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はじめに
 高速貨物船については、多くの国で多くの構想が建てられたが、今のところ実現しているものはない(一時、大型コンテナ船が35kt程度まで速力を上げたことはあったが、石油危機以降の燃料油高騰で潰えたことはある。)。貨物船の速力は帆船時代の7〜8ktが、現在は17〜18kt、速力の大きいコンテナ船やRO/RO船でも25kt程度であり、船型の大型化や省力化等に比べると劇的な進歩は遂げていない(倍以上になった、とはいえるが)。それだけ、挑戦する価値はありながら実際の開発は困難な分野なのであろう。そのような中で我が国が開発したテクノスーパーライナーが実用化直前にまでこぎつけているのは、高く評価されるべきであるし、また喜ばしい限りである。
 高速貨物船については、米国でもいくつかの構想があるが、その中で白眉ともいえるのがFastShipである。このプロジェクトについては、本文の中で詳しく紹介したが「既に事業会社ができている」という点で極めて目立つ存在である。FastShip社は、単に構想を打ち上げるだけではなく、実際に船型を開発し、事業に必要な資金の調達も始め(暗礁に乗り上げているが)、専用ターミナルに使用できる土地を確保し、高速貨物輸送に必要なロジスティクスについても専門の会社と提携を決めている。資金面を除けば、プロジェクトとして、相当魅力的なものなのかも知れない。また、実現すれば、世界で最初の「構想だけに終わらなかった本格的な高速貨物船」になるかも知れない。実際、FastShip社は第1期用として、米国の造船所に高速貨物船4隻の発注を内示している。
 当部では、1996年に日本財団と(財)シップ・アンド・オーシャン財団のご支援を得て「米国における高速貨物船開発状況に関する調査」を実施した。当時はFastShip構想が公表され、事業会社が設立されたばかりの頃であった。その後、常に資金面に問題は抱えつつもFastShip社は構想の実現に努力してきた。この報告書は前回の報告から5年を経過した現状のフォロー・アップすることを第一の目的にしている。
 また、米国、あるいは欧州も含めて、FastShipに触発されたかのように高速貨物船や高速フェリー開発の構想が公表され、研究プロジェクトが開始されたものもある。この報告書では、現在、米国やFastShip関連で動いている他の高速貨物船及び高速フェリーのプロジェクトについても調査した。特に高速フェリーについては、最近、米国では急速に普及する傾向を見せている。高速フェリーは、内水や沿岸で旅客と自動車(旅客のみの場合もある)を輸送するものであり、FastShipとは規模も事業も異なるが、陸岸に近い海域の近距離に限られている輸送需要が、やがて陸岸遠くの遠距離にまで伸びる可能性はある。ところで、高速船は近年急激に発展を遂げた分野であり、国際的にも国内的にも安全や環境に関する規制の整備が急がれている。IMOは1996年に初の包括的な高速船規則であるHSCコードを策定したが、早くも2000年には、全面改定をすることとなった。これについて、IMOでは「高速船の大型化、船型の多様化、新しい航路の開拓が予想以上のスピードで進んだため」としているが、元々のHSCコードには一部技術的問題があったことも事実である。米国でも事情は同様であり、現在はUSCGの規則(一般船と共通)、ABSの規則、そしてHSCコードが併存しているのが実情である。そこで、この報告書では米国における高速船関係の安全環境基準の実際を調査し、相互に比較検討してみた。なお、安全環境基準では船員の資格や配乗についても、若干触れた。これは、現在の規則作成者の大半が、高速船の安全はハードウェアのみではなく、船舶というシステム全体(あるいは陸側の支援も含めて)で達成される、と考えているためである。
なお、FastShipを始めとする高速貨物船プロジェクトや高速フェリーについては、第一部にまとめて取り上げた。また、高速船に関する安全環境規制の問題は第二部で取り上げている。
 
平成13年12月14日
 
ジェトロ・ニューヨーク・センター
((社)日本中小型造船工業会共同事務所)
船舶部 ディレクター 市川 吉郎
アシスタント・リサーチャー 氏家 純子








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