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3-3 業界内における地位
(1) GEがガスタービン市場を制覇するまでの経緯(Platz & Whitneyとの競争)
 GEは、大型ガスタービンについて、業界第1位の座を占めるまでに少なくとも2度の危機を経験している。1つは、米海軍がガスタービンを主推進機関として採用しようとした初期におけるPlatz & Whitney(PW)との競争であり、他は1990年代初期にロールスロイスとウエスチングハウスの一般舶用機器事業部(当時)を組ませて次世代中間冷却復熱式ガスタービン(Intercooled Recuperated Cycle Engine: IRC)を開発し、DDG Arleigh Burkeに搭載しようとした時である。
 まず、初期におけるPWとの競争を考察する。1960年代初期米海軍は、空軍のJ−75ターボジェットや初期のボーイング707のJT4ターボジェットに使用されていたPWエンジンを舶用化し、14,000 SHPのFT4Aガスタービンを完成させた。海軍は、1963年計画中の駆逐艦Seahawkの推進システムを、FT4Aガスタービン4基、ディーゼルエンジン4基からなる最大出力56,000SHPのCODOG(Combined Diesel or Gas Turbine)として計画したが、Seahawkの建造はキャンセルされた。もしSeahawkが建造されていたならば、GE Marineの今日は異なったものになっていたかも知れない。当時の海軍のFT4Aに対する熱の入れ方はすさまじいものであった。海軍は空軍から5基のJ−75を入手し、舶用に改造して従来にない熱心さでテストを実施した。過酷な発停・加速テストが繰り返され、劣悪な品質の燃料が使用された。勿論衝撃テスト等艦載機器としての全ての性能がテストされ、FT 4Aは駆逐艦の推進主機として充分な性能を持っていることが立証された。FT4Aの研究成果は米海軍内では実を結ばなかったが、デンマーク海軍は、米海軍の援助により、Peder Skramクラスのフリーゲート艦にFT4Aを搭載し、CODOG艦として就役させている。しかし、米海軍のFT4Aに対する思い入れは簡単には消えず、その後軍用貨物船キャラハン号の主機として採用されることになる。
 
 米海軍は、SeaHawk以降も毎年のようにガスタービン推進駆逐艦を提案している。これらは全てFT4Aによる設計であったが、燃費性能が悪いため機械区画の容積は小さくなるものの燃料タンク容積が大きくなり、結果としてガスタービン艦は蒸気タービン艦よりも大きくなってしまうという結果となっていた。これに加え、1960年代後半は、ベトナム戦争の重荷が米国経済を圧迫していた時期であり、ジョンソン政権は殆ど全部の駆逐艦建造計画をキャンセルしている。陽の目を見たのは、ノックスクラスのDEであるが、これも初期の建造計画46隻のうち10隻はキャンセルされ、キャンセルされた中にはFT4Aを使った設計のものが含まれていた。
 
 しかし、世界情勢の変化により、米海軍の艦船はガスタービン化されることとなった。第2次世界大戦後から1990年初頭までの冷戦期間の前半は、軍事技術的にはむしろ旧ソ連の方が優位を示していた時代である。米国は、宇宙開発、戦略ミサイル駆逐艦、ガスタービン駆逐艦等全ての分野で遅れをとっていた。1956年、旧ソ連潜水艦が陸上ミサイルを搭載し米国の安全を脅かしていたにもかかわらず、米海軍は航空母艦中心主義を脱することができず、原子力航空母艦と原子力ミサイル巡洋艦3隻からなる原子力艦隊を建造して無寄港世界一周を達成するなどして海軍力を誇示していた。1962−63年のキューバ危機は、航空母艦中心主義の戦略思想の不備を露呈し、米海軍も高性能の対潜水艦戦闘能力を持つミサイル駆逐艦及び中距離弾道ミサイルの発射が可能な原子力弾道ミサイル潜水艦中心の戦略へと移行することとなった。駆逐艦に要求される最も大切な2つの性能は、運動性能と消音性能であるが、この2つを同時に満たしてくれる機関として現在のところガスタービン以上に優れたものは見当たらない。
 
 GEの航空転用型ガスタービンは、第3-3表に示すごとく1959年LM1500のハイドロフォイルへの適用、1966年LM1500のパトロールガンボートへの適用とロールスロイスやPWに比べ遅れをとっていたが、1969年海軍は前述のキャラハン号のFT4AガスタービンをGEが新しく開発したLM2500と交換して海上試験に入ると共に、本格的な陸上試験を開始した。
 
 米海軍がガスタービンを本格的に採用したのは、1972年Litton Ingalls造船所に30隻一括発注されたLM2500搭載のSpruanceクラス駆逐艦からであるが、LM2500がすんなり決まった訳ではない。米海軍はSpruanceクラス発注に際し、Litton、Bath、ジェネラルダイナミックス(GD)3社に競争設計させると共に、当時の海軍艦船技術センター(Naval Vessel Engineering Center: NAVSEC)に於ても試設計を実施した。
 
 Littonは、LM2500のCOGAG、CODAGの他、蒸気タービン推進等50種類以上の推進システムを比較検討の結果、LM2500を4基使用したCOGAG(Combined Gas Turbine and Gas Turbine)が最良として最終的に提出した。Bathは、LM2500、或いはFT4Aガスタービン4基によるCODAG、GDはLM2500ガスタービン4基のCODAG、NAVSECの設計は蒸気タービンであった。船体のLBDはBathが一番大きくLitton、GDの順であった。しかし海軍の興味は最初からLittonとBathに絞られていた。当時、海軍は実績の無いLM2500には一抹の不安を感じていたようであり、経験のあるFT4Aの方が信用されていた。その後海軍はLittonに対し、LittonのLBDでFT4Aを使用した場合の再設計を命じている。その結果、LittonのLBDでは3基のFT4Aしか搭載不能であることが分かり、LM2500の高性能と容積効率の高さ、従って全体コストとコスト効率の観点からFT4Aの使用は見送られ、SpruanceクラスはLittonのLM2500によるCOGAG艦に決定された。
(2) GEがガスタービン市場を制覇するまでの経緯(ウエスチングハウスとの競争)
 GEが大型ガスタービン機関で業界第1の座を占めるための第2の危機は、前述のウエスチングハウスによるIRCの開発である。米海軍は、1991年以来ウエスチングハウスとロールスロイスを組ませ、IRCエンジンの開発を進め、成功した場合はArleigh Burkeクラスの駆逐艦にLM2500に代わって搭載の予定であった。この裏には、当時英国が米国から$5bil相当の兵器を買っており、何か見返り品を作らなければならないという事情があった。IRCエンジンは1994年のテストで熱交換器が破裂する等の事故があったが、次第に斜陽化するウエスチングハウス一般舶用機器事業部の存続と英国に対する配慮から、1996年に至つてもIRCエンジンの開発費が予算に入れられている。IRCエンジン自体の開発は完全な失敗ではなかったが、容積が大きかったためArleigh Burkeクラスへの搭載は見送られ、再びLM2500が返り咲いて艦艇におけるGEの独占が確定した。但しIRCエンジンは「おわりに」において述べるごとくNorthrop Grummanにより再び蒸し返される可能性が残っている。
(3) Honeywellの買収失敗
 現在世界的にみて大型航空転用型舶用ガスタービンエンジンへの進出が可能なメーカーはGE、PW、ロールスロイスの3社である。この3社は何かの機会には必ず激しい競争を展開してきた。2000年GEは、Honeywellを買収してガスタービン制御システム、プラスチック、産業システムの分野の業績をより向上させることを目論んだ。GEのHoneywell買収のもう一つの目的は、小型ガスタービン分野への進出であった。
 
 Honeywellは、1999年、小型ガスタービンの分野で最もシェアの多いAllied Signalによって買収された。しかし、Allied Signalは知名度の高い被合併会社Honeywellを合併後の社名とした。Allied Signalを世界中で120,000人の従業員を擁する大会社に成長させ、Honeywellを買収したのは、長い間GEのCEO Jack Welchの下でNo.2を勤めたLawrence Boddidyである(Jack Welchは20年間、GEのCEOとして君臨しその資産を$13bilから$490bilに引き上げた人として有名である)。2000年4月BoddidyはHoneywellのCEOの職をAllied Signalが買収する以前のHoneywellのCEO Michael Bonsignoreに譲ったが、その直後からHoneywellの株価は下がり、化学製品、航空機エレクトロニクス、ホームセキューリティシステム等の売上が減って収益目標は毎期未達となり業績は低迷した。
 
 Honeywellの買収を最初に申し出たのは、PWの親会社のユナイテッドテクノロジー(UT)社であったが最終の土壇場になってGEがUTの指し値を上回る$42bilでの買収を申し出た。GEの申し出は直ちに連邦政府に認可され、GEのHoneywell買収は確実と思われたが、ヨーロッパ連合(EU)から異議が申し立てられた。GEがHoneywellを買収すれば、ガスタービンの分野において大型から小型迄全ての出力の製品を持つことになり、更にそれらがHoneywellのエレクトロニクス制御技術と結びついて、PWやロールスロイスが対抗出来なくなるというのがその理由である。この10年間世界中における年商が合計$215milとなる合併に対して、EUは独占禁止の審査権を発動している。これらの結果GEのHoneywell買収は、2001年7月3日EUにより阻止され、Honeywellでは即日CEOとしてBoddidyが返り咲いて再建に取り組むことになった。
第3-3表 GE LMシリーズ採用の歴史
出典:GE
LM Marine Milestones
 
1959 LM1500 Selected for H.S. Denison Hydrofoil
1966 LM1500 First of seventeen U.S. Navy Patrol Gunboats
1969 LM2500 Selected for GTS Adm Callaghan Cargo Ship
1974 LM2500 Selected for Italian Navy's High Speed Frigates
1975 LM2500 U.S. Navy Spruance Class Destroyer
1977 LM2500 U.S. Navy Pegasus Class Patrol Hydrofoil Missile Ship
1977 LM2500 U.S. Navy Perry Class Patrol Frigate
1978 LM2500 Royal Danish Navy KC72 Corvette
1980 LM2500 U.S. Navy Kidd Class Destroyer
1982 LM2500 U.S. Navy Ticonderoga Class Cruiser
1987 LM500 Royal Danish Navy Fast Patrol Boat
1987 LM2500 100th LM2500-powered U.S. Navy ship
(Christening of "Leyte Gulf"Cruiser)
1988 LM1600 Selected for High Speed Yacht
1991 LM500 First Commercial Marine Application Far East Hydrofoil, Foilcat
1991 LM2500 U.S. Navy Arleigh Burke Class Destroyer
1991 LM2500 U.S. Navy AOE-6 Auxiliary Ship
1992 LM1600 Destriero Sets New Trans- Atlantic Speed Record
1992 LM2500 Selected for Fast Ferry Boat, Aquastrada
1993 LM2500 Selected for Sealift Ships
1993 2xLM2500 and
2xLM1600
Selected to Power World's Largest High Speed Ferry, Stena HSS
1994 LM1600 Selected to Power the High Speed Ferry Seajet 250
1995 LM2500 Selected to Power the Tirrenia MDV 3000 Fast Ferry
1995 LM2500 Selected for Thailand Navy Helicopter Carrier
1997 LM2500 Selected for Spanish Navy F100 Frigate
1997 LM2500 Selected for German Navy F124 Frigate
1998 LM2500+ Selected for RCCL & Celebrity Cruise Liner
1998 LM2500 Selected for Austral 98m Catamaran
1998 LM2500+ Selected for SNCM Corsaire 13000Fast Ferry
1999 LM2500 Selected for South African Corvette (WARP)
1999 LM2500+ Selected for NEL Corsaire 14000 Fast Ferry
2000 LM2500+ First Celebrity Cruise Ship Millennium Enters Service
 








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