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I. MARITECHプログラムの概要
 MARITECHプログラムは、1993年に公法102-484により制定された。これは、米国造船所の生産性向上を支援し、世界の商船建造市場への参入の足がかりを作る必要性に応えたものであった。1990年初めに、海軍艦艇建造が大幅に減少した結果、米国造船所は、艦艇工事不足を商船契約で埋め合わせる必要が生じたのである。1980年代末には年間平均18隻であった艦艇新造契約は、1990年代初めには年間11隻レベルに落ち込んでおり、1990年代末には年間6隻を下回ると予測されていた(現在、この予想通りに推移している。)海軍艦艇工事は米国造船所にとって事業の基幹であり、急激な受注減により造船雇用危機が発生しようとしていた。そのため、クリントン前政権は商船建造市場参入への足がかりを提供し、米国造船事業者の民需転換を図る努力の一環として、MARITECHプログラムを創設したのである。
I-1. 目的
 MARITECHプログラムの目的は、米国造船業者及び船舶修理会社の競争力向上を図ることであり、そのために以下の手段を講じることであった。
● 進取の気性に則った市場分析と市場開発を奨励、支援する
● 米国設計のポートフォリオを開発する
● 革新的設計及び、生産工程・技術を開発する
● 官民の技術移転活動を促進する
● 短期的、長期的投資戦略のためのコンソーシアムの形成を奨励する
I-2. プロジェクト管理体制
 MARITECHプログラムは、国防総省の先進研究プロジェクト局(DARPA)の管理下に置かれた。同局は防衛部門向けに新たなシステムや工法を開発する革新的研究を支援してきた。DARPAは国防総省内の職員数約200人ほどの小規模な組織である。研究プロジェクトを実施、管理するために、DARPAはMarAd、海軍研究局(ONR)、海軍海上システム司令部(NAVSEA)等、他の政府機関のコンタクト管理手腕と専門スタッフを利用している。以前にDARPAは米国半導体産業の効率、生産性、競争力向上を図るSEMATECHイニシアティブを制定、運営したことがある。MARITECHは造船産業版SEMATECHを目指すものであった。
 MARITECHプログラム管理は、DARPA海事システム技術部(Marine Systems Technology Office)が担当していた。、MARITECHプロジェクトの調整を行うために、他省庁の職員を含めたチームが結成された。外部業者である計画研究コーポレーション社(Planning Research Corporation)がプロジェクト運営の支援を請け負った。船舶建造融資、工員訓練、規則、マーケティング等を扱う多彩なワークショップが開催された。米国造船工業会(SCA)、及び米国水路造船所会議(AWSC)が業界ワークショップの準備、調整を支援した。造船コミュニティをひとつにまとめるために、最先端のインターネット通信システムによる情報の蓄積、検索を提供する米国造船ネットワーク(NSnet)が立ち上げられた。
I-3. プロジェクト数、官民コスト・シェア要件
 MARITECH契約の最初のコンペは、1993年11月のコストシェア契約の提案募集の公告(Broad Agency Announcement)により開始された。提案では、コンソーシアムメンバー、目標とする市場、革新的コンセプト、技術的アプローチ、パートナーシップ/出資計画とコストシェアの希望金額を特定することが求められた。DARPAに約40件の提案が提出され、1994年春に発注が開始された。
 1994年から1998年の間に、合計65件のプロジェクトにMARITECH出資が行われた。プロジェクト総額は3億5,700万ドル、このうち政府負担額は1億6,500万ドル、マッチングによる業界負担は1億8,710万ドルであった。MARITECH予算は1998会計年度に打ち切られた。
 MARITECH契約では、コストシェアの金額についてはっきりとした規則はなかった。しかし、提案者がプロジェクトコスト総額の少なくとも50%を負担し、政府が残りを負担するのが一般的であった。提案者の出資分については、契約を履行する上で使用する機器、資材、その他の資産の価値に基づいた現物出資も認められた。既存の設計、すでに実施されているエンジニアリング作業を利用して、それをMARITECH研究でさらに開発する場合、その設計、エンジニアリング作業の価値も、現物出資としてコストシェア分に含めることができた。








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