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3-4 業績を向上させた要因
 LMシリーズが成長した理由は、米海軍が艦艇用として独占的に使用したことに尽きる(付録2)。しかし、それを可能にしたのはやはりGE全体の企業としての活力である。GEが今日の優良企業に成長した原因は「人を得た」ことである。2001年8月31日、過去20年間GEのCEOとして君臨し、GEを世界の優良企業に仕立てた立役者、Jack Welchが引退した。ウォール街は彼を20世紀で最も影響力のあるビジネスリーダーとして賛辞を惜しまなかった。Welchは、この20年間で機械・器具のメーカーに過ぎなかったGEを、産業とファイナンシャルサービスのコングロマリットに成長させた。WelchがCEOとなった20年前のGEの総資産は$13bilに過ぎなかったが、今日では$490bilの巨大企業となっている。現在のGEは、巨大なサービスコングロマリットが、事業の根幹として若干の製造も行なっているという表現が適切な会社である。
 
 Welchのことを書いた本は何冊も出版され、ビジネスマンの間でよく読まれているが、その自伝「Jack Straight from the Gut」の著作でWelchが受け取った前金は$7.1milであり、クリントン前大統領が自らの回顧録で受け取った前金に匹敵するものである。GEがこのように伸びたのは、Welchが機械屋でなかったことと関係があるかもしれない。Welchは、約40年前イリノイ大学で化学工学の博士号取得後、GEに入社してGE Plasticsに配属され、この部門を最も成長性の高い部門に育て上げた。第3-1表で見るごとく、GEの総収入を部門別に高い方から並べるとGEキャピタルサービス$66.2bil(50%)、発電システム$14.9bil(11.25%)、産業製品、及びシステム$11.8bil(9%)、航空エンジン$10.8bil(8.2%)、技術製品$7.9bil(6%)、プラスチック$7.8bil(5.9%)、放送事業$6.8bil(5.2%)、器具$5.9bil(4.5%)となっており、昔の機械メーカーの面影はあまりない。
 
 Welchは、CEOに就任してからの5年間に数万人の首切りを断行し、「ニュートロンJack」という有り難くないあだ名を付けられている。その意味は、冷戦の最中であり、ニュートロン(中性子爆弾の中性子)で人は殺せるが建物は残るというあてつけである。つぎにWelchが実施したのは、業界で1−2位を確保していない部門の整理である。これらの大胆な改革の結果、GEから官僚主義的悪弊が取り除かれ上下の風通しが良くなったと言われている。GEには上から下まで企業家の精神がみなぎるようになった。1986年Welchは、RCAを$6.4bilで買収し、全国テレビ網NBCを手中に収めた。その前後、GEは数百の企業を買収しているが、その中には当然失敗したものもある。例えば1981年に買収したコンピューター設計会社Calmalは年間$50bilの損失を計上し、1988年に売却している。
 
 Welchの最大の功績は、人を育てたことであると言われている。Welchの下で役員を勤めた人でFortune500の会社のCEOになった人は多い。このように逸材の揃っているGEでWelchが後継者に選んだのは、1997年から医療機器システム事業部を率いてきた、Jeffrey Immeltである。彼は、1982年ハーバード大学のMBAを取得してGEに入社し、Welchと同じくGE Plasticsに長く在籍している。しかしながら米国経済が停滞し、本格的な回復は2002年第3四半期以降といわれている現在、GEが今後とも業績を向上させていけるかどうかウォール街は見守っている。予期せぬテロ問題が発生したこと等により、政治情勢も従来から変化しつつある。前節で述べたように、2001年7月GEはHoneywellの買収に失敗している。WelchはHoneywellの買収のため引退を延ばしていたが、GEもEUの政治力には勝てなかった。さらに最近の情報では、マイクロソフトがHoneywellの買収に動いているという変わった事態となっている。
 
 Welchの経営手腕を称えない人はいないが、時代が良かったことも事実である。GEの株価はこの20年間で4000%も上昇している。これから先の20年間でこのような事態が再び起こるとは想像し難い。今後のGEの業績向上の度合いでWelchの真価が問われるかもしれない。Welchの後任は、Immeltを含む3人の役員の間で争われたが結果として年齢が最も若い45歳のImmeltが選ばれた。他の2人は51歳と52歳であり、CEOは20年実力を発揮しなければならないというGEの創業以来の社是とは相容れない年齢である。因みに、ImmeltはGE123年の歴史で9人目のCEOであり、一人平均15年となっている。
 Immeltの競争者であったNardelliはHome DepoのCEOに、McNerneyは3MのCEOに転出しているが、両社はいずれもFortune500の会社であり、この人事によりGEキャピタルサービスの顧客が増えることは間違いない。GEキャピタルサービスの顧客は殆どFortune500の会社で占められており、人を育てて成長企業のCEOに売り込み、その見返りとしてGEも成長していくというWelchのやり方には感心させられる。
 
 勿論Welchもやり残したことは多数存在する。経営専門家の多くは現在のように成長したGEが未だに洗濯機や冷蔵庫を売っていることに戸惑いを感じている。GEの家電部門は、現在全米No.2であり収益性も高くWelchも切るに切れなかった分野であるが、Immeltがどのように対処するかが注目されている。Immeltは、GEの一層の革新をハイペースで実現すること、インド及び中国におけるR&Dセンターの活動を促進すること、成長性ある世界マーケットの開拓、デジタル時代にふさわしいオンラインコスト低減等によりGEの基盤を強化していくことを訴えている。GEが今後Welchの時代の成長率を保てるとは誰も思っていない。Edward JohnのアナリストWilliam Fialaは、GEに関する報告書の中でGEが売上を10%伸ばすためには2001年は$13bil、2002年は$14.3bilの新規ビジネスを発掘する必要があるとして、今までどおりの年率10%の成長が不可能になっていることを示唆しているが、これに対し、Immeltは「GEは一つ一つが成長の余力を残しているコマ切れの集団であり、この余力を引き出して収益に結びつける社員の偉大なアイデアの一つ一つが$1bilの価値がある」と言っている。
 
 事実Immeltは、CEOに指名される前の3年間GE医療システム事業部のトップであったが、この間画像診断装置等の医療機器の営業を拡大し、年間売上$4bilであった事業部を$7.9bilの事業部に成長させている。この成長は、医療機器の販売後の面倒をみるソフトウエアや情報をビジネス化したところによる。即ち、販売後の機器のインターネットによるモニタリング、請求書や業者のデジタル記録作成アプリケーションの販売といったものである。勿論Immeltは、この期間に医療機器自体の改革を技術面、及び販売面から行なっている。医療機器の画像をより鮮明により早く映し出すために全てデジタル製品とし、資金不足に悩む病院には有利な長期支払い条件を与えることにより大病院を次々と顧客に加えると共に、デジタル製品の販売促進にとって障害となる多くの会社を買収したりした。彼の努力により3年間でGEのマーケットシェアは、25%から34%へと急増した。Welchは、顧客の要望を取り入れて製品化するImmeltの能力に感嘆したといわれている。
 
 米海軍は、艦艇運用の経済性を考慮し、21世紀の海軍の推進システムとして、第3-3図に示す統合動力システム(Integrated Power System: IPS)を採用する考えを推進してきた。米海軍は、21世紀の海軍が活躍する場は世界人口の60%が居住する沿岸から60マイル以内の地域と予想し、これを沿岸海軍(Litoral Navy)と呼んでいる。米海軍は、2004年度以降発注予定の沿岸駆逐艦DD21から順次IPSを採用し、全部の艦をIPSとする予定で超伝導モーターの開発(第5章参照)等準備を進めているが、IPSはLM2500を発電に用い、その電力で推進を始めとする艦内全てのシステムを作動させる全電動システムである。DD21自体は、船価が高すぎるためブッシュ政権になってから発注中止の方向で再検討されているが、IPS自体の考え方が残るか残らないかでGE Marineの今後はかなり影響されると思われる。
Integrated Power System
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第3-3図 米海軍のIPS
出典:GE








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