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II-3. 主要研究開発課題
 NSRP ASEは戦略的投資計画(Strategic Investment Plan)として以下の6つの主要研究開発課題を制定した。
造船生産工程技術
 購入した材料、サービス、コンポーネント、機器、中間製品を完成品にするために使用される生産工程を対象とする。
◆ 工程管理――標準工程、精度管理テクニック、コスト、スケジュール、品質管理方法論の改善。特に、曲げ加工制御(Distortion Control)技術、データの電子送受信、自動データ分析、統計的工程管理テクニックに重点を置く。
◆ 産業エンジニアリング――包括的に施行されれば、生産現場全域にわたる工程改良(そして、それによるコスト低減及びサイクルタイムの短縮)の実現を支援するような標準工程分析ツールの開発。工程改良は、「注文建造」から「ワールド・クラス製造」アプローチへ米国造船業を転換させる鍵を握るものと考えられる。特に、工程分析方法論、工程シミュレーション・モデリング、製造工程マトリクスに焦点を当てる。
◆ 艤装品加工/据付け/試験――付加価値のない(NVA)作業の削減、船舶建造に対する「ワールドクラス製造」アプローチへの移行を支援する。特に、標準中間製品、セル式/フロー式製造方式、工程管理テクニックの改善、工程の自動化、機関パッケージの標準化、資材取扱い作業の軽減に焦点を当てる。
◆ 構造加工/小・中組立/船台組立――米国造船所の「注文建造者」から「ワールド・クラス製造」への転身を支援する統合構造建造工程モデルの開発を目的とする。特に、標準中間製品、セル式/フロー式製造方式、工程管理技術の改善、工程の自動化、足場組み、資材取扱い作業の軽減を通して、付加価値のない(NVA)作業を削減し、学習効率を上げ、作業のやり直しを減らし、サイクルタイムを短縮することに焦点を当てる。
◆ 生産管理――資材、労働者、生産情報、施設、設備の計画・管理についての生産管理方法論の開発を目的とする。この小課題では、コスト節減の方法論及び、または他の産業が利用している技術の考察を実施してもよい。特に、部品と中間製品の標準化、在庫方針、コンピューターによる部品と中間製品の管理、及びトラッキング、自動部品マーキング、カンバン方式の製造方式に焦点を当てる。
◆ 下地処理/コーティング――人件費の節減、サイクルタイムの短縮及び、または資材コストの節減に大幅に寄与する下地処理及び塗装工程及び、または資材製品改善を目的とする。
ビジネスプロセス技術
 初期事業戦略開発から引き渡し後の顧客サービスまで、市場ニーズに迅速かつ効率的に対応するのに必要なすべての主要ビジネスプロセスを対象。
◆ ソーシング/サプライヤー統合――米国造船所の資材調達方法を根底から変えることにより、資材コストを大幅に節減することを目的とする。特に、商業ベースの調達方式、グローバル・ソーシング、サプライヤー網の統合、長期契約、仮想企業パートナーシップに重点を置く。
◆ プランニング・生産設計プロセス――作業員が必要とする時に、必要とする場所に、情報、ツール、資材を合理的に届けるためのプロセスの完成度を高めることを目的とする。特に最終建造ストラテジー(final-build strategy)の開発、生産方法論の設計、生産管理または甲板プランニング、作業の流れと素材管理、並行するエンジニアリングのフォロースルーに重点を置く。
◆ 契約前プロセス――「ワールド・クラス」造船所となるために、契約前に取り組むべき戦略及びプロセスの改善を目的とする。特に、設計/エンジニアリング過程、及び組織構成、初期建造ストラテジー(preliminary build strategy)の開発、基本作業日程計画作成、資源割振り、容量分析を行う。また、入札、見積もり、原価計算システム及び構造を改良し、請負業者間の長期的な関係の構築を可能にすることに重点が置かれる。
◆ マーケティング・ツール――マーケティング活動とマーケティング訓練用に造船業界全体が利用することのできるリソースを確立することにより、米国造船所の商業マーケティング能力の向上を図ることを目的とする。特に、組織的かつ規則的リサーチの確立、効果的ベンチマークの作成、顧客のニーズを企業内の能力との突き合わせ、顧客の資金調達を助けるカスタマー・ファイナンシングと、融資を確保するためのツールの理解に焦点を当てる。
◆ 契約プロセス――建造船舶毎に、あらゆる法的偶発事をカバーした分厚い契約書を作成する現行の契約法式から、標準契約の雛形文と造船所毎の慣行に基づく国際商業契約モデルへの転換により、契約コストの削減を図る。特に、国際契約トピックスについて米国造船所を教育し、その過程で、商船契約及び艦艇契約(調達改革)のための簡略なアプローチ/モデルを開発することに焦点を当てる。
製品設計・材料技術
 顧客からの引き合いへの対応及びそれに続く契約設計・詳細設計・製造過程を迅速かつ効果的に支援するために必要とされる設計、基準、テクノロジーを対象とする。
◆ 先進船舶設計/新素材の開発――新しく、画期的な設計及び素材を開発し、コスト及び、または性能の面で従来のものよりも有利にすることにより、米国造船所の製品の魅力を高める。特に、自動荷役能力、先進的推進システム、標準統合制御システム、運航に必要な人数の削減、保全性と安全性を高める設計、補強材を入れない湾曲板構造(unstiffened curved plate arrangements)、防火構造、保護塗装、高速船テクノロジー、先進複合構造(Advanced Composite Structure)の分野に焦点を当てる。
◆ 基本設計のポートフォリオ――パラメトリック・デザインルール、メトリクス、詳細設計、素材基準に基づいて、融通のきく一連の商船基本設計を開発することを目的とする。システム設計と配列の共有性を最大限に活用するコンセプトが奨励される。
◆ 流体力学研究所――造船所の引き合いを支援し、競争力のある推進効率を提供する近代的商船及び高速船型を迅速かつ効率的に設計するための計算的流体力学研究、えい航水槽、及び分析能力を開発し、これを業界が利用できるようにすることを目的とする。
◆ パラメトリック・デザインルール/メトリクス――顧客からの引き合いへの迅速かつ効率的対応、及びそれに続く契約設計・詳細設計・製造過程を支援するために、融通の利く一連のパラメトリック・デザインルール、デザインメトリクス、詳細設計基準、エンジニアリング・データを開発する。
◆ 材料基準――顧客からの引き合いへの迅速かつ効率的対応、及びそれに続く契約設計・詳細設計・製造過程を支援するために、一連の商業マリン素材基準と、それを支持するエンジニアリング及び商業データの開発を目的とする。特に、「ワールド・クラス」造船事業者が利用する一般的素材基準、並びに米国の他の製造産業、建設産業が利用するものの変換可能性(トランスファーラビリティ)に焦点を当てる。
システム技術
 情報技術の造船への応用全般を対象とし、他のイニシアティブの支援に必要とされる基本的な情報システムインフラストラクチャー(特に、生産までのリードタイムを減らし、企業の諸機能間の結びつきを強化するツールと環境の開発)を含む。
◆ 電子取り引き――船舶設計及び建造に関係する舶用コンポーネントの売買にウェブベースの技術を応用することにより、インフラストラクチャー及びプロセスの増進を図る。特に、プロトコル及び標準ベースのコンポーネント開発、電子カタログ作成、船舶の設計事業と建造事業の内側からの統合、標準部品ライブラリーへ加えられる可能性のあるコンポーネントを記述し、注文するためのパラメトリックスの利用に重点をおいている。
◆ 先進設計・シミュレーション・分析・評価――統合造船環境のライフサイクルの全ての段階で、詳細設計及び製造における製品モデリングを開発し、コスト、性能、スケジュールの点で、よりよい判断を支援する。特に、統合造船環境においてパラメトリックス設計及びルールベースの標準を検索、利用する製品モデリングの開発を目的とする研究;共同作業のための視覚化技術の利用;統合造船環境において、造船会社のプラニング、製造、組立て、試験のプロセスを常に改善するためのプロセス・シミュレーション技術の開発に重点を置く。
◆ コンポーネントベースソフトウェア――造船所に汎用ITツールを採用させることにより、専用のITシステムを開発するのではなく、造船所としての中核事業に専念できるようにする。特に、プロトタイプの利用を通して、IT技術のフィージビリティを導入し、実証するために、造船産業が取ることのできる手段を特定することに焦点を当てる。
◆ STEPコンセプトの開発――米国造船産業内で使用する産業データ交換標準と、アプリケーション・プロトコルの開発を通して、ライフサイクル・コスト節減の実証を図る。特に、先のMARITECHプログラムの研究で開発された、生産に即時利用できる、製品モデル交換標準(STEP:Standard for Exchange of Product Models)の実証に焦点を当てる。
◆ 製品構造管理――コンポーネント・ソフトウェア環境における積極的な製品構造管理の開発と実施を図る。これには、今日のほとんどの製品データ管理システムで採用されているのと同様の書類管理や作業の流れの管理ツールとの統合が含まれる。
◆ 論理的に統合されたデータベースアクセスの開発――世界的なデータ共有を可能にするメカニズムの開発のための研究。システム・セキュリティ、アクセス管理、同時実行、スケーラビリティ、標準インターフェイスとプロトコル、イントラネット内、インターネット上のデータ配布が含まれる。
施設・設備
 効率的、安全、制御可能、そして環境に優しい方法で船舶の組立て、改造、修理を行う能力のある工場を提供し、保全することを目的とする。
◆ 安全、健康、人間工学――労働災害補償、安全関連コストを低減し、負傷のリスクを減らし、米国造船・修理施設の生産を拡大する革新的プロジェクトに焦点を当てる。
◆ 環境保護――トリブチルスズ(TBT)防汚塗料を含有する排水を効果的に処理するための、効果的かつ有効な方法の開発、TBTに代わる防汚塗料及びクリーンアップ方法の開発、表流水汚染を防止する革新的プロジェクトに焦点を当てる。さらに、タンク・バージ用洗剤の残留物及び廃棄物を管理、処理する方法、また船舶のバラスト水放出の管理及び処理に重点を置く。
◆ 革新的資金調達――外国の競争に対抗するために、米国造船所のアップグレードのための低コスト資金を提供する革新的資金調達方法の開発。造船所の投資の必要に対処する全米フォーラム、工員の維持、新規採用能力、生産性に施設のアップグレードがどのような影響を与えるか、その価値を判断するための量的研究に焦点を当てる。
◆ 施設計画・利用――施設計画と生産計画を統合することにより、作業の流れ及び保全の必要性を最大限に有効利用する革新的なプロジェクトをターゲットとする。特に、プロセス・フロー及び保全要件、造船所内の空間の最適利用(工場と組み立て区域の距離を含む)、最適のロケーションでの作業パフォーマンス、複数の船舶設計を支援するために最も効果的な施設配置の検討に重点を置く。
◆ 施設保全――工場及び設備保全の最もコスト効率のよいアプローチを決定する革新的プロジェクトをターゲットとする。特に、「最適製造プラクティス」及び「最適製造技術」の採用、保全のコストインパクトを低減するための、保全する品目及びシステムの相対的重要性と価値に対する階層的アプローチ、保全工事を下請けに出す、または設備をリースするなどの保全コスト節減のための革新的テクニックに重点を置く。
横断的課題
 横断的課題は、造船産業において、技術の進歩及び変化を実践に移す上で、その成否に影響を与える従業員及び組織に関する主要な要素を包括するものである。
◆ 教育と訓練――競争力のある造船産業を支援するために必要とされる教育・訓練プログラムを提供するためのアプローチの特定と、方法の実証を図る。特に、業界の変化と連動した管理者及び監督者教育、及び技能開発のための革新的プログラム;訓練におけるビジネス・プロセス改善と訓練に対する投資の見返りを計るためのベンチマーク・メトリクス;業界全体で教育、専門性の育成、訓練用リゾースを共有するための革新的方法、に重点を置く。
◆ 技術移転――造船業が競争力のある産業となるために必要とされる技術やプロセスを移転し、導入することを可能にするアプローチ、方法の実証、施行計画の開発。
◆ 組織的変化――造船組織が、造船業において必要とされる変化を受け入れ、技術利用を受け入れることを可能にするアプローチの特定、方法の実証、施行計画の開発。
◆ 人的資源――造船産業における技術及び過程改革を先導することを助ける革新的人事パートナーシッププログラム(パートナーシップとは、複数の造船所が労組、教育機関、大学等と協力すること)を提供するためのアプローチの特定及び方法の実証。また、造船業労働者にとっての職場環境を改善する革新的過程または実施方法の検討も含まれる。








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