2-2 製品と技術
(1) 既存のディーゼルエンジン
Catが舶用としてCatブランドで製造販売しているディーゼルエンジンを第2-2表に示す。Catは、本来のCatブランドに加えて、第2-3表に示すMakブランドの中速エンジン、Perkins・Sabreブランドの小型エンジンも製品に加えているので、製品のレンジは非常に広くなっている。第2-2表の最初6つのCMモデルは、発電機エンジンとして使用されるエンジンである。3300、3400、3500、3600シリーズのエンジンは主推進用及び発電機エンジンとして用いられる。
1990年代中頃から、舶用ディーゼルエンジンメーカーは、IMOにおけるディーゼルエンジンのNOx、SOx規制検討の動き及び米国国内におけるEPA規制の動きに対応し、続々と新製品を発表した。Catは、今迄機械コントロール燃料噴射で実績の確立されている3508、3512、3516エンジンの設計を見直し、より緻密な燃料コントロールによる排気ガス浄化を可能とする電子コントロールの燃料噴射システムに変更し、また、これにより従来比較で出力が17−30%大きく、かつ燃料消費量の少ない高性能の3508B、3512B、3516Bエンジンを1995年初頭に発表しフル生産に入ることを公表した。
NOxを減らし、かつ燃料消費量も減らすことは、技術的な困難を伴う。このため従来はNOxを減らして燃費を犠牲にするか、燃費を減らしてNOxを増加させるかの何れかであった。3500Bシリーズで採用された技術は、今では殆どのディーゼルエンジンメーカーが採用している、エンジン本体の設計変更と電子燃料噴射システムの採用である。本体の設計変更としては、短時間の間に噴射圧を高めるためにカムシャフトを大きくしたこと、ピストンに深い裂け目を入れる等、燃焼室の空気と燃料の混合を促進する設計的配慮を加えたことである。冷却水の温度を下げ、排気マニュホールドを流線化したこともエンジンの効率向上に繋がっている。
燃料インジェクターの噴射圧は22,000psiで、インジェクターの噴射スプレーは燃料を噴霧状にする特殊設計となっている。このインジェクターが、電子制御モジュール(Electronic Control Module: ECM)によって、適切な時期に適切な量の燃料を適切な時間噴射する仕組みとなっている。従って、燃料に無駄がなく燃焼不良で残る量も減少し、燃費は向上する。燃料噴射量の変動はエンジンの負荷と速力に関係する。Catでは3500Bシリーズは3500シリーズに比して、燃費は15%減、NOxは10%減と言っている。ECMはエンジンに埋め込まれたセンサーからの情報を解析するプログラムが組み込まれている。1999年、Catは、3512B、3516Bのストロークを長くし、出力を13%高くした新3512B、3516Bを発表した。新3516Bの連続出力は2,260BHP、最大出力は1,600rpmで2,500BHPである。
Catの3600シリーズは高速フェリーボート用の出力/重量比の大きいエンジンである。1998年末Catは3616エンジンのアップグレードを実施し6,000KW、1,020rpmとした。このエンジンを搭載した第1船はカナリー諸島のArmasグループの高速フェリーボートである。現在catブランドで最大のエンジンは、3618エンジンである。この3618は、18気筒、1,050rpmで出力は7,200KWである。本エンジンはCatとスペインのエンジンメーカーBazan Motoresとの共同開発によるもので、運航時間の85%は定格で残り15%は定格の50%以下で使用される条件で設計されている。
2000年に入り、Catはコンパクトで小型商業用船舶に使用される3000シリーズを発表した。3000シリーズでCatが最初に発表したのは125bhpから205bhp迄の3056である。このエンジンは、長時間の使用に耐える直列6気筒、4ストローク、直接燃料噴射、及び高効率の燃焼システムを採用したエンジンで英国のSabreで舶用化されたものである。小型船に取付けられるため17°ノーズアップから5°ノーズダウンの間で作動するように設計されている。ターボチャージャー付の3056TAでは185BHP、2,000 rpm及び205BHP、2,500rpmの2種類があり、いずれもIMO付属書IVのNOx排出基準をクリアしている。自然吸気の3056NAは185BHP、2,100rpmで、IMO付属書VIをクリアすることを目的としていない。Catでは2001年に入り、3056を更にハイテク化した3034、3054及び3054Bを発売している。シリーズ3000のオペレーションは静かで排ガスは極端にクリーンであり、全負荷範囲でスモークの排出も認められない。燃費性能が良く、メンテナンスコストが低くなる設計を各所に取り入れている。
Catの新製品開発のピッチは非常に早い。Catは、設計から販売までを一貫して取扱うことの出来る幾つかのチームを作って新製品の企画から実際に世に出て行く迄の期間を短くし、また同じような方法で従来製品の改良に取り組んできており、年間大略50の新製品及び改良製品を売り出している。前述の3500シリーズの3500Bシリーズへの改良は、上記チームにより早期に完成され、Catの業績の向上に大きく貢献した。
(2) その他の舶用エンジン
最近のCatの舶用関連のエンジン開発の中では、天然ガスエンジンの開発が特筆に価する。それ等にはカナダのカーフェリーへの混焼(ディーゼル及び天然ガス)エンジンの適用、バージニア州のTRT(Tidewater Regional Transit)のフェリーボートへの圧縮天然ガス(Compressed Natural Gas: CNG)エンジンの適用等があるが、特に後者は、世界最初のCNGエンジンフェリーということで注目される。CNGは、天然ガスを250Barに圧縮してボンベ中に蓄えたものを船上に保管しなければならないので、危険を伴う上大きなスペースを必要とし、USCGの燃料規則の改正を伴う多くのブレークスルーが必要とされた。
ガスエンジン(CNG或いは液化天然ガス)については、世界の代表的エンジンメーカーが市販しているものの未だ詳細を発表したがらない段階である。また、ガスエンジンの適用分野は、発電、道路・鉄道輸送分野が殆どであり、舶用への適用は多くはない。Catのガスエンジンの製品範囲は、100−4,000KWと広範囲である。Catのガスエンジンの売り込みは、Catの新製品開発プロセスの一端を物語っている。TRTはバージニア州のPortsmouthとノーフォーク市街を結ぶ航路で3隻のフェリーボートを使って年間500,000人の乗客を運搬している小さなオペレーターである。
TRTも他のオペレーターと同じく連邦、州、地方の助成を得、代替燃料を使って石油への依存度を減らし、環境にプラスとなるよう指導を受けていた。TRTのフェリーの1隻をCNG化することはバージニア天然ガス社との間で1989年に決定された。まず、事業化に関するフィージビリティー・スタディーを実施し、支援を受ける助成制度が検討された。次に、この地方のCatエンジンのディーラーであるCarter Machinery社がフェリーの既存のディーゼルエンジン2基(各6気筒、2サイクル、180BHP)の性能分析テスト、及びCNG化した場合の運航上のメリットを洗い出した。
Carterはまた、Catのガスエンジン或いは、混焼エンジンの適用例を比較し、そのディーゼルエンジンに対するメリットとして、オーバーホール間隔が圧倒的に長いことを見出した。CarterがCatの開発チームの一員に組み込まれて、上記研究が実施されたことは勿論である。
TRTの乗客フェリーへのCNGエンジンの適用は、USCGの新しい安全規則を必要とした。USCGは乗客フェリーにCNGエンジンを使おうとするTRTの考え方に賛同し、CNGの船上貯蔵、移動、安全使用、及びモニタリング、船員訓練に関する規則を作成した。TRTは、船舶設計コンサルタントJ.J.HenryにCNGの船内貯蔵に関する仕様書作成を依頼し、USCGに提出した。採用されたエンジンはCat3406 SINA(Spark-Ignited Naturally Aspirated;自然吸気火花点火式エンジン)2基である。本エンジンには防爆型32V発電機や空気起動モーターが取付けられている。3406SINAの出力は215 BHP、1,800rpmである。船の後部に3日間の運航分に相当する1,260立方メートルのCNGが20本のタンクに入れられ、特設の棚に分納され、モニタリング及び警報システムが設置された。CNGは、格納タンク内では3,000psiに加圧されているが、機関室に入る前に125psiに減圧される。
第2-2表 Catのディーゼルエンジン(Catブランド)
出典:マリーンニュース2001年7月20日
Caterpillar
P.O.Box610, Mossville, lL61552, Tel:(800)321-7332; Fax:(301)578-2559, e-mail:Cat-power@cat.com, Website:
www.cat-marine.com
Model |
Bore |
Stroke |
Cyl. |
KW/cyl |
RPM |
BMEP(bar) |
12CM32 |
320 |
420 |
12V |
447-466 |
750 |
22.7 |
12CM43 |
430 |
610 |
12V |
873 |
500-514 |
24.4 |
14CM43 |
430 |
610 |
14V |
873 |
500-514 |
24.4 |
16CM32 |
320 |
420 |
16V |
448-468 |
750 |
22.7 |
16CM43 |
430 |
610 |
16V |
873 |
500-514 |
24.4 |
18CM43 |
430 |
610 |
18V |
873 |
500-514 |
24.4 |
3054 |
100 |
127 |
4L |
14-21 |
2400-2600 |
10.4 |
3056 |
100 |
127 |
6L |
14-23 |
2400-2600 |
10.4 |
3116 |
105 |
127 |
6L |
14-44 |
1800-2800 |
16.9 |
3126 |
110 |
127 |
6L |
27-52 |
2200-2600 |
18.6 |
3126B |
110 |
127 |
6L |
22-45 |
2200-2600 |
18.6 |
3196 |
130 |
150 |
6L |
46-82 |
1800-2300 |
22.1 |
3304 |
121 |
152 |
4L |
16-36 |
1400-2200 |
13.8 |
3306 |
121 |
152 |
6L |
16-44 |
1400-2200 |
13.8 |
3406C_ |
137 |
165 |
6L |
31-72 |
1800-2100 |
18 |
3406E |
137 |
165 |
6L |
45-100 |
1800-2300 |
18 |
3406E-600 |
140 |
171 |
6L |
72-75 |
1800-2100 |
18 |
3408C |
137 |
152 |
8V |
30-55 |
1200-2100 |
18 |
3408E |
137 |
152 |
8V |
44-83 |
1200-2100 |
18 |
3412C |
137 |
152 |
12V |
26-84 |
1200-2300 |
18 |
3412E |
137 |
152 |
12V |
31-65 |
1200-2100 |
18 |
3508 |
170 |
190 |
8V |
56-107 |
1000-1925 |
20.2 |
3508EUI |
170 |
190 |
8V |
80-107 |
1000-1925 |
20.2 |
3508B |
170 |
190 |
8V |
72-140 |
1000-1925 |
20.2 |
3512 |
170 |
190 |
12V |
56-109 |
1000-1925 |
20.2 |
3512EUI |
170 |
190 |
12V |
80-109 |
1000-1925 |
20.2 |
3512B |
170 |
190 |
12V |
62-140 |
1000-1925 |
20.2 |
3516 |
170 |
190 |
16V |
56-103 |
1000-1925 |
20.2 |
3516EUI |
170 |
190 |
16V |
80-103 |
1000-1925 |
20.2 |
3516B |
170 |
190 |
16V |
62-140 |
1000-1925 |
20.2 |
3606 |
280 |
300 |
6L |
248-338 |
750-1000 |
22 |
3608 |
280 |
300 |
8L |
248-339 |
750-1000 |
22 |
3612 |
280 |
300 |
12V |
248-375 |
750-1000 |
22 |
3616 |
280 |
300 |
16V |
248-375 |
750-1000 |
22 |
3618 |
280 |
300 |
18V |
400 |
750-1000 |
22 |
第2-3表 Catディーゼルエンジン(Mak/Perkinsブランド)
出典:マリーンニュース 2001年7月20日
MaK Motoren GmbH & Co. KG
A Caterpillar Company Falckensteiner Str. 2, Kiel H-24159 Germany, Tel:49-431-399501; Fax:49-431-3995-213; Email: ju_marketing@CAT.com; Website:
http://www.mak-global.com
Model |
Bore |
stroke |
Cyl# |
kw/cyl |
RPM |
BMEP |
6M20 |
200 |
300 |
6,8,9L |
170-190 |
900 |
24.1-24.2 |
8M20 |
200 |
300 |
  |
  |
900 |
24.1-24.2 |
9M20 |
200 |
300 |
  |
  |
900 |
24.1-24.2 |
6M25 |
255 |
400 |
  |
  |
720 |
24.5-24.2 |
8M25 |
255 |
400 |
  |
  |
720 |
23.7-23.5 |
9M25 |
255 |
400 |
  |
  |
720 |
23.7-23.5 |
6M32C |
320 |
480 |
  |
  |
600 |
24.9 |
8M32C |
320 |
480 |
  |
  |
600 |
24.9 |
9M32C |
320 |
480 |
  |
  |
600 |
24.9 |
12M32C |
320 |
420 |
  |
  |
720-750 |
23.7 |
16M32C |
320 |
420 |
  |
  |
720-750 |
23.7 |
6M43 |
430 |
610 |
  |
  |
500-514 |
23.7 |
7M43 |
430 |
610 |
  |
  |
500-514 |
23.7-24.4 |
8M43 |
430 |
610 |
  |
  |
500-514 |
23.7-24.4 |
9M43 |
430 |
610 |
  |
  |
500-514 |
23.7-24.4 |
12M43 |
430 |
610 |
  |
  |
500-514 |
23.7-24.4 |
16M43 |
430 |
610 |
  |
  |
500-514 |
23.7-24.4 |
18M43 |
430 |
610 |
  |
  |
500-514 |
23.7-24.4 |
Perkins-Sabre, A Caterpillar Company
22 Cobham Rd., Ferndown Industrial Estate, Wimborne, Dorset BH21 7PW United Kingdom, Tel:44-01202-893-720; Fax:44-01202-851-700; Email: post@sabre-engines.co.uk; Website:
http://www.perkins-sabre.com
Model |
Bore |
stroke |
Cyl# |
kw/cyl |
RPM |
BMEP |
M65 |
97 |
100 |
4L |
11.75 |
2600 |
7.34 |
M85T |
97 |
100 |
4L |
14.88 |
2600 |
9.35 |
M92 |
103 |
127 |
4L |
16 |
2400 |
7.58 |
M115T |
100 |
127 |
4L |
20.1 |
2400 |
10.11 |
M130C |
100 |
127 |
6L |
16 |
2600 |
7.47 |
M135 |
100 |
127 |
6L |
16.5 |
2600 |
7.64 |
M185C |
100 |
127 |
6L |
23.33 |
2100 |
13.36 |
M215C |
100 |
127 |
6L |
26.33 |
2500 |
12.67 |
M225TI |
100 |
127 |
6L |
27.58 |
2500 |
13.45 |
M265TI |
100 |
127 |
6L |
32.5 |
2500 |
15.65 |
M300TI |
100 |
127 |
6L |
36.83 |
2500 |
17.72 |
350C |
112 |
115 |
6L |
42.83 |
2600 |
17.45 |