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5-2 製品と技術
(1) PWC
 BIの舶用製品の3本柱は、PWC、リクリエーション用ボート、及びOMCから買収したJohnsonとEvinrudeの船外機、さらにOMC買収に付随して取得したOMCが開発した2サイクルエンジン排気ガス浄化のためのFichtシステムである。Fichtシステムは、2サイクルガソリンエンジンの排気浄化システムとして単体で販売可能な製品である。
 
 第5-1図、及び第5-2表にBIのPWC2001年モデル及び仕様を示す。2001年BIは、PWCユーザーのファミリー化の流れを受けて、家族をターゲットにした4人乗りのLRVモデルの発売を開始した(これまでは3人乗りが最高)。LRVは、長さ13ft、巾5ft、荷物スペース180ガロン、燃料タンク25ガロン、2ストロークのRotaxエンジンを搭載した大型PWCである。BIは2001年シーズンに、LRV以外にGTS及びGTIの2つの新機種を投入している。GTS、GTIともに船体は名機種として評判の高かった2人乗りRXを3人乗りに改造したものであるが、GTIはプロ・ウェイクボード用であり、ドライブユニットに前進/中立/後進の機能が付いている。また、競技用ウェイクボードやウォータースキー曳航用のアクセサリーが付いている。一方GTSは、長さやエンジン馬力はGTIと同じであるが、家族のリクリエーション用として前進機能のみを有している。GTI、GTSは従来BIが販売していた3人乗りのGTX、GTX DI、GTX RFIより小型で馬力も小さいものであり、年々大型化し高額になりすぎたPWCの顧客層の拡大を目指している。
 
 GTXは、高性能3人乗り(High Performance Three Seater)、GTX DIは、最新技術3人乗り(Advanced Technology Three Seater)、GTX RFIは、豪華性能3人乗り(Luxury Performance Three Seater)のニックネームで販売されてきた製品である。但し、GTX DIに導入されたオービタル燃料直接注入技術やD-Sea-Bel防音システムは、現在では幾つかのSea-Dooに採用されている。GTX RFIはBIに言わせると、ロールスロイスの乗用車が水に浮かんでいるような豪華感のある機種で老人用と考えられている。2人乗りのモデルとしては、リクリエーション用としてGS、パフォーマンス用としてXP、及びそれよりやや大きめに作られたRX及びRX DIがある。
(2) 排ガス浄化等
 (1)で述べた各モデルのうち、2ストローク火花点火式ガソリンエンジンの排気ガス中の炭化水素(HC)の量を1998年モデルから徐々に削減し、9年後の2006モデル年で75%減にしようとする米国環境庁(Environmental Protection Agency: EPA)の基準を満たすためのオービタル燃料直接注入技術がエンジンに組み込まれているのは、2人乗りRX DI、3人乗りGTX DIである。この2モデルは、組み込まれたオービタルシステムがすでに2006年のEPAの基準を満たしているクリーンなエンジンである。
 
 2ストローク火花点火式ガソリンエンジンのHCを減らすのは困難を伴う。EPAは1985年、船外機メーカーに対して近い将来排出規則を公布するので技術開発を開始するように勧告した。EPAの勧告に従い、各船外機メーカーは基本的に燃料直接注入、触媒コンバーター、4ストロークの何れかを採用して対処している。
 
 燃料直接注入によるHCの減少率は大きい。この方法では、従来の2ストロークエンジンと異なり、排気ポートが閉まってからピストン直上の気筒の一部に燃料を直接注入するので、不燃焼ガスが排気ポートから排出されることはない。オーストラリアのOrbital Engine社は、空気式燃料直接注入システムを開発し、米国の船外機メーカーやPWCメーカーに売り込んだ。BI社がRotaxエンジンに採用しているのはこのオービタルシステムである。このシステムでは、エンジンに組み込まれた電子制御モジュール(ECU)が最適時に最適量の燃料を注入する指示を下すので、燃料の無駄がなくその分だけ排気も少なくて済む利点がある。BIのRX DI及びGTX DIでは燃費が30%減るといわれている。
 
 また、BIのPWCで特筆すべきことは、すべてのモデルに運航時の音が小さくなるBI特許のD-Sea-Belと名付けられた防音システムが組み込まれていることである。このシステムの中心は、Helmholtz Resonatorと称する長さの異なるパイプを組み合わせた共鳴器であり、PWCの各モデルの船体構造に合わせ排気システム中に組み込まれている。
(3) スポーツボート
 BIは、リクリエーション機器部門強化のため最近スポーツボート部門に進出した。14ftモデルは、Rotaxエンジンを搭載しているが、16ftモデルはBIとMercuryが共同開発したジェットドライブ推進である。BIは2000年シーズンに、デッキボートとしてはボート業界で初めてのジェットドライブ推進モデルを発売している。また、同じく2000年シーズンに、20ftランアバウトChallenger2000を発売し、BIは今や長さで14-22ft、馬力で130-240BHPのスポーツボートの品揃えを完成している。第5-3表にBIが販売に力を入れているジェットドライブボート5モデルIslandia、Challenger2000、Challenger1800、Utopia185、Speedstarの主要目、及び第5-4表にその技術仕様を示す。BIでは、上記のほかリクリエーション用製品として、ウェットスーツ、スポーツウエア、PWC用アクセサリー及び部品、ウエイクボードや水上スキー等の水上スポーツ遊具、潤滑油やクリーナー等の舶用小物を子会社(Bombardier Direct corporation)で販売している。
(4) Fichtシステム
 前述の如く、BIは、2001年初頭に米国船外機メーカーの一方の雄OMCを買収したので、OMCの船外機EvinrudeやJohnsonがBIの製品として発売される日も近い。またBIは、OMCが開発したFicht燃料注入システムの実施権も買収しているのでFichtもBIの技術となる。OMCではEPAの1985年の勧告後、社内にLEAP(Lower Emission Advanced Propulsion)プロジェクトを発足させ、最初の6年間は前述のオービタル燃料注入技術と同じものを独自に研究していた。1991年に至りOMCは、ドイツのFicht社が非常に簡単な燃料注入技術を持っていることを知り、そのアイデアの使用権を得るため、Ficht社の株式の50%を買収して傘下に収め、以後Fichtシステムの改良研究に注力した。この結果、1996年7月 150BHPのFicht燃料注入システムを備えたエンジン500台を他社に先駆けて出荷し、舶用業界の注目を集めた。OMCがFichtシステムを発表した3ヶ月後の1996年10月4日、EPAは2ストローク舶用ガソリンエンジンに対する排ガス規制を公布し、前述の如く2006モデル年迄にHC75%削減が強制されることとなった。
 
 Fichtシステムは、エレクトロニクス作動の高圧パルスシステムを用い、350psi以上の圧力でエンジンの各気筒に毎分7,000回を超す割合で直接燃料を噴霧状に注入するものであり、OMCでは90BHP以上のEvinrude及びJohnsonに採用する外、カワサキ及びPolarisに技術供与した。Fichtシステムのインジェクターは取り外しが可能であり、5つの部品を独立に交換することによって修理も容易な構造となっており、EvinrudeやJohnsonと独立したシステムとして商品化が可能である。OMCがFichtシステムを発表した1996年7月の時点はEPAの規制公布とのからみで絶好のタイミングであり、Fichtシステムのために$100milを投じたOMCの努力が称えられた。
 
 しかし、その後OMCは、不完全なまま市場に出したFichtシステムが一因となって2000年12月22日、自己破産手続きを申請した。勿論OMCの破産申請は内的、外的幾つかの経営上の悪要因が重なったものであるが、Fichtシステムの欠陥は手痛く経営を圧迫した。1998/99モデル年のFichtシステム付Evinrudeエンジンにおいて、計画回転数以下で高負荷運転する場合煤が堆積する問題が多発し、1999年初頭以来市場に出したFichtシステム付Evinrudeを全て回収せざるを得なくなった。
 
 その後、OMCはこの問題を徹底的に解明し、Fichtシステム自体には根本的な欠陥はないこと、気筒に噴射される燃料の分布を改善する新しいシリンダーヘッドその他の付随的設計変更でFichtシステムは完全となることを証明し、2000年モデルからFicht Ram Injectionシステムという名前でこの技術を再度売り出した。BIが買収したFichtシステムは、上記の如く完全となったFichtシステムであるが、BIは非常に慎重である。BIはOMCを買収後Ficht付きEvinrudeを更に12,000台回収している。


第5-1図 Sea-Doo2000年モデル
出典:BI
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第5−2表 Sea-Doo仕様
出典:BI
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第5-3表 BIジェットドライブ2000年モデル
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第5-4表 BIジェットドライブ仕様
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