9 モーダルシフトの省エネ等への効果
9.1 省エネルギー
輸送距離が同程度の航路であっても、通常は沿岸輸送が道路輸送と比較して非常にエネルギーの節約となる。本調査で分析した路線の大多数は、海上距離が道路距離よりも非常に短いため、その節約はより大きい。
船舶の消費燃料の計算方法は、すでに
第8章で述べた。過去に行った数種の調査で使用した数値によると、トラックの燃料消費は、キロメートル当たり0.50リットルと見積もられた。
表9.1-1では、ここまで検討したそれぞれの路線での海上輸送選択肢及び道路トラックのエネルギー消費を要約している。それぞれの輸送手段のエネルギー消費には、港から(及び港まで)のトラックによる貨物輸送により消費されるエネルギーも含まれている。
海上距離が道路距離よりわずかに長いマプタプト〜バンコク間においても、同航路において道路輸送に変わり得る選択肢である伝統的なバージの使用により約45%エネルギーを節約できることがわかる。他の路線では、節約は非常に大きく、バンサファン〜マプタプト間の艀の場合には80%に上る。
表9.1-1: 種々の海上輸送オプション及び道路トラックによるエネルギー消費
エネルギー消費 (リットル/輸送トン) |
バージ (外洋航行) |
バージ (伝統的) |
一般貨物船 |
Ro-Ro船 |
道路トラック |
マップタプ〜バンコク |
ADO |
1.94 |
1.94 |
1.94 |
1.94 |
10.72 |
MDO |
6.97 |
4.97 |
0.92 |
1.74 |
- |
IFO |
- |
- |
4.04 |
4.62 |
- |
バンサファン〜レムチャバン |
ADO |
1.94 |
1.94 |
1.94 |
1.94 |
20.44 |
MDO |
8.1 |
6.3 |
0.4 |
0.2 |
- |
IFO |
- |
- |
5.2 |
5.9 |
- |
バンサファン〜バンコク |
ADO |
3.94 |
3.94 |
3.94 |
3.94 |
26.67 |
MDO |
7 |
5.3 |
0.4 |
0.4 |
- |
IFO |
- |
- |
4.3 |
4.9 |
- |
バンサファン〜マップタプ |
ADO |
0.56 |
0.56 |
0.56 |
0.56 |
30.33 |
MDO |
5.9 |
5.6 |
0.8 |
0.7 |
- |
IFO |
- |
- |
3.6 |
5.2 |
- |
9.2 環境汚染
大型トラックからの排出物質のデータはタイ国内で入手可能であった18。他の排出物質の推定値は、タイ及びオーストラリア双方から入手可能な同種の汚染物質のデータから計算した比率を用いて、オーストラリアのデータをもとに判断した。
18出典: Australian Greenhouse Office, Energy Workbook for Transport (Mobile Sources), National Greenhouse Gas Inventory Committee Workbook 3.1 with Supplements 1998
タイ国海事部門からタイでの排出に関する情報を入手できなかった。しかしながら、船舶は道路車両のような変動要因(地形、渋滞など)が小さいため、国際的なデータを使用する事は妥当であると考えた。
道路トラックの消費燃料1リットル当たりの排出率を表9.2-1に示す。
表9.2-1: タイの大型トラックの排出物質推定値(g/Km)
排 出 物 質 |
g/Km |
CO2 |
1380 |
CH4 |
0.078 |
N2O |
0.028 |
NOX |
16.790 |
CO |
5.760 |
SO2 |
2.297 |
NMVOC |
3.089 |
粒子 |
2.710 |
出典: Study estimates
船舶の排出率は、船舶により燃料消費が非常に異なるため、キロメートル当たりではなくユニット当たりで記した。使用した比率は、2種の主要な燃料油である舶用ディーゼル油及び燃料油のエネルギー密度と共に下記の表9.2-2に示されている。
表9.2-2: 海上輸送の排出率(g/MJ)
  |
CO2 |
CH4 |
N2O |
NOx |
CO |
SO2 |
NMVOC |
エネルギー密度 |
舶用ディーゼル油 |
73.6 |
0.007 |
0.002 |
1.58 |
0.163 |
0.204 |
0.046 |
40.8 |
燃料油 |
69.7 |
0.003 |
0.002 |
2 |
0.044 |
1.618 |
0.063 |
38.6 |
注:エネルギー密度は消費燃料のMJ/リットルで表記されている。
海上輸送に関しては粒子状物質の排出に関するデータは入手できなかった。しかし、一般的には粒子状物質の排出は局部的問題と見なされ、汚染源に直接近接している時のみ懸念される。船舶は一般的に人の活動地域から十分に離れて運航しているため、粒子状物質の排出は通常深刻な懸念ではない。
表9.2-3に、検討したそれぞれの海上輸送オプション及び道路輸送の容量のトン・キロメートル当たりの相対的な汚染状況を示す。Ro-Ro船及び一般貨物船は中間生成燃料油を使用しており、バージは舶用ディーゼル油を使用していると仮定しているため、汚染物質の概略はバージ及び他の2種の船舶間で大きく異なる。それにもかかわらず、SO2以外の全汚染物質のトン・キロメートル当たりの汚染の度合いは全海上輸送オプションの方が道路輸送と比較して非常に小さい。
表9.2-3: 相対的排出レベル − 道路及び海上輸送手段
排出物質 |
バージ (外洋航行) |
バージ(伝統的) |
一般貨物船 |
Ro-Ro船 |
道路輸送 |
CO2 |
0.46 |
0.36 |
0.22 |
0.29 |
1 |
CH4 |
0.76 |
0.59 |
0.19 |
0.25 |
1 |
N2O |
0.61 |
0.48 |
0.3 |
0.4 |
1 |
NOx |
0.79 |
0.62 |
0.47 |
0.64 |
1 |
CO |
0.26 |
0.21 |
0.06 |
0.07 |
1 |
SO2 |
0.75 |
0.59 |
2.48 |
3.49 |
1 |
NMVOC |
0.15 |
0.12 |
0.1 |
0.13 |
1 |
実際問題として、特定の航路での相対的な汚染状況は理論的な汚染レベルのみで決まるのではなく、道路輸送距離と海上輸送距離との差、海上輸送の後の道路輸送の必要性、復路貨物の入手可能性の影響を受ける。
以下の表には、これらの要因を考慮に入れ、4つの主要ケーススタディー路線における道路トラック及び船舶 からの汚染物質の推定値を記録している。海上輸送手段の粒子状物質の排出は、荷積み及び荷揚げ港に接続するトラック輸送部分についてのみ推定値を算出している。この点において、硫黄含有量の比較的多い燃料油を使用する船舶では高い数値になる傾向にあるSO2の排出を除き、海上輸送は非常に大きな優位性を持っていることがわかる。
表9.2-4: 汚染状況の比較−マプタプト〜バンコク路線
排出物質 (グラム/トン) |
バージ (外洋航行) |
バージ (伝統的) |
一般貨物船 |
Ro-Ro船 |
道路トラック |
CO2 |
21,904 |
15,880 |
13,509 |
20,064 |
29,595 |
CH4 |
2.05 |
1.47 |
0.74 |
1.15 |
1.7 |
N2O |
0.59 |
0.42 |
0.38 |
0.56 |
0.6 |
NOx |
461.25 |
331.93 |
351.8 |
522.12 |
360.1 |
CO |
50.4 |
37.06 |
16.31 |
24.33 |
123.5 |
SO2 |
59.64 |
42.95 |
236.51 |
338.45 |
49.3 |
NMVOC |
15.25 |
11.48 |
12.73 |
17.97 |
66.2 |
粒子 |
1.89 |
1.89 |
1.89 |
1.89 |
58.1 |
表9.2-5: 汚染状況の比較−バンサファン〜バンコク路線
排出物質 (グラム/トン) |
バージ (外洋航行) |
バージ (伝統的) |
一般貨物船 |
Ro-Ro船 |
道路トラック |
CO2 |
25,986 |
20,489 |
12,425 |
15,981 |
56,429 |
CH4 |
2.41 |
1.89 |
0.61 |
0.74 |
3.2 |
N2O |
0.7 |
0.55 |
0.34 |
0.44 |
1.1 |
NOx |
543.34 |
425.32 |
322.96 |
428.92 |
686.5 |
CO |
60.61 |
48.43 |
15.07 |
16.46 |
235.5 |
SO2 |
70.3 |
55.06 |
232.84 |
326.47 |
93.9 |
NMVOC |
18.76 |
15.32 |
13.01 |
16.38 |
126.3 |
粒子 |
3.06 |
3.06 |
3.06 |
3.06 |
110.8 |
表9.2-6: 汚染状況の比較−バンサファン〜レムチャバン路線
排出物質 (グラム/トン) |
バージ (外洋航行) |
バージ (伝統的) |
一般貨物船 |
Ro-Ro船 |
道路トラック |
CO2 |
22,829 |
17,861 |
13,081 |
16,995 |
73,603 |
CH4 |
2.1 |
1.62 |
0.66 |
0.82 |
4.1 |
N2O |
0.61 |
0.47 |
0.36 |
0.47 |
1.5 |
NOx |
472.01 |
365.36 |
333.49 |
447.15 |
895.5 |
CO |
54.36 |
43.36 |
17.27 |
19.45 |
307.2 |
SO2 |
61.12 |
47.36 |
234.23 |
328.86 |
122.5 |
NMVOC |
17.4 |
14.3 |
14.04 |
17.63 |
164.7 |
TSP |
3.81 |
3.81 |
3.81 |
3.81 |
144.5 |
表9.2-7: 汚染状況の比較−バンサファン〜マプタプト路線
排出物質 (グラム/トン) |
バージ (外洋航行) |
バージ (伝統的) |
一般貨物船 |
Ro-Ro船 |
道路トラック |
CO2 |
19,785 |
18,871 |
14,304 |
18,275 |
83,724 |
CH4 |
1.8 |
1.71 |
0.77 |
0.93 |
4.7 |
N2O |
0.52 |
0.5 |
0.39 |
0.5 |
1.7 |
NOx |
404.58 |
384.95 |
357.67 |
472.53 |
1018.6 |
CO |
48.06 |
46.04 |
20.42 |
22.73 |
349.4 |
SO2 |
52.44 |
49.91 |
237.38 |
332.16 |
139.3 |
NMVOC |
15.86 |
15.29 |
15.17 |
18.79 |
187.4 |
TSP |
4.26 |
4.26 |
4.26 |
4.26 |
164.4 |
9.3 道路維持費用
車両の通行による道路上の損傷の大部分は、大型トラックによるものである。1台の積載超過トラックの通過は、多数の乗用車又は小型ピックアップトラックによるのと同程度の損傷とを与えることとなる。そのため海上輸送の増加は多額の道路維持費用の節約につながる可能性がある。更に、タイでは未だに効果的な道路料金システムがないため、大型車両による道路損傷は、これらの車両の支払う料金に適切に反映されておらず、このため道路輸送費となって表れていない。これは沿岸輸送よりも道路輸送を好むという重要な市場のゆがみにつながっている。
「マエクロン及びタチン川における輸出促進のための水上輸送発展に関するフィージビリティースタディー」では10輪トラックの道路維持費用はキロメートル当たり0.53バーツで、18輪トラックは0.95バーツであると記録している。これは法的限度内で積載を行っているトラックに対する数値である。しかし多くのトラックが超過積載を行っていることは明らかである。本調査でヒアリングした者の一人は、代表的な例として10輪トラックでの場合は20トン、18輪トラックとトレーラの組み合わせの場合は30トンという数字をほのめかした。道路の損傷は軸荷重により急速に増加しており、通常の目安は軸荷重の4倍の力に比例して損傷が起こるといわれている。
表9.3-1: 道路維持費用−主要鉄鋼路線(バーツ/運搬トン)
道路維持費用 |
マプタプト 〜バンコク |
バンサファン 〜マプタプト |
バンサファン 〜レムチャバン |
バンサファン 〜バンコク |
運搬トン |
10輪 |
17 |
48.2 |
42.4 |
32.5 |
12 |
18輪 |
15.9 |
45.1 |
39.7 |
30.4 |
23 |
10輪 |
78.9 |
223.3 |
196.3 |
150.5 |
20 |
18輪 |
35.4 |
100.1 |
88 |
67.5 |
30 |
表9.3-1は、本調査で検討した主要鉄鋼ルートそれぞれの道路ごとに、運搬される鉄鋼1トン当たりの道路維持費用を示している。法的限度を守るトラックについては、マップタプ〜バンコク間を運行する18輪トラックとトレーラの組み合わせの場合、同数値は16セント/トン、バンサファン〜マプタプト間を運行する10輪トラックの場合は48 セント/トンである。これは、道路維持費用が、一般的には、トラック運送料の6%から8%の間になるということである。
この状況は、本調査で面談を行った関係者が指摘した程度までトラックが超過積載すると根本的に変化する。20トンの積載をした10輪トラックの場合には道路損傷の費用は道路運送費の30%にまで上る。法的限度を7トン超過しただけの18輪トラックとトレーラーの組み合わせの場合でも道路維持費用は運送料の15%に上る。