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1.2 欧州における対応の概要
韓国造船問題をめぐるこれまでの欧州側の主要な対応について、その概要を以下にまとめた。なお、各文書の原文を付録1〜10として添付した。
1.2.1 欧州造船工業会協議会(CESA)プレス発表(1999年1月18日)
世界の造船業の現状を概観し、韓国造船業の理不尽な設備拡張が欧州造船業の従来の努力を無にし、韓国の攻撃的な行動が欧州造船業に甚大な悪影響を及ぼしていると述べるとともに、以下の事項を指摘。
- 韓国経済危機の救済措置が韓国造船業の低船価攻勢を可能としている。
- 韓国造船業に侵略を止めさせる必要があり、EC及びEU加盟国政府はこうした行動規範の交渉と実施に責任を果たすべき。
- IMFは韓国が世界市場で大きなシェアを占める産業分野に十分な注意を払い、IMF資金の要件を制限的に適用すべきである。
- EC及びEU加盟国に、世界の造船市場で公正な競争を確保する適切な枠組みについてリーダーシップをとるよう要請する。欧州造船業界は、EU、日本、韓国、ノルウェー、米国、ポーランド及び中国が参加する法的拘束力のある新たな協定を支持する。
- EC及びEU加盟国に、新たな造船助成規則が、どの程度韓国造船業の攻撃から欧州造船業を守れるのか評価し、これを可能とする方法を検討するよう要請する。
- EC及びEU加盟国に、早急に韓国に対する政治的な対策をたてるとともに、適当な通商措置をとるよう要請する。
- 欧州造船業界は、EC及びEU加盟国に、攻撃的で不公正な韓国造船業の行動に対する対抗措置を提案する予定である。
1.2.2 欧州委員会(EC)「造船市場報告書」(1999年11月)
報告書は、「造船市況の概観」、「韓国造船業の新造船契約の分析」及び「今後EUが取るべき措置」の3部からなっており、その概要は、次のとおり。
(1) 造船市況の概観
- 建造需要の減少と建造能力の増大から、今後の需給インバランスは更に拡大。
- その主な原因は94年〜96年の韓国造船業の建造能力の拡大。
- 韓国と競合する船種で船価は大幅に低下し、需要の先食いで韓国がシェアを増大。
(2) 韓国造船業の新造船契約の分析
- 韓国造船事業者の9つの新造船契約船価について、韓国造船業のコストモデルによる推定コストとの比較を実施。
- 全ての船価が推定コストを割り込んでおり、コスト割れ受注をしているのは明らか。
- 韓国造船業への資金供与や保証の仕組は国際的な商慣行や市場経済の仕組から外れたもの。
(3) 今後EUがとるべき措置
こうした状況に対応するために以下の措置を理事会に提案している。
- 韓国の経済危機支援のため投入されたIMF資金が経営困難に陥っている造船所への支援措置として使用されることのないようIMFに働きかけること。
- 韓国の資金供与メカニズムなどをWTOの「補助金及び相殺措置に関する協定」に規定される補助金として提訴すること。
- OECD造船部会において、市場の現状や各国の政策に関しての透明性を高めつつ、公正な競争条件確立のためのルールの実施を目指すこと。
1.2.3 EU産業閣僚理事会決定(1999年11月9日)
韓国の建造能力拡大やコスト割れ受注などが世界の造船市場に悪影響を及ぼし、欧州の造船業にダメージを与えていることに対する深刻な懸念を表明するとともに、以下のアクションをとることを決定。
- 欧州委員会は、不公正な競争を中止させるよう韓国との協議を行い公平な競争条件の確立に努めること。
- WTOにおける適切な対応のため、造船業界、加盟国及び欧州委員会は、反競争的な行動の証拠集めに努めること。
- 加盟国から、IMF及び世界銀行に対して、IMFの支援措置が当初の条件に従っているか否かの調査を要請すること。
- 加盟国及び欧州委員会は、OECDを含む国際的な場において、公正な競争のためのルールを確立するよう努力すること。
1.2.4 EC「第2次造船市場報告書」(2000年5月)
報告書は、「閣僚理事会(1999年11月)決定事項の実施状況」、「世界の造船市場の概況」、「韓国及び中国の船価動向分析」及び「今後EUが取るべき措置」の4部からなつており、その概要は、次のとおり。
(1) 閣僚理事会決定事項の実施状況
- 韓国との二国間協議
3回(1999年12月、2000年2月及び3月)にわたる協議の結果、助成の廃止、銀行・ファイナンスシステムの透明化、公正な受注活動及び協議メカニズムを盛り込んだ造船問題に関する合意文書に4月10日に仮署名。
- WTO提訴に向けた証拠の収集
 欧州の造船業界においてEU貿易障壁規則に基づく提訴(WTO提訴に続きうる手続き)に必要な証拠の収集が進められ、業界側の提訴の準備が整った。日本の造船業界もWTO提訴を検討する旨発表。米国の中小造船事業者からなる米国造船事業者協議会(SCA)も、米国通商代表部(USTR)に対しEUの行動を支持するよう要請。
- IMF資金使途の究明
 IMFと2度の会合を持ったが、IMFは特定の産業分野の監視を行わないため、韓国造船業における不公正な競争慣行や資金供与等の情報を持ち合わせないとの回答。欧州委員会から、韓国造船事業者と銀行との間の資金提供取り決めの健全性調査に関する質問事項を提出したが、IMFからの回答待ちとなっている。
- 多国間での取組み
 昨年12月のOECD造船部会において、現下の問題に関する韓国との共通認識の構築に努めたが、進展は得られなかった。日本の提案により、問題解決の方途を探る会合が4月に開催されることとされており、EUは日本のイニシアチブをサポートしている。
(2) 世界の造船市場の概況
- 過剰建造能力の存在について共通の認識はあるが、その程度及び市況への影響に関し、欧・日と韓国との認識には隔たりがある。ただし、韓国との造船問題合意文書において、韓国側は初めて問題解決の必要性への理解を示した。
- 継続・拡大する需給不均衡の最大の原因は、韓国の建造能力拡大。韓国三大財閥(現代、大宇、三星)は造船への傾倒を縮小するとしているが、建造能力削減を意味するものではない。現代は、浦尾の修繕設備の新造船への転用を拡大しており、また、漢拏の三湖造船所のグループへの統合により建造能力の増大が見込まれる。漢拏の三湖造船所第二建造ドック再開の可能性が発表されている。
- 船価は、特に韓国が攻勢をかけている市場で、依然として低下している。コンテナ船分野における韓国のシェア拡大が顕著である。
- 韓国の建造量拡大により、他の造船国は被害を受けているが、特に日本は円高の影響もあって、落ち込みが最も大きい。客船ブーム等によりやや緩和されてはいるが、EUも危機的な状況が続いている。韓国造船事業者の姿勢の是正を伴わなければ、ウォン高は韓国シェアの低下に結びつかない。
(3) 韓国及び中国の船価動向分析
- 基本的に前回と同様のコストモデルをもとに正常価格を算定。ただし、賃金や為替レート、各造船所負債などの変化を織り込んだ。
- 前回分析した韓国の9件の受注案件の再評価を行うとともに、新たに韓国9件、中国4件の受注案件を分析。
- 韓国の18件中、利益の出るレベルの受注は一件もなく、正常価格を11〜32%下回っている。大部分が、建造コストさえもカバーしていない。
- 中国については、産業構造や経済システムの違いから、更なる調査が必要であり、結論を下すには時期尚早であるが、1件を除き、採算のとれるものとなっていると見られる。
- 新たに分析した韓国の9件の受注中、6件について、「これまで欧州に発注していた欧州船主の発注先の韓国へのシフト」、「韓国事業者による欧州市場への低船価での新規参入」、「韓国国内船主向け価格より著しく低い輸出価格」、「欧州事業者排除する低船価攻勢による日本や台湾市場の浸食」など、EUへの悪影響を分析。
- 韓国が全ての船種について低船価攻勢を続ける結果、欧州にとって客船市場のみが残されることとなり、客船市場へ参入できない多くの事業者が受注不振にあえいでいる。
- 韓国のファイナンスシステムは不透明なままであり、本件への公的関与の可能性が大きい。リスク評価が市場原理を反映したものとなっておらず、信用供与・保証が、国際的な商慣行に則ったものとなっていない。
(4) 今後EUがとるべき措置
今後の措置として、以下の5点を提案。
- 韓国に対し、合意事項の完全実施のプレッシャーをかけ続けること。
- 協議メカニズムを発動して、合意事項を完全に適用すること。
- いつでもTBR手続きを開始・進行できるよう、加害廉売・経済原理に適合しない慣行の証拠収集を続けること。
- IMFに韓国の産業再編の状況の監視と計画通りの実施を要求すること。
- EU造船業の競争力強化を奨励すること。
1.2.5 EU産業閣僚理事会決定(2000年5月18日)
欧州委員会の第2次造船市場レポートの審議を行い、以下の事項を決定。
- 欧州委員会は、加盟国及び域内造船業界と、事態の推移を引き続きフォローアップするとともに、韓国に対し造船合意の完全実施、市況改善(特に船価、建造能力)のプレッシャーをかけ続けること。
- 合意事項に規定される原則のフォローアップを迅速に行うため、造船合意の協議メカニズムに基づき、早急に欧州委員会から韓国政府に協議を申し入れること。
- 必要な場合にいつでも貿易障壁規則(TBR)に基づく手続きを開始・進行できるよう、造船業界及び欧州委員会において、加害的廉売・経済原理に適合しない慣行の証拠収集を続けること。
- 欧州委員会及び加盟国は、IMFと世界銀行に、明らかになったことを情報提供するとともに、韓国に供与したIMF資金の条件の履行を監視し、造船に関する評価を行うよう要請すること。
- 欧州造船業界は、競争力強化を続けること。
- 欧州委員会及び加盟国は、適切な国際的な枠組みにおいて、造船分野における公正な競争条件の確立に努力すること。
1.2.6 EU・韓国造船合意文書(2000年6月22日)
2000年4月11日に仮署名の行われたEU・韓国造船合意文書が、6月19日EU理事会の承認を得て、6月22日に正式署名され、発効。その概要は、以下のとおり。
(1)基本認識・基本原則
- 大幅な建造能力過剰・船価の低下が造船業の健全な発展を阻害している。
- 主要造船国として公正な競争の確保に重大な責任を有する。
- 本合意文書の実施を通じて正常な競争条件の回復、コスト割れ受注の有効な抑止を目指す。
- 大幅な需給不均衡の削減のため協力する。
- 経済的に成立しない過剰投資や破滅的な安値受注を回避する。
- 市場の回復・安定化にあらゆる努力を行う。
(2) 財政的困難を抱える造船企業に対する公的機関の措置
- いかなる金融機関も経済原則に則って事業を行う。
- 韓国政府はその金融機関の資産の健全性を厳しく監督する。
- 韓国政府は金融機関の監督にあたって、韓国の公的金融機関や韓国政府の名において行動する民間銀行が、商業ベースでのみ、新規融資、既存融資の債務免除・繰り延べその他の支援を行うようにする。
- 韓国政府はこれらの金融機関に対し、特定の企業や産業に係る事業の結果生じた損失を補填する公的支援を行わない。
- 韓国政府はKAMCOが造船企業に関連する不良債権を買い取る場合、回収率、金融コストを反映したものとするとともに、無担保融資の最小価格とする。
- 韓国政府は自国の国際的な義務に反する支援を韓国造船業に提供しない。
- 現代による三湖の経営権取得は公的支援による債務処理や特別措置を伴わないものとする。
- 韓国の公的金融機関は、造船会社に関する案件については商業ベースで取り扱い、財政難あるいは銀行管理下の造船事業者の債務保証に関し、造船所の状況を踏まえた商業リスクを反映させ、優遇的な債務保証をしない。
(3) 透明性
- 企業や銀行において、国際的な会計原則に基づく厳格なリスク評価や諸規則が履行されるべきである。
- 韓国政府は、造船企業において国際的な会計原則が適用されることを確実なものとする。
(4) ダンピング
- 韓国政府は、船価はWTOダンピング防止協定の正常価格に定義される全てのコスト要素を反映したものでなければならないことを了解する。
(5) 造船業界における協力
- 正常な競争条件確保のための両造船業界の協力を奨励するとともに、技術、購買その他の事業活動における協力強化を支援する。
(6) 協議
- 合意文書実施状況のレヴューのため、2000年9月までに第1回会合を開き、その後少なくとも6ヶ月毎に会合を開催する。
- 一方からの要請により、合意文書に規定される事項に関し、要請から4週間以内に随時協議を開催することとし、協議開始から60日以内の事案の解決を目指す。
(7) WTO提訴の権利
- 本合意文書はWTO協定に基づく権利義務に影響を及ぼすものではない。








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