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I-5. MARITECHの総合評価
 1990年代に、MARITECHプログラムの研究結果及びコスト・シェアの恩恵を受けた造船プログラムを以下に挙げる。
◆ アラバマ造船は、オランダ船主のDannebrog向けに小型プロダクトタンカー2隻を建造した。これにはMARITECHの技術開発プロジェクトのコストシェア研究が役立っている。
◆ アボンデール造船は、フィリップス・ペトロリウム社向けに一連のアラスカ航路向け原油タンカーを建造している。同社は、MARITECHプログラムで支援を受けた設計・工程開発研究が役立ったとしている。
◆ ボリンジャー造船は、MARITECHによるコストシェアで、自己昇降型作業船建造のための開発コストの一部を相殺した。
◆ フリード・ゴールドマン・ハルター社は、MARITECHのもとで行われた設計作業の成果の一部を利用して、ハワイ航路向けRO/RO船を建造している。
◆ インガルス造船はMARITECHクルーズ船設計プロジェクトの初期設計のコスト・シェアの成果により、ハワイ航路向けクルーズ船2隻の契約を受注するという直接的な恩恵があった。
◆ NASSCOは、車両輸送船設計プロジェクトを行ったが、その結果、アラスカ−西海岸航路向けRO/RO船2隻の建造を受注するという、直接的な恩恵があった。
◆ ニューポート・ニューズ造船は、プロダクト・キャリアの初期設計のコストシェアのおかげで、外国船主向けに40,000DWTタンカー6隻のシリーズ建造を受注した。(最終的に、国内船主向けの内航タンカーとなった)。しかし、建造コストが大幅に超過し、結局、商船建造から撤退した。
◆ トッド・パシフィックは、ワシントン州フェリー向けジャンボフェリー3隻の建造プロジェクトでMARITECHコスト・シェアの成果を利用した。
 
 しかしながら、上記の建造プロジェクトのいくつかは、MARITECHプログラムの有無にかかわらず実現していたとも考えられる。MARITECH以降に米国で建造された商船のほとんどが、国内船主向けである。これは、ジョーンズ・アクトにより、米国内発注が義務づけられている市場である。しかし、MARITECHプログラムは、設計や施設改良のコストを政府が分担することにより、結果的に船価を低減した可能性もある。
 
さらに、多くの造船所で、MARITECHの成果として、船舶の建造工程が改善された。
◆ アラバマ造船所では、MARITECH事業の一環として改良された生産工程技術が工場に導入され、その結果、2隻のDannebrogタンカーの建造に必要な工数を削減することができた。
◆ アボンデール造船は、MARITECHの集中的技術開発プロジェクトの結果としてAESAから新たな鋼製ブロック製造工程「船舶工場」を導入した。
◆ バス・アイアン・ワークスは、MARITECHで学んだおかげで、リポジショナル・フローティング・ドックを利用して、ランドレベル建造施設を建造する決定を下したとしている。
◆ ベンダー造船は、MARITECHプロジェクトの結果、納入業者との関係が改善され、新しい原価計算方式、レーザー切断技術の導入が行われたとしている。
◆ ボリンジャーはMARITECHプロジェクトで開発されたAutoCAD技術の結果、設計開発にかかる時間が5分の1に短縮できたとしている。
◆ ジェネラル・ダイナミクスのエレクトリック・ボート部門は、MARITECHのSHIIPプロジェクトの結果、工程を再編成し、付加価値のない機能を削減し、労働効率が向上したとしている。
◆ グラディング・ハーンは、ゾーン艤装ロジック技術の導入と、CAD/CAMの生産工程への応用にMARITECHプロジェクトを利用した。
◆ フリード・ゴールドマン・ハルターは、パスカグーラ工場における生産施設フローを再整理し、ガルフポート工場にアルミニウム造船能力を増設した。
◆ インガルスは、MARITECHのクルーズ船設計プロジェクトで学んだことを、ハワイ航路クルーズ船の建造に応用した。同社はまた、組立式上部構造物用技術を開発した。
◆ マリネット・マリンは素材取り扱い工程を改善し、IT能力をアップグレードし、在庫管理、原価見積もりを改善する企業システムを導入した。同造船所は、MARITECH事業のおかげで、USCG向け設標船第一船の受注から引渡しの期間を14ヶ月に短縮することができたとしている。
◆ NASSCOは、MARITECHプロジェクトの学習効果により、製造前段階の設計、エンジニアリングのサイクルタイムを大幅に短縮し、製造、組立工程を通して鋼材処理能力が向上したとしている。
◆ ニューポート・ニューズ造船は、MARITECHプロジェクトに参加したことで、造船所のレイアウトを最適化する結果となった。また、MARITECHで開発されたEDI技術により、部材のリード・タイムが短縮され、在庫管理が向上するであろう、としている。
◆ ニコルス・ブラザーズは、MARITECHプロジェクトの結果、ゾーン艤装ロジック技術を開発し、CAD/CAMを改善し、造船所の材料の流れを最適化した。
◆ トッド・パシフィックは、セル製造技術の開発により、板金、鉄鋼組立工場における生産性が30パーセント向上し、精度が上がった結果、再加工が減り、予算計画とトラッキング能力が改善した。
 
 1998年に、MARITECHプログラム終了後の評価が行われた。MARITECHプログラム局により雇われたコンサルタントは、中立的にプログラムの成功度を評価し、次の所見を出した。
 
 MARITECHが、5年間、2億2,000万ドルで世界的に競争力のある造船産業を作り出すことを期待するのは、楽観的にすぎる。しかし、MARITECHは多くのことを成し遂げた。評価チームが訪問した造船所へMARITECHが及ぼした影響は、驚くほど広範である。米国造船所事業は、ほぼすべての面で変りつつあり、この変化の多くがMARITECHに起因するものである。たとえば、MARITECHプロジェクトは事業過程、建造工程の改善に大きく役立っている。これらのプロジェクトにより、国際競争力獲得の鍵である生産性が向上した。MARITECH予算は、取り組んだ問題に対して、比較的低レベルであったにもかかわず、これだけの影響力があったことは、特に印象的である。
 海軍はすでに商船建造事業及び商船建造水準の恩恵を受けている。海軍が積極的に参加すれば、この恩恵はさらに成長するであろう。しかしながら、海軍と民間部門との間にビジネス上及び建造上の考え方に相違があることが、海軍造船所が商船市場に参入することを困難にしている。米国造船所の工程及び慣行が国際水準に達したときにはじめて、海軍は民間の知恵を最大限に利用することができるだろう。しかし、これらの水準は国際競争力を通じて獲得することが最善であり、海軍造船業会社にとって、海軍が民間の過程及び慣行を可能な限り受け入れることにより、造船所の二重性を軽減してはじめてこれが可能になるのである。この「キャッチ22」状態は海軍が解決しなければならない、そしてMARITECHの後続プログラムであるMARITECH ASEは最良の解決策である。
 米国造船業は進歩し始めている。MARITECHの助けを借りて、業界は9隻の新船を建造し(17隻が建造中)、31件の新しい船舶設計を生み出した。1997年6月に、米国の手持工事量(100GT以上)は合計640,000GTを超え、世界ランキング13位となった。1995年12月には、220,000GT弱であり、世界23位だったのと比べると、短期間に目覚ましい成長を遂げている。1997年4月現在、米国の商船手持工事は21隻であり、契約総額は約10億ドルである。これらの売上げにより発生する直接的、間接的事業活動は、5年間にわたるMARITECHプログラム予算全額を相殺するのにほぼ十分な税収を生んでいる。
 
 上のコンサルタントの所見は概ね的を得ていると考えるが、MARITECHの真の成果は、1980年代から1990年代初めの水準の工事量から、現在の低い水準へ移行する上で造船会社の軟着陸を助けることであった。この点で、MARITECHプログラムは成功したといえよう。








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