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2. Caterpillar
2-1 企業実体
(1) 現状
 キャタピラー社(Caterpillar Inc.以下「Cat」と表記)は、イリノイ州Peoriaに本社を置き、製造事業所105(米国内45、米国外60)、ロジスチック・ディストリビューション・センター52(米国内22、米国外30)、その他多くのオペレーションセンターを世界中に持ち、従業員数67,200人を数える建設機械及びエンジンのメーカーである。また、Cat製品の販売に携わるディーラー数は、220(米国内63、米国外157)、販売支店1,844(米国内517、米国外1327)、レンタル店舗643(米国内244、米国外399)を擁し、世界中のハイウエー、ダム、飛行場、建設現場等でCatブランドの建設機械、鉱山機械、農業機械、エンジン等の1つや2つは、必ず見かけるポピュラーな会社である。Catの2000年度総収入は$20.175bilであり、1999年度に比して2.4%、$473mil増加した。総売上の内訳は機械部門58%、エンジン部門35%、ファイナンス部門7%となっている。
 
 機械部門の31%は掘削機、トラクター等の大型建設機械であり、30%はローダー、小型掘削機等の一般建設機械で、前者と併せて建設機械が売上の61%と2/3近くを占めている。機械部門では、その他コンクリート混入用砕石ローダー等の砕石用機械8%、鉱山機械12%、リサイクル用機械8%、廃棄物処理用機械3%、森林用機械、及び農業用機械各4%となっている。 エンジン部門の内訳は、発電用33%、産業用13%、舶用8%、石油及びガス用19%、トラック用27%となっている。なお、これらの比率は、Catブランドと共に子会社のソーラータービン、Mak、Perkins及びFG Wilsonブランドのエンジンを含む数字である。Catブランドのみの内訳は、発電用31%、産業用5%、舶用10%、石油及びガス用9%、トラック用45%とトラック用が圧倒的に多い。
 
 第2-1表は1996年から2000年に至るCatの経営状況の要約である。収入はこの5年間で16,522 milから20,175milと1.22倍に増え、利益は逆に$1,361milから$1,053milと0.77倍に減っている。従業員数は、この5年間で54,968人から67,200人へと1.22倍の増加であり、奇しくも収入の増加と一致している。また、従業員賃金及びベネフィットが、$3,437milから$4,029milと1.17倍にしかなっていないことを考えると、従業員の実質賃金は僅かではあるが平均的に低くなっていると考えられる(生産拠点の適地化が進んでいる)。利益が減っている原因は、従業員数の増加以外にもある。資本支出は財産、工場及び機械が$506milから$723milの1.43倍、機械リースが$265milから$665milへと2.5倍、研究開発費が$590milから$854milの1.5倍といずれも増加率が高く、利益を若干削って内部資本の蓄積と生き残りのための研究開発に力点を置くCatの構図が浮かび上がってくる。
 
 第2-1図は機械部門、エンジン部門及びファイナンス部門の1998−2000年の3年間の売上及び利益を棒グラフで示したものである。エンジン部門の2000年度売上は$7,056milと前年度に比し3%、$202milの増加であるが、利益は$667milと前年度に比し32%、$161mil増と著しく増加している。エンジンの売上は、ラテンアメリカを除く世界の全ての地区で好調であり、価格も高く維持されている。エンジン部門が好調である1つの原因は、発電用としてCatブランドの外にMakその他前述の子会社のエンジン群が世界的に使用されていることである。特に原子力発電所の新規建設が凍結されている一方、1990年代の米国経済の成長は、北米地域において慢性的な電力不足状況を引き起こしており、電力不足解消の一環として、今後、当分の間エンジン部門の堅調は続くものと思われる。2000年度売上$18,913mil(第2-1表)の地域別内訳は、北米$10,492mil(55%)、ヨーロッパ、アフリカ及び中東$5,041mil(27%)、アジア及び太平洋地区$1,949mil(10%)と北米とその他の地区で折半している。
 
 2001年に入り、米国の景気は確実に下方修正をせまられることとなった。Catの2001年第1四半期(1−3月)の総収入は、$4.81bilと2000年同期より2%減、利益は、$162milと2000年同期より$96mil減少している。この原因として、機械部門でこの3年間堅調であった北米における売上が落ちたこと、及びエンジン部門で発電及び石油ガス向け売上は伸びたものの北米におけるトラック向けの売上が急減したことが挙げられる。景気後退時の常ではあるが、Cat製品を購入する顧客に対するフィナンシャル・サービス部門は、逆に同じ時期に19%も伸びている。但し、Catでは2001年第1四半期から始まった売上の後退が、今後に与える影響は些細なものと考えている。これは、トラックエンジンや金属鉱山用機械は減少しているが、石炭用機械、重建設用機械、石油ガス用機械、発電用エンジン、ファイナンス部門は依然堅調であり、長期的な成長が見込まれるからである。
 
 米国における2001年のGDP成長率は、2000年の4%の伸びからマイナス成長に落ちると予想されているが、Catでは2001年度の総収入は経営環境の悪化にもかかわらず、2000年度とほぼ同じ、利益は更なるコスト削減のための設備投資、及び増税のため5−10%減少すると予想している。同社を取り巻く経営環境の悪化とは、業界の過剰設備と1997年のアジア経済危機に端を発した製品価格の低下の定着により、多くの工場が最も利益を上げられる生産ポイントで稼動出来ない状況を指している。地域的には、1998年以来の25%に及ぶ北米での収入減をヨーロッパその他諸外国のマーケットで支えていく構図が続くと予想している。
(2) 今後の戦略
 CatのCEO Glen A. Bartonは、現今の経済の下降期における今後のCat経営のポリシーとして、特に以下の3点を述べている。(付録1)
 
(イ)電子商取引の促進&6sigmaによる業務改善
 Catの業績は、過去10年間で2倍となったが、ここにきて他社との競争が激化し、レンタル等最終仕向け顧客も変化し、電子取引等の新しい販売チャンネルの導入が必要になる等コスト的には、益々厳しい経営環境となっている。Catは利益ある成長を指向し、仕向け先の変化に対応し、電子取引を完成させ、一層のコスト削減と品質の向上に努める。 電子取引の確立については、社内にシステムプロセス部が設立され、65の電子取引イニシアテイブが進行中である。コスト削減や品質向上についても多くのイニシアテイブが進行している。特ににこれらの分野で6 sigmaイニシアテイブが進められ各職場にコスト削減や品質向上のチャンピオンが指名され、更にブラックベルトとなる教育が施されている。具体的には「グレードA証明」、「コスト削減チーム」、「品質向上チーム」等として活動している。
 
(ロ)エンジン生産の促進
 エンジン部門の2000年度の売上は、全社の35%であったが、2006年度にはこれを50%とする。これはエンジン部門の年率10%以上の成長を意味する。特に、発電部門は過去6年間年率20%以上の伸びを示しており、今後も同様の伸びが期待できる分野である。天然ガスは、クリーンなエネルギーとして近年特に脚光を浴びており、Catは種々の連邦、州その他の天然ガス利用プロジェクトに参加している。Catが創業以来指向してきた世界企業化も2006年の(売上拡大の)目標達成に寄与する。特にエンジン部門では、1990年以降合併したSolar、Perkins、FG Wilson、及びMak等の子会社を含め5−25,000HPという広い範囲の製品を提供出来る体制が2006年のエンジン部門50%達成に力を発揮する。
 
(ハ)販売システムの効率化の促進
 Catは独立ディーラーを販売の基本体系とする方針は変更しないが、個々のディーラーの競争力を強化し、Catの世界的アフタサービス能力が浸透する体制とする。また必要があれば、森林用機械のみの単製品ディーラーを作って、顧客との関係を確立する。製品出荷・納入の全過程のコストを削減し、ディーラーの在庫を減らし、電子取引を確立する。
第2-1表 Catの経営状況(1996−2000)
出典:Cat2000年 年次報告書
FIVE-YEAR FINANCIAL SUMMARY
Yeares Ended December 31 2000 1999 1998 1997 1996
(Dollars in millions except per share data)          
Sales and revenues $ 20,175 $ 19,702 $ 20,977 $ 18,925 $ 16,522
Sales $ 18,193 18,559 $ 19,972 $ 18,110 $ 15,814
Percent inside the United States 50% 50% 51% 49% 49%
Percent outside the United States 50% 50% 49% 51% 51%
Revenues $ 1,262 $ 1,143 $ 1,005 $ 815 $ 708
Profit $ 1,053 $ 946 $ 1,513 $ 1,665 $ 1,361
As a percent of sales and revenues 5.2% 4.8% 7.2% 8.8% 8.2%
Profit per share of common stock $ 3.04 $ 2.66 $ 4.17 $ 4.44 $ 3.54
Profit per share of common stock - assuming dilution $ 3.02 $ 2.63 $ 4.11 $ 4.37 $ 3.5
Divedends declared per share of common stock $ 1.345 $ 1.275 $ 1.15 $ 0.95 $ .775
Return on average common stock equity 19.0% 17.9% 30.9% 37.9% 36.3%
Capital expenditures:          
Property,plant and equipment $ 723 $ 790 $ 925 $ 824 $ 506
Equipment leased to others $ 665 $ 490 $ 344 $ 282 $ 265
Depreciation and amortization $ 1,022 $ 945 $ 865 $ 738 $ 696
Research and engineering expenses $ 854 $ 814 $ 838 $ 700 $ 570
As a percent of sales and revenues 4.2% 4.1% 4.0% 3.7% 3.4%
Wages,salaries and employee benefits $ 4,029 $ 4,044 $ 4,146 $ 3,773 $ 3,437
Average number of employees 67,200 66,225 64,441 58,366 54,968
DECEMBER 31          
Total assets:          
Consolidated 28,464 26,711 25,128 20,756 18,728
Machinery and Engines1 16,554 16,158 15,619 14,188 13,066
Financial Products 14,618 12,951 11,648 7,806 6,681
Long-term debt due after one year:          
Consolidated 11,334 9,928 9,404 6,942 5,087
Machinery and Engines1 2,854 3,099 2,993 2,367 2,018
Financial Products 8,480 6,829 6,411 4,575 3,069
Total debt:          
Consolidated 15,067 13,802 12,452 8,568 7,459
Machinery and Engines 3,427 3,317 3,102 2,474 2,176
Financial Products 11,957 10,796 9,562 6,338 5,433
Percent of total debt to total debt and stockholders' equity          
(Machinery and Engines) 38.0% 37.8% 37.7% 34.6% 34.6%


第2-1図 Cat部門売上げ(1998−2000)
出典:Cat2000年 年次報告書
z1008_01.jpg
Caterpillar operates in three principal lines of business: Machinery
(construction, mining, agricultural and forestry), Engines and Financial Products.








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