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第二部 欧州・韓国造船摩擦と欧州の船価助成との関係
長い間欧州で続けられてきた契約船価の一定割合について補助金を供与する「船価助成」が、2000年末で廃止された。韓国造船問題が議論される中で、船価助成の廃止についても、大きな議論を呼んだ。本項では、欧州の船価助成の廃止をめぐる議論について整理した。
2.1 EUの造船助成の現状
欧州域内で造船助成が規律されるようになったのは、1970年代初期である。造船助成に関する理事会指令(Council Directive on Aid to Shipbuilding、いわゆる「造船指令」)により助成に関するルールが規定されていた。当初は欧州共同体加盟国間の競争条件の調整が主目的であった。長年にわたり助成率はかなり高いものであったが、造船業界の競争力強化、構造調整の促進、EU内の公正な競争の確保等の観点から1987年の第6次造船指令により、助成からの脱却を進める政策に転換し、以後、助成率の上限を1987-1988年28%、1989年26%、1990年20%、1991年13%、1992-2000年9%と漸減してきた。
1990年代における年間造船助成総額の3年移動平均は、1,445〜1,720百万euroの間で変動している。そのほとんどが船価助成とリストラ助成である。
1900年代における船価助成の推移を表2.1に示すが、近年ではそのかなりの部分が客船向けとなっている。まだ統計はでていないが、この傾向は1999年、2000年も続いていると考えられる。
表2.1 1990年代の船価助成の推移
  1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998
船価助成額
(百万 euro)
1,102 722 198 877 466 855 500 347 548
内客船分
(百万 euro)
198 43 42 314 84 173 71 135 314
客船に対する助成のシェア 18% 6% 21% 36% 18% 20% 14% 39% 57%
出展:EC第3次造船市場報告書
助成率の漸減が進んだ当初は、競争力強化や構造改革の促進に効果があったが、助成率の変化のない近年ではこうした効果は維持されていないと評価されている。厳しい市場環境から欧州造船業を守る緩衝材とはなっているが、一方で、加盟国政府に膨大な財政負担を強いるものともなっている。EUの製造業でこうした助成をシステマチックに受けているのは造船業だけで、付加価値総額に対する助成額の割合で見ても、従業員一人当たりの助成額で見ても、製造業平均を圧倒的に上回っており、限られた公的資金の効率的な活用の観点から疑問が呈される状況となっている。
表2.2 造船業に対する助成の製造業平均との比較
  造船業 製造業平均
付加価値総額に対する助成額の割合 22.0% 2.3%
(1996-1998年)
従業員一人当たりの助成額 28.000 euro 1.113 euro
(1998年)
出展:EC第3次造船市場報告書
また、表2.3に見られるように、各加盟国の実際の助成制度の違いから、EU内の競争を歪曲化している。
表2.3 EU加盟国の新造船船価助成率
  1996 1997 1998
小型船 大型船 平均 小型船 大型船 平均 小型船 大型船 平均
デンマーク 4.5 9.0 8.9 4.5 9.0 8.9 4.5 9.0 8.1
ドイツ 4.5 6.7 6.6 4.5 6.4 6.3 4.5 6.4 6.4
フランス 0.0 9.0 9.0 0.0 9.0 9.0 0.0 9.0 8.6
フィンランド       0.0 5.3 5.3 0.0 3.1 3.1
スペイン 4.3 8.0 7.4 2.9 7.6 7.4 0.5 4.3 3.9
イタリア 4.5 9.0 8.7 4.5 9.0 8.9 2.6 4.4 4.1
オランダ 3.1 4.8 3.2 3.2 3.8 3.6 2.6 4.4 4.1
英国 4.3 6.0 6.0 0.0 8.7 8.7 - - -
単位:% 出展:EC第3次造船市場報告書
こうした背景から、1997年にECは競争力の強化の促進に焦点を絞った助成制度への転換を図った。理事会規則EC1540/98(EU造船助成規則、付録12参照)を新たに制定し、2000年末での船価助成の廃止(2000年末までに受注した船舶への助成は2003年末まで認められる)を規定するとともに、他の形態での助成(リストラ・撤退助成、近代化投資助成、研究開発助成、革新技術導入投資助成、環境保護助成)を導入した。各助成の概要は以下のとおり。また、これらの他にも途上国援助及び建造資金融資・信用制度の形で助成が可能となっている。
リストラ助成
構造調整による競争力強化のための助成で、EUのリストラ助成ガイドラインに適合することを条件に認可される。
撤退助成
社会的影響を緩和するための助成及び造船所の完全・部分的閉鎖に必要な経費に対する助成を含んでいる。造船助成規則第4条への適合を条件に認可される。
既存造船所の近代化に関する地域投資助成
既存の造船設備の生産性向上を目的とするもので、造船所が指定地域に立地しており、EUの地域助成ガイドラインに定められる経費に対するものであることを条件に認可される。
研究開発助成
中長期的な造船業の競争力向上にとって重要な研究開発でEUの研究開発助成計画に従ったものであることを条件に認可される。
革新技術導入投資助成
造船助成規則で新たに導入された制度で、他の産業分野にはない制度。プロジェクトの革新的な部分に関する経費の10%を上限に供与される。
環境保護助成
環境保護に関する造船所の経費を助成するもので、EUの環境保護助成ガイドラインに適合することを条件に認可される。
2.2 船価助成廃止をめぐる動き
韓国との造船摩擦が本格化する中、韓国の不公正な行動を抑止する措置が効果をあげるまでには一定の時間がかかるとして、それまでの間は欧州造船業の生き残りのために2000年末で廃止される船価助成の延長が必要との声も1999年には産業界から上がっていた。
船価助成制度の廃止を巡っては、制度や競争力の違いなどを背景とした各国の思惑を反映して、助成延長支持派と助成廃止派に意見が二分していたが、世界単一市場の商船市場に残る限り、船価助成の延長が本質的な解決策とはならないとの認識があったこと、また、韓国問題の提起の真意が船価助成延長であると誤解されかねないことから、業界、各国政府とも本件については、2000年末までローキーで対応してきていた。
しかしながら、船価助成の廃止期限を目前にした産業閣僚理事会に向けて、船価助成廃止をめぐる議論が表面化してきた2000年末には、業界からは船価助成に代わる有効な保護措置は無いと示唆するプレスリリースが立て続けに発表され(付録13及び14参照)、EC内でも貿易、産業、競争政策担当の3委員の間で相当な議論がなされた模様である。特に競争政策担当委員は助成延長に強く反対したと報じられている。
結果的に3委員の共同提案という形で、ECは「船価助成延長には反対であること」、「研究開発助成の強化を検討すること」、「2001年4月末までに韓国との間で満足すべき解決が得られない場合、WTO提訴の提案を行うとともに、WTOの結論が出るまでの間、韓国の不公正慣行に対抗するための暫定的保護措置を提案すること。この措置は欧州造船業に直接損害が生じている分野に限定的に取られることとなること。」を発表し(付録15参照)、第一部で述べた理事会決定が行われた。
これによって、船価助成は2000年末を持って一応廃止されたが、暫定保護措置としての船価助成再導入の可能性も残されており、2001年4月末を迎えるまで、その行方は予断を許さない。
2001年に入り、EC内で21%を上限とする船価措置の再導入が検討されているとの報道(付録16参照)もなされたが、ジャパン・シップ・センターからの照会にECは何も決まっていないと述べている。








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