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2-4 業績を向上させた要因
 Catは、堅実な経営をモットーとする会社であり、この堅実さが今日の繁栄を築いた。付録1のCEO Bartonの新世紀の方針をみても至極当然のことを方針としている。何処の機械メーカーでもやらなければならないことを真面目にこの10年やってきているが、その程度は徹底しており、他のメーカーも一目置いている。例えば、次章で述べるGEは、米国の優良企業の1−2を競う会社であるが、10年前「優れた点は世界中何処の会社からも学ぶ」として日本の東芝のリストラクチャリング手法等を参考にしているが、そのコスト低減、生産性向上手法については、Catの6sigma手法を採用している。
 
 2-1節と一部重複するが、Bartonの新世紀の方針は下記3点である。
・ 幅広い戦略プランを立て、その中から抽出された戦略目標、真に経営を向上させる製品を見出し注力する。顧客が真に必要とするもの、より価値の高い製品を販売することにより利益を確保する。
・ 成績の悪い製品は、良い製品の2倍の成長を見込めるような戦略を立てる。技術的に優れた高品質の製品を生産する。全製品とも価値を高め、コストは逆に減らす具体策を展開する。
・ コスト削減の目標を立て、中期的に利益の増加を図る。キャッシュフローを改善する。資金手当て、高配当、株買い戻し等により株主利益を増大させ、株価の安定、ひいては財務基盤の安定を図る。
 
 Catは、この10年間に総収入で1.76倍、利益で5倍になっているが、あまり本業以外には手を出していない。グローバリゼーションも無理のない形で進め、他社との合併も、ディーゼルエンジンという範囲内での商品構成を拡充(フルライン化)し、シナジー効果を発揮させるという明確な方針の下、Catが持っていない機種の分野の会社をもつ会社とのみ実施している。その結果、Mak等Catの傘下に入った会社は、全て合併後経営状態が良くなっている。上記Bartonの方針は、新世紀だからということではなく、古い年次報告書をみても同じ方針である。Catは1925年の創業以来、トラック型トレーラーを出発点に新製品を世界市場に積極的に売り込むことにより伸びてきた会社であり、極言すれば上記方針は創業以来の方針の延長線上にあるといえる。
 
 Catの1990年の総収入は、$11,436mil、利益は$210milであった。これを前述の2000年の総収入$20,175mil、利益$1,053milと比較してみると、総収入で1.76倍、利益で5倍となっており、利益の向上が著しい。しかし、Catの業績は、この10年一本調子に伸びてきたものではない。1990−93年の売上は、ほぼ横這い、利益はむしろ損失を計上している。1994年の年次報告書によれば、Catは、1987−93年に総額$1,800milの投資をして工場の近代化を推進し、従来の75%の製造時間で製品を作る体制を確立している。この結果、1994年には総収入$14,328mil、利益$955milを計上している。
 
 1994年度の決算は、NAFTAが発効して最初の丸1年の成果が計上された年であり、Catはメキシコに対し、前年比59%増、$239milの輸出を行なった。この年NAFTA以上に効果があったのは、ガット協定によりヨーロッパ、日本等の先進国に対する関税障壁が取り除かれ、NAFTA市場の14倍の無関税市場が得られたことである。Catでは、1994年当時ガットのおかげで上乗せされる売上増(主として欧州)は2000年には$350milに達すると予測していた。
 上記の如く、Catのこの10年間の収入増の中には、NAFTAやガットによる政策自然増的なものも含まれるが、これらは多く見積っても全体の収入増の10%には達しない。従って全体の収入増の大部分は、Cat自身の経営、営業努力によるものである。いずれにせよ機械工業で10年間に1.76倍の収入増、5倍の利益増を果たすということは、並大抵のことではない。1994年と2000年の純売上を部門別に見ると機械部門($10,164milから$11,857mil)、エンジン部門($3,699milから$7,056mil)、ファイナンス部門($465milから$1,465mil)と機械部門1.17倍、エンジン部門1.91倍、ファイナンス部門3.15倍となっており、エンジン部門が過去10年の収入増の牽引役となってきたことがわかる。
 
 機械部門の売上増は、スクラップ処理機、破砕機、バラ材運搬機等のリサイクル機械、廃棄物処理機械等、新しい分野への進出で齎されたものである。Catは、過去2年間で、リサイクル機械部門の売上を50%伸ばし、機械部門全体の8%を占めるまでに成長させた。廃棄物処理機械部門は、未だ機械部門全体の売上の3%を占めるに過ぎないが、今後も成長が期待される部門である。Catではランドフィル用として、1日で廃棄物を投棄し、圧縮し、カバーするシステムを導入したり、また、そのサブシステムとして廃棄物運搬トラックの大型化に対処し、コンピューター制御により、最高の圧縮効率が得られるランドフィル圧縮機836Gを導入したりしている。森林用機械も全機械部門の4%を占めるに過ぎないが、同様に成長が期待される部門である。Catは、森林機械ディーラーとしては大手のPioneer Machineryを買収し、Risley Manufacturingから森林材木束ねトラックとも称すべき製品の設計使用権を取得して、この戦略分野に対し、多くの新製品を導入した。
 
 エンジン部門では、近年発電部門の伸びが著しく、年率20%の伸びとなっている。特に、2000年度にはY2K対策として世界中でディーゼル自家発電の準備をしたため、6,000台のディーゼル発電機セットが納入され、24%の伸びを記録した。現在、世界中で稼動しているCatディーゼル発電機セットは、300,000台以上となっている。発電機セットのレンタル事業も年率20%以上伸びており、世界中で、8,000台のCatレンタルユニットが稼動している。エンジン部門の中に占める発電部門の比率は、1999年の26%から2000年度には33%と増加している。
 トラック用エンジン部門は、前述の如く、北米におけるトラックマーケットが落ち込み、前年の半分に減ったため、エンジン部門の中での比率は34%から27%となっている。しかし、トラック部門は、今後再び年率20%の伸びが期待されている。このトラック部門の今後の20%成長を支えるものは前述のDaimler-Chryslerとの提携である。Daimler-Chryslerとの提携は、今迄Catが得意としてきたヘビーデューティの延長線上にあるミディアムエンジンの分野で、極端に排ガスの少ないエンジンを開発をして世界中で生産・販売する契約内容であり、極めて高い確率で成功が期待されている。
 
 Catは、1995年、ドイツのKrupp Mak、1998年、イギリスのPerkins、1999年、北アイルランドのF. G. Wilsonを吸収合併しているが、繰り返し述べるごとく、これらは自社のエンジンの不足部分を補うためのものである。Makは中速・大型、Perkinsは小型エンジンであり、これによりCatは5−25,000BHPの品揃えが可能となった。Makの2000年度の業績は極めて好調であった。Makエンジンの売上は4%伸び、これまで最高の売上を記録した。特に、Makのロングストロークエンジンの全ての機種、即ちM20、M25、M32及びM43の業績が好調であった。M43は、1998年にマーケットに参入したばかりであるが、既に100基以上売れている。M32はマーケットに参入してから500基以上の販売を示している。2001年の最初の2ヶ月のMakエンジンの受注増は目覚しい。この間、世界最大のアンカーハンドリング船の主推進用として、タイプ6M43エンジン4基、合計22,000KWが受注された。このエンジンの納期は2001年9月である。またMakはE.R. Schiffahart GmbH & Cie社向け7隻の2,500TEUコンテナ船向けに各3基の補機用Mak 8M25を2001年8月から連続納入することになっている。








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