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4-3 業界内における地位
(1) 基本的なポジション
 米国の減速機技術は、古くから米海軍艦艇の蒸気タービン推進用としてGE、ウエスチングハウス、フィラデルフィアギアといった伝統的な企業で培われた技術を基に発達してきたが、艦艇のガスタービン化と共にガスタービンと関連した技術が発達しているのが特色である。艦艇用ガスタービンの主流であるGEのLMシリーズは、一番小さいLM500でも6,000SHPの出力を有するが、それより小出力の分野ではCat、Allied Signal、Allison等のエンジンが中小型高速船等に使用され、今後とも需要が伸びるものと予想されており、各減速機メーカーは自社の減速機をこれら小型ガスタービンと組み合わせて量産品として販売している。例えば、Allied SignalのTFエンジンの場合は、エンジン出力4,000SHPまでのものを2-3節で述べたDDCが、4,000−7,000SHPの範囲のものはCINTIがそれぞれ担当して、ガスタービンと減速機のセットを量産品として売ってきた。
(2) 競合他社:Reintzes
 米国で数の多いフェリーボート、曳船といった各種内航船用の減速機には、Reintzes、ZFといった欧州系の企業が深く浸透している。Reintzesは、ドイツのHamelnにある舶用減速機の専門メーカーであり、創立は1929年と古い。創立以来エンジン出力250KWから20,000KW迄の75,000基の減速機を製造している。1967年、Reintzesは米国に進出することを決め、ニューオリンズのディーラーSennerとパートナーシップ契約を結んだ。契約後しばらくの間は、ガルフ沿岸の海洋開発サプライ船用の減速機が主であったが、1980年代中には、800基の減速機を出荷するまでになっていた。1990年代にはSennerの努力により米海軍やUSCGからの受注に成功している。例えば、1990−93年に、米海軍のサイクロンクラスの発電機用にWVS2232シリーズ52基、及び13隻の沿岸パトロールボートにアクティブ速力コントロールシステムが採用されている。更に、USCGの47ftモーター救命艇40隻用に80基の減速機が納入されたが、後に救命艇総数は100隻となっている。1967年のパートナーシップ契約以来Reintzesは米国市場に2,800基、合計出力4,350,000HPの減速機を輸出した。
 
 Reintzes減速機の基本製品は、WVS、WLS及びVLJの3シリーズである。WVSシリーズは逆転減速機であり、固定ピッチプロペラ用であり、WLSシリーズは可変ピッチプロペラ用、VLJシリーズはジェット推進器用である。これらのシリーズは、エンジン出力800−10,000KW用に設計されている。VLJ6831はIn Catで、Transmediterranea向けに建造された高速フェリーMilleniumに使用されている。2001年、Reintzesは、エンジン出力11,000KWまでのVLJシリーズを合計$500mil生産することになっている。
 
 1999年Reintzesはプロペラメーカーと共同開発したIPP(Integraded Propulsion Package)を発表した。これは同会社始まって以来の営業攻勢であり、特に作業船推進システムのマーケット分野の拡大に貢献するところ大であった。IPPシステムは、可変ピッチプロペラ、軸系、減速機、遠隔制御システムより成り立っている。IPPシステムに使用される全ての油圧システムは、減速機に組み込まれている。IPPシステムの最大の利点は、推進系のメンテナンスを一つの会社、即ち、Reintzesと連絡すれば、事故のあった場合IPPシステム全ての面倒が見てもらえるということである。
 
 2000年度、Reintzesは大型カタマラン用減速機市場の50%を受注することができた。2000年度のReintzesの総収入は、DM82mil($36mil)であり、舶用減速機だけを生産する会社としてはかなり大きいが、その90%は輸出である。また、2001年の総収入は前年比5%の伸びを予想している。総収入の90%を輸出に頼るReintzesは、世界各地に販売及びアフタサービスの代理店を持つ世界企業である。代理店はヨーロッパ全域、北米、南アメリカ(アルゼンチン、ブラジル、チリー)、アフリカ(南ア連邦)、中東(ドバイ)、アジア太平洋(シンガポール、オーストラリア、中国、韓国、バンコク)に配置されている。ReintzesのCINTIに対する弱みは、CINTIの如く大型の個別生産品から大量生産品まで、さらにエンジン種類もガスタービン、ディーゼルエンジン、組み合わせ機関等広い範囲の製品を作る体制になっておらず、サイズの限られたディーゼルエンジン用のみに限定されていることである。
(3) 競合他社:ZF、その他
 ZFもドイツに本拠を置き、セールス/アフタサービスセンターを世界中に展開して輸出を基本とするビジネスをしているという点はReintzesと同じであるが、米国では米国ZF(ZF of North America)という現地法人を設立して営業活動を行っている。ZFの製品巾や適用エンジンの範囲は、Reintzesに比べれば遥かに多い。ZFは、航空機用、舶用、陸用トランスミッションの一部として減速機を製造している。従ってエンジンも、ディーゼル、ガスタービン、ガソリン、推進器も固定、可変ピッチプロペラ、ウオータージェットに柔軟に適合させてシステムを構成している。ZFは、高性能プレジャーボートの150KWから300KWまでのディーゼルエンジン駆動船内外機、230KWから430KWまでのガソリンエンジン用トランスミッション、その他ヨット、パトロールボートのトランスミッションも製造している。ZFも最近の高速船ブーム乗り遅れない態勢をとっている。ZFは最近高速船用に出力アップしたトランスミッションを作り、8,200KW、1,150rpmのMTU及びRustonディーゼルエンジンとマッチさせている。ZF53000シリーズは非可逆で、ウォータージェット用である。ZFの大型減速機は、ドイツのFriedrichshafen工場で、小型のものはイタリアのPavora工場で製造されている。現在ZFで開発中の減速機は5.5MW、9,500rpmガスタービン用HSPT750モデル減速トランスミッションである。その他、ガスタービン用として、850KW、38,000rpmのHSPT325、及び1,750KW、26,000rpmのHSPT375モデルが作られている。
 
 スイスのMAAGも米国で活躍している。MAAGでは入力45MWまでの減速機の製造が可能であり、Stena HSS 1500カタマラン、フィンカンチェリMDV3000モノハル高速船等に用いられている。小さな減速機については、最近DDCと契約してAllied SignalのFT40、或いはFT50ガスタービン用減速機として供給されることが決まっている。
(4) 競合他社:GE及びCat
 GEが艦艇や商船の大型減速機を一世紀以上作り続けてきた老舗であることはすでに述べた。GEは最近、マサチューセッツ州Lynnにある減速機工場のGrinding、Lobbing検査設備をグレードアップするため多額の投資をしている。この結果、従来にも増してGE減速機のGrindingの正確さが向上し信頼性が高まると期待されている。GE減速機は、0.00005インチの歯車トーレランスで動力を伝達することが出来る。また、GEでは1.6m歯車Lobbing機、CNC歯車検査機等を導入し、1社でエンジン、減速機、軸、プロペラの全システムを供給出来る態勢を整えつつある。舶用機器部門の収益性に目を付けたリバイバルともいえる興味深い動きである。
 
 一方、Catが買収したMakは、ノルウェーのScanaと提携して、MakエンジンとScanaの減速機を組み合わせ、更に軸系、プロペラ、コントロールを含む推進システムの共同開発、製造、世界テリトリーでの販売契約にサインした。この様な推進システムの供給方法は、ライフサイクルコストを下げ、故障減に繋がるものであり、故障時のコンタクトが1社で済むと顧客から喜ばれている。MakがCatの傘下にあることから、本件により米国市場もかなりの影響を受けるものと思われる。
 
 なお、ドイツの減速機メーカーAdvanceとプロペラ及び軸系のメーカーWPMも、同じような推進システムパートナーシップを組んだ。Advanceは1,000KWから40MW迄の減速機、WPMは60KWから30MWに対応する可変ピッチプロペラを製造しているが、両社のパートナーシップでは当分の間、1,500KWから18.5MWまでの推進システムを開発して世界的に売り込む予定である。
 
 以上の如く、米国の減速機業界は需要も多いがヨーロッパ勢が多数入り込んでおり、米国産の中心的存在であるCINTIとしても安閑としてはいられない状況にある。








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