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3. GE Marine
3-1 企業実体
 GE Marineは、総合重電機メーカー、ジェネラルエレクトリック社(General Electric Company: GE)の一部門であり、GE内で製造される舶用機器類のマーケッティングのため、各製造部門と独立して設けられた統括グループである。即ち、GE内で製造される舶用機器をシステムとして纏めた場合の営業/技術上の課題を、各製造事業所の営業/技術担当者と連携して解決し、拡販に結びつける社内横断的組織である。このため、GE Marine自体は年次報告書を発行していないので、GEの年次報告書からその業績を類推することになる。
 
 GEの事業は、航空エンジン、家電、照明、医療機器、放送事業、プラスチック、発電設備、送電・電力制御、モニター・産業システム、輸送システム、情報システム、ファイナンシャルサービス等多岐に亘っている。GEは、これまで多くの舶用機器を供給してきたが、それらは他の陸上或いは航空用製品の各製造拠点で製造されており、製造部門において舶用事業部といったような組織は存在しない。GEの舶用機器で最も有名なものは、航空転用型ガスタービンであるが、その製造拠点はオハイオ州Cincinnatiにあるガスタービン製造事業所であり、此処で航空用、発電用、舶用等種々のガスタービンが製造されている。GEはまた、ペンシルバニア州Erieにある製造拠点でディーゼルエンジンを製造しているが、その大部分は機関車用である。その他の舶用機器については、減速機をマサチューセッツ州Lynnで、モーターをインデイアナ州Fortwayneで、コントロールシステムをバージニア州Salemで製造している。第3-1図にGEの舶用機器ラインアップの全貌を示す。
 
 GE Marineの主たる業務は、ガスタービン推進システムの営業であるが、GEは第3-1図からも分かるごとく船舶の推進システムに組み込まれる殆ど全ての大型舶用機器を製造している。GE Marineに属する従業員は必ずしも多くはないが、フランス、香港にも事務所を持ち、また、ニューオリンズにあるGE Automation&serviceの中にGE Marine直属のグループがあって、ガスタービン推進システムに関連した顧客サービス実務を行なっている。GE Marine自体はGEのほんの一部に過ぎないので、GEの年次報告書の中で特別な記述は見当たらないが、業績は着実に伸びている。その主体は上述の通り航空転用型ガスタービンであるが、ガスタービン自体の製造は、航空エンジン事業部が担当し、船舶推進システムとしての取り纏めはパワーシステム事業部が担当しており、GE Marineの役割は営業及びサービスということになる。
 
 第3-1表は1996年から2000年までの5年間のGEの経営状況(要約)である。総収入は1996年の$79,179milから2000年には$129,853milと1.64倍に、純益は$7,280milから$12,735 milと1.75倍となっている。GEの業績を評価する場合、第3-1表の前の状況に立ち入る必要がある。1990年、GEの総収入は$49,696mil、純益は$5,539milであったが、1990年にリストラ戦略を策定し、1993年に完了した結果、1994年には総収入$60,109mil、純益は$8,661milとなった。総収入で1.2倍、純益で1.56倍という躍進ぶりである。リストラが定着した2000年度と1990年度の比較では、総収入で2.61倍、純益で2.30倍と驚くべき飛躍を遂げている。
 
 GEは、1990年のリストラ戦略として無限界(Boundarylessness)/スピード/ストレッチ(Stretch)/簡易化(Simplification)の4つの基本概念を示し、これ等を社内に徹底することにより、競争力と高収益を維持する具体的方策を明確に示した。GEのリストラ戦略は、同社のビジネスの基本様式を根本的に変えることを意図し、その具体策を世界中から学ぶこととした。1990年といえば日本の生産システムが米国において未だ高く評価されていた時代であり、GEは日本のメーカーや国内のCat等から多くの施策を導入している。
 
 「無限界」は、「レモンからジュースがどのくらい絞れるか」という概念から「絞り方で無限のジュースが絞れる」という概念への移行であり、舶用ガスタービンの製造を担当している航空エンジン事業部は、日本の横川電機の「新幹線思考方式」を導入し、30−50%のコスト削減に成功したといわれている。
 「スピード」は、「ゆっくりした方が良い場合もある」という概念から「何でも早い方が結果は良い」という概念への移行であり、GEは具体策として社内電子情報システムを整備し、Catから新製品開発期間の短縮方式を導入し、東芝から「半減方式」即ち部品も半分、時間も半分、重量も半分、何でも半分とする方式を導入している。
 「ストレッチ」は「不可能なことは何もない」という概念であり、ゴールとしてかなり先の目標を示し、社員に対してその目標に向かってベストを尽くすことを要求している。
 「簡易化」は、設計、製造を含む全ての社内プロセスで簡単化することを価値判断の最高基準とするよう求めたものである。
 
 GEは、市場で1−2位のシェアと競争力を保てない事業からは撤退すると明言し、残した事業はあらゆる手段を尽くして、1−2位を保つことを基本方針とした。この方針は、ガスタービンの分野で競合相手を巧みに排除し、技術、コスト、国際化等何れの観点でも1位を保っていることに良く現れている。低迷していた放送事業は、全て整理する一方、全国テレビネットNBCを買収することにより基幹事業とし、材料事業部は、プラスチック部門のみを残し、ユニークなプラスチック素材の供給を続けている。
 
 2000年の年次報告書でもGEの上記経営方針は不変である。無限界の考え方を全ての局面に適用して最高の結果を得ること、スピードに関しては、GEのリーダーシップを守るための4つのEという戦術を進めることを方針としている。(4つのEとは、変化のスピードを受け入れる「Energy」を蓄え、他に活力を与え(Energize)、困難な決定を下す鋭さ(Edge)を持ち、その決定を確実に実行する(Execute)ことである。)また、ストレッチについては、労働の場でストレッチを実践する際に改善の歓び、形式に拘泥しないこと、信頼を生み出す環境作りといった点に留意し、良好な結果を生み出すことを目指しており、簡易化については、簡単であると共に明瞭であり、常に顧客を念頭に置いた立場から常時改善を進めていく幅広い概念への移行を進めている。その他、2000年年次報告書では、コストと品質に関し、(日本でも多くの企業でその導入が進められている)catから導入した6sigmaの重要性を強調しているのが注目される。1990年以来GEが目指したものは大企業病からの脱却であり、2000年の年次報告書でも良い結果を生むと信じたことは組織に臆せず主張する勇気を求めている。
 
 GEは、2000年度だけでも$18bilに相当する子会社を新規に保有し、そこから$2bilの利益を得ているが、その大部分は買収に依っている。過去4年間だけでもGEは100以上の会社を買収している。GEをして世界の優良企業としての地位を保ち続けさせたのは、4つの全社的イニシアティブである。この4つのイニシアティブとは、グローバリゼーション、サービス、6sigma、変身である。
 「グローバリゼーション」は比較的分かりやすい。GEの現行収益の40%は国外での事業活動による収益である。GEは世界中から人材を求め、世界中からすぐれた考え(ビジネス手法)を吸い上げて成長を続けている。
 「サービス」は、現在のGEの実体を示している。1980年GEは収入の85%を製品の販売により得ていたが、2000年にはその70%はサービスにより得られている。GEの収入の半分はファイナンスを行なう子会社GE Capitalからの収入であり、製造部門でもGE Marineのように自社製品を推進システムとして組み上げてそのノウハウを売っている部門、つまりサービスを売っている部門が多く存在する。GEの現在の実体は、製造業30%、サービス業(但し、このサービスの多くは製造業に付随したサービスであり、社内に基盤の無い、シナジー効果の期待できないサービス業は多くない)70%の企業となっており、今後ともサービス部門を伸ばす考えである。GEが最近手掛けている世界中から人材及び知的財産を発掘するリクルート事業は、今後のGEのサービス事業の目玉となると思われる。
 「6sigma」と「変身」についてはすでに述べたが、変身は1990年GEがリストラクチャリングを開始した時点では最も重要視されたイニシアテイブである。要するにGE内の全ての行為を変革し、隅々まで活性化し基本的考え方を変えていこうとするものである。
第3-1図 GEの舶用機械
出典:GE
(拡大画面: 358 KB)
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第3-1表 GEの経営状況(1996−2000)
出典:GE2000年年次報告書
Summary of Operating Segments
General Electric Company and consolidated affiliates
 
For the years ended December 31 (In millions) 2000 1999 1998 1997 1996
Revenues          
GE
         
Aircraft English
$10,779 $10,730 $10,294 $7,799 $6,302
Appliances
5,887 5,671 5,619 5,801 5,586
Industrial Products and Systems
11,848 11,555 11,222 10,984 10,401
NBC
6,797 5,790 5,269 5,153 5,232
Plastics
7,776 6,941 6,633 6,695 6,509
Power Systems
14,861 10,099 8,500 7,986 7,704
Technical Products and Services
7,915 6,863 5,323 4,861 4,700
Eliminations
(2,075) (1,767) (1,401) (1,247) (1,093)
Tottal GE segment revenues
63,788 55,882 51,459 48,032 45,371
Corporate items(a)
517 619 771 3,227 1,407
GECS net earnings
5,192 4,443 3,796 3,256 2,817
Total GE revenues
69,497 60,944 56,026 54,515 49,565
GECS segment revenues
66,177 55,749 48,694 39,931 32,713
Eliminations(b)
(5,821) (5,063) (4,251) (3,606) (3,099)
Consolidated revenues $129,853 $111,630 $100,469 $90,840 $79,179
Segment profit          
GE
         
Aircraft Engines
$2,464 $2,104 $1,769 $1,366 $1,214
Appliances
684 655 755 771 748
Industrial Products and Systems
2,187 2,095 1,880 1,789 1,587
NBC
1,797 1,576 1,349 1,216 1,020
Plastics
1,923 1,651 1,584 1,500 1,443
Power Systems
2,809 1,753 1,338 1,275 1,189
Technical Products and Services
1,718 1,359 1,109 988 855
Tottal GE operating profit
13,582 11,193 9,784 8,905 8,056
GECS net earnings
5,192 4,443 3,796 3,256 2,817
Total segment profit
18,774 15,636 13,580 12,161 10,873
Corporate items and eliminations(c)(d)
(1,429) (902) (584) (1,351) (703)
GE interest and other financial charges
(811) (810) (883) (797) (595)
GE provision for income taxes
(3,799) (3,207) (2,817) (1,810) (2,295)
Consolidated net earnings $12,735 $10,717 $9,296 $8,203 $7,280
 








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