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V. NSRP ASEの評価
 NSRP ASEプログラムの進化の理由とその足取り、プログラムの問題点、米国造船業のパフォーマンスにリサーチプロジェクトがどのように貢献したかについての専門家の見解を以下にまとめる。
V-1. MARITECH ASEからNSRP ASEへ
 NSRP ASEは、オリジナルのMARITECHプログラムの優先順位を変える決定から発展したものである。MARITECHプログラムの下では新しい船舶設計に大幅な政府支援が供与されたが、NSRP ASEプログラムは造船所ビジネス及び建造プロセス、技術改善、訓練・教育に焦点を当てている。この重点の変化は、MARITECHでは顧客に売り込むことができる新設計を開発するために大々的な支援が与えられたにもかかわらず、米国造船業者は国際商船市場に実質的な足がかりを何も得ていないという事実を認識した結果である。実際に、市場への参入を果たした場合でも、米国造船所は国際市場向け建造で大幅な財政的損失を被っている。そのため、国際商船建造市場で互角に争えるようになるためには、新たな設計を開発し売り込むかわりに、米国造船所のプロセスと慣行を大幅に改善する必要があるという認識が生じた。
 また、米国造船所の主な顧客は米国海軍であり、MARITECH研究の成果により生産性が向上した場合、恩恵を被るのは彼らであるとの認識があった。NSRP ASE研究プログラムの結果、どのような形でも造船生産性が向上すれば、艦艇建造コスト削減につながる。これが、研究プログラムをDARPAから海軍予算へ移し、同プログラムの管理を海軍海上システム司令部へ移管する決定の主因であった。
 NSRP ASEプログラムの運営を、非政府組織に外注したのは、全研究活動を調整する体系的な管理構造の必要を認めてのことであった。MARITECHプログラムはDARPA内のMARITECHプログラム局により運営され、プロジェクトの調整には多様な政府職員と契約スタッフが使われていた。先進技術研究所(ATI)を選んだことで、研究プログラムの運営は一つの組織の下に一本化された。ATIはその役割をNSRP ASEプログラムの「促進剤」と考えている。海事分野に加えて、この組織は金属技術、情報技術、製品開発技術、ヘルスケア・危機管理に関する研究プログラムの運営機関として選ばれている。同機関は、「技術上の難問を共同で解決する努力を増幅させることを望む組織に、先入観のないリーダーシップ」を提供することができる点を自らの長所と見ている。ATIはサウスカロライナ州チャールストンに所在しているが、同地域は歴史的に海軍予算によるプログラムのロケーションとして上下両院で強力な政治的支援を受けている。
V-2. NSRP ASEプログラムの問題点
 NSRP ASEプログラムについて情報共有に関する大きな問題が公に浮上したことはない。プログラム・アドミニストレーターであるATIはプロジェクト情報と成果の交換を目的とした業界ミーティングを企画するために、非常に積極的な活動を行っているようである。たとえば、2001年4月から10月の間に、10回にわたるNSRP ASEプロジェクト成果についての業界関係者会議が予定されている。具体的なプロジェクトについての相当な情報が入手できる非常に専門的なウェブサイトもある。情報には一般公開されているものと、NSRP ASEプログラム参加者に限定されているものがある。
 しかし、将来においてコミュニケーション及び情報共有度が衰えることを防ぐために、プログラム・アドミニストレーターは2000年3月に、「効果的技術移転計画開発ガイドライン」を発表した。NSRP ASEプログラム予算を受けたプロジェクトはすべて、その成果が広く米国造船産業に効果的に普及することを確実にする技術移転計画を作成することが義務づけられている。それぞれのプロジェクト参加者は、技術移転計画を作成し、その中で次の点を記述しなければならない。
◆ プロジェクト・チームにより確実にプロジェクト成果が成功裏に利用されるようにするための努力
◆ 米国海事産業内で、成果の実用、または知識から恩恵を被る可能性のある者にプロジェクト情報を普及する活動
◆ プロジェクト実施期間中、または実施期間後を問わず、プロジェクト成果を実施に移したプロジェクト非参加者への支援計画
加えて、オリジナルのMARITECHプログラムで主要な欠点とされた問題点は、NSRP ASEプログラムで是正された。新たな船舶設計を開発し、売り込むことにはもはや重点は置かれていない。これは何の成果も上げなかったように見られる事業であった。共同で研究を実施し、成果を共有する効果的なプログラムが、MARITECHプロジェクトの特性であった企業を特定した研究に取って代わった。全般的に出資を受けるプロジェクト選定プロセスはNSRP ASEでは厳しくなった。コストシェア研究プロジェクトを提案する企業は、提案した事業から、明確な利益があることを証明する負担が増大したのである。
V-3. プログラム効率の評価
 政府が五年間にわたり産業研究のコストシェア基金に2億ドルを供与しているという事実を考慮すれば、業界はこのプログラムに対してほとんど批判の声はないと考えて当然である。プログラムに参加した業界関係者何人かに話を聞いたところ、全員が、現在資金を供与されているプロジェクトは相当なメリットがあり、費やした金額にたいして立派な成果を上げたと口を揃えている。プログラムの構成に対しても、業界側は十分満足しているようである。同プログラムは業界主導で、政府がこれを支援するものである。
 このプログラムを海軍の視点から見ると、ここでもまた同プログラムが利用価値があり効果的であると考えられている。同プログラムは本質的に、艦艇建造コスト低減のために米国造船所の生産性向上を図るものである。これが達成されている限りにおいて、米国海軍は艦艇建造に費やす予算は少なくてすむ。また、他の支出と比較して、NSRP ASEは金額的には大きなプログラムではなく、少なくとも理論的には、政府出資と同額を業界が負担する事になっている。
 NSRP ASEプログラムは議会でも支持されており、同プログラムは効果的であると考えられている。1999会計年度の海軍予算要求で、MARITECH ASE(当時)プログラムに1,970万ドルが要求されたとき、11名の下院議員が下院国防歳出予算小委員会と下院軍事研究開発小委員会に配算額を4,000万ドルに増額することを求める書簡を提出した。この書簡で、議員は、「造船産業の設計及び生産工程に新技術を導入する最も価値のある提案を支援するために」4,000万ドルを配算すべきだとした。








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