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4-2 製品と技術
 CINTIの製品は、前述のとおり、個別生産減速機、量産減速機、BHS減速機及び減速機以外の製品に分けられる。個別生産減速機は当然注文がCINTIの生産能力に見合うものでなければならない。CINTIの生産能力は大略下記である。
・ 歯切り加工−220インチ O.D.
・ 歯車研削 −158インチ O.D.
・ 丸削り加工−185インチ O.D.
・ 中ぐり加工、フライス加工、きりもみ加工
・ ブローチ(Broach)削り
・ OD/ID表面研磨
・ 溶接一鉄鋼及び非鉄金属、パイプ、特殊溶接
・ 熱処理
 
 CINTIの個別生産減速機の上限は大略50,000BHPである。次節で述べるAOE−6戦闘支援艦用の減速機は、LM2500 2基 52,500SHPに対するものであり、CINTIの個別生産品としては最大能力の製品である。当該減速機の出力回転数は140rpm、減速比は25.7/1、配置は平行軸である。 MDシリーズはシリーズ生産品であるが、かなり大型であり個別生産品に近い製品である。MDシリーズは中速ディーゼルエンジンを対象とした減速機であり、艦艇及び商船の推進用に使用される。次節で述べるTAO187艦隊支援油送船に使われたのもこのMDシリーズである(第4-1図)。TAO187の主機は、出力16,000BHPのColt Pielstickの10PC4.2Vであり、減速機の入力速度400rpm、出力速度95rpm、重量60トンとかなり大型である。
 
 最近CINTIを有名にしているのは、むしろ量産減速機の分野である。CINTIは1970年代の初期、カワサキ・ジェットフォイルの減速機を製造して以来、軽量・コンパクト・ガスタービン用、或いはディーゼルエンジン用の減速機のパイオニアを自称し、合計1,000台以上の同種減速機を高速フェリーボート、メガヨット、艦艇用に納入してきた。CINTIの量産減速機にはHDシリーズとMAシリーズがある。これらはいずれも高速船推進用、或いは発電機用として用いられるコンパクトで軽量なタイプである。HDシリーズはディーゼルエンジン、MAシリーズはAllied Signal、ロールスロイス、Cat、PW等の小型ガスタービンと組み合わせて使用される。
 
 HDシリーズは、その形状、容量により更にHDEシリーズ、HDSシリーズ、HDDシリーズに細分化されている。HDEシリーズのHDE45はディーゼルエンジン用に開発されたものであり、入力は3,500−10,000 BHPの範囲で、高速フェリー、パトロールボート等の高速船に使用される。HDE45は、アルミニュームケーシングの遊星歯車減速機であるが、減速比は、2:1から7:1迄の巾があり、同軸の設計となっているため、エンジンを低い場所に設置することが出来る。歯車には焼き入れ処理が施されており、振動や音が小さくなるよう研磨されている。HDE45の標準品は逆転機構付き、スラストベアリング付であるが、オプションとしてこれ等の付いていない製品も販売されている。
 
 HDS50は、入力5,400KW以上、入力速度600rpmのディーゼル推進高速フェリーボート用単入力平行軸タイプの減速機である。水平、或いは垂直オフセット形状の製品が販売されている。HDS50の単体重量は2,100kgであり、出力速度は750rpm、減速比2.8:1、本体重量は3,350kgとなっている。HDD3−240は平行軸タイプの減速機であり、入力6,000KW以下、ディーゼルエンジン2基からの2入力、出力速度は450/560rpmの2速である。このため、最高性能モード或いは燃料節約モードの2速運航が可能である。
 
 カナリー諸島で運航されている長さ114m、速力40ノットの単胴高速フェリーボートVolcan de TauroはCat3616ディーゼルエンジン2基をHDD3−240でCODAD配置している。同船の機関室には、このエンジンと減速機の組み合わせが3組配置されている。中心に配置された組の減速機からの出力は、ブースト用のウォータージェットに連結されている。残り4基のエンジンは各2基ずつ両舷に配置された巡航用ウォータージェットに連結されている。巡航用ウォータージェットに連結されたエンジンは、低速運航時はディーゼルエンジン1基のみで運転され、減速機の出力速度は低い回転数にシフトされ、燃料効率を良好に保つこととなる。HDD3−240もギヤーボックスはアルミニューム製である。
 
 MA107と組み合わせ可能なエンジンは、出力4,000−7,000SHPのTF−40(Allied Signal)、501(ロールスロイス)、Taurus(Cat)ガスタービンである(第4-2図)。入力速度は15,400rpm、出力速度は640−2,500rpm、重量3,637ポンド、単入力、垂直オフセット、2重減速、平行軸減速機で顧客の要望によりCODAG、CODOGその他のフレキシブルな形状設計に対応する。例えば、MA107SBSはCOGAGに使用される2入力平行軸減速機である。MA107SBSは最初スウェーデン海軍のVisbyクラスコルベット艦のために開発されたものであるが、現在では高速フェリー等に使用されている。
 
 MA635は、MA107をベースに諸寸法を25%縮小し、重量を2,000ポンド軽量化した減速機であり、機関室容積の小さい船舶向けの効率の良い減速機である。MA107は平行軸設計であるが、MA635は、2段遊星/平行軸設計で小さな容積で同等機能を得ている。MA635の出力速度は1,100−1,800 rpmである。MA635はAllied SignalのTF50を用いてメガヨットやパトロールボート用に開発されたものであるが、ロールスロイスやTaurusガスタービンにも適用可能な減速機として発売されている。
 
 BHSも遊星歯車減速機、平行軸減速機、複合減速機、ローダー回転ユニット、ガスタービン用アクセサリー、減速機、ベベルギアーユニット、カップリング、流体ベアリング等の製品を作っており、かつてはCINTIの先生格であったのでその技術水準は高い。BHSが高速フェリーボート用に製造している減速機は、STGタイプと呼ばれている。STGは平行軸、単入力、単出力である。主機はディーゼルエンジン、或いはガスタービン5,400KW、形状は垂直或いは水平の平行軸で比較的簡単な減速機である。
 
 CINTIが製造している量産減速機は舶用に限らない。前述の風力発電用減速機もその一例であるが、電気車輪ドライブ減速機(Electric Wheeldrive Gear Unit: EWGU)も量産減速機である。EWGUは360トン容量の非道路用鉱山トラックの車輪駆動用に用いられる減速ユニットであり、長さ144インチ、径59インチ、フランジ径80インチの円筒状のユニットで、モーター込の重量は20トンに及ぶ大きなユニットである。馬力は1,400BHP、車輪スピード最大91rpmでACモーター、組み合わせ星型/遊星列である。
 
 CINTIは、減速機以外の製品をあまり多く製造していない。前述の圧縮空気泡消火装置はその数少ない例であるが、どの程度にCINTIの業績に寄与しているかは不明である。CINTIの大型減速機の用途は製鉄用及び船舶用である。しかし、製鉄用の如き大型減速機の発注は連続的ではないので、CINTIとしては大型鉄構、機械加工能力が余る傾向がある。CINTIはこの余剰能力をCINTI-Fab事業部の名称の下地域産業に役立てていることは前述のとおりである。CINTI-Fabでは鉄鋼、ステンレス、アルミニウム、インコネル等の金属材料を用い、機械加工、溶接、組み立て、配管、熱処理等の設備を利用して、化学、石油、製紙、鉄鋼等の地場産業向けのタンク、小型プラント、機械部品、鉄鋼構造物等を製造し、CINTIの業績向上に役立てている。
第4-1図 MDシリーズ減速機
出典:CINTI
(拡大画面: 263 KB)
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第4-2図 MA107減速機
出典:CINTI
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