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第一部 欧州における韓国造船業に対する対応
1.1 欧州・韓国造船摩擦の経過
欧州における韓国造船業への非難は、韓国造船業が大幅な設備拡張を実施した1990年代半ばに遡るが、これが通商問題として顕在化を始めたのは1999年に入ってからである。ここでは、まず、1999年以降の主要な欧州における動きを時系列的に整理し、全体の流れを概観する。
欧州委員会(EC)は、欧州造船業界からの強い要請を背景に、1999年半ばからEUとしての本格的なアクションを開始した。EU造船助成規則に基づく産業閣僚理事会への報告という形で、韓国の造船問題を公式のテーブルに乗せ、EUとしての問題意識と対応方針の共有化を図っている。また、これを公とすることで、EUの姿勢を示し、問題解決への対応について、韓国側に圧力をかけている。
EUにとってWTO手続きを開始する前の手順とも言える貿易障壁規則(Trade Barrier Regulation:TBR)に基づく通商措置に訴える姿勢を維持することにより、これまでに無い強い圧力を韓国にかけていることが特筆される。従来の二国間・多国間の場を通じた紳士的な話し合いだけでは問題の解決を期待できないという分析があったものと思われる。また、全体の経緯を通じて、産業界を代表して欧州造船工業会協議会(CESA)からタイミングよくプレスリリースが行われており、産官の周到な連携がうかがわれる。
これが功を奏し、1999年末には韓国との二国間協議が開始された。産業理事会の決定という強いメッセージにもかかわらず、第1回、第2回の協議は不調に終わり、いよいよ欧州業界は通商措置に訴えるとの姿勢を鮮明にした中で、第3回目の協議が行われ。2000年3月14日に始まった協議は4月11日の合意文書仮署名の発表で一段落した。
韓国側の約束の多い合意文書の内容から見て、欧州側の圧力に韓国側が歩み寄りを見せたことは想像に難くない。ただ、同文書に基づくその後の協議が不調に終わったことを考え合わせると、この譲歩は韓国側にとってのとりあえずの策で、政府・業界一体となった欧州との問題解決への明確な方針を持っていなかったとも見られる。
合意文書に基づく協議では、低迷する船価上昇を目的に、韓国に置ける船価モニタリングの導入について協議が行われたが、「積み上げコストとの比較」を主張する欧州に対し、韓国は「直近の市場価格との比較」を主張して譲らず、協議は不調に終わった。
欧州造船業界は、協議不調を受けて、2000年10月24日に、韓国政府による自国造船業への公的支援に対するTBR提訴をECに提出した。提訴内容の検討を経て、ECは12月4日調査開始の決定を行い、現在調査が進められている。
2000年12月の産業閣僚理事会決定や欧州議会の決議では、TBR提訴手続きを経た後のWTO提訴が色濃く言及されている。産業閣僚理事会では、2001年4月末までに韓国との二国間での問題解決ができない場合、WTO提訴に持ち込むために理事会への報告を求めている。2001年2月現在において、欧州・韓国二国間協議に動きはなく、WTO提訴の公算が大きくなっている。
表1.1 欧州韓国造船摩擦の経過
事項
1999年 1月 欧州造船工業会協議会(CESA)プレス発表
韓国造船業の造船設備の拡張、低船価攻勢等で欧州造船業は危機に追い込まれており、欧州委員会及び各国政府に韓国の行動是正等の措置をとるよう要請。
6月 バンゲマン欧州委員(当時)訪韓
経営危機の韓国造船企業に対する政府の救済措置に関する懸念を表明するも韓国側の前向きな反応なし。
10月 欧州委員会(EC)「造船市場報告書」をEU産業閣僚理事会に提出
造船業の危機的状況の原因は韓国の不公正な措置・慣行であるとし、WTO提訴の検討などを提案。
欧州造船労働組合による欧州全域での韓国非難キャンペーン
11月 EU産業閣僚理事会
韓国との二国間協議等に加え、WTO提訴の検討を行うことを決定。
CESAプレス発表
EU産業閣僚理事会の決定を支持する旨発表。
12月 第1回EU・韓国二国間協議
進展無し。
OECD造船部会
欧州、日本から韓国に非難が集中。
2000年 2月 第2回EU・韓国二国間協議
進展無し。
3月 CESAプレス発表
二国間協議で満足な解決が得られない場合、EU貿易障壁規則(TBR)に基づき提訴を行う旨発表。
3-4月 第3回EU・韓国二国間協議
政府助成廃止、ダンピング抑止などをうたい、二国間協議の枠組みを定めた、EU・韓国造船合意文書が取りまとめられる。
5月 EC「第2次造船市場報告書」をEU産業閣僚理事会に提出
韓国の受注船価は正常価格を10〜30%下回り、建造コストさえも力バーしていないものが多いと結論し、合意文書の完全実施を厳しく求めていくことを提案。
EU産業閣僚理事会
合意文書の完全実施を韓国に厳しく求めていくこと、いつでもTBR提訴が可能なように準備をすすめることなどを決定。
6月 EU・韓国造船合意文書正式署名・発効
7月 OECD造船部会
造船協定未発効の状況を踏まえ、公正な競争ルールの早期確立の方策を討議。法的拘束力のあるルールが早急に必要との結論。
CESAプレス発表
TBR提訴の準備が完了し、造船合意文書に基づく二国間協議で問題解決が図られない場合、提訴に踏み切ると発表。
造船合意文書に基づく第1回EU・韓国二国間協議
韓国側から関連情報が提供される。韓国造船所の船価調査のためEC専門家による現地調査の実施を合意。
9月 EC専門家による韓国造船所船価調査
現代及び大宇の2造船所で現地調査を実施。現代重工は、問題とされる特定船舶のコスト関係資料の提供を拒否。
造船合意文書に基づく第2回EU・韓国二国間協議
有効な解決策を得ることができず、不調に終わる。欧州委員会は理事会にWTO協定に基づく通商措置の可能性を含む代替の解決策を提案する予定である旨発表。
10月 CESA、TBR提訴(10月24日)
韓国政府による造船助成を不公正慣行として、欧州委員会に提訴。
日本造船工業会プレス発表
CESAのTBR提訴を強く支持し、あらゆる支援を惜しまない旨発表。
11月 EC「第3次造船市場報告書」をEU産業閣僚理事会に提出
タンカー部門以外では船価の低下が続いており、その原因は韓国の低船価受注と結論。合意文書の実施についての韓国側の取組みを見出すことができず、二国間協議は結論なく終了したとし、WTO提訴を念頭においたTBR手続きの推進等を提案。
12月 EC、TBR提訴調査開始を決定(12月4日)
2001年4月までに最終報告を加盟国に提出と発表。
EU産業閣僚理事会
12月5日の理事会において、可及的速やかにWTO提訴に持ち込むため、TBR調査の迅速な実施をECに要請するとともに、2001年4月末までに進捗の理事会報告をするよう決定。
欧州議会韓国造船摩擦に関する決議
韓国による合意文書の完全実施、ECにおける韓国に対する通商措置の検討、WTO提訴の準備、欧州造船業の保護等を要請。
2001年 2月 ラミー欧州委員訪韓
造船問題で韓国政府高官と会談するも、不調。








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