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4. Cincinnati Gear
4-1 企業実体
 シンシナティギア社(Cincinnati Gear Company: CINTI)は、1907年、オハイオ州Cincinnatiに設立された。設立の趣旨は、地域の機械産業界に減速機を供給することであったが、その後新しい技術を次々と導入し、現在では米国最大手の減速機メーカーに成長している。しかし未だに株式未公開のプライベートカンパニーであり、財務状況公開の義務はないのでその成長の度合いを財務諸表を用いて直接把握することはできないが、各種資料からみてその躍進ぶりは顕著である。
 
 CINTIの生産事業所は、Cincinnati、及びオハイオ川をはさんだ対岸のケンタッキー州Erlangerの2箇所に存在する。Cincinnati事業所は、本社機構と共に第1工場及び第2工場があり、CINTIの中心的製造拠点である。第1工場は、中小型減速機の製造工場で部品製造、組み立て、検査が一貫して行われている。第2工場は、精密部品の大量生産工場である。Erlanger事業所にはパワートランスミッションシステム事業部とCINTI-Fab事業部が置かれている。パワートランスミッション事業部は大型減速機の一貫製造を行っているが、CINTI-Fab事業部は、減速機とは関係が薄い別会社的存在の機械工場であり、大型機械の機械加工、組み立て、特殊溶接、配管等を行なって地域産業に貢献している。
 
 CINTIの従業員は、約320人(Cincinnati事業所260人、Erlanger事業所60人)と必ずしも多くはない。CINTIは、1990年代にドイツのSonthofenにあるBHSを買収してBHS-Cincinnatiとして運営を開始したため、CINTIの生産事業所は上記米国2ケ所及びヨーロッパ1ヶ所となっており、サービスセンターはCincinnati、Erlanger、Seattle、Sonthofen、Hong Kongの5ヶ所の外に地域販売サービス拠点が世界中の18ケ国に散在する国際企業に発展している。これらサービスセンター、及び拠点では、減速機の据え付け、海上試運転、オーバーホール、バランシング、非破壊検査、その他の一般検査とそれに伴う修理が可能である。また、それに見合うスペアパーツの在庫システムも自前で整備されている。これらサービスセンターでは、CINTIがBHSを買収する以前にBHSで生産されていたBHS Sonthofen、Krupp Essen、BHS-Voith、Voith-Heionheim等の減速機に対するアフタサービスも続けて行われている。
 
 CINTIは、1936年炭素硬化研磨減速機、1956年にはMAAG研磨及び検査機を導入し、Stoeckicht遊星歯車減速機の生産を開始した。1972年にはBHSとの間でStoeckicht減速機の設計/製造に関するライセンス契約を結んだ。CINTIは1982年ニュージャージー州Lebanonにある大型精密減速機の製造会社を買収し、1984年この工場にBHS-Hofler高度精密歯車研磨機を設置して稼動させたが、経営的にはうまくいかなかった。前述の如く1980年代後半は米国製造業にリストラの嵐が吹いた時代である。1988年、CINTIは会社の再編成を実施し、その一環として上記Lebanon工場の全ての設備をErlanger事業所に移し、再びCincinnati及びErlangerの2事業所体制となった。上記の如くBHSとは機械やライセンスの導入で密接な関係が続いたが、CINTIは世界戦略の一環として1990年代央にBHSを買収した。
 
 かくしてCINTIは、米国で減速機の設計、生産、検査、アフターサービスのすべてを実施出来る数少ない減速機メーカーとなったが、その強みは何といっても大型商船や大型艦艇の個別注文による減速機と高速船や小型船舶用の大量生産減速機を同時に供給出来る体制にあることである。個別注文品では、50,000BHPまでのもの、大量生産品ではガスタービン用のものが1,050−33,000SHP、ディーゼルエンジン用のものが4,000−20,000BHPとその製品幅は広い。CINTI製品の基本は何といっても1907年以来培われてきた個別注文品であるが、船舶推進、発電機、ドレッジャー用ドライブ、工作機、鉄道その他多くの顧客の多くの用途に合わせ減速機を作ってきた。
 
 一方、BHS-Cincinnatiは精密減速機の世界のリーダー格であり、ドイツの南部Sonthofenにある。製品は遊星歯車、平行軸、インテグラル式歯車装置、ガスタービン用アクセサリー、ギアーカップリング、ハイドロベアリング等多岐に亘っている。Sonthofen工場には、これらの製品を設計、製造、検査する全ての機能がそろっている。工場内のクレーン能力は、40トンあり大型の減速機の組み立てが可能である。
 
 CINTIは、1980年以来、風車発電機用減速機の研究を進めてきた。CINTIでは500KWから2.OMWの700基以上の風車用減速機を供給している。CINTIはこの部門で多くの経験があり、CINTIの1.5 MWの風力発電機は、この永年の経験の蓄積の下に発表された高性能機であり、入力速度20rpm、出力速度1,440rpm、増速比72:1、重量30,000ポンドである。この風力発電機は世界中何処に据え付けられても24時間サービス体制が可能である。
 
 CINTIは、最近減速機以外の分野にも進出しようとしている。その第1段として圧縮空気泡消火装置を発表している。このシステムは、ポータブルと車載用の2種類がある。取扱いは簡単であり、エンジン駆動によりCAF(Compressed Air Foam)ポンプを作動させる。ポンプが空気、水、泡を混合して消火泡を噴出させるもので、従来の製品のように水ポンプとエアコンプレサーを別々に作動させる必要はなく、非常にシステムが簡単であるという特徴を有する
 
(プロジェクトマネージャー制度)
 CINTIでは大型プロジェクトについて、受注時から引き渡し時迄全ての面で責任を負うプロジェクトマネージャーが任命される。プロジェクトマネージャーは顧客の意向を聴取し、それに合わせて最良のものを作り出すため、技術、設計、購買、製造等すべてのプロセスにおいて社内のどの部門の協力を得ることができ、必要なプロジェクトチームを編成し、トップマネージメントをどのように巻き込むかを決めていく。CINTIでは1970年からこのプロジェクトマネージャー制を採用しているが、品質、コスト、納期確保等の観点で有効に機能している。但しこのプロジェクトマネージャーは、組織の中にある専門家の助力を借りることが義務付けられており、独断に陥ることのないようなシステムとなっている。
 品質の保証については、トップマネージメント直属の組織により監査される。この品質保証部は、ISO 9001に沿った品質基準を確保することを目標としている。品質保証部が作った品質保証マニュアルは、更にABS、ボーイング、GE、NASSCO等の外部機関の監査を受けて完全なものとしている。品質保証部長は、全プロジェクトマネージャーに品質保証上の決定を守らせる権限を持っている。品質保証マニュアルは最低6ヶ月に1度は見直され、監査される。このマニュアルは材料から始まってあらゆるサービスの質が規定されているが、契約書とマニュアルが相違する時は、勿論契約書が優先する。プロジェクトマネージャーはマーケテイングから出るが、そのグループのチーフエンジニアはエンジニアリングVPと相談しながらプログラムのスケジュールを保つ責任を負わされている。








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