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4-4 業績を向上させた要因
 CINTIの業績向上は、時勢の流れにうまく乗った結果と表現出来ると思われる。第一の流れは、1970年代の米海軍の民間調達の流れであり、第二の流れは、1990年代の高速船ブームの流れである。しかし、CINTIは夫々の流れの20年くらい前から、その流れが来ることを予想し、社内体制を整えていた。まず1970年代初期は、艦艇舶用機器調達の変革期であった。第2次世界大戦後、自由主義諸国で唯一強大な軍事国家となった米国は、同盟国を同じ傘の下に置くため、多くの援助物資を輸送する強力な商船隊を必要とした。第2次大戦後四半世紀を経た1970年代初期は、未だ冷戦の最中であり、米国は依然として強大な海軍と商船隊の保持を必要としたが、第2次世界大戦中の海軍工廠と民間造船所を同時にフル稼動させる程の建造需要を保てる状況ではなかった。
 
 1972年米海軍は、合理化のため以降すべての新造艦艇を民間造船所で建造することとし、海軍工廠の役割を艦艇の修理、改造、ロジスチックスに限定するとの決定を下した。舶用機器についても従来海軍工廠での内作が非常に多かったが、1972年前後から民間専門メーカーへの発注が急増している。例えば、プロペラメーカーのBird Johnsonは、1967年始めて米海軍LST用の可変ピッチプロペラを受注したのを皮切りに、以後1971年に20隻のLST用プロペラを納入している。更に1973年、Ingalls造船所に30隻一括発注されたSpruanceクラスの駆逐艦にCRP(Controlable Reversible Propeller)を納入したことは、艦艇プロペラメーカーとしてのBird Johnsonの名前を不動のものにした。
 
 CINTIの場合、海軍からの受注を獲得するのに若干時間がかかっている。Spruanceクラスの減速機は、フィラデルフィアギアーやウエスチングハウスと言ったこれまで海軍に納入した経験のあるメーカーのものが使われている。減速機に関しては、古くからGE、ウエスチングハウス等の民間会社の製品が使われていたが、CINTI浮上のきっかけは、ガスタービンや原子力推進システムに注力しなければならず、推進システムの一部に過ぎない減速機に過度に注力することを控えたGEやウエスチングハウス等大会社の方針が基本にある。またフィラデルフィアギア一等同規模の競争相手が少なかったことも幸いしている。しかしながら、CINTIの中にこれらの時流の流れをものにする力がなければCINTIの今日はなかったであろう。
 
 CINTIが海軍艦艇のプロジェクトに入るきっかけとなったプロジェクトは以下のとおりである。
・ TAO 187−TAO 187クラスは、Henry J. Kaiserクラスと称される18隻の艦隊支援油送補助艦であるが、その内2隻がキャンセルされたので、実際に建造されたのは16隻である。1985年10月5日のTAO 187の進水から1995年1月14日のTAO 204まで10年にわたる長期プロジェクトであった。建造はAvondale造船所14隻、ペンシルバニア造船所2隻となっている。このうちCINTIが納入したのは、Avondale建造14隻のうち7隻分の減速機である。本プロジェクトは、CINTIにとって初めての海軍への本格的納入であると共に、米国で艦艇用として、最大の表面硬化研磨歯車減速機の製造として意義あるものである。なお、TAO 187は満載排水量40,700トン、水線間長さ198.1m、推進主機中速ディーゼルColt-Pielstick10pc4.2V 2基 合計32,540SHP、2軸である。
・ AOE6戦闘支援艦−本プロジェクトは、4隻の戦闘支援艦に対する減速機の供給であり、1隻につき2基ずつの減速機が必要である。AOEは海軍補助艦で、AO(油送)、AE(武器輸送)及びAFS(戦闘消耗品輸送)の3機能を兼ね備えた船舶であり、支援すべき艦艇がガスタービン化されているので、その高速にマッチするよう本艦も4基のLM2500のCOGAGとして計画された。AOE6の満載排水量は48,800トン、速力26ノットで建造造船所はNASSCOである。本艦の減速機には米海軍初めてのFranco-Tosi逆転カップリングが付けられ、CPPの代わりに艦の運動/逆転性を与えている。
・ LCACエアクッション型揚陸艇−LCAC(Landing Craft Air Cushion)は、1984年から1997年まで91隻が就役した大型上陸用舟艇プロジェクトである。造船所は、Textron Marine、Avondale Marineの2社に分かれているが、CINTIは全トランスミッションシステムにつき全ての責任を負う主契約社となった。そのシステムとは、8台の減速機、軸、カップリングクラッチである。主機は、4基のTF40ガスタービン合計15,820SHPであり、他の4基のガスタービンは、リフト用の動力として用いられる。
・ DDG51発電機セット−CINTIは、誘導ミサイル駆逐艦Arleigh Burkeクラス28隻のガスタービン発電機セットの減速機を受注した。ガスタービンは、Allison50ガスタービンである。DDG51クラスは1886年から1999年まで28隻が計画され、駆逐艦建造計画としてはSpruanceクラス以降最大の隻数が建造された米海軍の主力駆逐艦である。この発電機減速機は、単段、垂直オフセット、平行軸で入力速度14,340rpm、出力速度1,800rpmである。
 
 上記の如く、CINTIが米海軍からの受注を獲得できたのは幸運な背景もあったが、1990年代の高速船ブームに乗ったことは、純粋にCINTIの自己努力によるものであった。CINTIは1970年代始めにカワサキ・ジェットフォイルのガスタービン用減速機を納入し、高速船用ガスタービン量産減速機の始祖を自称している。ジェットフォイルに使用されたガスタービンは、Allison501-KFで出力は4,000SHP、減速機は力速度13,380rpm、出力速度2,100rpmの平行軸減速機であり、1隻あたり2基の減速機が必要である。本減速機の1基あたりの重量は1,510ポンドと軽量であり、この30年間に110基以上が製造され、合計600,000時間以上の無事故運転を誇っている。
 
 CINTIは、海外への進出も積極的である。1988年、スウェーデン海軍が前述の次期最新鋭コルベット艦Visbyを計画したときもCINTI減速機は、最初からその設計に組み込まれていた。Visbyは長さ236ft、600トン、乗員43人の機雷敷設、対潜戦闘、掃海、海上戦闘を目的とした小型万能艦であり、推進方式はCODOG(Combined Diesel or Gas Turbine)である。高速時は2基の各5,400SHPガスタービン、低速時は16V2000TN90ディーゼルエンジンで航走する。機雷掃海を主務の一つとしているため、船体はPVCに炭素繊維/ビニールラミネートのコンポジットサンドイッチ構造で作られている。
 
 採用された減速機は、CINTIで高速船用に開発されたMA107SBSを改良したものである。CINTIは、1996年11月に受注契約にサインし、1998年ガスタービンメーカーのAllied Signalに1番機が出荷された。Visbyクラスは全体で4隻建造され、1隻に2基の減速機が必要であるため、CINTIでは全体のサポート用も含め10基の減速機を2001年中にスウェーデン海軍に納入した。製造は殆どCINTIの米国工場で行なわれたが、主回転ベアリングの一部は、BHS製である。また減速機とディーゼルエンジン、或いはガスタービンとのインターフェースを制御、及びモニターするCINTI開発の制御パネルCIN-TEC11も同時に納入されている。
 
 CINTIはまたスウェーデンコーストガードのパトロールボートKBV201クラスのCODAD(Combined Diesel and Diesel)推進用減速機も納入している。本推進機は親ディーゼル2,698HP(MWM TBD 620V16)、及び子ディーゼル966HP(MWM TBD 616V12)により構成され、減速機はダブル入力、シングル出力である。入力速度は2,100rpm、出力速度は750rpmであり減速機の重量は7,386ポンドとなっている。








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