3-2 製品と技術
GEは、第3-1図に示す如く多くの舶用機器を製造し、これらの数千の部品を供給する能力を持っている。ガスタービンが艦艇の推進システムの中枢を占める以前の大型艦艇の推進システムは殆ど蒸気タービンであり、GEの蒸気タービンはその減速機とともに業界に君臨する存在であった。また、GEは、世界一のAC/DCモーターの生産会社であり、年間35mil個の各種モーターを生産している。製造しているACモーターの最大のものは、出力45,000KW、DCモーターのそれは、15,000KWであるが、これ等AC/DCモーターは艦艇及び商船の主推進用及びスラスター用として数多く供給されてきた。例えば、カナダコーストガードのクラス1200砕氷船はGEのACモーター/パワーコンバーター推進であり、また米国に多数存在するCasino船の多くは、GEのDCモーター推進を採用している。前述の如くGEはディーゼルエンジンも製造しているが、その殆どは機関車用であり、舶用としての数は多くない。
推進システムの中では何といっても舶用ガスタービンがGEの製品の中核である。GEは、第3-2表、及び第3-2図に示す出力6,000SHPのLM500、20,000SHPのLM1600、33,600SHPのLM2500、40,500SHPのLM2500+、57,330SHPのLM6000の5種類の航空転用型舶用ガスタービンを製造している。航空機用ガスタービンを舶用とするための主な変更点は、ガスタービン翼等を含め、システム全体を厳しい海洋環境に耐えるよう材料・設計変更を実施すること、防音やメンテナンスのためにエンジン全体を第3-2表に示すようなモジュール内に格納すること、及び耐衝撃性その他(その使途の多くを占める)艦艇に必要なコントロール性能等を付与することである。さらにガスタービンは、大量の空気を必要とするため、航空機の場合には容易に得られる空気を甲板上の吸入口からダクトを通して導いてやる必要がある。また、空気の吸入口には吸塩/吸湿のためのデミスターを設置し、排気は防音のため消音装置を介して大気中に放出するという若干手の込んだ仕組みが必要になる。
LMシリーズは、一般的ガスタービンの利点、即ち軽量、小容積、高信頼性、振動/音/煙/NOxが少ないこと、メンテナンスが容易であること、自動運転等が可能であること等を当然備えているが、それ等はあくまで他エンジン、特にディーゼルエンジンとの比較であり、また、ガスタービンの弱点である燃費経済性の悪さを克服し、低NOx性といった上記ガスタービンの利点を更に良くすることが他のエンジン、他社との競争に打ち勝つための技術開発項目であった。LM2500は、次節で述べるFT4Aに比べればもともとより軽量であり、小容積に纏められている。ガスタービンは一般に燃料消費量が多いことが最大の欠点となっているが、出力・効率の向上は一貫して重要な技術開発項目であった。GEがLM2500を発売した1970年代初頭の出力は24,000SHP、熱効率は35.8%であったが、その後パワータービンの設計変更等により1990年には出力31,200SHP、熱効率37.66%に達していた。現在のLM2500の公称出力は上述の通り33,600SHPである。
1990年代に入りGEは、LM2500の大幅改造を実施してLM2500+のブランドで1996年販売を開始し、1998年以降クルーズ船や高速フェリーボートに採用されている。LM2500+の公称出力は40,500 SHPでLM2500の21%増、熱効率は38%に達する。LM2500+の主な設計変更点は、コンプレッサーの段数を17段から18段へと1段追加したこと、各段の翼形状を変更したこと、空気取り入れベルマウスやパワータービン翼の設計変更により空気力学特性を向上したこと、パワーアップに耐えられるよう全面的に材質を変更したこと等である。特に、コンプレッサーの設計変更による性能の向上は著しい。コンプレッサーは、空気取り込み側に広幅翼の「ゼロ段」が追加され、第1段も広幅翼に変更され、残り16段もエアロフォイル断面翼が採用された。コンプレッサーの変更による取り込み空気量の増大は20%に達する。コンプレッサーの変更により、LM2500+は、LM2500より13.5インチ長い全長22.5フィート、重量はLM2500の10,300ポンドより800ポンド多い11,100ポンドとなっている。
パワータービンには長さの変更を伴うような変更は加えられていないが、1段から6段の出力翼はコンプレッサーの変更に伴う11%の全体流れ能力向上に見合うようエアロフォイル断面翼に変更された。LM2500+の大きな特色は、排気ガスがLM2500に比してクリーンなことである。LM2500+はガス、液体燃料、及び混焼が可能である。排ガスは水或いは蒸気の注入、或いはGEが新たに開発したドライ低排出燃焼機(Dry Low Emission Combuster: DLEC)によりコントロールされる。燃焼機をDLECとするか、LM2500と同じタイプとするかは顧客が選択することができる。
1997年GEは、LM2500+を上回る高出力ガスタービンLM6000の舶用化のための工場テストを完成した。工場テストの結果、同エンジンは1,800−3,780rpmの速力範囲で高出力を発揮でき、舶用エンジンとして最適なものであることが判明した。1998年には、本エンジンを液体燃料で運転してDLECの性能を確かめるテストが行なわれ、環境上好ましいエンジンであることが確認された。LM6000の設計は非常にユニークであり、出力をホット側からもコールド側からも取り出せるようになっている。LM6000は産業用としては1992年から使われており、1997年からは高出力型LM6000が一般的になっている。1997年までに使われた産業用LM6000は115基であり、その使用実績から高い信頼性が証明されている。1998年に入り、舶用化されたLM6000の市場に関し、検討が実施された。好ましい一つの使い方は、LM 6000をディーゼル推進の単胴、或いは双胴の高速フェリーボートのブースター用として使用する案であり、他は20,000KW以上の動力を必要とする大型貨物船の推進機関として使用する案である。勿論合計280,000SHPを必要とする空母にも利用可能であるが、必要基数が多くなりすぎるという課題がある。
LM6000の最大の利点は、その出力に比較してコンパクトであり、燃料の節約巾が大きいことである。LM6000の寸法は第3-2図に示す通りLM2500+に比し、長さが2フィート長いだけである。またそのモジュール寸法は、36x12x13フィート、重量は21トンとなっている。LM6000は同じ出力のディーゼルエンジンに比し、音も振動も遥かに小さく、熱効率も42%と十分なものとなっている。
LM6000は、DLECのオプションが可能である。DLECの特色は下記である。
全LMシリーズの新製品に即適用可能
・ 既存のLMシリーズにも適用可能
・ 広域の出力レベル及びエンジン吸入空気温度範囲でNOx及びCOが減少
・ DLECが付いていてもいなくても燃焼機の寿命は同じ
・ 可変速及び低速の何れにも適用可能
ガス燃料炊きLM6000のDLECシステムの工場テストは、1994年の初頭にはじまり、1998年5月に終っている。次のステップは、混焼DLEC LM6000の開発である。この場合のガスとしては天然ガス、液体燃料は蒸留燃料が選ばれている。ガスと液体は、エンジンを停止しないで切り替えられなければならない。1998年中には全てのテストを終り、このエンジンも市販されている。LM6000は今迄LM2500で築かれた出力、効率、コンパクト等のレベルを超えた新世代のガスタービンである。
前述の如くGEはハードウエアの製造と共にサービスを付加して販売することに徹底している。そのような意味でGE Marineの製品はサービスであるということができるが、顧客の考えを聞いて練り上げた推進システムのハードの全てをGEが製造している場合は少ないので、最適なものを選んで提供する商社行為も含まれる。しかしサービスの大部分は、GEの製品を顧客の要望に沿って改造し、最適な組み合わせを見出す等の技術サービスである。例えば、LM2500+はロイヤルカリビアン社(Royal Caribbean Cruise Lines: RCCL)の主推進用エンジンとして搭載されたが、RCCLはGEにLM2500+の改造を求めている。RCCLは、環境基本方針としてエネルギーと水のリサイクル、及びガスタービンの積極的利用を進めている。RCCLのクルーズ船では、全てのエンジンの廃熱は回収され、別の機器の余熱に利用されている。RCCLは自社のクルーズ船のガスタービン化にあたり、ガスタービンの余熱回収方法につきGE Marineと充分協議し、余熱回収のための改造を施したエンジンを搭載している。
第3-2表 LMシリーズ航空転用型ガスタービン仕様
出典:GE
  |
LM6000 |
LM2500+ |
LM2500 |
LM1600 |
LM500 |
Output(shp)
(kWs) |
57,330
42,750 |
40,500
30,200 |
33,600
25,060 |
20,000
14,920 |
6,000
4,470 |
SFC(lb/shp-hr) |
0.329 |
0.356 |
0.373 |
0.372 |
0.443 |
SFC(gm/kw-hr) |
200 |
217 |
227 |
226 |
269 |
Exhaust Gas Flow
(lb/sec) |
273 |
182 |
155 |
104 |
35.9 |
Exhaust Gas
Temperature(゜F) |
853 |
973 |
1,051 |
950 |
1,049 |
Power Turbine
Speed(rpm) |
3,600 |
3,600 |
3,600 |
7,000 |
7,000 |
Note: Average Performance, 59°F, sea level, 60% relative humidity, no inlet/exhaust losses, LHV=18,400 Btu/lb.
DIMENSIONS AND WEIGHTS
  |
LM6000 |
LM2500+ |
LM2500 |
LM1600 |
LM500 |
Length, feet(m) |
36(11) |
27.5(8.4) |
26.5(8.1) |
22.3(6.8) |
12.1(3.7) |
Width, feet(m) |
11.8(3.6) |
8.7(2.6) |
8.7(2.6) |
7.9(2.4) |
4.9(1.5) |
Height, feet(m) |
13.0(4.0) |
10.2(3.1) |
10.2(3.1) |
9.3(2.8) |
5.6(1.7) |
Weight(metric tons) |
21.0 |
15.6 |
15.0 |
12.0 |
4.9 |
TYPICAL MODULE
第3-2図 LMシリーズ航空転用型ガスタービン外形
出典:GE
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