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1-3 経済
 
 インドネシアは1969年に最初の5ヶ年経済開発計画を導入した。これは1945年の独立以来、はじめて経済開発のために着手した措置であった。比較的安定した政治情勢において、国際通貨基金(IMF)、世銀、アジア開発銀行(ADB)、インドネシア援助国会議(IGGI)、インドネシア援助協議会(CGI)に参加する援助国の支援に基づいて、第1次から第6次までの開発計画が導入された。1997年まで、インドネシアは年率約7%の経済成長を享受してきた。1969年に90米ドルであった国民1人あたりのGDPは1997年には約1200米ドルに増大した。
 しかし、1997年のアジア通貨危機の影響で経済状況が急速に悪化。国際通貨基金、世銀、アジア開発銀行やインドネシア援助協議会(CGI)の加盟援助国の支援で、インドネシア緊急経済再編計画が合意され、実行に移された。1998〜99年度に約120億米ドルの支援が食糧供給と社会安全保障プログラム(失業、教育、保健等)のために割り当てられた。1998年に、経済状況はインフレが約79%、銀行預金金利が約65%、経済成長率が約マイナス13%、ルピアの対米ドル為替レートが17,000と最悪期を迎えた。他のアセアン諸国が1999年から景気回復の軌道にのったが、インドネシアは1999年もGDP成長率は0.3%に留まった。
 政府が経済禍福のための最重要課題としている銀行再建および民間企業の債務再編では、2000年にはいってようやく具体的な進展が見られ始めた。2000年5月時点でインドネシア銀行再編(IBRA)に移管された清算、凍結、国有化銀行などからの資産や回収不能の再建の総額は、256兆1,950億ルピアに上る。このうち、再編過程にあるものは全体の58.4%に相当する149兆5,540億ルピアで、再編案が最終合意に至ったものは20兆9,670億ルピア(同8.2%)となっている。しかし、IBRAは依然GDPの6割に相当する移管再建を抱えている。
 2000年の実質GDP成長率をみると、4.8%の伸びで、ようやく回復基調になったもようである。2000年の成長を支えたのは、合わせてGDPの約5割を占める農業部門の(対前年比1.67%増)と製造部門の(同6.20%増)の成長である。さらに運輸通信部門の伸びは一番高く9.38%だった。この高成長は、経済危機以前の低い水準に保たれている石油製品価格のコスト効果と情報技術(IT)化が始まった通信事業の成長によるものである。製造業部門では自動車生産台数が29万8,000台に回復したことが象徴的である。 懸念されていた建設部門も6.75%の成長を記録したが、これは急速に回復した消費を背景に、ショッピングモールの建設や失業対策などの公共事業があったためである。
 また、石油輸出45.4%、非石油輸出22.9%の急増、輸出全体の27.4%の拡大に基づく生産活動も要因となった。支出GDPに見られる特徴は粗固定資本形成が17.91%の伸びを示し、GDPに対する割合を24.32%に高めたことである。しかし、これは経済危機以前の対GDP比30%に達していない。
 1人当たりのGDPは630万ルピアで、これを1米ドルあたり9,000ルピアのレートで計算すると700米ドルとなる。GDPから海外移転所得を控除した1人当たり所得は641米ドルであり、これは世銀がインドネシアに対する国際開発協会=第2世銀(IDA)援助の基準とした580米ドルを上回る。
 しかし、2000年の成長が2001年にも持続するかどうかは微妙である。成長をけん引してきた輸出部門が、米国の輸入市場の伸び悩みに影響されることが懸念されている。他のアジア諸国の経済にはすでに暗雲が見え始め、また、アジア経済をけん引してきた米国経済も調整過程に入った。ただし、インドネシアはタイやマレーシアに比べて電子産業などのハイテク分野の開発が遅れており、米ハイテクバブル崩壊の影響度は低い。また、原油価格の急騰を原因とする石油輸出額の急増は期待されない。
 経済成長をさらに押し上げるためには経済構造改革のために抜本的な政策変更が必要であるが、ワヒド政権は旧体制下での既得権益グループの圧力をかわす力量に欠けているようで、信頼感の回復ができないままである。中央統計庁は2001年の成長率が2000年を下回ると予測している。世銀によると4%成長の見込みである。過去5年間の主要経済指標を表1-1に示す。
表1-1 インドネシアの主要経済指標 (単位:%、100万ドル)
  1996年 1997年 1998年 1999年 2000年
実質GDP成長率 7.8 4.7 -13.2 0.3 4.8
消費者物価上昇率 6.5 11.7 77.6 2 9.4
完全失業率 4.9 4.7 5.5 6.3 5.9
貿易収支 5,948 10,074 18,429 20,480 NA
経常収支 -7,801 -5,001 3,974 5,640 NA
財政収支(対GDP比) 1.2 -0.7 -2.2 -2 -3.4
通貨供給(M2)伸び率 29.6 23.2 62.3 11.9 NA
出所:ジェトロ(日本貿易振興会)
1-4 貿易
 
 2000年1〜10月の通関ベース輸出入統計は、輸出が515億米ドル、輸入が254億米ドルで貿易収支は260億米ドルの黒字となっている。1995年から2000年第1四半期の経常収支の推移を表1-2に示す。
表1-2 経常収支の推移 (単位:100万米ドル)
  1995年 1996年 1997年 1998年 1999年 2000年
第1四半期
貿易収支 6,533 5,948 10,075 18,429 20,644 6,264
 輸出 47,454 50,188 56,298 50,371 51,242 15,113
 輸入 40,921 44,240 46,223 31,942 30,598 8,849
サービス収支 -8,071 -8,540 -9,666 -7,482 -6,974 -2,394
所得収支 -5,874 -6,008 -6,332 -8,189 -9,799 -2,368
経常移転収支 981 937 1,034 1,338 1,914 396
経常収支 -6,431 -7,663 -4,889 4,096 5,785 1,898
出所:IMF/IFS
 また、インドネシア中央統計局の発表によると、2000年の輸出は米ドルベースで、対前年比27.43%増の620億米ドルを記録した。これは、国際市況の上昇により、石油・ガス輸出が45.39%と大幅に伸びたことも一因である。石油・ガス輸出が総輸出に占める割合は約23%となり、1999年の20%を上回った。とくに石油製品の輸出は1999年の9億1,800万ドルから15億6,710万米ドルへと、70.7%の伸びを示した。
石油・ガス以外の輸出も1999年の388億位7,320万米ドルから、477億7,920万米ドルへと22.9%伸びた。
 一方、2000年の総輸入額は335億4,720万米ドルで、対前年比4.5%のマイナスとなっている。石油・ガス関連の輸入は59億8,390万米ドルで、対前年比50.92%のマイナスとなった。貿易収支は284億6,920万米ドルの大幅な黒字となり、黒字幅は前年比25.6%と大きくなった。インドネシアの1999年および2000年の輸出入額および伸び率を表1-3に示す。
表1-3 インドネシアの輸出入 (単位:100万米ドル、%)
品目 輸出(FOB) 伸び率(%) 輸入(CIF) 伸び率(%)
1999年 2000年 1999年 2000年
石油・ガス 9,792.3 14,237.2 45.39 3,681.1 5,983.9 62.56
灯油 4,517.3 6,082.1 34.64 1,587.7 2,514.8 58.39
石油製品 918.0 1,567.1 70.71 2,088.4 3,465.6 65.95
ガス 4,357.0 6,588.0 51.20 5.0 3.5 -3.00
非石油・ガス 38,873.2 47,779.2 22.91 20,322.2 27,563.3 35.63
合計 48,665.5 62,016.4 27.43 24,004.3 35,547.2 39.76
出所:中央統計局
 貿易相手国・地域別では、2000年のデータは、非石油・ガスの分野についてのみ発表されている。表1-4に示すように、輸出先は米国が前年対比87.6%の伸びを示し、1999年に引き続き首位となっている。シンガポール、マレーシアへの輸出が急増している。輸入元では、日本が前年対比76.8%の伸びを示し、首位となっている。輸入では、マレーシア、台湾、中国、韓国が急増している。
表1-4 インドネシアの非石油・ガスの貿易相手上位9カ国 (単位:100万米ドル、%)
輸出 輸入
1999年 2000年 伸び率 1999年 2000 伸び率
米国 16,566 7,921 23.5% 日本 2,899 5,126 76.8%
日本 5,698 7,415 30.1% 米国 2,799 3,332 19.0%
シンガポール 4,503 7,615 69.1% シンガポール 1,519 1,979 30.3%
マレーシア 1,278 1,813 41.5% 韓国 1,187 1,822 53.5%
中国 1,426 1,774 24.4% 中国 1,136 1,758 54.8%
韓国 1,280 1,471 14.9% オーストラリア 1,411 1,686 19.5%
ドイツ 1,231 1429 15.8% ドイツ 1,395 1,281 -8.2%
台湾 1,207 1,374 13.8% 台湾 780 1,258 61.3%
オーストラリア 814 903.5 11.0% マレーシア 383 689 79.9%
上位9カ国計 28,854 29,901 25.4% 上位9カ国計 13,507 18,930 40.1%
その他 15,019 17,879 19.0% その他 6,805 8,634 26.9%
合計 38,873 47,779 22.9% 合計 20,322 27,563 35.6%
出所:中央統計局
 石油・ガスを含めた総貿易額の国・地域別の内訳は、2000年のデータがまだ発表されていないが、1999年の数字でみると、輸出では、原油やガスをインドネシアから大量に輸入している日本が首位で103億9,700万米ドル、輸出全体の21.4%を占めている。ちなみに、原油・LNG・LPGはインドネシアの対日輸出の約48%を占めている。アセアン(シンガポール、マレーシア、タイ、フィリピン、ベトナム)が90億5,100万米ドルで全体の18.6%、アジアNIES(シンガポールを除く)が61億5,300万米ドルで12.6%となっている。中国は20億9,000万米ドルで4.1%である。日本を含めたこれら対アジア輸出は、全体の56.7%となっている。日本、韓国、中国への輸出が伸びており、とくに韓国向けには、繊維、加工食品、家具などの伝統的工業産品に加え、電子機器・部品なども伸びている。中国向けには、液化天然ガス(LNG)や木材・パルプが増加している。輸入では、日本、米国、EUが軒並み大幅減となり、中国からの輸入が増えた。表1-5に1998年、1999年のインドネシアの主要国・地域別輸出入額などを示す。
表1-5 インドネシアの主要国・地域別輸出入(石油・ガスを含む) (単位:100万米ドル、%)
国・地域 輸出 輸入
1998年 1999年 伸び率 構成比 1998年 1999年 伸び率 構成比
日本 9,116 10,397 14.1% 21.4% 4,293 2,913 -32.1% 12.1%
アジアNIES* 6,244 6,153 -1.5% 12.6% 2,787 2,341 -16.0% 9.8%
ASEAN※ 9,079 9,051 -0.3% 18.6% 4,498 4,725 5.0% 19.7%
中国 1,832 2,009 9.7% 4.1% 906 1,242 37.1% 5.2%
EU 7,764 7,087 -8.7% 14.6% 5,864 3,801 -35.2% 15.8%
米国 7,031 6,897 -1.9% 14.2% 3,517 2,839 -19.3% 11.8%
中東 1,817 1,745 -4.0% 3.6% 975 1,999 105.0% 8.3%
アフリカ 936 1,063 13.6% 2.2% 429 572 3.3% 2.4%
中南米 920 824 -10.4% 1.7% 510 580 13.7% 2.4%
ロシア、中・東欧 346 301 -13.0% 0.6% 228 163 -28.5% 0.7%
註:* はシンガポールを除く。※はアセアン4およびベトナム、シンガポール
出所:中央統計局
出典:ジェトロ貿易白書
 品目別では、上述のように石油・ガスが大幅に伸びたほか、非石油・ガス部門も堅調に伸びた。中でも、機械類は、電気機械が前年対比108.6%、メカニック機械が同127.3%と2倍以上に増えている。電気製品部門で、1999年から国内家電市場が回復しはじめていたことに加え、メーカーによる生産ラインの統合や、低価格の丸型ブラウン管カラーテレビへの生産集約などの輸出シフトの動きが加速したためとみられる。
 一方輸入でも機械類が伸びているが、インドネシア経済の回復を見込んだ設備投資が徐々に始動したためとみられる。表1-6に、上位10品目の輸出入額を示す。
表1-6 インドネシアの輸出入における上位10品目 (単位:100万米ドル、%)
品目 輸出 品目 輸入
1999年 2000 年 伸び率 1999 年 2000年 伸び率
電気機械 3,084.7 6,431.8 108.5% メカニック機械 3,546.9 4,635.1 30.7%
メカニック機械 1,696.9 3,795.2 123.7% 有機化学 1,958.7 2,641.0 34.8%
木材・木材製品 3,647.1 3,653.3 0.2% 車両および車両部品 747.6 1,580.2 111.4%
衣料品(編物でないもの) 2,446.9 3,005.0 22.8% 電気機械 964.3 1,386.7 43.8%
油および動物・植物油 1,820.9 1,788.7 -1.8% 鉄鋼および肥料 656.4 1,336.9 103.7%
家具、家庭用照明具 1,271.0 1,604.3 26.2% プラスチックおよびその製品 781.5 1,219.6 56.1%
金属鉱石 1,263.0 1,490.6 18.0% 紙・パルプ 647.4 1,069.2 65.2%
鉱物燃料 1,398.4 1,350.1 -3.5% 綿 817.8 992.2 21.3%
木材パルプ 476.1 713.4 49.8% 穀類 1,813.8 920.7 -49.2%
ニッケル 191.3 308.9 61.5% 鉄鋼などの製品 286.9 847.5 195.4%
上位10品目計 17,296.3 24,141.4 39.6% 上位10品目計 12,221.3 16,629.1 36.1%
その他 21,576.9 23,637.8 9.6% その他 8,100.9 10,934.2 35.0%
非石油・ガス計 38,873.2 47,779.20 22.9% 非石油・ガス計 20,322.2 27,563.3 35.6%
出所:中央統計局のプレスリリース(2000年12月)








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