KEXIMは、韓国造船企業の商業的なリスクを無視した保証を供与。韓国政府は、本制度の条件に商業的な基準を適用することを怠っている。ASCM第3条1(a)の禁止輸出補助金に該当。OECD規則にも違反。
過度に低い金利による引渡し前融資という形で輸出補助金を供与。韓国造船所又は他の「特定の」輸出者に優遇条件でのファイナンスを供与。ASCM第3条1(a)の禁止輸出補助金に該当。OECD規則にも違反。
これらの違法な補助金は、韓国企業による大幅な船価値下げ、相場の抑制及び下落や、欧州造船所による受注の喪失、各船種市場における欧州造船所のシェアの急落を通じて、欧州市場において域内造船所に損害をもたらした。
第三国が行っている貿易慣行(trade practice)であって、WTO協定等の国際的通商規則の下でEUが提訴等の措置をとる権利が付与されたもの
「貿易上の悪影響」adverse trade effect
第三国市場においてEU域内企業に貿易障壁をもたらし、あるいは、もたらすおそれのあるものであって、EU経済に実質的影響(material impact)を及ぼすもの
4. 手続き
(1) EUの産業又は企業を代表する提訴あるいはEU加盟国の要請により、手続きを開始。
(2) 加盟国をメンバーとする諮問委員会を設立し、加盟国の要請又は欧州委員会の発意により域内協議を実施。
(3) 欧州委員会は、諮問委員会における域内協議を経て、提訴・要請から45日以内に調査を開始するかどうかを決定。
(4) 欧州委員会は、調査開始から通常5ヶ月以内、最大でも7ヶ月以内に調査結果を諮問委員会に報告。
(5) EUの利益上いかなる措置も必要ないと認められる場合、または、相手国が満足できる是正措置を取る場合には、手続きは終了。
(6) EUの利益上損害を除去する措置が必要と認められる場合、以下に示すような国際通商規則に反しない通商措置を実施。なお、国際通商規則上協議や紛争解決手続きが求められる場合、その手続き終了後に措置を発動。
- 相手国との交渉後の譲許の停止又は廃止
- 関税引上げ又は輸入課徴金の導入
- 相手国との貿易条件を変更する数量制限等の措置
1.2.8 EC「第3次造船市場報告書」(2000年11月)
報告書は、「世界の造船市場の概況」、「韓国の受注船価分析」、「閣僚理事会(1999年11月及び2000年5月)決定事項の実施状況」、「EU船価助成の現状と今後」及び「今後EUがとるべき措置」の5部からなっており、その概要は、次のとおり。
(1) 世界の造船市場の概況
- 過剰建造能力の存在について共通の認識はあるが、その程度に関し、欧・日と韓国との認識には隔たりがある。ただし、この過剰が中国の台頭などにより更に拡大していくことについては共通の理解がある。
- 韓国は、今や世界最大の造船国である。韓国造船業は、2000年当初8ヶ月の全受注量の40%以上を獲得。コンテナ船では、韓国造船業は、60%を獲得しており、定期航路事業の主役となり始めている大型コンテナ船では、82%のシェアを占めている。一方、EUの造船業は高付加価値のクルーズ船市場及び特殊船に依存している。コンテナ船、プロダクトタンカー、ガスタンカーなどの商船市場に依存する中小造船所は脅威にさらされている。
- Clarksonの統計によれば、2000年に入り船価は回復傾向を示しているが、1997年の船価には及ばず、1998年のレベルに回復したに過ぎない。韓国のCGTあたりの受注船価では、1999年末を底に約6%の回復が見られるが、1999年4月レベルまではまだ回復していない。コンテナ船市場では2000年前半船価の回復が見られたが、韓国内の過当競争で再び低下している。
(2) 韓国の受注船価分析
- 前回と同様のコストモデルをもとに正常価格を算定。ただし、収集された追加情報をもとにモデルをアップデートし、インフレーションについても織り込んだ。
- 前回、前々回で分析した18件の受注案件の再評価を行うとともに、新たに7件の受注案件を分析。
- 従来の18件中、利益の出るレベルの受注は一件もなく、大部分が、建造コストさえもカバーしていない。インフレーションを考慮すると平均で20%の赤字と分析。
- 受注案件のいくつかは、現代に見られる増資や大宇・三湖に見られる債務処理による負債の減少で、採算点に近くなっているかもしれないが、政府系金融機関が主な債権者であったり、韓国当局が再建計画を主導しており、ECとしては、WTO協定への適合性の点から現在の債務の状況を認めるものではない。
- 新たに分析した7件(韓進3件、現代2件、大宇1件、Shina1件)では、韓進は利益を出していないものの、採算点には達している。同社は他社の設備拡大にも追随せず、分別のある企業とみられている。現代のHapag−Lloyd向けコンテナ船と大宇のLNG船については、EU造船業と競合する船種であり、債務処理後の状況も加味して再計算を行った。債務処理前では、それぞれ19%、12%の赤字であったものが、債務処理によって7%の赤字、2%の黒字と全く異なる結果となった。Shinaは従来韓国船主向けを中心にハンディサイズのプロダクトタンカー建造を行っている小造船所であるが、欧州船主向けの活動を活発化している。同社も建造コストをカバーしない船価を提示している。
- 韓国の赤字受注は、欧州造船所の受注機会を喪失させ、欧州造船業に悪影響を与えている。また、韓国が従来から大きなシェアを有する市場においても韓国の価格戦略は悪影響を与えており、こうした船価は加害的と理解される。
- 新たに分析した韓国の7件の受注中、韓進の3件は、欧州造船業に損害を及ぼすものとはなっていない。他の4件については、「欧州船主からのダンピング受注」、「低船価受注による欧州造船業シェアの侵食」、「欧州造船事業者の参入を許さない低船価攻勢」などにより、EU造船業に悪影響を及ぼしている。
(3) 閣僚理事会決定事項の実施状況
- 韓国との合意文書の実施
6月22日の合意文書の発効後、7月18・19日、9月28・29日に二国間協議を行った。第1回協議では韓国側から造船所及び金融機関の財務状況、造船業に影響のある政策決定等について韓国側から情報が提供された。また、9月後半に現代及び大宇へのECダンピング調査専門家の現地調査が実施された。大宇は協力的であったが、現代は商業上の秘密を理由に協力を惜しみ、十分な結論を得ることができなかった。第2回協議では、韓国側から、韓国輸銀において、直近の国際市場価格と受注価格を比較し、あまりに低船価と判断されるものには融資を提供しないとの船価チェックの方法が提案されたが、プライスリーダーである韓国の価格同士を比較することに意味がないため、ECからWTO協定で定義される正常価格との比較を提起。しかし、韓国政府は個々の案件についてこのような手法をとるのは輸銀の手間から不可能と主張し、協議は不調に終わった。EC貿易担当委員と韓国貿易大臣との会談を受けて、10月19・20日にECの代表が韓国を訪問したが、韓国政府からも業界からも適切な回答はなかった。10月27日、韓国政府から、EC案について業界を説得できなかったとの連絡があった。問題の解決策は何も提示されていない。
- TBR提訴
韓国との二国間協議の不調を受けて、欧州の造船業界は貿易障壁規則に基づく提訴を実施。最大45日の検討の後、5〜7ケ月の調査が行われる。WTO提訴となった場合、更に1年半〜2年を要する。日米の造船事業者はWTO提訴を支持する旨表明している。WTOでクロとされた場合、どの産品に対抗措置をかけるか検討が行われることとなる。
- IMF資金使途の究明
IMFは、2000年7月27日付のレターで、個々の産業を監視していないと再度主張。IMFは、漢拏が裁判所の管理下で、賃金と造船設備の運営コストをカバーする最低限の船価で受注せざるを得ない状況にあったことを認めている。ECからIMFへ韓国において造船業は主要輸出産業であり、赤字受注の継続は韓国経済の回復を脅かすことになると返信した。また、韓国造船業の累積債務は、直接にも間接にも韓国政府により軽減されるべきでなく、市場原理をきちんと適用すべきと伝えた。
- 多国間での取り組み
日本から米国の留保付きでの造船協定の実施、韓国からは米国抜きでの造船協定の実施が提案され、OECD造船部会で討議されており、2000年12月の部会でも引き続き討議の予定。ECはOECDの場での本間題の解決を歓迎するものであるが、現在の形の協定で本当の問題解決が可能か疑問である。
(4) EU船価助成の現状と今後
- 欧州域内において船価助成が規律されたのは1970年代初期であるが、長年高い助成率であった。
- 造船業界の競争力強化、構造調整の促進、EU内の公正な競争の確保の観点から1987年に助成からの脱却を進める政策に転換。助成の上限を1987-1988年28%、1989年26%、1990年20%、1991年13%、1992-2000年9%と漸減してきた。
- 当初は競争力強化や構造改革の促進に効果があったが、助成率の変化のない近年ではこうした推進力は維持されていない。
- 厳しい市場環境からの緩衝材とはなっているが、加盟国政府に膨大な財政コストを強いるものともなっている。
- 製造業でこうした運営助成をシステマチックに受けているのは造船業だけで、限られた公的資金の効率的な活用の観点から疑問。
- また、加盟国内での実際の助成制度の違いからEU内の競争を歪曲化している。
- 1997年ECは競争力強化に焦点を当てた助成制度の見直しを提案。理事会規則で2000年末での船価助成の廃止を規定するとともに、他の形態での助成(リストラ・撤退助成、近代化投資助成、研究開発助成、新技術導入投資助成、環境保護助成)を導入。
- この他にも途上国援助及び融資・信用制度の形で助成が可能。
(5) 今後EUがとるべき措置
今後の措置として、以下の措置を提案。
- 市場環境のモニタリングを続けること。
- 業界からのTBR提訴を可及的速やかに検討し、調査開始を決定したなら、とり得るWTO措置を念頭に提訴手続きを厳格に進めること。
- TBR手続きと併行して、EUの懸念を解消する韓国からの最終提案に門戸を開いておくこと。
- 造船業の公平な競争条件の確立のための努力をOECDにおいて行うこと。
- 韓国造船業のリストラのモニタリング及び評価の実施をIMFに働きかけ続けること。
- 競争力に関する事項についてEU造船業界と緊密な協力を続けること。
- 理事会規則1540/98に従って、韓国からの不公正慣行による問題解決のための措置の提案の可能性を早急に検討すること。
1.2.9 EU産業閣僚理事会決定(2000年12月5日)
韓国に主として責任のある低船価や大幅な建造能力過剰状態により危機的な状況にある造船業の現状に対する深刻な懸念並びに、韓国に対する合意文書、とりわけ、船価モニタリングの実施及び正常な競争条件の回復のための迅速な行動の要請を表明するとともに、以下の事項を決定。
- 市場環境のモニタリングを続けるとともに、海事産業フォーラムの場で毎年加盟国及び造船業界と毎年討議を行うこと。
- 競争力に関する事項についてEU造船業界と緊密な協力を続けること。また、研究開発助成の利用促進について調査を行うこと。
- 不公正な競争を可能な限り早く終わらせるため、国際機関に認められる手続きに基づく韓国に対するあらゆる措置を事前に検討すること。必要な場合には、経済政策の全分野において必要な措置を検討すること。
- 早期にWTO提訴を行うため、業界からのTBR提訴について迅速に調査すること。
- IMFと世界銀行に、TBR提訴について情報提供するとともに、韓国に供与したIMF資金の条件の履行を監視し、造船に関する評価を行うよう再度要請すること。
- TBR手続きと併行して、EUの懸念を解消する韓国からの最終提案に門戸を開いておくこと。
- 造船業の国際的に公平な競争条件の確立のための努力をOECDにおいて行うこと。特に1994年了解案を見直し、1981年船舶輸出信用了解を改正するよう努力すること。
- 2001年4月末までに韓国と満足すべき解決が図れない場合WTO提訴を提案することを念頭に、事態の進捗を遅くとも2001年4月末までに理事会に報告すること。また、理事会規則1540/98第12条の義務(韓国からの不公正慣行による問題解決のための措置の提案)を履行すること。
- 韓国との間で満足すべき解決が得られない場合、WTOの結論が出るまでの間、韓国の不公正慣行に対抗するための暫定的かつ適切な保護措置をとること。なお、この保護措置はEU内の競争を歪曲化するものであってはならない。
1.2.10 欧州議会決議(2000年12月14日)
以下の事項を含む内容の決議を採択。
- ECは、欧州造船業の存続を可能とするための措置を早急にとること。
- ECは、現在の船価助成の2年間延長の提案を年内に提出すること。
- ECは、現在の船価助成と同等の保護効果を有する措置を検討し、欧州議会と討議すること。
- ECは、特殊船の建造需要に柔軟に対応する観点から、現在の域内の建造能力規制について見直すこと。
- ECは、世界的に公正な競争を確保するため、他のOECD加盟国と協力すること。
- ECは、OECDにおいて、OECD加盟国の造船業がコストをカバーした運営を行うよう造船協定の見直しに勤めること。
- ECは、韓国からの輸入に関し反ダンピング措置を検討すること。
- 韓国は、造船合意文書の義務を履行すること。
- ECは、欧州議会と連絡を保ち、WTOにおける韓国との紛争処理手続きを行うこと。
- ECは、中国等の新たな競合者の影響について調査を続けること。