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2-3 業界内における地位
(1) 概要
 世界中で商船用として利用されている低速、及び中速舶用ディーゼルエンジンの47%(馬力ベースで51%)はドイツメーカー、或いはドイツメーカーのパテントの下で製造されている。このため、ドイツはディーゼルエンジンの環境開発には、早くから積極的であり、官民合同の技術開発コンソーシアムCLEAN(Clean and Low Soot Engine with Advanced Technology for Nox Reduction)を発足させ、ドイツ政府は、CLEANにDM30milを支出した。このCLEANへの参加機関は13機関であるが、その中にCatが買収したMakも入っている。Catは、Makを買収したことでディーゼルエンジン業界の中核を占める一員となり、この信用を梃子に、ヨーロッパの顧客との結びつきをますます強めている。
 
 2000年、Catは、世界第一のトラックメーカーDaimler-Chryslerと世界中を対象としたディーゼルエンジンアライアンスを結んだが、この契約は、Catの今後の発展にとって非常に重要なものである。この契約では、最初は両社共同でミディアムデューティのエンジン及び燃料システムの開発することを目標としているが、開発後は資金を出し合って北米、南米、ヨーロッパ、及びアジアで生産することを取り決めている。また、2000年にイギリスのSabre Engineを買収して3,000HP以下の品揃えを進めたことも、Catのヨーロッパにおける地位を強固にした。
 
 米国では、舶用ディーゼルエンジンの生産は、これまで限られた分野でしか根付かなかった。第2次世界大戦中、2,600隻建造されたといわれるリバティー型戦時標準貨物船の主機は往復機関であり、同じく戦時標準型T2タンカーの主機は電気推進であった。大型艦艇の主機は、1970年以前は蒸気タービン、或いは原子力推進であり、1970年以降はガスタービン、或いは原子力推進となっており、ディーゼルエンジンは小型艦艇や軍用貨物船の主機として利用されているに過ぎない。1990年代の始め、旧ウエスチングハウスの一般舶用機器事業部が、スルザ一社と提携して中低速ディーゼルエンジンを米国で生産しようとしたことがあったが、うまくいかず、その後米国では低速エンジンは生産されていない。
 
 中速エンジンは、機関車用として需要が多く、舶用としても中・小型船の主機用として需要は多い。米国の舶用中速エンジンメーカーとしては、GMのEMD事業部(Electro−Motive Division)やGE、その他Pielstickエンジンのライセンス生産メーカーがある。しかし、GEのエンジンの大部分は機関車用であり、またColt-IndustriesのFairbanks Morseエンジン事業部で生産された、10気筒のPC4.2/2Vが4基、T-AKR300戦略シーリフト船の主機として用いられたりしているが、その数は多くはない。また、米国独自の技術でもないので、Catの高速エンジンと並んで米国の中速エンジンとして注目に値するものは、GMのEMDエンジンのみであるということが出来る。
 
 トラック用エンジンを舶用化した高速エンジンの分野は、米国にしっかりと根を降ろしている。高速舶用ディーゼルエンジンメーカーは、Cummins、デトロイトディーゼル(Detroit Diesel Corporation: DDC)等意外とその数は多いが、この中ではCatが最も有力な企業である。
(2) 競合相手:Cummins社
 Cumminsは、55−3,500BHPのエンジンを製造している他発電事業、フィルターシステムの製造販売を行なっており、2000年度の売上は、$6.6bil、従業員数28,000人である。$6.6bilの内訳は、エンジン61%、発電事業21%、フィルターシステム18%となっている。即ち、エンジン部門の売上は、大凡$4bilで、Catの大凡$7bilの60%程度である。
 過去3年のエンジン部門の業績を比較すると、Catが毎年3−5%着実に上昇しているのに対し、Cumminsは、98年$3,982mil、99年$4,225mil、2000年$4,050milとなっており、2000年では前年比4%減少している。この理由は、Cumminsの場合、トラックやバスのエンジンの比率が52%と高く、北米におけるこれら分野の不振を他の分野で補いきれなかったことが挙げられる。
 例えば、2000年は、どの会社も舶用分野は非常に良く、Cumminsでも18%伸びたが、Cumminsの舶用エンジンの同社エンジン全体に占める比率は、2−3%に過ぎないので、トラック・バス分野の不振を補うには至らなかった。ちなみに、Cumminsの舶用エンジンの中では、2000年には、作業船(海洋油田用、タグボート等)、漁船用としてKV38/50エンジンが記録的売上を示したといわれている。
 
 Cumminsも歴史のある会社であり、創業は80年前に遡り、一貫して新機種導入と新市場への進出に積極的であったが、製品の種類はCatに比べれば遥かに少なく、事業内容もエンジンとエンジン周辺のシステム、或いは部品に限られている。Cumminsの関連事業所の半分は海外にあり、国際企業であることは、Catと同じである。Cumminsは、64−1,385BHPの舶用高速エンジンを生産しており、リクリエーション用ボートや比較的小型の曳船、客船、漁船、まれに米海軍の小型サービスクラフトに使用されている。Cumminsは、永年高出力エンジンの分野に進出することを念願していたが、フィンランドのヴァルチラと2シリーズの出力レンジ3,600−6,000BHPの高速混焼エンジンの開発・設計・製造に関する50/50のジョイントベンチャーを設け、1995年より発売を開始した。第1のシリーズは、ヴァルチラ200をベースに改良したもの、第2のシリーズは、全く新しい気筒当たり排気量4.5リットルのもので最大出力は、3,600 bhpである。
(3) 競合相手:DDC社
 DDCは、2000年11月、Daimler-Chryslerに買収されたので、今後の動向が注目されるが、前述の如くCatがDaimler-Chryslerと世界的な開発・設計・製造の協力関係に入っているため、DDCの米国ディーゼルエンジン業界における地位は、微妙なものとなるものと思われる。但し、DDCは舶用エンジン分野でこれまで頑張ってきた会社であり、その足跡は、簡単には消えないものと思われる。
 
 DDCは、53−2,400BHPの舶用高速エンジンを製造しているが、Volvo Penta、MTU、Allied Signal、Perkins、Twin Disc等と、次々にデストリビューター契約、或いは開発契約を結んでその製品を多様化してきた会社である。DDCは、Allied SignalのTF40ガスタービンとTwin Discの減速機を組み合わせたCODOG、或いはCODAG用推進機関の販売を積極的に行なってきた。更に1994年9月、ドイツのMTUとDDCは、400−3,650BHPのヘビーデューティーエンジンの2つのシリーズ(2000シリーズと4000シリーズ)の開発・製造・販売契約に調印している。本シリーズは、直接燃料注入、4サイクル、水冷却の6、8、12、及び16気筒で、2000シリーズは気筒当たりの排気量が2リットル、4000シリーズは4リットルである。本シリーズの開発は、一部Daimlerの協力を得て行なわれたが、このような結びつきが結局は、Daimler-ChryslerによるDDCの買収に結びついているものと思われる。
(4) 競合相手:EMD社
 EMDは、これまでCatと直接競合関係にはなかったが、今後、Makエンジンの対米進出が進むにつれて競争が表面化すると思われる。EMDは前述の如くGM系であり、CatはDaimler-Chrysler系となるので、ディーゼルエンジンの業界も今後自動車業界の力関係がビジネスに影響してくるであろう。EMDの歴史は古く、1933年、GMのシボレーの組み立てラインに動力を供給するために中速エンジンを製作したのが始まりである。1934年には、ディーゼル発電気駆動機関車を納入し、更に1939年には、舶用として初めての逆転減速機付きディーゼルエンジンを納入している。第2次世界大戦中EMDは3,000台のエンジンを生産した。第2次世界大戦後の1946年、EMDは始めてメキシコに機関車を輸出する等着々と実績を伸ばした。EMDが6,000台目の舶用ディーゼルエンジンの納入を果たしたのは、1980年代であるが、機関車用エンジンについて言えば、北米で生産された機関車の80%は、EMDのディーゼルエンジンを搭載している。
 
 舶用機器の分野で、EMDは3つの製品群を製造・販売している。
 第1は、船舶用ディーゼルエンジンとのパッケージでスキッド上にエンジン、逆転減速機、或いは付属品一式が付いたものである。ルーツ圧縮機3種とターボチャージャー付き8種合計11種のエンジンがある。これらのエンジンの出力レンジは、900rpmに於て、1,050−5,000BHPとなっている。
 第2の製品群は、船舶用発電機セットであり、エンジン、及び発電機等全てがスキッド上に組み込まれている。
 第3の製品群は、船舶推進用、ウインチ/ウインドラス用、及び石油リグ用の交流及び直流発電機/電動機である。








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