8.1 船舶の種類
本調査では上記
7.5.2で述べた航路での4種の異なる海上輸送手段について分析した。
8.1.1 タイの伝統的バージ
現在タイの沿岸及び河川で使用されているタグボートとバージによるシステムは低馬力のタグボートが曳航するものとなっており、結果として低速で長時間運航となっている。タグボートの低馬力及び低速がいくぶんか原因して、これらのシステムも悪天候状況には不向きである。
それにもかかわらず、同システムは、バンコク〜ソンクラー間を除く全ての路線で乾貨物の沿岸輸送の主要手段であり続けている。これは一部には伝統的バージ業務を開始するのに必要となる資本が少なくてすむことに起因している。同時に、バージ業務を行うかなり大きな企業連合があり、利用者はバージを必要な時にのみ賃借できるようになっている。このことは、バージ事業の可能性を試験している利用者、又はバージを独占配備するだけの充分な輸送量を持たない利用者には特に重要である。
8.1.2 外洋航行バージ
タイでは、一般的にバージは悪天候下では安全でないと考えられている。しかし、悪天候の洋上で安全に運航できるよう設計されたバージシステムの例は数多い。プッシャーバージは日本及び天候が頻繁に悪化する地域の航路で利用されている。しかし曳船によるバージシステムも多くの洋上航行をしている。北アメリカには、ハリケーンの起こりやすいカリブ海での運航、ワシントン州〜アラスカ間のサービス、太平洋を数千キロメートル航海するハワイ〜マーシャル諸島間のサービスを含む数多くの例がある。これらの運航では、現在タイで使われているシステムよりもより強力なタグボートや高い乾舷及びより高い安定性を備えたバージが使用されている。しかしながらこれらは投資の増加及び高い燃料消費を必要とする。
8.1.3 一般貨物船
第3の選択肢は在来型の一般貨物船の利用である。一般貨物船はRo-Ro船よりも建造費用が安価で、特にクレーンをつんでいる場合には通常非常に融通性の高い配船が可能である。しかしながら、クレーン等の荷役設備の能力が、特に小型船舶の場合には、かなり低くなり得るため、短距離の海上航路のように定時性を求められる場合には非常に不利になり得る。
8.1.4 Ro-Ro船
Ro-Ro船は、多くの短距離の海上航路、特にヨーロッパ及び日本に限らず、マルチモーダルの運搬における好ましい選択肢である。Ro-Ro船は一般貨物船よりも建造費が高価であり、運航ルートは経済性の観点等から限定されるが、荷積み及び荷揚げにかかる時間が短いという重要な利点がある。このため、短距離の沿岸航路では重要な条件となる定時運航スケジュールへの対応が容易であり、荷積み及び荷揚げ費用及び港湾手数料で相当な節約が可能である。大多数の短距離海上Ro-Ro船の貨物は道路用トレーラーで運搬されているため、Ro-Ro船は実質的にはどのような種類の貨物の運搬も可能である。これにより、他種の船舶では得られない復路貨物を確保する可能性が十分ある。
8.2 費用モデル
8.2.1 構造
路線の費用解析モデルは、Microsoft Excel 97©で変数を利用したスプレッドシートのモデルである。
モデルには5つの主要な要素が含まれている。
変数モジュール
モデルの変数は、沿岸輸送サービスの特定の船舶又は港湾と関係しない予想費用に影響を及ぼす一連の主要な仮定である。これには燃料油価格、為替レート、及び期待投資収益率などの要素が含まれている。
港湾モジュール
同モジュールは、本分析に関係するそれぞれの港における最終目的地と他の港との間の距離を特定するために使用している。また、それぞれの港から(及び港への)短距離運搬トラック費用の特定にも使用している。
船舶費用モジュール
同モジュールは変数モジュールで特定されたデータとそれぞれの船種に関する主要データを組み合わせ、それぞれの船種に関連する固定費用及び燃料消費を見積もるために使用する。
環境モジュール
同モジュールは異なる輸送手段の選択肢が環境に与える影響を計算するために必要な単位排出評価を推定し、蓄積するために使用する。
路線費用モジュール
路線費用モジュールは推定船舶費用と港湾情報を合わせ、それぞれの特定路線における鉄鋼の沿岸輸送にかかる総費用を見積もるために使用している。これは同じ発送地〜到着地間の道路運送量との比較を容易にするために、バーツ/トンで表示している。
8.2.2 変数
為替レート
表8.2.2-1: 為替レート
通 貨 |
為替レート |
米ドル |
43.26バーツ |
シンガポールドル |
24.70バーツ |
本分析ではFar Eastern Economic Reviewの2000年10月26日号に記載されていた為替レートを使用した。これについては表8.2.2-1の通り。
燃料
同分析で考慮した船舶は、舶用ディーゼル油(MDO)及び燃料油(IFO)の2種類の燃料を使用しているものとした。舶用ディーゼル油は、硫黄含有量が高いという点を除き、自動車用ディーゼル燃料と非常に類似している。燃料油は、通常大型船舶に使用されている重油である。
それぞれの燃料費及び特定密度が表8.2.2-2に示されている。
表8.2.2-2: 燃料費用及び液体密度
燃料の種類 |
米ドル/トン |
密度(kg/l) |
IFO |
$140.00 |
0.95 |
MDO |
$300.00 |
0.92 |
8.2.3 船舶の費用
参考船舶
それぞれの船舶の種類に対して、モデルでは、標準費用が特定されている‘参考船舶’を使用している。それよりも大型・小型船又は高速・低速船の費用及び燃料消費は下記に詳述する関係を用いて推定している。参考船舶の特徴は表8.2.3-1に記されている。
表8.2.3-1: 参考船舶の特徴
  |
バージ (高馬力) |
バージ (タイの伝統的) |
一般貨物船 |
Ro-Ro船 |
容積 |
5000 |
3000 |
5000 |
5000 |
速力 (ノット) |
9 |
4 |
12 |
16 |
燃料消費 (トン/日) |
11 |
4 |
9.4 |
17.7 |
建造費用 (機関付船体) |
80※ |
15※ |
288 |
495 |
建造費用 (バージ) |
75 |
36 |
  |
  |
運搬編成に必要な時間 (hours) |
2 |
2 |
  |
  |
注:費用は百万バーツ単位
備考: (※ タダボートの価格)
外洋航行バージの特徴は、シンガポールのバージ設計及び運航会社であるChuan Hup Enterprises社からの情報に基づいている。それは2,759 hpのタグボートに引かれた5×1,000tのバージの費用及び特徴を記している。これはタイの環境で通常見られる、より説得力のある構成である17。高馬力バージの値については、より速い速力及びより高い建造費用と燃料消費に反映されている。
伝統的なバージ事業は現在タイの沿岸上で使用されている種類と同じものである。費用は業界関係者及びSTS Engineering/BERA(1998年)の調査報告書の情報に基づいている。典型的な実質運航速力は業界との協議中に引用された運送時間から推断している。
一般貨物船の費用及び特徴は、多数のLloyd's Shipping Economist中のデータ分析に基づいている。Ro-Ro船の費用の推定にも同じ文献を使用した。行った数種の感度分析により、それぞれのタグボートにバージが2隻用意され、タグボートがバージを残して港を素早く出発する定時サービスが可能であった場合に得られる経済効果を評価している。表8.2.3-1に示された「構成変更に必要な時間」は、これらの場合に一隻のバージを切り離し、次のバージをつなげるのに必要な時間である。
17 STS Engineering/BERA社の沿岸/河川積み替えに関するフィージビリティースタディー:要約では1200馬力のバージが4×1000トンのバージを沿岸海域で引くことを提案している(p36)。また、海上輸送におけるバージ利用に関する調査では400hpのタグボートを沿岸海域で使用するものも提案している(図2-2)。
参考船舶の運航費用及び特徴の概要
参考船舶の運航費用及び特徴を表8.2.3-2にまとめてある。
表8.2.3-2: 参考船舶運航特徴及び費用
船舶の種類 |
バージ (外洋航行) |
バージ (伝統的) |
一般貨物船 |
Ro-Ro船 |
資本費用 |
  |
  |
  |
  |
船舶建造資本費用(百万バーツ) |
  |
  |
  |
  |
機関付船体 |
80.0 |
22.6 |
288.4 |
494.5 |
バージ |
75.0 |
54.2 |
  |
  |
載貨重量トン数(トン) |
5000 |
5000 |
5000 |
5000 |
耐用年数 |
  |
  |
  |
  |
機関付船体 |
25 |
25 |
25 |
25 |
バージ |
15 |
15 |
  |
  |
想定購入時年齢 |
  |
  |
  |
  |
機関付船体 |
0 |
0 |
0 |
0 |
バージ |
0 |
0 |
  |
  |
売却価格 |
  |
  |
  |
  |
機関付船体 |
5% |
5% |
5% |
5% |
バージ |
5% |
5% |
  |
  |
  |
  |
  |
  |
  |
運航費用 |
  |
  |
  |
  |
運航速力(ノット) |
9 |
3 |
12 |
16 |
燃料消費 - 主機関(トン/日) |
11.0 |
2.7 |
9.4 |
17.7 |
燃料種類 - 主機関 |
MDO |
MDO |
IFO |
IFO |
燃料消費 - 補助機関 |
1.1 |
0.3 |
0.9 |
1.8 |
  |
  |
  |
  |
  |
配乗 - 士官 |
4 |
4 |
10 |
10 |
配乗 - 部員 |
6 |
6 |
16 |
16 |
部員 / 士官比率 |
1.5 |
1.5 |
1.5 |
1.5 |
  |
  |
  |
  |
  |
R&M (新船舶) |
1% |
1% |
1% |
1% |
保険 |
1% |
1% |
1% |
1% |
  |
  |
  |
  |
  |
速力 |
9 |
3 |
12 |
16 |
GT対DWTの想定比率 |
0.6 |
0.6 |
0.7 |
0.9 |
サイズ及び速度における変化の調整
同モデルには船舶建造資本費用と船舶サイズ、燃料消費と船舶サイズ及び運航速力とを関係付ける関連性が含まれている。これらの関連性はMeyrick and Associates(オーストラリアのコンサル会社)が船舶費用に関する社内のデータベースを利用して以前行った船舶運航費用調査に基づいている。
資本費用及び船舶サイズ
資本費用と船舶サイズの関係を表す一般的な式は:
それぞれの船舶の種類に使用されている値Kを表8.2.3-3に示す。
表8.2.3-3: サイズに関する資本費用の弾力性(船種別)
船舶の種類 |
K |
高馬力バージ − 曳船 |
0.80 |
高馬力バージ − バージ |
1.00 |
伝統的バージ − 曳船 |
0.90 |
伝統的バージ − バージ |
1.00 |
一般貨物船 |
0.80 |
Ro-Ro船 |
0.67 |
燃料消費
図8.2.3-1: 燃料消費の実際値対推定値(トン/日)
(拡大画面: 26 KB)
燃料消費、サイズ及び速度の関係は、船舶に関する社内データベースから推定した。
推定式は:
燃料=燃料r*(速力/速力r)A*(サイズ/サイズr)B
下付き文字の‘r’は参考船舶を表している。
変数の値‘A’ 及び‘B’は、それぞれ2.21(t=14.87)及び0.45(t=14.48)で、変数の対数変換に関する線の回帰モデルを利用して推定している。
その後、例に挙げたそれぞれの船舶の燃料消費を推定するために、この方程式を用い、推定値と実際の燃料消費とを比較した。比較の結果を図8.2.3-1に示す。実際の値と予想燃料消費値との間の対比は、特に燃料消費の少ない部分では非常に良い。本調査に関係しているのは同部分である。
船齢の調整
減価償却及び資本価値
全ての種類の船舶に対して、減価償却の計算はdouble-declining balance methodを採用している。船舶の資本価値は購入原価から累積減価償却を差し引いて計算している。同会計方式により、船舶の価値は耐用年数の当初5年間での比較的急速な減少が見られ、同程度の船齢の中古船の市場価格を合理的なものにしている。
資本収益率
期待資本収益率は船舶の帳簿価格に固定収益率を適用して計算している(8.2.2参照)。そのため、前節で詳述した調整が、自動的に期待収益率の調整に結びついている。
修理及び維持費用
修理及び維持費用は一般的には船齢と共に増加すると想定される。差異の範囲は船舶の過去の運航状況及び船主のメンテナンス状況により大きく異なる可能性がある。本調査では、Drewry Shipping Consultantsが使っている一般的な傾向に基づく評価を利用した。ここでは、修理及び維持費用は新造船舶の資本価値に対して約1%及びその後毎年5%ずつ増加する。
乗組員費用
本調査の中で、タンカーの船長に対する給与7万バーツ/月から部員に対する3千バーツ/月まで乗組員にかかる費用の概算数値を得た。本調査で使用する費用はすべての乗組員が正当な訓練を受け、認定を受けているとの仮定に基づいている。本分析で使用した給与は以下の通りである。
表8.2.3-4: 乗組員の想定給与及び手当
乗組員給与 |
バーツ/月 |
士官 |
40,000 |
部員 |
10,000 |
表8.2.3-5: 道路トレーラー費用 トレーラー費用
トレーラー1台当たりの費用 |
400,000バーツ |
トレーラー1台当たりの荷積み量 |
18トン |
トレーラー耐用年数 |
8年 |
18輪トラックの原価優位率(Cost advantage) |
6% |
復路貨物の可能性 (Probability of Backload) |
0% |
1日当たりのトレーラー費用 |
251バーツ |
区間当りトレーラーの超過ターミナル時間 |
6時間 |
Ro-Ro船の運航費用には船舶に積み込む道路トレーラーの費用が含まれる。使用するトレーラーの仮定資本費用は1台当たり40万バーツである。同費用は産業の参加者との話し合いに基づいており、他の最近の報告書で使用される数値より多少低いものとなっている。
それぞれのトレーラーに必要な時間=航海時間+荷積み及び荷揚げ時間+区間当たり6時間の徒費時間と仮定している。
8.3 道路輸送費用
10輪トラック及び18輪セミトレーラーに関する費用は、Express Transport Organization: ETO(トラック運送の公社)が定める運賃及び料金に基づいている。全体を通じて、運搬にあたってトラック当たり平均18トンの積載荷重を想定している。
8.4 航路別分析
それぞれの主要路線の詳細が下記表8.4-1に表されている。
表8.4-1: 主要鉄鋼ルートにおける港湾及びルートの特徴
海上距離 (km)
  |
バンサファン |
マプタプト |
レムチャバン |
バンコク |
バンサファン |
0 |
240 |
260 |
300 |
マプタプト |
240 |
0 |
72 |
180 |
レムチャバン |
260 |
72 |
0 |
108 |
バンコク |
300 |
180 |
108 |
0 |
港湾手数料
港湾手数料 (バーツ/GT) |
|
|
10 |
10 |
頻繁寄港割引率 |
  |
  |
50% |
50% |
バース利用(バーツ/百GT/時間) |
8 |
  |
8 |
8 |
波止場使用料 - 輸出 (バーツ/トン) |
4 |
25 |
4 |
4 |
波止場使用料 - 輸入 (バーツ/トン) |
5 |
25 |
5 |
5 |
トラック費用
地元トラック手数料 - 輸出 |
70 |
20 |
50 |
70 |
地元トラック手数料 - 輸入 |
  |
20 |
50 |
70 |
地元トラック利用距離 (km) |
5 |
5 |
66 |
30 |
地元トラック利用時間 |
1 |
1 |
2 |
3 |
荷積・荷揚
荷積及び荷揚 - 労働者のみ ($/トン) |
25 |
25 |
25 |
25 |
クレーン代(バーツ/トン) |
30 |
30 |
30 |
30 |
道路距離 (km)
  |
バンサファン |
マプタプト |
レムチャバン |
バンコク |
バンサファン |
0 |
546 |
480 |
368 |
マプタプト |
546 |
0 |
66 |
193 |
レムチャバン |
480 |
66 |
0 |
112 |
バンコク |
368 |
193 |
112 |
0 |
8.5 航路分析の過程
8.5.1 船舶の大きさ及び運航頻度
モデルにより沿岸輸送事業が定期航路かどうかを明確にすることができる。定期航路の場合には、年間を通じて船舶を維持するための総費用を航路に割り当てる。定期航路でない場合には、船主は当該往復航海時間の費用を満たしさえすれば良いと仮定している。本調査では、不定期航海を行っている伝統的なバージを除き、全ての種類の船舶が定期航路で運航していると仮定している。
船舶が定時サービスを行っていない場合には、使用されている船舶のサイズを明確にする必要がある。船舶が定時サービスを行っている場合には、航路向け貨物の量及び積載率を90%に仮定して船舶の適当なサイズを判断する。
8.5.2 復路貨物
復路貨物はバンサファン〜バンコク間及びバンサファン〜レムチャバン間のRo-Ro船サービスにのみ存在すると仮定した。復路貨物積載率は、充分な貨物がある場合で最大80%とした。
貨物量は輸送機関分担の比率推定値を、現在のトラック貨物総量に当てはめて見積もっている。
・バンコク港の場合にはバンコク〜その周辺地域間、バンコク〜西部間、バンコク〜南部県間
・レムチャバン港の場合には東部地域間、西部間、南部県間
・輸送モード別の比率の推定値は、ロジットモデルを関連発送地〜到着地間の道路及び海上輸送双方の特徴に適用することにより行っている。調査の時間及び予算からロジットモデルの正式な較正に必要な大規模なデータ収集を行うことができなかった。しかし、他の調査における特性及び輸送モード別比率データについての関連業界の輸送機関の選択についてのヒアリング結果等を参考にして略式ではあるが較正することは可能である。この手法をここでは用いている。
ロジットモデルは下記の方程式により計算される。式
ここで
Pj は輸送機関jが選択される場合のj輸送機関分担率
Zj は輸送機関jに対する効用関数
全ての輸送機関に関して分母のサンメンションが行われる。
効用関数zj の一般式は:式
ここで
bj はj輸送機関本来の効用を反映する定数
amはそれぞれの輸送機関に特徴的なmに適用する係数
xmj は輸送機関jの特徴的なmの数値
下記の表8.5.2-1は本調査で使用された属性、係数、及び手段特定定数の一覧である。
表8.5.2-1: ロジットモデル変数
属 性 |
定数/係数の値 |
海上輸送の手段特定定数 |
2.500 |
道路輸送の手段特定定数 |
0.000 |
貨物運搬時間 (時間) |
0.050 |
業務の頻度(航海/週) |
-0.200 |
輸送費用 (バーツ/トン) |
0.005 |
ロジットモデルで計算した確率はRo-Ro船向けの復路貨物の予測を行うために、全貨物の運搬に適用した。同値が積載率の80%を越えていた場合、更なる調整は行わなかった。しかし、同値がそれよりも低かった場合は、想定した積載率の積荷が集荷可能貨物と等しくなるまで、反復プロセスにより復路荷積み率を下方修正した。
8.6 航路別の結果
8.6.1 バンサファン〜マプタプト
表8.6.1-1にバンサファン〜マプタプト航路の分析結果を要約している。
表8.6.1-1: バンサファン〜マプタプト路線の結果概要
  |
バージ (外洋航行) |
バージ (伝統的) |
一般貨物船 |
Ro-Ro船 |
道路トラック |
<サービスの詳細> |
  |
  |
  |
  |
  |
定時性サービス |
Y |
N |
Y |
Y |
  |
頻度 (週当たり航海) |
3 |
  |
3 |
3 |
  |
タグボート当たりのバージの隻数 |
2 |
2 |
  |
  |
  |
サイズ |
2,000 |
4,000 |
2,000 |
2,000 |
  |
船齢 |
  |
  |
  |
  |
  |
機関付船体(船齢) |
0 |
0 |
0 |
0 |
  |
バージ(船齢) |
0 |
0 |
  |
  |
  |
速力 (ノット) |
9 |
3 |
12 |
16 |
  |
インベントリーコスト乗数 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
<積載率> |
  |
  |
  |
  |
  |
バンサファン-マプタプト |
87% |
90% |
87% |
87% |
  |
マプタプト-バンサファン |
0% |
0% |
0% |
0% |
  |
輸送時間 (時間) |
8.9 |
26.7 |
6.7 |
5.0 |
12.1 |
貨物輸送時間 |
22.4 |
52.7 |
20.2 |
9.9 |
14.1 |
荷揚げ率 (トン/時間) |
300.0 |
300.0 |
300.0 |
1200 |
  |
  |
  |
  |
  |
  |
  |
<結果要約> |
  |
  |
  |
  |
  |
航海当たりの総費用 |
575,561 |
1,031,890 |
603,923 |
623,864 |
  |
投資収益 |
71,605 |
22,391 |
133,232 |
257,361 |
  |
航海当たりの必要収入 |
647,166 |
1,054,280 |
737,156 |
881,226 |
  |
輸送費用 (バーツ/トン) |
373.9 |
292.9 |
425.9 |
509.2 |
729.7 |
インベントリーコスト (バーツ/トン) |
5.5 |
12.9 |
4.9 |
2.4 |
3.5 |
総費用 (バーツ/トン) |
379.4 |
305.7 |
430.9 |
511.6 |
733.1 |
このルートではコイルの大部分がすでにバージにより運搬されている。その理由は表からも明らかな様に、海上輸送が陸上輸送に比較してかなりのコストダウンができるからであり、鉄鋼運搬の総費用が306バーツ/トンである伝統的なバージは最も経済的な選択肢である。予想通り同選択肢におけるインベントリーコスト(貨物輸送時間に比例する諸費用)は高いが、その差異は運航費用における優位性に影響を与えるものではない。
しかしながら、その優位性は同システム本来の効率性から生まれているのではない。この種のタグボート及びバージ事業がタイではすでに存在しており、荷主は必要に応じてこれを利用したり返却したりすることができる。従って、荷主は不使用期間の費用を払うことはない。伝統的な曳船及びバージのシステムは当該輸送に専従させると仮定して同モデルで更に解析すると、運航費用が貨物のトン当たり388バーツに増加する。(このケースの場合、2千トンの小規模サイズのバージが最適である。)これは高馬力かつ高速のバージシステムの費用よりわずかに高価である。高馬力なシステムは悪天候な中での航海も可能という非常に大きな優位性がある。そのため、本市場が普及すれば、伝統的なバージシステムも短期的にはより経済的であるが、長期的には高馬力のタグボート及びバージのシステムがより良い選択肢となると考えられる。
8.6.2 バンサファン〜レムチャバン
基本的に本ケースでは冷間圧延コイルのみはレムチャバンまで他のサービスによって運搬されると考えられる。熱間圧延コイルは、長距離トラック又はバージにより直接マプタプトに運搬され続けるであろう。
本ケースでは、現在の貨物量を運搬するのに必要な船舶のサイズは、非常に小さいものになる。高馬力タグボート及びバージのシステム又は一般貨物船については、モデルから、頻度とサイズの最適な組み合わせは1,500DWTの船舶を週に3度航海させることであることがわかる。Ro-Ro船については、復路輸送貨物を引きつけるために高頻度のサービスが必要となり、最適サイズは更に小さく、約900DWTで週5回の航海である。
表8.6.2-1: バンサアファン〜レムチャバン路線の結果概要(冷間圧延コイルのみ)
  |
バージ (外洋航行) |
バージ (伝統的) |
一般貨物船 |
Ro-Ro船 |
道路トラック |
<サービスの詳細> |
  |
  |
  |
  |
  |
定時性サービス |
Y |
N |
Y |
Y |
  |
頻度 (週当たり航海) |
3 |
  |
3 |
5 |
  |
タグボート当たりのバージの隻数 |
1 |
1 |
  |
  |
  |
サイズ |
1,500 |
4,000 |
1,500 |
900 |
  |
船齢 |
  |
  |
  |
  |
  |
機関付船体(船齢) |
0 |
0 |
0 |
0 |
  |
バージ(船齢) |
0 |
0 |
  |
  |
  |
速力 (ノット) |
9 |
3 |
12 |
16 |
  |
インベントリーコスト乗数 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
<積載率> |
  |
  |
  |
  |
  |
バンサファン-マプタプト |
85% |
90% |
85% |
85% |
  |
マプタプト-バンサファン |
0% |
0% |
0% |
90% |
  |
輸送時間 (時間) |
8.3 |
25.0 |
6.3 |
4.7 |
10.7 |
貨物輸送時間 |
28.4 |
76.0 |
26.3 |
10.3 |
12.7 |
荷揚げ率 (トン/時間) |
150.0 |
150.0 |
150.0 |
1200 |
  |
  |
  |
  |
  |
  |
  |
<結果要約> |
  |
  |
  |
  |
  |
航海当たりの総費用 |
476,108 |
1,173,014 |
498,669 |
390,591 |
  |
投資収益 |
56,885 |
20,060 |
105,842 |
90,437 |
  |
航海当たりの必要収入 |
532,992 |
1,193,074 |
604,512 |
481,028 |
  |
輸送費用 (バーツ/トン) |
415.7 |
331.4 |
471.5 |
304.6 |
642 |
インベントリーコスト (バーツ/トン) |
7.0 |
18.6 |
6.4 |
2.5 |
3.1 |
総費用 (バーツ/トン) |
422.7 |
350.0 |
478.0 |
307.1 |
644.6 |
表8.6.2-1から、同航路でもすべての海上輸送手段が道路に対し費用面で非常に優れていることがわかる。しかし本ケースの場合、伝統的なバージの低運航費用を相殺するだけの復路貨物を引きつけることが可能であるという点で、Ro-Ro船が最も経済的な選択肢である。更に、表8.6.2-1と表8.6.1-1の比較から、レムチャバンを経由し、その後マプタプトまで道路で接続するRo-Ro船のサービスが、伝統的なバージによるマプタプトへの直接便よりも競争力があることがわかる。
これにより冷間圧延及び熱間圧延コイルのフェリーサービスによる輸送の可能性も上げられる。冷間圧延コイルに関してのRo-Ro船のバージに対する優位性は、より良い貨物保護取扱及びより安価な貨物手数料とともに、より高速でより高頻度のサービスを提供できることである。これらの優位性は熱間圧延コイルに対しては比較的低くなる。しかし、もしRo-Ro船のサービスが費用観点で競争力があるならば、熱間圧延コイルに対しても実行可能な選択肢となる可能性はある。
この可能性が事業費に与える影響を、モデルを用いて判断した。貨物ベースの熱間圧延コイルはより大きな船舶の使用を可能にし、そのためスケールメリットも可能にする。しかし、復路の充分な貨物を得ることが困難であるため、スケールメリットは完全には発揮できない可能性がある。モデルによると、積載率は72%となると予想される。
これらの結果を表8.6.2-2に示す。本ケースの場合、Ro-Ro船のサイズは多少大きく、約2,100DWTである。一般貨物船及び高馬力タグボート及びバージの最適サイズも大きくなる。Ro-Ro船は引き続き最も安価な選択肢であり、費用は輸送貨物のトン当たり約30バーツまで下落する。
表8.6.2-2 :バンサアファン〜レムチャバン路線の結果概要(熱間圧延及び冷間圧延コイル)
  |
バージ (外洋航行) |
バージ (伝統的) |
一般貨物船 |
Ro-Ro船 |
道路トラック |
<サービスの詳細> |
  |
  |
  |
  |
  |
定時性サービス |
Y |
N |
Y |
Y |
  |
頻度 (週当たり航海) |
3 |
  |
3 |
5 |
  |
タグボート当たりのバージの隻数 |
1 |
1 |
  |
  |
  |
サイズ |
3,400 |
4,000 |
3,400 |
2,100 |
  |
船齢 |
  |
  |
  |
  |
  |
機関付船体(船齢) |
0 |
0 |
0 |
0 |
  |
バージ(船齢) |
0 |
0 |
  |
  |
  |
速力 (ノット) |
9 |
3 |
12 |
16 |
  |
インベントリーコスト乗数 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
<積載率> |
  |
  |
  |
  |
  |
バンサファン-マプタプト |
|
90% |
89% |
86% |
  |
マプタプト-バンサファン |
0% |
0% |
0% |
71% |
  |
輸送時間 (時間) |
8.3 |
25.0 |
6.3 |
4.7 |
10.7 |
貨物輸送時間 |
36.8 |
58.5 |
34.8 |
13.2 |
12.7 |
荷揚げ率 (トン/時間) |
236.2 |
236.2 |
236.2 |
1200 |
  |
  |
  |
  |
  |
  |
  |
<結果要約> |
  |
  |
  |
  |
  |
航海当たりの総費用 |
966,256 |
1,124,378 |
993,180 |
731,227 |
  |
投資収益 |
109,473 |
28,386 |
203,690 |
159,548 |
  |
航海当たりの必要収入 |
1,075,729 |
1,152,764 |
1,196,870 |
890,775 |
  |
輸送費用 (バーツ/トン) |
357.1 |
320.2 |
397.3 |
270.0 |
642 |
インベントリーコスト (バーツ/トン) |
9 |
14.3 |
8.5 |
3.2 |
3.1 |
総費用 (バーツ/トン) |
366.1 |
334.5 |
405.8 |
273.3 |
644.6 |
8.6.3 バンサファン〜バンコク
バンサファン〜バンコク間は鉄鋼製品が集中するため最も大量の鉄鋼製品の輸送があり、見込める復路貨物の量も最も多い。これは、6,400DWTの高馬力バージ又は一般貨物船が週に4回航海し、4,200DWTのRo-Ro船は週に6回航海するというように、同航路に割り当てられた船舶のサイズがより大きいことに反映されている。
主な分析では、全ての種類の船舶が公共埠頭で貨物の荷揚げをし、埠頭から最終目的地までは、貨物は地域のトラックによって輸送されると仮定している。同分析を結果は表8.6.3-1に示す。
表8.6.3-1: バンサファン〜バンコク路線の結果概要
  |
バージ (外洋航行) |
バージ (伝統的) |
一般貨物船 |
Ro-Ro船 |
道路トラック |
<サービスの詳細> |
  |
  |
  |
  |
  |
定時性サービス |
Y |
N |
Y |
Y |
  |
頻度 (週当たり航海) |
4 |
  |
4 |
6 |
  |
タグボート当たりのバージの隻数 |
1 |
1 |
  |
  |
  |
サイズ |
6,400 |
4,000 |
6,400 |
4,300 |
  |
船齢 |
  |
  |
  |
  |
  |
機関付船体(船齢) |
0 |
0 |
0 |
0 |
  |
バージ(船齢) |
0 |
0 |
  |
  |
  |
速力 (ノット) |
9 |
3 |
12 |
16 |
  |
インベントリーコスト乗数 |
1.0 |
1.0 |
1.0 |
1.0 |
1.0 |
<積載率> |
  |
  |
  |
  |
  |
バンサファン-マプタプト |
89% |
90% |
89% |
88% |
  |
マプタプト-バンサファン |
0% |
0% |
0% |
80% |
  |
輸送時間 (時間) |
10.0 |
30.0 |
7.5 |
5.6 |
8.2 |
貨物輸送時間 |
58.4 |
62.2 |
55.9 |
21.7 |
10.2 |
荷揚げ率 (トン/時間) |
255.5 |
255.5 |
255.5 |
1200 |
  |
  |
  |
  |
  |
  |
  |
<結果要約> |
  |
  |
  |
  |
  |
航海当たりの総費用 |
1,911,861 |
1,208,940 |
2,014,613 |
1,528,667 |
  |
投資収益 |
272,369 |
59,704 |
506,782 |
214,905 |
  |
航海当たりの必要収入 |
2,184,230 |
1,268,644 |
2,521,395 |
1,743,572 |
  |
輸送費用 (バーツ/トン) |
385.0 |
352.4 |
444.4 |
241.4 |
492 |
インベントリーコスト (バーツ/トン) |
14.3 |
15.2 |
13.7 |
5.3 |
2.5 |
総費用 (バーツ/トン) |
399.3 |
367.6 |
458.1 |
246.7 |
494.5 |
同航路でも、Ro-Ro船が最も経済的な手段であり、トラックによる輸送と比較して費用の非常なコストダウンができる。インベントリーコストを含めたトン当たりの総費用は、道路の494バーツ/トンに対し、約250バーツ/トンと概算される。
バンサファンからの貨物にはバンコクの民間埠頭を所有している顧客への貨物もあると思われる。バージでの運搬は、港湾手数料及び地元のトラック費用をかけずに、これらの埠頭へ直接輸送することができるという優位性がある。バージが利用される所では、鉄鋼は直接民間埠頭に輸送されるという仮定の下で再度比較を行った。これによると、トン当たり約70バーツの節約が可能だが、これを考慮に入れてもRo-Ro船が最も安価な選択肢であることに変わりがない。
8.6.4 マプタプト〜バンコク
マプタプトからの航路は、本調査で検討した他の路線に比べ非常に距離が短い。同ケースでは陸上路線が海上航路と比較してより直接的であるという点でも他の航路と異なっており、他のケースとは逆である。
そのため、他の航路と比較して同航路で海上航路が競合することは難しいと考えられる。表8.6.4-1が示しているのが分析の結果である。表の通り、バンコクの公共埠頭に輸送される貨物に対しては、道路輸送の方が他の海上輸送手段と比較して安価となっている。
しかしながら、実際にはマプタプトからバンコクへ輸送されるコイルの大部分がチャオプラヤー又は付近の運河にある民間埠頭の顧客へと輸送される。従って、さらに本モデルを用いて民間埠頭へのバージ運送の費用を評価した。この場合、伝統的なバージの運航費用は230バーツ/トンに減少し(インベントリーコスト16バーツを除く)、道路輸送と比較して競争力のある数値となった。しかし、差異は小さく、バージの運航に伴う低信頼性及び貨物損傷への高リスクを補うものにはならないと考える。
最後に、高馬力バージが定時性運航を行わず、鉄鋼の輸送に必要でないときは他の業務に使用するというモデルで再試行すると、伝統的なバージと非常に近いコストになることがわかった。もちろんこの場合には、高い信頼性を得ることができる。
表8.6.4-1: マプタプト〜バンコク路線の結果概要(公共埠頭)
  |
バージ (外洋航行) |
バージ (伝統的) |
一般貨物船 |
Ro-Ro船 |
道路トラック |
<サービスの詳細> |
  |
  |
  |
  |
  |
定時性サービス |
Y |
N |
Y |
Y |
  |
頻度 (週当たり航海) |
6 |
  |
3 |
6 |
2 |
タグボート当たりのバージの隻数 |
1 |
1 |
  |
  |
  |
サイズ |
1,700 |
4,000 |
3,400 |
1,700 |
  |
船齢 |
  |
  |
  |
  |
  |
機関付船体(船齢) |
0 |
0 |
0 |
0 |
  |
バージ(船齢) |
0 |
0 |
  |
  |
  |
速力 (ノット) |
9 |
3 |
12 |
16 |
  |
インベントリーコスト乗数 |
1.0 |
1.0 |
1.0 |
1.0 |
1.0 |
〈積載率〉 |
  |
  |
  |
  |
  |
バンサファン-マプタプト |
89% |
90% |
89% |
89% |
  |
マプタプト-バンサファン |
0% |
0% |
0% |
0% |
  |
輸送時間 (時間) |
7.8 |
23.3 |
5.8 |
4.4 |
4.3 |
貨物輸送時間 |
29.3 |
69.1 |
44.8 |
10.9 |
6.3 |
荷揚げ率 (トン/時間) |
172 |
172 |
172 |
1200 |
  |
  |
  |
  |
  |
  |
  |
<結果要約> |
  |
  |
  |
  |
  |
航海当たりの総費用 |
541,081 |
1,085,800 |
962,876 |
453,664 |
  |
投資収益 |
62,876 |
28,386 |
203,690 |
115,405 |
  |
航海当たりの必要収入 |
603,957 |
1,114,186 |
1,166,566 |
569,069 |
  |
輸送費用 (バーツ/トン) |
400.9 |
309.5 |
387.2 |
377.8 |
258 |
インベントリーコスト (バーツ/トン) |
7.6 |
18.0 |
11.6 |
2.8 |
1.6 |
総費用 (バーツ/トン) |
408.5 |
327.4 |
398.8 |
380.6 |
260.0 |
8.7 要約
本分析により、道路トラック輸送の代替としてのRo-Ro船を利用することで、バンサファン〜バンコク及びバンサファン〜レムチャバン路線双方において、非常にコストダウンできることが判明した。双方の路線の場合、主にRo-Ro船のサービスは復路貨物を得やすいという理由から、Ro-Ro船の高頻度サービスが一般貨物船及びバージと比較してより低コストとなっている。仮定の置き方によりRo-Ro船の最適サイズは1,000〜4,500DWTの間で変動する。
Ro-Ro船又一般貨物船の輸送業務はマプタプト航路では実現可能な選択肢ではない。短期的には、これらの航路での伝統的なバージがモーダルシフトに対応できると考えられる。しかし、これは主に伝統的なバージが容易に用船等ができるからである。伝統的なバージには、タイ湾でしばしば見られる悪天候下の運航により適した高馬力タグボート及びバージシステムに対して本質的な経済優位性はないと考える。長期的には、長距離外洋航行区間でのこの種のバージへの転換は経済面及び安全面双方からの利益をもたらすであろう。