で、この事業を続行していくことにしている。つまり、Arctic cat社が撤退したからといって急にそのシェア分を埋め合わせるような事業拡大はせず、従ってディーラーシップを拡大する予定もない。BIのリクリエーション用ボート部門は、従来Rotaxエンジンを使ったボートを販売していたが、社内の事業としては最も小規模なものの一つであり、BIのポリシーからすれば、切り捨てられても仕方のない状況であった。しかしながら、BIはここにきてジェットボートの開発に乗り出した。ジェットボートの推進システムはPWCの推進ジェット技術が、そのまま使用可能であり、また、ジェットボートはPWCと一般スポーツボートの中間にあって、橋渡し的役を果たしている分野であり、競争相手も少なく正に隙間商品であることから、BIが過大な投資をすることなく既存の資源を活用してシェアを確保できる分野である。
 但し、ジェットボートの販売台数もPWCと同じように低迷の一途を辿っている。1999年の販売台数は5,600隻で、98年の8,500隻から34%減少している。ジェットボートの市場がピークに達したのはPWCと同じ1995年であり、14,700隻が販売された。
 
 北米市場でのジェットボートの大手は、BIとヤマハであるが、BIでは前述の如く家族向けに再設計されたジェットボートを大々的に売り出している。価格範囲はU.S.$16,500−18,000とランアバウトより$3,000程度安いため、初めてのボート購入者用、或いは家族リクリエーション用として魅力的である。BIのジェットボート販売上の問題点は、同社の既存商品であるオートバイ、PWC、スノーモービル、ATVと言ったスポーツ用機器のディーラーを通じて販売されているため販売台数が伸びないことであり、BIでは専門のジェットボートディーラーを3−5年かけて拡大する積極姿勢を打ち出している。
 
 PWCやジェットボート以外のボート分野では、BIの態度は非常に消極的である。PWCやジェットボート以外の分野では、BIがシェア1−2位に浮上するのは難しい。1−2位になるかどうかは別として、OMCの買収時、ボート部門も同時に買収すれば市場進出のチャンスはあったはずである。しかしながら、BIはそれをしていないというか手堅く避けている。OMCは、Evinrude、及びJohnsonの船外機のエンジン部門の他Chris-Craft、Four Winns等8つの有名ブランドを製造する米国第3位のボートメーカーであり、BIがその気になればGenmarがOMCボート部門買収のために支払ったU.S.$95milを出すことは容易であったと思われる。
 
 BIは、OMCの買収をGenmarとの共同入札とし、OMCのボート部門を従来OMCエンジン最大の顧客であったGenmarに買わせることにより、EvinrudeやJohnsonエンジンの販路をそのまま確保し、自社が得意とするエンジン分野での市場確保に注力する途を選択した。これはBIの経営ポリシーに沿ったものであるといえる。2001年2月9日シカゴ破産裁判所はBI/Genmar共同入札体のOMC買収を承認した(付録5)。その後GenmarとBIのとった態度は、積極と慎重の両極端であり、両社のポリシーをそのまま現したものであった。2月9日以前にGenmarのCEO JacobsはBI/GenmarのOMC買収は必ず成功するであろうと公言し、2月15日マイアミボートショーの初日の記者会見で、既存のOMCボート製品に保証を与えることを確約している。また、Genmarが買収したボート製造部門では、大部分のOMC元従業員がGenmarに再雇用されることを約束し、OMCの8ブランドを更に良いものとすることを確約している。OMCを破産に追い込んだ損失の大部分は、エンジン部門から出ており、OMCのエンジン部門を買収する会社は余程経営的にしっかりした会社でなければならないと誰もが考えていたが、2月13日、OMCエンジンの主力工場のあるイリノイ州Waukeganの市長Durkinは、OMCエンジン部門がBIの如く手堅く慎重な会社に買収されたことを歓迎するとのコメントを発表した。
 
 しかし、BIは買収決定後もOMCエンジンの生産再開を何処で行なうかに付いては非常に慎重である。慎重なBIが一層慎重にならざるを得ない理由は、OMCの残したウミを完全に出し切ってから再開しないと良い結果は得られないというものである。ウミの一つはOMC時代世に出たFichtシステムの欠陥が完全に払拭されないと新生BIのEvinrude及びJohnsonに悪影響を及ぼすのではないかというものであり、他のウミはWaukeganに幾つかある工場のうちレークサイド工場から流出した砒素が近くの海水浴場を汚染したことをWaukegan市が問題にしていることである。OMCの場合、OMCがこの環境問題を処理する能力はないので、買い手であるBIがWaukegan市、EPAのアドバイスを受け破産裁判所の決定に基ずく処理方針に従って処理することになる。
 
 レークサイド工場のクリーンアップ費用は、数百万ドルと予想されており、BIにとっては大きな額ではないが、BIとしてみればいろいろな面でOMCの古傷を背負った工場で事業を再開するのはあまり魅力のあることではないのは肯ける。舶用業界ではBIの対処方針を注目していたが、BIは決定を先延ばししてきた。BIは正式発表を延ばしていたが、12,000台のFicht付きEvinrudeの回収と共にOMCエンジンの製造再開はOMCの旧Waukegan工場を使用しないことに決めていたようであり、そのためウィスコンシン州Racineに408,000平方フィートの新工場用地を手配したが、その他の土地も考えているようであり何処でどの機種が生産されるかの詳細に付いては未だ不明である。








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