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7 鉄鋼産業
7.1 調査目的
 鉄鋼製品は、トラックから船舶へモーダルシフトする可能性が大である。このため、タイ国内の生産及び流通について、大手鉄鋼メーカー4社からヒアリング調査した。本調査は、非常に有意義であった。特に、鉄鋼メーカーのロジスティック担当部門が沿岸輸送の可能性を検討しているという情報を得ることができたことである。
7.2 鉄鋼製造過程の概要
図7.2-1: 鉄鋼製造過程
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 基本的な鉄鋼製造過程16を図7.2-1に図示した。鉄鋼は鉄鉱石(溶鉱炉での還元に続く転炉での工程により)又は鉄くず(電気アーク炉内)から製造される。その後原鋼は、板状に鋳造される前に、鉄、炭素、及び少量の元素の構成が予定通りになるように精錬スタンドで精錬される。それから次の工程のために筒状に巻かれるか、同工程をとばして構造用鋼やその他の目的に使用される。
7.2.1 鉄鋼の性質
 
 鉄鋼は、鉄及びクロミウム、ニッケル、モリブデン、ジルコニウム、バナジウム、タングステンなどの他の成分から成る金属である。異なる種類の鉄鋼、すなわち異なる特性及び性質を有する鉄鋼は、化学構成を調整し、圧延、仕上げ、熱処理などの鉄鋼製造過程で異なる処理を行うことにより製造される。
7.2.2 鉄鋼の製造段階
 
 鉄鋼業は製造体系に応じて次の3段階に分類される。
表7.2.2-1: 鉄鋼製造段階
段階 製品
III 初期 粗鋼
III 中間 小鋼片、鉄板、大鋼片
III 最終 棒鋼、線材、熱間圧延板、冷間圧延板、亜鉛鉄板、鉄管、錫鉄板、亜鉛板、等
 
 粗鋼は、平板や線材を製造するための圧延、成型、熱処理過程以前の、鋼鉄製造過程の初期又は連続鋳造時に出てくる鉄鋼である。
 
 鉄板、小鋼片、大鋼片は半仕上げ製品としても知られる。完成製品はよく次のように分類される。;
 熱間又は冷間圧延板製品 (延金、コイル、板など)、熱間圧延長尺製品 (線材、棒、レール、梁など)。
16 同項の内容は、IISIのウェブサイトからの情報の宿約である。
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7.2.3 生産
 
 世界の鉄鋼産業は毎年7億5千万トン以上の粗鋼を生産している(過去10年間の平均年間生産量に基づく)。最大の鉄鋼生産国は中国、日本、米国で、それぞれ合計で1億トン程度を生産している。ロシア、ドイツ、韓国はそれぞれ4千万〜5千万程度生産している。ステンレス鋼の生産は過去10年間で急激に増加し、1988年には1,300万トンだったステンレス鋼の完成品が、1997年には23%超の増加である1,600万トン超製造された。ヨーロッパ及びアジアでは同期間中に50%を超える生産の増加が見られた。 最大のステンレス鋼生産国である日本(ほぼ400万トン)、米国(200万トン)に続きドイツ、韓国、イタリア、フランスがそれぞれ1997年には100万トン超のステンレス鋼の完成品を生産している。
7.2.4 需要
 
 どの国においても鉄鋼の使用は経済発展の段階と密接に関連しており、最大の消費国は世界で最富国である。鉄鋼最終製品の年間鉄鋼消費量はアフリカの1人当たり約20kgからヨーロッパの約340kg、北アメリカの420kg、日本の635kgの範囲に及んでいる。しかしながら、最大の消費者はアジアで、シンガポール(1,200kg/1人)、台湾(970kg超)、韓国(830kg)である。アジアでの1人当たり消費量は、工業、輸送インフラストラクチャー、建設への投資により急激に増加し、全般的な生活水準を改善している。例えば、過去10年間における1人当たり消費量は、マレーシアでは約470%、韓国では240%、中国ではほぼ80%増加した。
 
 鉄鋼需要と経済活動の関係は、タイの場合、アジア経済危機後の1998年に鉄鋼需要が急激に落ち込んだことにより劇的に例証されている。タイ銀行のデータに基づくと、1997年の鉄鋼の生産は約1,232万トン、又は1人当たり約170kgとなるが、1998年にはこれが建設部門の需要減により611万トンまで減少する。
7.2.5 鉄鋼の利用
 
 鉄鋼は非常に多くの製品に使われている。鉄鋼の最大の市場は建設(建物、輸送インフラストラクチャーなど)、自動車、梱包材である。電子部品、工業器具、医療品も、特殊鋼及びステンレス鋼にとっては重要な市場である。
 
 多くの共通品は、耐久性があり美しいステンレス鋼で作られている。ステンレス鋼は個人の装身具、家庭用品、金属製家具、照明、装飾品に使用されている。ステンレス鋼は表面に非常に耐性があり、簡単に清潔にできるため、病院、無菌環境、食品加工工場、レストランなどで広く使用されている。
7.3 タイの鉄鋼産業
7.3.1 初期鉄鋼生産
 
 タイでは現在高炉がないため初期鉄鋼の生産が行われておらず、初期鉄鋼を完全に輸入に頼っている。過去5年間の初期鉄鋼の輸入総量は、約10〜30億バーツであった。図7.3.1-1は、銑鉄の輸入量を示している。アジア経済危機後の初期鉄鋼輸入の下落が明らかに見てとれる。
7.3.1-1:銑鉄の輸入量(単位:千メートルトン)
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7.3.2 中間鉄鋼
 
 同段階の製造は現在タイで行われているが、生産量は国内需要を満たすには不充分である。タイでは中間鉄鋼として小鋼片及び鉄板を製造している。通常、中間鉄鋼の生産者はスケールメリットを得るために最終段階の生産も行う。図7.3.2-1は生産及び輸入量を示している。ここでも再び通貨危機の影響が明らかであり、1998年に輸入量が急落している。
図7.3.2-1: 小鋼片の生産及び輸入量 (単位:千メートルトン)
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7.3.3 最終鉄鋼
 
 これは、タイの鉄鋼業の中で最も大きく、多様化している分野である。タイで造られる最終鉄鋼製品には、棒鋼、線材、熱間圧延板、冷間圧延板、亜鉛鉄板、鉄管、錫鉄板、亜鉛板及び一連の構造用鉄鋼製品が含まれる。
 
 図7.3.3-1は、1999年上半期の最終鉄鋼製品の生産量を示している。最終鉄鋼生産の大部分は図7.3.3-2に見られるように、国内需要向けである。価格競争力の欠如及び海外購入者品質仕様を満足できないため、輸出量は少ない。
図7.3.3-1: 1999年上半期の鉄鋼生産量(単位:千メートルトン)
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図7.3.3-2: 最終鉄鋼製品の輸入及び輸出量(単位:千メートルトン)
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 表7.3.3-1は、1995〜1999年にタイで生産された種々の鉄鋼製品の生産量を示している。鉄鋼製品の総数は7種54で、生産量は約1千万トンであった。総生産量の50%超が、製造の次段階で原材料として使われる小鋼片、鉄板といった中間鉄鋼であった。約50%は最終鉄鋼製品で、そのうちの約54%は熱間及び冷間圧延板であった(表7.3.3-1)。
表7.3.3-1: タイの鉄鋼生産量(単位:千メートルトン)
製  品 1995 1996 1997 1998 1999 平均 %
小鋼片 2,183 2,148 2,441 2,440 2,440 2,330 21%
棒鋼 2,794 2,799 3,839 3,839 3,791 3,412 31%
線材 448 493 738 720 660 611 6%
P.C.線及びP.C.より線 342 345 425 425 425 393 4%
亜鉛鉄板 555 555 555 600 600 573 5%
熱間及び冷間圧延板 2,400 2,400 3,600 4,000 1,600 2,800 26%
鉄管 754 862 812 812 812 811 7%
合計 9,476 9,602 12,411 12,837 10,329 10,931 100%
出典: Interviews with entrepreneurs, Department of Mineral Resources
 1999年の実質生産量の約54%は中間鉄鋼であり、最終鉄鋼製品の約46%は熱間及び冷間圧延板であった(表7.3.3-2)。これらの鉄鋼製品は、将来沿岸輸送でより多く輸送される可能性がある。表7.3.3-2は1995年〜1999年の実際生産量を示している。
表7.3.3-2 : タイの鉄鋼実質生産量(単位:千メートルトン)
製  品 1995 1996 1997 1998 1999 平均 %
小鋼片 1,627 1,556 1,504 1,278 490 1,292 27%
棒鋼 1,578 1,652 1,672 1,139 475 1,303 27%
線材 284 324 398 236 130 274 6%
P.C.線及びP.C.より線 223 228 216 132 59 172 4%
亜鉛鉄板 370 387 387 251 155 310 6%
熱間及び冷間圧延板 1,151 1,151 976 1,167 889 1,067 22%
鉄管 550 601 512 330 167 432 9%
合計 5,784 5,901 5,664 4,535 2,364 4,850 100%
出典: Interviews with entrepreneurs, Department of Mineral Resources
7.3.4 輸入・製造・輸出の概要
 
 表7.3.4-1に、1999年のタイの鉄鋼生産、輸入、輸出を主要製品グループごとにまとめている。本調査に特に関連のあるものは、熱間圧延コイル及び冷間圧延コイルである。表からは、これらの製品がそれぞれタイで大量に生産されていることがわかる。熱間圧延コイル(熱コイル)は、高度な処理をされていない低価値製品であるため、貨物としての取扱は中程度でよい。一般的に熱コイルは少数の消費者に大量に発送される。このため特に水上輸送に適しており、事実タイでは熱コイル輸送の大部分は伝統的なバージを利用している。
 
 冷間圧延コイル(冷コイル)はこれとは別ものであり、高度に仕上げられた非常に高価値な商品で、表面の傷に非常に弱い。注意深い荷造りや風雨に晒されないようにする必要がある。また、多数の顧客に少量販売される傾向にある。このため、不規則なスケジュールで運航される伝統的な低速バージによる運搬にはそれほど適しておらず、現在海上輸送されている冷コイルは非常に少ない。生産、消費及びこれら2製品の輸送は次項7.4で更に詳しく述べる。
表7.3.4-1: 1999年のタイにおける鉄鋼の輸入・生産・輸出の概要(単位:千メートルトン)
  中 間 品 冷間圧延コイル 最終製品
タイ国内生産 Hビーム、Iビーム、溝形鋼 390 普通鋼 1,000 亜鉛メッキ 360
線棒 1,180 ステンレス 120 錫鉄板 350
熱間圧延コイル 1,400     640
厚板 160        
輸入 Hビーム、Iビーム、溝形鋼 30 普通鋼 980 亜鉛メッキ 330
線棒 460     錫鉄板 90
熱間圧延コイル 1,590     160
熱間圧延コイル(ステンレス) 120        
厚板 100        
輸出 Hビーム、Iビーム、溝形鋼 210 普通鋼 410 亜鉛メッキ 80
熱間圧延コイル 140     錫鉄板 10
線棒 150     190
厚板 100        








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